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10話 父からの手紙


隔離室を後にした海翔は、WOLLの偵察用バイクを借りて境港の自宅へ一度帰ることになった。



家に帰ると、居間からは母がテレビを見る音が聞こえたが、声を掛ける気にはなれず、海翔は所長から渡された手帳を手に持ったまま、亡き父が生前使っていた書斎に入った。父が亡くなって5年が経とうとしているが、その存在感は部屋の隅々にまだ残っているようだった。



手帳の中身を改めて読むと、未知の生命体に関する記録や、父、海征が日々の研究で感じた葛藤が、力強い筆跡で書き残されていた。しかし、いくつかのページが破られた形跡があり、そこに何が書かれていたのかはわからない。


手帳の破れたページに視線を落とした海翔はふと

「この手帳…確かに父さんが使っていたのはわかるけど、もっと昔の記録も残っているはずだよな…」

そう呟きながら、彼は父親の部屋を改めて調べることにした。


埃をかぶった書棚を丹念に探していくと、古びた表紙の手帳が数冊見つかった。それらの中にはWOLLの特殊スーツの初期設計案や、未知の生命体に関するメモがぎっしりと記されていた。さらにその中の一冊から、一枚の紙がはらりと落ちる。

そこには、 PW「osashimi」と何かのパスワードらしき文字が書かれていた。


「おさしみ…?」

不思議に思いながらも、その紙を手に持った海翔は、部屋の片隅にひっそりと置かれていた古びた金庫に目を留める。


「まさか…この金庫か?」

恐る恐るパスワードを入力すると、カチリとよい音が響き、金庫が開いた。


中には見たこともない変身デバイスが丁寧に収められていた。隣には父の手書きと思われる手紙が一緒に入っている。


金庫の中から取り出した変身デバイスと手紙を握りしめたまま、海翔はその場に座り込んだ。


「父さん…どうしてこれを…?」

手紙を開き、その中に記された父の文字に目を落とす。




海翔へ。

もし君がこれを見ているのなら、私はもうこの世にいないのだろう。

このデバイスは私の研究の中でも、最も完成に近づいた成果だ。



これは、イヲティスに託すために作られたものだ。人間の体では耐久力が足りず、使用すれば命に関わるほどの負担を伴うかもしれない。 

イヲティスは人類との共存のために戦うと決意してくれた。その覚悟が、私にこのデバイスを作る意義を与えてくれたんだ。


だが、海翔に託したのは、もしもの時のためだ。イヲティスに何かがあれば、自分が次の選択をしなければならないかもしれない。それはとても重い選択だ。海翔にはその責任を負わせるつもりはなかった。


だが、どうか迷わず、そして恐れないでほしい。

私はいつだって、海翔のそばにいる。

そして海翔、自分自身の信じる未来を切り拓いてほしい


                    父より





手紙を読み終えた海翔は、深く息を吸い込みながら父から託された物を見つめた。


「イヲティスに託されたもの…  だけど、父さんは俺にもそれを預ける覚悟をしていたんだな。」


その言葉を呟きながら、父がどれほどの葛藤を抱えてこれを残したのかを思い、胸が締め付けられる思いがした。




海翔は父から託されたデバイスを持ったまま、自分の部屋へとゆっくり歩いていった。

部屋の中には夜風が吹き込み、微かな冷たさが漂う。海翔は静かにデバイスを枕元に置き、やがて彼は目を閉じ、いつしか眠りについた。


そして彼は夢の中で、不意に目の前に広がる光景に息を呑んだ。




夢の中、海翔が見たのは荒廃した未来の光景だった。大地は黒く焦げ、瓦礫の山が無数に積み重なっている。その中心に立つイヲティスは、何かに怯える人々を前にして、冷たい目をしているように見えた。しかし、その表情にはどこか迷いと悲しみも垣間見えた。


彼は槍のような武器を握りしめながら、何かに向かって叫んでいる。だが、その言葉は夢の中の海翔には届かない。代わりに聞こえてくるのは、人々の叫び声と、戦火の音だけだった。


「…イヲティス…?本当に、お前が…?」


海翔は足がすくみ、その場から一歩も動けない。ただ、イヲティスの姿を見ていることしかできなかった。彼の槍が何かを振り払うたびに瓦礫が崩れ、周囲の人々が怯えて逃げ惑う。その光景は、まるでイヲティスが人間を敵として見ているように映った。


だが、よく見ると、イヲティスの目線の先には、影のような何かが蠢いている。それが敵なのか、何なのかは分からない。ただ、イヲティスが必死に何かと戦っているようにも見えた。そして、その「敵」と人間たちの間に立つイヲティスの姿は、どちらからも狙われているかのようだった。


「…どういうことなんだ…イヲティスは、敵なのか…それとも…?」


その瞬間、強烈な閃光が走り、夢は終わりを告げた。


目を覚ました海翔は、深い呼吸を繰り返しながら、額の汗を拭った。手には父から託されたデバイスが握られている。その冷たい感触が、夢で見た未来の光景を現実に引き戻すかのようだった。


「本当に…これを渡すべきなのか…?」


夢に見たイヲティスの姿は、敵か味方かも分からない曖昧なものであり、彼の心を一層揺さぶった。もし彼があの夢の通り、人間の敵になってしまったら、その責任を自分が負えるのか。



海翔は答えを出せないまま、再び布団に横たわった。

胸の中の迷いは深まるばかりだったが、それでもイヲティスの背負う何かを信じたい気持ちが、どこかに残っていた。


「信じるべきなのか…。」


その思いだけが、静かな夜の中でひとしずくの希望となり、海翔を眠りへと誘った。


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