15話 託された力、選ぶ未来
一方その頃、海洋生命研究機関WOLL指令室では、薄暗い照明の中、大海原はモニターに映し出された映像をじっと見つめていた。
そこには、眩い光の中で新たな姿へと生まれ変わったイヲティス
いや、「シーレイヴ」の姿が映し出されていた。
「これは……」
無意識に息を呑む。モニター越しでも感じる圧倒的な存在感。
その滑らかで流線型の装甲、そして戦闘用に最適化された機構の数々。
単なる武装ではない。それはまるで、イヲティスという存在そのものを強化し、潜在能力を引き出すために設計された完璧な物。
「素晴らしい……」
大海原の声は抑えきれない興奮を滲ませていた。
これほどのものを、白波は作り上げていたのか。単なる人間の科学力の域を超えた、まるで生物と機械が融合したかのような精巧な造り。
(白波、お前はどこまで先を見据えていた……?)
驚きと歓喜、そしてわずかな焦燥が胸を満たす。
これは単なる兵器ではない。おそらく、白波はこの力を"希望"として託したのだろう。
だが、その"希望"がもたらす未来が、果たして彼らにとって幸福なものなのか。
大海原は組んでいた腕を解き、ゆっくりと立ち上がる。
モニターの向こうで、イヲティス——シーレイヴが、怪物との戦いの中でその力を存分に振るう姿を見据えながら、静かに呟いた。
「……面白くなってきたじゃないか」
その呟きが終わると同時に、画面の中で激しい衝突が起こる。
シーレイヴは一気に間合いを詰め、怪物の腕をするりと回避すると、そのまま鋭い蹴りを放つ。
「はぁっ!!」
強烈な衝撃が怪物の胴を叩きつけ、弾かれるようにその体がよろめいた。
しかし、怪物も負けてはいない。うねる触手が勢いよく振り回され、まるで鋭い鞭のようにイヲティスへ襲いかかる。
シーレイヴは瞬時に後方へ跳び、さらに地面を蹴って側面へ回り込む。
避けた直後、地面に叩きつけられた触手がアスファルトを砕き、破片が四方に飛び散る。
煙が舞う中、シーレイヴは隙を突くように前傾姿勢を取り、一気に踏み込んだ。
「これならどうだ!」
「アクアインパクト!!」
右拳を強く握りしめ、全身の力を込めて一撃を放つ。装甲の内部でエネルギーが集束し、拳から淡い光が放たれた瞬間——。
ドガァッ!!
炸裂するような衝撃音とともに、怪物の身体が吹き飛ばされる。ゴロゴロと地面を転がり、激しく水飛沫を上げながら海辺へと叩きつけられた。
海翔は思わず声を上げた。
「す、すげぇ……!! でもさっき締めで押し切るって言ってたのに最後はパンチなんだ…」
倒された怪物は、動きを止め、やがて静かに海面に沈んでいった。
その瞬間、WOLLの特殊処理班が現れ、迅速に動き始める。
一台の大型車両が停まり、専用の装置を使って、怪物を回収する準備が整う。
処理班の隊員たちは冷静に連携しながら、怪物を慎重に取り扱い、瞬く間にその場から撤退していった。
海翔はその様子を見守り、ため息をつく。
「これで終わりか…。あの怪物、もう二度と現れないでくれよ。」
シーレイヴは一度、海翔に目を向けた後、しばらく黙ってその場の状況を確認していた。
イヲティスがシーレイヴとしての力を振るった戦いの後、海翔はシーレイヴを解除したイヲティスに歩み寄り、静かに口を開いた。
「イヲティス、君に託したそのデバイス、実は…俺の父さんが残したものなんだ。」
イヲティスの瞳が僅かに揺れる。
「父さんは、生前WOLLで研究を続けていた。でも、ただの研究じゃない。君のために、いや君みたいな存在が“未来”を選べるようにするためのものだったはずだ。」
海翔は懐から折り畳まれた紙を取り出し、そっと開く。そこには父の手書きの文字が残されていた。
「俺もこの手紙を読んだとき、正直、どうすればいいのかわからなかったよ。
でも、父さんは“恐れるな”って言ってくれたんだ。
選ぶのは俺だって。だから、君にこれを渡したのは… 俺が、君を信じると決めたからだ。」
冷たい風が吹き抜け、イヲティスに僅かな波紋を描く。彼はゆっくりと手を伸ばし、その手紙を受け取った。
「海翔の父さんは、俺やエイビスの民との共存をずっと願ってくれて、そして俺を信じてくれていたのか。」
「そうだよ。だから俺も信じる。俺の見た“あの夢”とは違う未来を選べるはずだって。」
イヲティスは黙って空を仰いだ。父から託されたもの、それを受け継いだ海翔の想い。その全てが彼の中で交錯する。
「海翔、君がそう言うなら、俺は…」
静かな決意の色が、彼の瞳に宿った。




