14話 蒼き閃光、目覚めの刻
海翔はイヲティスと共に、境港へ向かうため急いで輸送車へと乗り込み、WOLL本部を後にした。
車内にはエンジンの低いうなりだけが響いていた。海翔は座席に深く腰を下ろしながら、無意識に指先をこすり合わせる。
落ち着いているつもりでも、わずかにこわばる手が、自分の本心を物語っていた。
信じると決めたはずなのに、緊張がじわじわと押し寄せる。
これから目の当たりにする怪物、そしてイヲティスの力、未知のものに向かう不安が、胸の奥で小さくくすぶっていた。
隣に座るイヲティスは、静かに前を見据えている。彼の表情からは迷いや焦りは感じられない。その姿が逆に、海翔の心をざわつかせた。
(俺は、本当に準備ができているのか?)
拳を握りしめ、深く息を吸う。迷う時間はもうない。
境港が近づくにつれ、潮の匂いが車内に微かに入り込み、現実が確実に迫っていることを感じさせた。
緊張が残る中、映像で写し出された倉庫群にたどり着く。
到着した途端、イヲティスは、輸送車のドアを開けるなりすごい勢いで飛び出し、走り出していく。
視線の先にいたのは、映像でも確認した見たこともない異形の怪物。
「お前は一体何だ、どこから来た?…」
イヲティスの声が鋭く響く。
その怪物はただ喉の奥から濁ったうめき声を漏らすだけだった。
それは知性があるのか、何か目的が有り暴れているのか
考えている暇はない。イヲティスは地を蹴り、鋭い蹴りを放つ。
衝撃が怪物を揺るがすも、手応えは鈍い。
倒れないどころか、触手を大きく広げ、さらに攻撃を仕掛けてくる。
紙一重でかわしながらも、拳を叩き込む。
しかし、一撃では仕留められない。
異常な耐久力、このままでは埒が明かない。
イヲティスの動きに焦りが滲む。
その時!!
「イヲティス!」
海翔の声が響いた。彼は息を切らしながら駆け寄り、手にしていたデバイスを差し出す。
「父さんが、 イヲティス、君に… 」
イヲティスは一瞬、海翔を見た。彼の目には迷いがなかった。
イヲティスは海翔からデバイスを受け取ると、すぐに怪物から距離を取った。手の中でずっしりとした重みを感じながら、戸惑いの表情を浮かべる。
「で… どうやってこれ使うんだよ!」
デバイスに触れると、タッチパネルが反応した。
そこには数字が並んでいる。
(何だ?… 海翔の父さんに数字なら教えてもらったけど…)
考えている暇はなかった。怪物が再び触手を振るい、地面を抉るように襲いかかる。イヲティスは瞬時に身を翻し、攻撃をかわすと体勢を立て直した。
「海翔! これ、数字が書いてあるけど、どうすればいい!」
焦り混じりの声に、海翔は反射的に叫んだ。
「おさしみ!!」
「……は?」
「ええっと、おさしみだから0343だ!!」
イヲティスは一瞬、思考が止まりかけた。しかし、今はとにかく試すしかない。素早くタッチパネルに「0」「3」「4」「3」と入力すると——。
イヲティスは身構えたまま、デバイスを握りしめた。
すると、まるで待機していたかのように、デバイスのパネルが点滅し始める。
《コード認証完了》
“0343 OSASHIMI”
“シーレイヴ キプセル オン”
無機質な電子音が響いた瞬間、イヲティスの全身を光が包み込んだ。眩い輝きの中で、彼の体を覆うように装甲が形成されていく。
滑らかで流線型のスーツがその身に馴染み、腕や脚には戦闘用の補助機構が装着されていった。
「シーレイヴ?…… これが、おさしみの力か!」
イヲティスは自分の姿を見下ろし、拳を握りしめる。信じられないほどの力が体に満ちていくのを感じた。
その様子を目の当たりにした海翔は、驚きと興奮が入り混じった表情で叫ぶ。
「すげぇ……! これが父さんが残した最後の…」
イヲティスは自分の鼓動を感じながら、目の前の敵を睨みつけ勢いよく言葉を放った。
「そろそろ締めに入らせてもらおうか」
足元をしっかりと固め、一気に間合いを詰める。その動きは速く、まるで水の流れのようにしなやかだった。
怪物が腕を振りかざすが、イヲティスはそれを的確に見極め、瞬く間に回避する。すかさず体をひねり、反撃の一撃を放つ。
ズドン!
力強い衝撃が響き、怪物は大きくよろめく。確かな手応えを感じながら、イヲティスはさらに攻撃を続ける。
「このまま押し切る!」
海翔もイヲティスの戦いを見守りながら、何かを感じ取っていた。
新たな力を得た彼の戦いが、ここから始まる——。




