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12話 海鮮丼と父の思い

昨日の騒ぎから一夜明け、境港の街はいつもと変わらぬ静けさを取り戻していた。


海翔は昼すぎまで寝てしまい、ようやく布団から体を起こした。窓の外からは、すっかり暖かくなった日差しが差し込み、時計を見て小さく息をついた。

「寝すぎたな……。」昨夜考え事をしすぎたせいか、ぐっすり眠れたわけでもなく、少し体が重い。



それでも気分を切り替えようと、久しぶりに地元の海鮮丼屋に足を運ぶことにした。この店は父親に小さい頃からよく連れてきてもらった場所であり、彼にとっては特別な思い出が詰まった場所でもある。


店に着くと、暖簾が揺れるその光景は変わらず、どこか懐かしさを感じる。

昼過ぎという事もありランチのピークも過ぎ、店内は落ち着いており、カウンターに座ると店主が目を細めて言った。


「おや、海翔くんじゃないか!久しぶりだねぇ。最近見ないから心配してたよ。」


「あ、お久しぶりです。ちょっと忙しくて…でも久しぶりにここの味が食べたくなって。」


そう言いながら、父がよく頼んでいた特製海鮮丼を注文する。


運ばれてきた丼は昔と変わらない見た目で、たっぷりの新鮮な刺身がご飯の上に丁寧に並べられている。一口食べると、記憶の中の味が蘇り、懐かしさとともに少し胸が温かくなった。


店を出た後、ふらりと鬼太郎ロードの方に足を伸ばしてみた。平日とあって観光客の姿はまばらで、昼でもどこかのんびりとした空気が流れている。

道沿いに並ぶ妖怪のブロンズ像を眺めながら、子供の頃ここを父親と歩いた記憶が頭をよぎる。「こういうのに名前つけて、どっちが面白い名前を考えられるかって競争してたな。」思わず苦笑する。


道端では、小さな地元の菓子屋が妖怪を模したお饅頭やクッキーを売っていて、店主が声をかけてくる。「兄ちゃん、妖怪饅頭買っていかないかい?」懐かしさに惹かれ、つい買ってしまう。



饅頭を食べながら鬼太郎ロードを歩いていた海翔だったが、足を止める。頭の中をよぎるのはWOLL本部に隔離されているイヲティスのことだった。

所長が話していた「進化の可能性」という言葉が、なぜか耳から離れない。


「結局、放っておけないってことか。」

独り言のようにつぶやきながら、スマホを取り出し、所長に電話をかける。数回のコールの後、相変わらず冷静で威厳のある声が返ってきた。


「海翔か。今日は休みだろう? 何の用だ。」


海翔は少し息をついてから口を開いた。

「すみません、イヲティスの様子が気になって……。特に異変はないですよね?」


所長は一瞬黙り込み、そして淡々とした口調で答える。

「異変はない。だが、何か気になるのか? そう判断したなら来るといい。今の時点では、それがお前にできることだ。」


所長の言葉は冷静だが、どこか試すような響きもあった。



「わかりました。今から向かいます。」

電話を切った後、バイクに跨った海翔は、少しアクセルを強く回し、30分ほどの道のりを走り始めた。



道中、バイクで田園風景を走りながら、昨夜、父の金庫の中からそのデバイスを見つけた瞬間のことを思い出す。

「父さんが何を思ってこれを作ったのか……。」


海翔はあの時、何の前触れもなくそれを見つけた。父がイヲティスに託すつもりだったことは理解できたが、その意味や役割は、今もその意味を掴みきれず、ただ胸の奥に引っかかり続けている。




だが、今は考えすぎても答えは出ない。イヲティスの前に立ったとき、状況を見て自分で判断するしかない。


WOLL本部が遠くに見え始めた頃、海翔はふとバイクのスピードを緩めた。心の中で湧く迷いを振り払いながら、やはり自分には会うべきだという決断を下していた。


「まずは、会おう。それで、今度は俺が決める。」


そう自分に言い聞かせるように呟きながら、バイクを本部へと向けた。


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