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13話 決断の先に

WOLL本部に到着した海翔は、バイクを止めると少し息を整えながら、建物へと足を踏み入れた。冷たい空気が背筋を伸ばし、心が少し引き締まる。


廊下を歩きながら、あの部屋に向かうのが少しだけ怖い気もしたが、父から託された物がある以上、向き合わなければならないことを感じていた。


途中、何人かのスタッフとすれ違ったが、誰も海翔に気を使って声をかけることはなかった。彼もまた、どこかしら無理にでも冷静を装っているように感じた。


隔離室の前に到着すると、海翔は少し立ち止まった。扉の前で手が震えるのを感じながらも、ロックを解除してもらうように他のスタッフに伝える。


「イヲティス、入るぞ。」


部屋に足を踏み入れた瞬間、海翔は一瞬だけ足を止めた。

イヲティスは椅子に腰掛けたまま、こちらをじっと見ていた。


「海翔か。」


イヲティスの声は落ち着いていた。


「……ああ。」


海翔はできるだけ普段通りに振る舞おうとしたが、自分の声がわずかに硬いことに気づく。昨夜の夢が、ずっと頭の片隅にこびりついているせいだ。


イヲティスはそんな海翔をじっと見つめ、少し首を傾げた。

「何かあったのか?」


「いや…。」


海翔はすぐに否定したが、イヲティスの視線は鋭かった。何も言わなくても、伝わってしまう。



海翔は、昨夜の夢のことを思い出しながら、口を開いた。


「昨日、変な夢を見たんだ。」


「夢?」イヲティスが聞き返す。


「街が崩れていく夢だった。建物も、人も、全部が音を立てて崩れ落ちて…」


イヲティスは少し目を細めた。

「それは、現実に起こったことか?」



「いや。そんなはずはない。 けど……やけにリアルだったんだ。まるで、実際に見たことがあるみたいに。」



海翔は、夢であるはずなのに、残る感触や匂いが、現実と変わらないように感じていた。


「俺も夢は見る。だけど、それが何か意味を持つとは限らない。」イヲティスが静かに言う



「そうだよな。ただの夢なら、それでいいんだけど。」

海翔は少し不安そうな表情をしながら言った。



その時――


「【緊急】境港管内にて未確認生命体の出現が確認されました。即刻警戒態勢に移行してください。繰り返します、境港管内にて未確認生命体の出現が確認されました。」


館内に響き渡るアナウンスが、二人の会話を断ち切った。



状況が分かるよう急いで海翔はカバンから通信端末を取り出し、WOLLデータベースにアクセスする。


そこには、港の倉庫街で暴れる異形の姿が映っていた。青白い肌に、うねる触手。人間のような形をしているが、明らかに異質な存在。


「イヲティス、これを見てくれ。」


海翔が画面を指さす。


「これは……エイビスの仲間か?」


イヲティスは目を細め、じっと映像を見つめた。そして、首を横に振る。


「こいつはエイビスの民ではない。見たこともない。」


その言葉に、海翔の背筋が冷たくなる。


映像の途中、境港の部隊が到着し、その未確認生物に応戦していた。隊員たちは銃を構え、次々と攻撃を仕掛ける。だが――


放たれた弾丸はまるで相手には通じていないかのように弾かれていく。怪物は怯むどころか、逆に隊員たちへと迫っていく。


「このままじゃ……!」


海翔の手が、思わず拳を握りしめた。



「俺だったら止める事が出来るかもしれない!」

イヲティスは強く想いを込めて言った。


その言葉に、海翔がイヲティスを振り返ると、イヲティスの瞳が、強い決意を帯びて海翔を見つめ返した。


それを聞いた海翔は、父から託された物をイヲティスに渡す間もなく、指令室に走っていった。



指令室に入り海翔は深く息を吐き、大海原の前に立つと、言葉を切り出した。


「大海原所長、イヲティスを隔離室から出す許可をいただないでしょうか!」


所長は驚いた表情を浮かべ、一瞬言葉に詰まる。


「海翔、それは…非常にリスクが高い決断だな。」


海翔はしっかりと大海原を見つめ、頭を下げる。


「分かっています。でも、今はイヲティスに頼るしかないんです。  全部自分が責任を持ちます!」


大海原はしばらく沈黙し、海翔の言葉を考え込む。

やがてその視線は鋭く、決断を下すように海翔に向けられた。


「それもまた… 君の考える可能性というわけか」


大海原は頷き、部下に指示を出す。


「イヲティスを隔離室から出し、白波に同行させろ。ただし、監視体制は維持したままだ。」


海翔は頷き、顔を上げる。


「ありがとうございます!」

海翔は深く頭を下げ、大海原の決断に感謝の言葉を口にした。

しかし、その背後には深い決意と不安が交錯していた。

イヲティスを隔離室から出すという選択は、決して無責任なものではない。

だが、その重みを感じずにはいられなかった。もしも、何か予期せぬ問題が起きた場合、その責任を全て自分が負う覚悟を持っていた。


果たして本当に彼が解決できるのか。彼の力を信じている自分がいる一方で、夢の出来事が胸を締め付けるように思い出される。


「今は、信じるしかない。」


海翔は心の中で自分にそう言い聞かせながら、次の行動に向けて足を踏み出す準備を整えた。どんな結果になっても、後悔しないように…。


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