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隠された地図  バチカンからカンボジアへ

とうとうマリウス達は教皇に謁見することが出来ました。ところがエレノアが誘拐され・・・。機転を利かせた作戦でエレノアを奪還できたマリウス達。次のヒントはフランス、カンボジア。息をする暇もなくマリウス達は敵を欺きながら世界中を走り抜けます。

翌朝、早くに目が覚めたマリウスは、バチカンについてからの事を考えていた。

教皇に会うにはどうすればいいか。なにか方法があるのか。アイデアは全く浮かんでこない。1人フロアの椅子に座り考えていると、同じく早く目が覚めたエレノアが

「マリウス、おはよう。もしかしてマリウスも寝付けなかったの?私はなんだか興奮して

早く目が覚めちゃった」

エレノアは欠伸をしながら、マリウスの隣に座った。マリウスが返事なく考え事をしているのを見て

「マリウス、今日の事が気になるのね。でも大丈夫よ。きっとなにかいい案が浮かぶわ。

それともなにか違う考え事?」

マリウスはずっと外をみている。外は雨がふっており、少し肌寒かった。

と、突然マリウスが 

「違うかも!あの暗号は、教皇様に会うことを指しているのではなく、教皇様の言葉に耳を傾けろという意味なのかも。エレノア、教皇様は、ミサや世界中から集まる人たちに演説を

する。だから、その演説を聞けば、何かヒントが出るのかも・・・」

マリウスはあの暗号をそう解釈した。が、エレノアは

「確かに。・・・でもマリウス、教皇様が行う演説は、世界中の信者に向けてするものよ。

私たち個人に向けたメッセージではないわ。私はやっぱり、教皇様に会うことが次への道標になると思うけど・・・」

マリウスは、エレノアの意見も、もっともだと感じた。やっぱり行くしか結論は出そうにない。

「エレノア、ともかくバチカンへ行こう。そして教皇様の演説を聞いてみよう。・・・そうとなれば皆を早く起こさないと・・・、エレノアはここで待っていて」

マリウスはそういうと、エレベーターに駆け込み、5階のボタンを勢いよく押した。姿を消したマリウスの後ろ姿を見て

「マリウスったらあわてんぼうね。まだ食事もとってないのに・・・、それに、せかしたらアルに怒られるかも・・・。ああ、今日は雨ね。一日続いたら髪の毛はねちゃうわ」

エレノアは外を眺めながら呟いた。外には、傘をさしながら歩く人影も見えるが、ホテルの道路を挟んだ木の陰に、黒服の3人組がいることに、エレノアは気づかなかった。

案の定、朝早く起こされたアルとテッドのテンションは低く、特にアルはご機嫌斜めだ。

「マリウス、焦る気持ちはわかるけど、早すぎるぜ。昨日の今日で、まだ疲れが取れてないし、朝メシも食ってない。バチカンは逃げないから、ゆっくりしようぜ。どうせ飛行機は、

14時の便しか取れなかったからまだ時間はあるし」

アルは大欠伸をしながら、マリウスを軽く睨んだ。テッドはまだ夢の中なのか、足取りが

おぼつかない様子で、ジョーに支えてもらっている。

マリウスは、アルや皆に謝りながら

「ごめん、一刻でも早く行きたくて」

「とりあえず飯は食わせてくれ。腹が減っては戦もできぬ。って、日本人も言っているし・・・。とりあえずコーヒーでも飲んで目を覚まそうぜ」

ジョーはその言葉に

「そういたしましょう。さあテッド様、行きますよ。フワ―」

と、欠伸交じりの声でテッドをレストランへ連れていく。

「さて、じゃあこれからどうする?」

14時までの間、時間を持て余すことになった一行は、それぞれにプランを立てた。

ジョーとアルは、大学の恩師に会いに行きたいと言い、テッドもそれについていくらしい。まあ、テッドの目的は、大学の名物のハンバーガーだが・・・。

マリウスはエレノアの案内で、アメリカの自由の女神を見に行くことにした。そこにジンジャーが、護衛に付く。

「弾の補充もしたいから、俺の用事を先に済ますぞ」

ニューヨークのリバティ島にある、自由の女神は、高さ93メートルで、フランスから

贈られたものだ。

いつも観光客で多いこの島に、マリウスは久しぶりにリラックスできた。

いつも緊張しぱっなしで、ロクに睡眠もとれないマリウスにとって、普通の観光は、色々な

悩みからも解放されたようで、始終笑顔だった。

土産に女神のミニ像を購入し、3人は集合30分前には、約束の集合場所へ着いた。

すでに皆集合して3人を待っていた。

ジョーはマリウスを心配して姿がみえると、走って近づき

「ご無事でなりよりです。変わったことはなかったですか?」

「ジョー大丈夫だよ。ジンジャーがいてくれたし、自由の女神も見ることが出来たし、本当に素晴らしかったよ」

それを聞くエレノアは

「楽しんでくれて嬉しいわ。それで、ジョーたちはどうだったの?恩師に会えた?」

「はい、お元気そうでした。私やアルの事を覚えてくださっていて・・・、教授に言わせると悪ガキだったからだそうで・・・。なあ、アル」

「そうさ。あのゲイツ教授の講義は、いつもエスケープしていたからな。よく卒業できたと・・・自分の才能が怖いよ」

「ハンバーガーも美味しかったし、僕もいうことなし」

「そうか、テッド。それは楽しかったようだね。それじゃあ、搭乗時間もあることだし、

そろそろ行こうか」

マリウスは先頭に、皆とロビーに向かった。

発着時間を少し過ぎて、飛行機は飛び立った。シートベルトを外しながら、マリウスは

{バチカンで、どうやって教皇様に会えばいいのか?国のリーダーでも会えない人物に、僕達が言っても相手にさえ、してもらえそうにない。うーん}

しばらくするとエレノアが、アルから解放され、マリウスの横に座った。

エレノアは苦笑いしながら

「もーアルったら話が長いのよ。アメリカの大学のことはまだ私、何も考えてないのに。

マリウスはイギリスの大学へ行くの?それとも・・・」

「う、うん。僕もまだ考えてない。今のこの調子じゃあね」

「ごめんなさい。私だけ浮かれちゃって。そうね。マリウス達はご両親が・・・」

エレノアは、マリウスの表情を見ながら話題を変えようと

「マリウス・・・。・・・そうそう、教皇様に会うのになにかいい案みつかった?」

「うーん。それがなかなか難しくて、どうしたら教皇様に会うことができるのか、悩んで

いる所さ」

「そうね。なにか強いコネがあれば、可能性はあったかもしれないけれど・・・。教皇様に会える人って、どんな人なのかしら。大統領や首相でも、なかなか謁見出来ないみたいよ。

キリスト教会の1番偉い人ですもの。神の代理人と呼ばれるくらいの」

「神の代理人、神の言葉の代弁者・・・」

マリウスは、飛行機の中、ずっとエレノアの言った言葉を繰り返していた。


バチカン市国は、世界の中で一番小さな国で、教皇と呼ばれる全キリスト教徒の代表が、

神の代理人と呼ばれ存在する。

バルコニーに姿を見せた教皇は、信者の歓声を浴びながら手を振り、世界平和を祈る。

広場は何100万人と、身動きが取れないくらいの人だ。マリウス達は、前の方で教皇の目に留まるように願った。しかし、教皇は、演説を終えるとバルコニーを後にする。

「あー、教皇様が行っちゃうよ。兄さん、どうしよう」

テッドが、大声を上げてバタバタしている。

その声に、教皇の後ろに控えていた枢機卿の1人がマリウス達に目をやり、ハッと何かに気づいてバルコニーから下がろうとする教皇に、1言声をかけた。教皇はその言葉に、マリウス達の方を見て、枢機卿になにか指示をした。

「これからどうする?会えないなら次のヒントは貰えないぞ。ここまで来て・・・」

人が少なくなった広場で、マリウス達は、これからどうしようかと悩んでいた。

そこへ大聖堂から、マリウス達に向かって人物が歩いてきた。

その人物は、マリウスではなく、ジンジャーに声をかけた。

「ジンジャー殿、お久しぶりです。覚えておいでですか、私の事を」

「フランシスコ様、お久しぶりです」

「ジンジャー殿、マチナス枢機卿が貴方にお話があるとお待ちです。こちらへどうぞ」

呆気にとられるマリウスたちを尻目に、ジンジャーは無言で付いてこいと合図し、その人物について行く。

大聖堂のなか、しばらくするとマチナス枢機卿がカーテン越しから現れた。

枢機卿はジンジャーの姿を確認すると嬉しそうに

「やはりジンジャー貴方でしたか。久しぶりですね。あなたがここを去ってから、1年たちましたが元気でしたか」

「マチナス枢機卿様。枢機卿様こそ、ご健勝でなりよりです。私ごときの事を覚えてくださっていて有難うございます」

「はは、忘れるはずはないでしょう。貴方は衛兵の中でも実力もあり、私たちの危機も何度も救ってくれた人ですから。その貴方が、この方達と一緒にいたものですから驚きました。

今の雇主ですか?」

「そうです。マチナス枢機卿様、雇い主のマリウス、テッド兄弟。世話役のジョーに友人のアル。そしてエレノア嬢です。我々は、教皇様にお会いしたく、アメリカから来ました」

「教皇様に?なにか理由でも」

「今は言えませんが、マチナス枢機卿様。我々は決して、教皇様に危害を加えに来たわけではありません。なんとかお会いすることは出来ないでしょうか?」

枢機卿とジンジャーが話している間、マリウス達は蚊帳のそとで、きょろきょろしていた。大聖堂に入れただけでもすごいのに、ここまでこられるなんて、それもジンジャーが、

枢機卿と知り合いとは驚きだ。

「私が貴方を見つけた時に、教皇様にそのことをお伝えしたのです」

マチナス枢機卿はニコッと笑うと、カーテンをサッと開けた。

そこには護衛に守られてはいるが、教皇がにこやかに立っていた。教皇はジンジャー以外の者に軽く笑顔を見せると、ジンジャーに向かって

「マチナス枢機卿に聞いて、ここに来てもらいましたが、貴方が去ってからどうしたのかと気になっていたのですよ、ジンジャー。今はこの方があなたの雇い主のようですね」

ジンジャーは、腰をかがめ胸で十字を切りながら

「はい。教皇様、今、私はこの少年の護衛についています」

「貴方ほどの者が護衛とは、穏やかではありませんね」

顔をしかめる教皇にマリウスは

「教皇様、恐れながら、僕たちは、ある目的から世界中を旅しています。アメリカからここに来たのは、バチカンが次の目的地だと示されたからです。そこには、教皇様と神に敬意を示し、教皇様の言葉を聴くようにメッセージがあり・・・」

ここで、マリウスは言葉に詰まった。あまりの緊張と、教皇を前にして恐れ多いことを言っている自分に気づいたからだ。

{僕は何を言っている?教皇様にこんなことを言って・・・}

マリウスは、顔を真っ赤にして、下を向いて黙り込んでしまった。


「・・・アメリカから私に会いに?確か、・・・ちょっと待ってください」

教皇は、そっとマチナス枢機卿に耳打ちすると、鍵を渡し、金庫の番号を耳打ちした。

そして、その中の本を取ってくるように指示した。

マチナス枢機卿がいなくなったあと

「それにしても、ジンジャー、貴方が辞めてから、部下の人たちの士気が下がりましてね。皆、貴方を慕っていましたから、隊長が居なくなるとは、何かあったのですか?」

「・・・教皇様、それは・・・私の勝手な行動です。どうぞ、お許しを」

「ジンジャー、神はいつもあなた方の頭上におられます。違う道を行くのも、貴方の運命でしょう」

暫くすると、マチナス枢機卿が、指示された本を持ってきた。教皇は、それを手にすると、最後のページを開き、文字を目で追った。

「ちょっと席を外してください。大丈夫ですから」

枢機卿や護衛の者が下がると、教皇はマリウス達を見て

「ここに驚くべきことが書かれています」

教皇は、眼鏡を掛けなおし、最後のページに書かれた文字を、ゆっくりと読み上げた。

「歴代の教皇は、次のことを口外せずに、代々伝えること。・・・アメリカから私を

訪ねてくるものがあれば、その者にこう伝えなさいとあります。


‘絶対君主の国にて革命が起きた。外からきた王妃は罪深きものとして殺されその栄光は墓までもってはいけない。罪深きものが寝る

場所で我を見いだせ。‘


マリウスはハッとした。

「それは暗号では・・・」

「分かりません。教皇は理由なく、代々この言葉を受け継いでくれる者を待っていました。まさか、私の時代にそれが起きるとは・・・。神の御業は偉大です」

{あの暗号が示していたのは、教皇様のみが知る言葉を手にいれることだったのか・・・}

「教皇様、その言葉を記録してもよろしいでしょうか?」

「構いませんよ。私の代で、この言葉を必要とする人に出逢えて、歴代の教皇たちも肩の荷を下ろしたことでしょう」

「ありがとうございます。教皇様」

マリウスたちは、急いで言葉を記録した。

教皇は、マチナス枢機卿たち護衛の者を、中に入れると

「それでは、皆さんの旅に神の祝福がありますよう。ジンジャー、責務を果たすように、

あなた方の無事を神に祈ることにしましょう」

「教皇様、マチナス枢機卿、どうぞ、ご健勝でありますように」

ジンジャーは、礼儀正しく、お辞儀をすると、マリウス達を伴って、大聖堂から出て行った。残された教皇や枢機卿は、胸で十字を切ると

「神よ。どうか、彼らに道をお示しください」

誰もが無言だった。

こんな驚くことは、今まで経験したことがない。その原因は、今まさに前を無言で歩く

ジンジャーに他ならない。

サンピエトロ広場がだんだん遠くになっていく。皆はだいぶん落ち着きを取り戻してきた。

「しかし、驚いたよな。まさかジンジャーにこんな経歴があるなんて。ツテがあるなら教えてくれればいいのにさー」

と、言った時には皆、誰もがそう思った。ジンジャーは振り返り

「確信はなかった。枢機卿様が俺を見つけてくれたから、上手くいっただけだ」

「それでも今日は、ジンジャーのおかげで助かったよ。ありがとう」

マリウスの声に、ジンジャーは表情を変えずに、それでも昔を懐かしむように、後ろを振り返り

{俺が居なくても、皆で教皇様をお守りしてくれ}

声にならない想いで、ジンジャーは、再び前を向いて歩き出しながら

「次はどこに向かえばいい?マリウス」

「次は・・・。少し考える時間が必要ですね」

「・・・あれを暗号として考えるなら、とりあえずどこかで解読する必要がある。マリウス、どこかに宿をとってはどうだ」

アルがマリウスにアドバイスする。

「イタリアのナポリにホテルを取っていますから、そこで考えましょう」    

「準備がいいな、ジョー」

「ええ、まあ・・・」

「よし、それじゃあ、車をつかまえて、行くぞ」

ジンジャーは、早くこの場から離れたいように、早歩きで歩き出した。

慌てて他の皆も、ジンジャーを追いかけるように走り出した。

ナポリに着いたマリウス達は、どうにか開いている店で、名物のナポリタンをほおばった。マリウスとエレノアは、ピザを食べながら

「ジンジャーには本当にびっくりさせられたよ。バチカンの元衛兵だったなんて・・・。

でもそのおかげで、次へのヒントをもらうことが出来て良かった」

「そうね。今度のヒントは少し難しそうだわ。ある程度はわかるけど、後半の部分が抽象すぎて絞れない。アルの情報を待った方がいいのかも」

エレノアは今度ばかりは降参といった感じで、ピザを食べている。テーブルには、エレノアとマリウスだけ。ジョーたちはお酒の飲める場所へ移動している。ジンジャーとテッドが、外のテラスで、ナポリタンを食べている。

 「早くシャワーを浴びたいわ。汗かいちゃって・・・」

マリウスは、不防備に髪をかき上げるエレノアのしぐさに顔を赤くし

「ホント。今夜は暑いくらいだ」

と、顔をそっぽむけて返事した。

食事を終えた6人は、夜遅く、ホテルに着いた。ジョーがフロントで、チェックインをしている間、テッドはロビーを探検しようと、エレベーター近くの柱の側を通った。

 「わあ、大きな柱。何か化石でも入ってないかなー」

そのとき、こちらを背に話している声が聞こえた。

その人物は電話を耳に当て

「奴らはバチカンで、何か情報を手に入れたようです。はい、今ホテルにチェックインしています。これからどういたしましょう。・・・はい、はい。やつらについては行きますが、どこで奪いましょう。え!娘を・・・?コロ・・・で。はい。分かりました」

テッドは、気に留めることなく、その黒服の人物をチラッと見ると素通りした。

「おーい、テッド。行くぞー」

アルが自分を探している。テッドは慌てて

「はーい」

その直後、電話で話していた人物が、ギロッと、テッドを見た。そして、電話の相手に

「いいや、大丈夫だ。ガキが居ただけだから心配ない」


「じゃあ、皆、後で僕たちの部屋に来てくれ」

「了解、312号だな」

「じゃあ、また、後で」

エレノアは鼻歌を歌いながら、自分の部屋の化粧室で、少し薄化粧をしていた。

「今度はどこの国かしら。近くならいいのだけど」

エレノアは、呟きながらドアを開けた。そのドアの向こうには、ニヤつく男が立っていた。エレノアの意識は、そこで途絶えた。

「遅いなー、エレノア」

「ちょっと見てきますから、話を進めていてください」

ジョーが、エレノアを迎えに出て行った。

「それにしてもジンジャーがあんな御偉い人と、知り合いなんて驚きだぜ」

マリウスは、以前、ジンジャー本人から聞いていたことだったが、まさか教皇の・・・とは、思いもよらなかった。

初めジンジャーは、話すことを渋ったが、やがてぽつりぽつりと自分の過去を話始めた。

スイス人のジンジャーは自国を守るため衛兵隊に入隊し、その後、功績が認められ、バチカンの教皇を護衛する役職に就いた。

ジンジャーが昔の事を話したがらないのは、1つの事件があったからだ。

それは教皇を護衛するようになってから2年目のこと。ある国を訪れた際、教皇は宗派の違う過激派の攻撃を受けた。

教皇を守るため、ジンジャーは、まだ年若い少年兵士を殺してしまった。それがジンジャーのトラウマとなったしまった。

「ジンジャー・・・」

「そうか、そんなことがあったのか。すまない、辛いことを思い出させて」

アルが素直にジンジャーに謝る。

重苦しい空気の中マリウスは、教皇から頂いた言葉を写した紙を出して

「さあ、この暗号をエレノア達が来る前に解こう」

と、檄を飛ばす。続けてアルも

「そうだな。エレノアが来る前に、この暗号を解いて驚かそう。えーとなになに、絶対君主の国で革命・・・。今の国ではありえない事だろうから、この革命という言葉は、昔の時代の事だろう。だとすると、覚えにあるのは、俺だったらフランス革命かな。ルイ16世と

マリーアントワネット王妃が、断頭で処刑された。その爺さんが太陽王として絶対君主のルイ14世だからな」

アルが最初に口をきった。続いてマリウスも

「うん、僕も歴史で知っている革命は、フランス革命くらいかな。あとロシア革命や

イギリス革命もあったけど、絶対君主の国ではなかった。それに続きに、外からきた王妃と

あるけど、皇太子妃のマリーアントワネットは、オーストリアからきた皇女だ。だから、

この文章が示す国は、フランスでいいと思う」

「なるほど、そうだな。フランスでいいはずだ」

「次の、栄光は墓まで持っていけないというのは、ルイもマリーアントワネットも、どこかの聖堂に埋葬されたはず。眠る場所というのは、埋葬場所のことなのか、それとも、なにか

特別な場所なのか。・・・もしかしたら、投獄されていた牢獄の、バスティーユが眠る場所だろうか」

マリウスと、アルが持論を展開させていく。すると、銃の手入れをしていたはずの

ジンジャーが珍しく

「いや、よく見ろ。教皇様から直に見せていただいたものなら、この単語は、眠るではなく寝るという解釈になる。また栄光という意味は、処刑された王妃が最期を過ごしたバスティーユ牢獄ではなく、日頃、寝ていたベルサイユ宮殿の寝所ということにならないか」

アルはジンジャーの言葉にフムフムと聞くと

「そういう捉え方もできるな。国はフランスで間違いないと思う。後は、エレノアの意見を聞きたいから来るのを待と・・・」

アルが最後まで言い終わらないうちに、バタっとドアが開きジョーが駆け込んできた。

「マリウス様!大変です。エレノア様の姿がありません。お部屋に行ってみましたら、

こんな物がドアの下に紙が挟まれていました」

それを聞いて、皆一斉に立ち上がった。

「なんだって!」

マリウスは、ジョーが紙切れと一緒に髪飾りを持っているのを見て

「これは、・・・エレノアの髪飾り。ジョー、その紙にはなんて書いてある?」

ジョーは言葉に詰まりながら、紙に書かれた文字を読みだした。

「エレノア様を預かったと。返してほしければ、手に入れた物を明朝6時に、コロッセオに持ってくるように。と、書かれています」

一同、声を失った。

「なんだって!じゃあエレノアは奴らにさらわれた?クソ!彼女を1人にするべきじゃなかった」

アルは机を叩き、マリウスは、真っ青な顔で立ち尽くした。テッドも声をなくして、

手に持っていたお菓子を床に落とした。ジョーは青ざめた表情で

「まさか。ここまでするなんて・・・」

と、独り言をつぶやいている。

ジンジャーだけはなにか対策はないかと腕を組み考えている。

{エレノアには、まだ護身術くらいしか教えていない。咄嗟にできるものではないから、

彼女は無抵抗のまま連れ去られたのだろう。指定されたコロッセオは、イタリアのローマに

ある闘技場だ。しかし、教皇様より頂いた情報を、奴らに渡すわけにはいかない。敵も何人で来るかも分からない。エレノアの安全と、どこに監禁されているかさえ分かればいいが、それも難しいだろう。エレノアの髪飾りが落ちていたということは、急に襲われた可能性が高い。敵のヒントや自分の居場所を知らせることは出来なかったはずだ}

ジンジャーがそんなことを考えていると、テッドが何か思い出したように  

「・・・僕、ロビーで男の人が、電話で何か話しているのを聞いた。バチカンとか、娘とか言っていた。コロ・・・なんとかって聞こえたけど、ごめんなさい。もっと早くに、皆に言うべきだった。僕が早く話しとけばエレノアは連れて行かれなかった」

テッドは顔を手で押さえて、泣きだした。ジョーはテッドの肩を抱きながら

「テッド様のせいじゃありません。私たちも油断していました。奴らがこうも早く、行動

してくるとは思わなかったのですから・・・。エレノア様を1人にするべきではありませんでした。だからこれはみんなの責任です」

マリウスも、テッドを元気づけるように肩に手を置き

「テッド、今、後悔しても仕方ない。ここから皆で力を合わせて、エレノアを救おう。

力を貸してくれ、いいな」

「う、うん。兄さん」

テッドは涙を拭きながら頷いた。

「でも、どうする?奴らはエレノアを人質に取っているから、下手に手は出せないぜ。

コロッセオの造りも詳しくわからないから、身を隠す場所もあるのかどうか。第一、暗号の紙を渡すのか。あんなに苦労して手に入れたのに」

アルは悔しそうに、マリウスの顔を見て怒鳴った。

「そうだ。暗号の紙を渡しても、エレノアを無事に返す保証はない。逆に、僕らもやられる可能性が高い。でも助けなくちゃ。そうだろう」

マリウスの一言に、皆頷いた。

「人質になった人間が無事でいる可能性は低い。それにコロッセオは複雑な構造だから、奴らが隠れている場所が絞れない」

ジンジャーの言葉に、マリウス達はまた沈黙した。


「クシュン」

あまりの寒さに、エレノアは目を覚ました。周りを見渡しても真っ暗で、エレノアは自分が床に転がされていることに気づいた。

{ここは?・・・そうだわ、私、薬をかがされて意識を失って・・・。一体ここは?

マリウスに連絡をしなくちゃ。・・・駄目だわ。スマホは部屋に置いてきたから}

エレノアはもう一度、周りを見渡したが、やはり真っ暗で何も見えない。

ただ車が走る音や、人の声が聞こえる。多分どこかの家だろう。

口は布でふさがれ、両手は縄で縛られている。エレノアはどうにかして、縄を外そうとしたが動くと余計、縄がきつくなり身動きが取れない。

{マリウス、助けて!}

暗闇の中でエレノアは、声にならない声でマリウスに助けを求めた。

夜は一刻と過ぎていく。


早朝、コロッセオに着いた5人は、まずコロッセオの構造に着目した。敵は何人か。

エレノアはどこにつかまっているのか。

ジンジャーは銃を構え、アルやジョーはバッドを持つ。

マリウスやテッドは、武器を持たずバックパックに紙切れを忍ばせている。

6時を少し過ぎたころ、闘技場の真ん中に黒服の男たちが3人、エレノアを連れて姿を見せた。変わらずエレノアは、両手を縛られている。口は塞がれていないから、動く度に

「やめて!痛いじゃない。これを外して」

と、叫んでいる。マリウスは客席の陰から飛び出し

「エレノアを放せ。約束どおり来たぞ」

「持ってきたか。早くよこせ。このお嬢さんがどうなっても構わないのか!」

「マリウス!」

「エレノア!もう少しの我慢だ。待っていて。大丈夫だから」

安心させるように言うと、黒服の男たちに

「お前たちの欲しがっているものはここだ。エレノアを放せ。もう僕たちに用はないだろう」

マリウスはそう言うと、バックパックから紙切れを取り出した。そしてそれを宙に投げた。

紙は1枚2枚・・・5枚と空にばらまかれた。

「見失うな!すべて拾え」

黒服の男たちは、紙切れを追いかけてエレノアの縄を放した。

その瞬間、中央近くまで来ていたジンジャーが、エレノアを救出しマリウスのところに連れてきた。黒服の男たちはエレノアが取り戻されたことに気づくと

「くそ。待てー」

と、叫びながらも紙を拾うのに必死だ。

その間に、マリウス達6人は、コロッセオから逃げ出した。

後ろから銃の音が聞こえる。ジンジャーは、銃で応戦しながら皆を庇い、敵の1人の肩に命中させ倒した。

マリウスたちはコロッセから500メートル離れた場所まで逃げ、ハアハアと息を荒げながら壁にもたれた。

「う、上手くいったね。兄さん。はあはあ。エレノア大丈夫?」

テッドは息を上げながら、エレノアを気遣った。エレノアはジンジャーによって縄を解かれ、今は自由の身だ。そのエレノアは涙に濡れた目で

「どうしてマリウス。私の為に大事な手がかりを渡すなんて、・・・これからどうするの?

ああ、私のせいよ」

エレノアの涙声に、マリウスは

「落ち着いてエレノア。奴らに投げた紙は偽物だから」

「そうそう、あいつら今頃、あの紙を見て、間違った場所へ行くぜ。しばらく後を追いかけられる心配はないと思う」

アルはニヤニヤしながら言った。エレノアは涙を流しながら

「どういうこと?」

「ここじゃ・・・。場所を変えよう。あそこのレストランへ」

マリウスはエレノアを誘導した。そしてレストランに入ると、得意げに話し始めた。

「昨日、エレノアがさらわれた後、皆で話し合って作戦を考えた」


回想シーン


イタリアのホテル内。マリウス達は人質になっているエレノアを救出するため、明朝

コロッセオに向かうべき作戦を立てていた。アルが

「奴らに渡しても、エレノアが無事に戻るかどうかわからない。このまま奴らの言いなり

なるのも癪だ。なにかいい方法はないか」

と、苦々しく唇を噛んだ。ジンジャーは、皆を見ながら

「奴らの気を引くことができれば俺が、エレノアを救出する。どうだ?奴らの注意を引く

ことはできるか?」

「そうですね。奴らが欲しがっている暗号の紙を渡せば、隙はできますが・・・。そうです!偽の暗号を作って奴らにばらまけば、時間が作れます」

ジョーは1つの案を皆に提案した。

「そうだよ!きっと奴らは本物だと信じるはず。そうすれば、ここからしばらく追っ手を

避けることが出来る。どうかな?」

マリウスがジョーの提案に乗るように言った。

「いいね。内容はそれっぽく、本物らしく・・・。奴ら、きっと手をこまねくはずだから」

テッドも賛同する。

「OK!じゃあ、その暗号を考えよう。遠い所へ行かそうぜ。アフリカなんてどうだ」

アルがニヤリと笑いながら、周りをみた。

「俺は念のため、銃の準備をしとくから後は頼む」

ジンジャーは皆と距離を置き、銃の手入れを始めた。

「その作戦で行こう。コロッセオには奴らより早く着いて、隠れる場所を確保しないと、それには情報が欲しいな。アル頼める?」

アルは手で胸を叩き

「よし。任せとけ。すぐに準備する」

「偽の暗号は僕たちで作るよ。さあ、みんな作業開始だ!」


                          回想シーン終わり

イタリアのレストラン内。マリウスは、昨夜の出来事を話し終えて、エレノアの反応を見ている。

「ごめんなさい。私が油断したから、こんな迷惑かけてしまって・・・」

「本当に良かった、エレノア。もう君を1人にはできない。君だけじゃない。テッドも、奴らは、どこで狙っているか分からないからね」

「いいぜ。マリウス、お前がリーダーだからだ。お前の決めたことに従うよ」

アルは、ジョーやジンジャーを見ながら同意を求めた。

「私は、マリウス様のご指示に従います」

「俺は雇われ者だからな。拒否する権利はない。1つだけ言わせてもらうと、自分の身は

最低守れるようにしてもらいたい。俺が渡した基礎体力のメニューはしているか?あれに応用をつけて訓練を各自進めたいのだが」

アルはゾッと両腕で体を包むように

「えー、あれ以上の訓練かー。しんどいなー。腹筋にスクワットは」

「あれ以上の事を訓練しないと、命は保証できないぜ。実践訓練もしときたいな」

ジンジャーは、アルの言葉にあきれるように返答した。マリウスは

「アル。ジンジャーは皆のためを思って言ってくれているから頑張ろう」

「ああ、分かっているよ。仕方ないか。よーし、やけ食いだ。肉をいっぱい食べてやる。

ほらテッドお前も食うよな。おーい、オーダー頼む」

アルは、レストランのフロアスタッフを呼ぶと、メニュー表をテッドとにらめっこし始めた。それをマリウスやエレノアは、楽しそうに見て笑った。久しぶりの笑顔だ。

本当にエレノアが無事で良かった。

 {エレノアは僕が守る!}

 {何だ?この気持ち・・・。今はそんなこと、考えている場合じゃないぞ、マリウス}

マリウスは、自分の中に芽生え始めたエレノアへの恋心を、無理やり、心の中に押し込めた。

レストランからホテルへ帰ると、マリウスたちはすぐに移動準備を始めた。フランスに行くことは、エレノアには話すことができず、行く飛行機の中で話せばいいと、マリウスは判断した。

偽の暗号を渡したとはいえ、追っ手が来ないわけではない。

大急ぎでチェックアウトするとタクシーでミラノ空港へ向かう6人。

フランス行きの搭乗時刻はちょうど30分後にある。

ジョーがホテルに戻った時に予約してくれたものだ。30分とはいえ、奴らが来ない可能性はない。

マリウスたちは見つからないように、手続きをとると、分かれて人ごみの中にまぎれた。

搭乗時刻15分前、マリウスたちがカウンターに向かおうとすると、一緒にいたジンジャーが

「待て、奴らだ」

マリウスを制止した。みると黒服の3人組が、南米行きの飛行機に慌てて乗るように

カウンターで手続きをしている。3人はよほど時間がないのか、周囲に目をやることなく、

あわてて乗り込んでいった。3人が消えるとアルが

「よし。やった!奴らは騙されとも知らず行きやがったぞ」

{今頃奴らは、ペルーの遺跡をしらみつぶしに探しているはずだ。僕たちがいると思って}そう考えると、マリウスは自然と笑みがこぼれた。

「マリウス、どうしたの?なにか可笑しい?」

と、まで言われてしまった程だ。

フランス行きの飛行機は、ここからシャルル=ドゴール空港まで直便で着く。6人は席を離れて座っているが、トイレに行くたびに目配せで異常がないか確認しあった。

マリウスは、隣に座るエレノアに

「と、言うわけで、僕等は、今、フランスに向かっている。暗号を解読したら、この革命というのが、フランス革命じゃないかと分かった。エレノアはどう思う?」

フランスは、革命がおこったことで有名だ。オーストリアの皇女アントワネットが、

フランス王妃になって贅沢三昧をし、国民を苦しめたため、革命が起こった。

王の一家は処刑された。ギロチンで・・・。マリウスは身震いをした。エレノアを助けることがもし失敗していたらエレノアも殺されていたかもしれない・・・。

 「・・・そうね。私もフランスだと思うわ。外から来たというのはマリーアントワネットがオーストリアから嫁いできたからだし、この寝る・・・というのは、ジンジャーの言うように眠るという意味と、寝るという2通りの意味がある。マリーアントワネットが眠る墓所か、

王妃として寝ていた寝所か、難しい所ね。でも、どちらにしても行く方向は合っているから、大丈夫。このまま、進みましょう。私もこの時間、少し考えてみるわ」

 それから、エレノアはしばらく黙って、暗号と睨めっこしながら、考え込んだ。

 マリウスは、エレノアの邪魔にならないように、機内に置かれていた観光紙を読みながら、静かに過ごした。

 {栄光は墓までもっては行けない・・・。これはマリーアントワネットの栄光の時代、そう、ベルサイユ宮殿での栄光を示している。この罪深きものが寝る場所で涙せよ。という意味は、ベルサイユ宮殿のマリーアントワネットが寝ていた寝所と考えるのが妥当だとすると、彼女のベッドか部屋に、なにかヒントが隠されていると考えられる}

 エレノアは、側で静かにしてくれているマリウスに感謝しながら、自分の考えをまとめた。

フランスのシャルル=ドゴール空港に着いた6人は、とりあえず落ち着ける場所を探すため凱旋門をバスで通過し、エッフェル塔を通り過ぎたあと、とあるカフェに落ち着いた。

マリウスは、皆にエレノアの考えを伝え、エレノアの意見を待った。小さな机に5人が身を寄せ合い、小声で話すのを、周りの人は怪訝そうに眺めた。

ジンジャーは、少し離れた場所で周囲に目を光らせている。

「飛行機の中で考えたのだけど、アントワネットの寝所を探せば、何か見つかるかもしれないわ。ジンジャーの言っていた、眠ると寝ると意味から、そして栄光は墓までもっていけない。とい観点から、私はベルサイユ宮殿のアントワネットの寝室が怪しいと思う」

エレノアは、断言はできないといいながら、皆が推測した同じ場所を伝えた。

「そうか。さすがエレノア。僕らとほぼ同じ考えだ。どうだろう皆。ここに行ってみるかい?」

「おれのネットワークでも同じ考えの奴がほとんどだ。いいじゃないか、ベルサイユ宮殿で」アルはいつものようにPCで調べた後、エレノアの意見に賛成した。

ベルサイユ宮殿は、大勢の観光客で、今でも豪華絢爛であった。

広い庭園、ゴージャスな内装、1つ1つの場所が、興味深く何時間見ていても飽きないと

いった感じだ。次々と案内板に沿いながら進んでいくと、お目当ての寝所に着いた。

早速2手に分かれて、ベッド周辺と、部屋に何かヒントや言葉を見つけようとした。背の低いマリウスたち3人がベッド周辺を自然に見えるように散策し、ジョーたちは部屋全体を、鋭い目で捜索した。

ただ他の観光客もいるため、おおっぴらには捜索できないため、適度に会話を挟みながら

行った。ここではジンジャーも珍しく、捜索隊に加わり壁やかかっている絵画に注目した。

マリウス達はベッド周囲を調べようとしたが、残念なことにベッド周囲は入れないようになっており、調べようがなかった。

「エレノア。こう人が多くては調べるのにはリスクが高い、みんなを集めよう」

部屋の隅に集合した6人は口々に

「なにか見つかる筈だけど、警備の目もあってなかなか調べにくい」

「あまり目立つ行動は、逆に目につきやすいです」

「そうだな。どこかで時間つぶして出直そうぜ」

アルの提案で、観光客が少なくなる時間まで、庭園で時間をつぶすことにした。

そして、観光客もまばらになると、6人は警備員の目を盗んで、宮殿内のトイレに潜んだ。

定期的に巡回にくる警備員をやりすごし、0時の巡回を終え、警備員が去ると、トイレから抜け出し、王妃の寝所に再び入った。

ジョーとジンジャーが見張りに立ち、マリウスとテッド、エレノアとアルがペアを組み、

ベッドの左右に分かれ調べ始めた。すぐにマリウスが気になる箇所を見つけた。

「エレノア、頭元の方になにか突起物ない?」

マリウスは調べているベッドの左側に、妙な違和感のある彫刻があるのを発見したのだ。

「突起物?私の方はないわ。」

「なんだか僕の方から押せる柔らかさみたい。少し押してみるよ」

マリウスはそう言うと、他の彫刻とは明らかに違う、違和感のある彫刻を軽く押してみた。

押すとカチッと音を立てる。その音に見張りの2人を見たが、特に異常を知らせることなく

外を眺めている。マリウスは彫刻をもっと押してみた。するとエレノアがいるほうに、

押された分だけ彫刻が突出してきた。その突出物には木の板がはめ込まれていて、何かの言語が刻まれていた。

今までの暗号は、巻物や筒に入ったものだったが、木自体に刻まれることは初めてで、

マリウスたちは、これを持ち去るべきか否か悩んだ。それを見たアルは

「ここは書き写して元の場所に戻して方がいいような気がする」

「そうだね。じゃあ、ぼくがもっているノートに書き写そう。エレノア書き写してくれ」

マリウスからノートを渡されたエレノアは

「わかったわ。言葉の意味は全く分からないけど・・・。これは何語かしら」

エレノアでも分からない、読めない言語だ。

この木に書かれた言葉にも苦労しそうだな、マリウスは覚悟した。

どうにか書き写した物をエレノアからもらったマリウスは、見張りに立っていたジンジャーやジョーに合図して、ベルサイユ宮殿を後にした。

ホテルに戻った6人は早速暗号ときにかかった。

しかし、アルのネットワークを駆使してもエレノアの知識もここでは役に立たなかった。

「ほんと何語かしら。私が今まで見た、どの言語にもこんなのはなかった。アルはどう?

なにか情報はある?」

アルも両手をあげ降参といった様子で

「情報通の仲間でも、知るやつはいなかったよ。困ったなー。これじゃあ次に進めない。

もしかしたらこれが、最後の場所を示しているかもしれないのに」

エレノアも頷いて

「その可能性はあるわ。暗号を入れたものが、だんだん現代物に近づいているもの。

ゴールは近いかも」

「でもこれじゃあ、ゴールにたどりつけないよ。誰かジンジャーみたいに、ビックリの経歴持った人いない?すごい機械もっているとか、言語に詳しい人にコネがあるとか・・・」

皆、押し黙った。そりゃあないよね。と、テッドは、首をすくめて天を仰いだ。

すると突然エレノアが

「待って・・・。もしかしたら、パパが何か知っているかも・・・。私連絡してみるわ」

「そうだ!エレノアの親は博物館の館長じゃないか。この言語が分かるかも。分からなくても知り合いに、そういう研究をしている人がいるかもだ。エレノア早速してみてくれ」

「でも、そのことで危険が及ばないかな。もしかしたら奴ら、君たちの素性を、調べているかのせいがある」

「・・・パパには十分注意するように伝えとくから」

エレノアも善は急げ。と、言わないばかりに、携帯から聞こえるコール音に耳を当てた。

「あ、パパ?エレノアよ。私は元気。そう、まだ日本なの。行きたいところが多すぎて、

当分帰れそうにないわ。それでね、パパ、私、面白いもの見つけたの。きっとパパも興味あると思って・・・。でも、私には読めなくて、送るからちょっと見てくれない?いい?ありがとう。じゃあ送るから、分かったら早めに返事頂戴」

エレノアは、スマホを机に置いてフーと息をついた。後は連絡を待つばかりだ。

エレノアが父親に連絡している間、隅の方で何かをしていたジンジャーが

「この間にできることするぞ。お前たち用とエレノアの分だ」

何かの紙を5人に渡した。各自見るとそれは、護身術の応用だった。

途端にテッドは

「うへー。またこれか。ぼくもう飽きちゃったー。これやる必要ある?奴らもう来ないでしょう?」

「テッド、これは大事なことだ。自分自身を守れるようにしないと、今後なにがあるか分からない」

マリウスはテッドをたしなめるように言った。

それから2時間くらい、ホテルの部屋の中でそれぞれジンジャーに教わりながら、訓練をした。テッドが最初に音を上げてから、マリウスやエレノアもヘトヘトになって座り込んだ。

アルは息を荒くしながら

「ジンジャー飛ばしすぎだぜ。これじゃあ奴らに立ち向かう前に疲れて動けなくなるぞ」

「・・・今日はここまでにしようよ。ジンジャー」

マリウスも疲れた声で反応した。ジンジャーは不満気な顔で

「仕方ないな。まあお前たちは、最初から体力不足だから仕方ないか。また今度、続きを

やるぞ」

ジンジャーは汗を流すため、シャワー室に向かった

「ジンジャーの奴、張り切りすぎだよ。俺らは坊ちゃんだぜ。なあ、マリウス坊ちゃん」

アルはマリウスを見ながらニヤニヤと笑う。マリウスも

「アルって案外体力ないな。机にかじりっぱなしのせいなのかな」

と、応酬する。それを見る3人は、久しぶりに大声で笑った。本当に心からの笑顔であった。

6人が、無事でここまで来られたことに感謝した。

シャワーをから出てきたジンジャーは、5人の笑い声にあっけにとられた顔で、頭をタオルで拭いている。

夕方になり、外が暗くなり始めると皆、落ちつきがなくなり、エレノアのスマホが鳴るのを今か今かと待ちわびた。

結局エレノアのスマホが鳴ったのは、21時過ぎであった。

エレノアは着信番号を見て慌てて

「パパだわ」

エレノアはスマホをスピーカーにした。

「パパ、エレノアよ。うん、うん。分かったの?嬉しい!ちょっと待ってメモするから」

エレノアはマリウスに、紙とペンを準備してもらい

「ええ、パパ、いいわよ」


‘ライオンの体に人の顔を持つ怪物は、王を守る聖なるもの。神秘な王のそばにその怪物が居る。怪物が見ている方向から2キロ先に求めるものあり。その者に幸あれ。‘ 


「そう書いてあるのね。ありがとう、これでスッキリしたわ。えっ、なぜかって?日本で

できた友人と賭けてね。そう友人よ。・・・勿論女の子よ。ええ、パパ、用事が済んだら帰るわ。もう少しいさせて。うん、じゃあね」

エレノアの最後の方の声は、涙声だった。エレノアは涙を拭きながら電話を切った。

それを見た、テッドは母親のことを思い出した、もらい泣きをしてしまい、それを他の人に見られるのが恥ずかしくて、そっぽを向いたまま

「兄さん、これで次へ行けるね。この暗号は簡単だよ。エジプトだ、次の目的地は。

ジョー、飛行機の手続き頼むね」

だが、マリウスはテッドの話を聞いていなかった。泣いているエレノアをどう慰めようと考えていたからだ。ようやく考えがまとまると、エレノアの側に行き

「エレノア、君には悪いことをしているね。半ば強制的に連れてきて。早くこの旅を終わらせて君を無事にアメリカに送り届けるよ。約束する」

マリウスは少し困った顔で、エレノアを見つめた。

「マリウス、ありがとう。でも大丈夫よ。ちょっと感傷的になっただけだから。さあ、次に行きましょう。テッドの言う通り、次はエジプトだわ」

エレノアは涙を拭きながら笑顔を見せた。

「エレノア・・・。分かった、行こう。次の目的地エジプトへ」

それぞれの部屋に戻ったあと、エレノアはもう1度、アメリカの家族に電話をかけた。

電話に出た父親は、エレノアの声を聞くと、心配そうに

「エレノア、大丈夫かい?変な事巻き込まれてはいないね」

「?どうして、そう思うの、パパ」

「いやーね。さっき解読した文字の出所がどこかと思ってね。あれは、古代文字の中でも

ひと際、困難な文字で、さすがの私も解読できなくてね、知り合いの教授に頼んだのだよ。

教授が言うには、あれは、滅亡した文字で、彼も、入手先を気にしていたよ」

{あー、なるほど。滅亡した言語。私も分からないはずだわ}

「パパ、心配しないで、危ないことはしていないわ」

「それなら、いいのだけどね。早く、帰っておいで」

「ええ、パパ。することを終えたらね」

エレノアはそう言うと、一方的に電話を切った。側には、広げられたレポート用紙にマリウス達5人の写真が貼ってあった。


翌日マリウス達は、エジプトに着いた。目的地はわかっていたので、観光客と一緒の

ツアーに申し込み、バスで近場まで移動した。ピラミッドは3体あり、マリウスたちは

スフィンクスが鎮座している場所へ移動した。

王の墓は今でも墓荒らしや盗掘があり、数多くの人類の宝が失われている。

「このどれかが、ぼくたちの探すスフィンクスなのだけど。一体どれだろう」

テッドは、壮大なピラミッドの前で大興奮。他の観光客と一緒に1つ1つ見て回るが、どれも大きすぎて、こまごまとしたところまで見ることが出来ない。

「本当にここに何かヒントがあるのかな」

テッドは天を仰いで、ぶつぶつ言っている。

「何かあるとしても、この状態では見つけることは危険だね」

マリウスも同様に天を仰いだ。暑さで汗が流れだす。

「フランスの時みたいに夜に来るのはどう?」

エレノアが提案したがアルに

「ここは野外で、少しの光では見えにくいし治安も悪い。それは危険だろう」

と、却下された。

「ここは一旦出直してこよう。なにかいい案が見つかるかも」

「そうだな。マリウスの言うとおりだ。一旦戻ろうぜ」 

6人はカイロのホテルに戻り、もう1度、フランスで手に入れた暗号の紙を眺めた。

「うーん。特に目新しいものはないな。アル、なにか情報はない?」

マリウスは、紙をジーと見ながらアルに聞いてみた。アルは手を顎にやりながら

「そうだな。神秘的な王だと言われているのはクフ王らしいが、スフィンクスを作ったのはカフラー王だ。ギザのピラミッドはクフ王、カフラー王、メンカウラー王で構成されていて、スフィンクスが向いている方向になにかあるのだろうけど、資料自体少ない。そうだな。明日、資料館に行くのはどうだ。手掛かりが見つかるかも」

「そうだね。じゃあ、2手に分かれて行こう。アルとジョーは資料館へ。残りはもう1度

ピラミッドへ行こう。連絡は定期的にしていこう。バラバラにならないように行動してくれ」

「了解。ジョー、そういうことだ。マリウス達の護衛は、ジンジャーに任せて、明日は俺と

調べものだ」

「そうですね。ジンジャーがいてくれれば安心です」

こうして明日の計画が立つと、皆は早めに休むことにした。今までの疲れがでたのか皆朝までぐっすりだった。


その中でマリウスは、毎晩見る夢を見ていた。

傷のある男がマリウスに迫ってくる。もうダメだ。捕まる!ハッと目が覚めた時、ジョーが心配げな顔で

「マリウス様、いかがされました。叫ばれていましたが・・・」

「ああ、・・・大丈夫。いつもの夢だよ」

「追われる、あの夢ですか?」

「うん・・・。ジョー、シャワーを浴びてくるから先に、休んでくれ」

「・・・承知しました」

マリウスは、ジョーにそう言うと、アルとジンジャーが寝ている、ベッドのそばを通って、浴室に向かい、温かいお湯で体を温めた。

シャワーを浴びながら

{仲間が出来、世界中を旅し、これから僕たちはどこへ向かうのか。この旅に終わりはあるのか、両親の仇を討ちたい僕の思いに、皆、共感はしてくれてはいるが、危険なことには変わりない。特にエレノアには・・・。このまま、僕たちに付き合わすことが正しいことなのか}

マリウスは壁に手をつき悩んだ。しかし答えは出てこない。シャワーを浴びてベッドに戻ると、横に寝ているテッドやジョー、アルを見ながら

{僕の身勝手で・・・ゴメン}

と呟いた。       

翌日、アルとジョーは、カイロ近くの資料館に行った。スフィンクスの事で何か情報がないか調べるためだ。スフィンクスの資料はあまりなくアルたちは途方に暮れた。

少ない資料の中から使えそうな何点かをリストに挙げた。スフィンクスはいろんな姿で模写されたものがあり、どれも微妙に向きが違って見える。

「うへー。こんだけしか参考ななるものがないのか。どうやってこれをまとめる?ジョー」

「大変だな。まあ一応リストにしてホテルに持って帰るか」

一方、ピラミッドに向かったマリウス、テッド、エレノア、ジンジャーは、昨日見た、

クフ王の墓の前で立ち尽くしていた。

外は、40度を超える暑さで、体に布を巻いて熱を浴びないようにしなければすぐにでも熱中症で倒れてしまいそうだ。夜は逆に零下まで下がり、果てしなく砂漠が広がっている。今日も観光客が多く、皆、王家の谷やピラミッドに昇ったりみたり、周りの風景を見て観光している。スフィンクスの周りをぐるぐる回っていたマリウス達は他の観光客からみれば滑稽に見えたかもしれない。観光客をみていたエレノアが急に

「ねえ。私たちもピラミッドに上ってみない?」

と、言い出した。もちろんジンジャーは平気そうだが、マリウスとテッドは音を上げているようでエレノアを見て言った。

「エレノア、こんなに暑いのに?僕もう水じゃなくてコーラが飲みたいよー。」とうとうテッドが音を上げた。マリウスもドッと地面に座り込んで

「ホントに暑いな。エレノア君も少し休憩したらどう?余計な動きは体力を使うだけだよ。」

「そうじゃないの。マリウス、私たちずっと低い位置からスフィンクスを見ていたでしょう。1度高い場所からみれば違うものが見えるのじゃあないかと思って。」

「・・・なるほど。高いところから一望すればなにか分かるかも・・・。でも少し休んで行こうよ。さすがに僕も疲れたよ。」

「そうね。実は私もクタクタよ。スフィンクスの影で少し休みましょう。」

そう言うと3人は風通りのよい影に隠れるところに固まるように座り込んだ。

風が少し吹いてそよそよと涼しい。

遠くから、観光客の歓声は聞こえてはくるが、ここは静かだ。

ふとマリウスは質問をしたくなった。

「ジンジャー、あの黒服の奴ら、今頃どこにいるかな。コロッセオのとき、違う暗号の紙を渡したから多分、南米辺りうろついていると思うのだけど」

「そうだな。だがあの暗号は適当に言葉を書いたものだろう。奴らの中に頭が切れる者が

いれば、すぐに偽物だと気づかれてしまうだろう。もしかしたら、もうエジプトに来ている

かもしれない。それだけ奴らは、いろんな手段を駆使して、俺らを追っている」

「・・・そうだね。ジンジャーの言う通り、油断はしないほうがいいね。それで、訓練している護身術の進み具合はどう?」

「アルは覚えが悪いのか、やる気がないのか、まだ時間がかかるな。エレノアは、女にしては覚えもよくて、自分自身は守れるだろう。テッドは、まず1人になることがないから、

誰かが補助する必要はあるな」

ジンジャーは冷静に個人を評価した。

「そうか。分かった。アルには僕から言っておくよ」

「そうしてくれ。アルは典型的なアメリカ人だから、楽天すぎる」

ジンジャーは本当に困った表情でマリウスに訴えた。

「ははは。ジンジャーがそういうなんてよっぽどだね。」

3人は声をだして笑った。

そのころ、資料館で調べものをしていたアルは、盛大なくしゃみをして、周りの人の視線を浴びていた。

「どうした?アル。風邪か?」

「いいや。どこかの女の子が俺の噂でもしているのだろう。エミリーかな、スザンヌかな。あーあ、早くアメリカに帰りたいぜ」

「すまないな。お前に関係のないことに巻き込んで・・・。でもほんとに助かっている」

「いいってことよ。ここには美女はいないけど、エレノアが可愛いからな」

「・・・ああ、アル、まさかお前、エレノア様を狙っているのか?」

「あのなー、俺だって馬鹿じゃないぞ。マリウスの様子を見ていたらすぐにわかるよ。

野暮なことはしないさ」

そんなことを噂されているとは知らないマリウスは、テッドやエレノアを連れて、

ピラミッドの頂上を目指していたが、ピラミッドは昇ることが禁止されているため、地上よりも高い所からスフィンクスを眺めた。

「うーん。こうやって見てもよく分からないな。後は、アル達の報告を待とう」

マリウスは、テッドやエレノアの疲労を考慮して、下に降りることにした。

下の日陰で休んでいると、アルから定時の電話報告があった。

「どうだい、アル。なにかわかった?」

マリウスは期待しながら、アルたちの報告を聞いた。

「はっきりとは言えないが、一説によるとスフィンクスは、同じ方向を向いている。との、

説があって、それによると街の店だ。ケンタッキーとピザの店だぜ。笑えるよな」

アルは、半ば本気なのか冗談なのかわからない口調で、マリウスに告げた。

「えっ、ケンタッキー?それって昨日僕たちが寄った店のこと?」

マリウスは昨日、ホテルに帰る際に、アルがどうしても行きたいと言って寄った店を思い出した。

「そう。まあ、何世紀も前からある店じゃないから、あの店とは限らないが、あの辺が怪しそうだ。どうする?行ってみるか?」

 マリウスは、アルの報告をエレノア達にも伝えた。

「昨日僕たちが行った店が怪しいらしいよ。信じられないけど」

「昨日?ケンタッキーだよね」

テッドはもう一度、あの肉が食べたいこともあり大賛成だ。

「じゃあ、アル。そこで合流しよう」

「OK」

電話を切った後、マリウスは興奮が収まらないように、顔を紅潮させて、エレノアの方を向いて言った。

「面白いこともあるものだね。まあ、昔は砂漠地帯だったろうから、不思議ではないけど、店が建っているとは思わなかった」

「そうね、面白い解釈だわ。早く、行ってみましょう」

マリウスも、歴史を感じるといったエレノアに賛同した。

何百年前のここは、砂漠だったことを思い出させてくれる。

ジンジャーは、無言でマリウス達に付いてきてくれるが、常に周りに目を光らせている様子で重苦しい感じだ。

30分後、合流したマリウスは、ピラミッドに少し上ったが、何も見つけられなかったことを2人に伝えたが、アルもジョーも残念がった。が、アルたちが持ち帰った、新たな情報に

興味を持ち、早速、その店に入ってみた。

店は、昨日来たのとなんら変わりなく、アルは早速、店のオーナーに話を聞いてみることにした。コック帽を被った人の良さそうな恰幅のいいオーナーに

「ちょっと聞きたいのだけどさあ、あのスフィンクスが見ているって、この店なのか?」

アルは、こちらを見ているスフィンクスを指さしながら聞いた。店のオーナーは

「よく知っているなー兄ちゃん。そうだよ。面白いだろう。一種の名物になっているのさ。おかげで商売繁盛スフィンクス様、様だ」

店のオーナーは陽気に話してくれた。

「店が建つ前は、何があっただろうな。おじさん知らないか」

「うーん、そうだな。この店は代々オーナーが変わるからさ。俺はなにも知らないな。でももしかすると、年寄りたちはなにか聞いているかもしれないが。どうしてそんな事を聞く?」

テッドが慌てて

「学校の課題で・・・。おじさん、誰に聞けばわかるかな?」

オーナーはしばらく考えた末

「そうだな。やっぱり、ここの長老に聞けばわかると思うぜ。長老といっても、資料館の

館長だけどな」

「ありがとう。そうするよ」

テッドは子供らしく無邪気に答えた。オーナーの返答に、アルとジョーは

「なんだ。さっきまで俺たちが居た資料館かよ」

「そうだな。アルが女の話ばかりするからだぞ」

「それは関係ないだろう。お前だって乗っていただろう。絶対マリウスはエ・・・」

「馬鹿!それ以上言うな」

「僕がどうかした?ジョー」

「なんでもありません。マリウス様」

ジョーは、軽くアルを睨んだ。アルは口笛を吹く真似をして、そっぽを向いた。

幸運なことに、エレノアには声が届いていなかった。

資料館までは歩いて行った。汗だらけになり、資料館の中の涼しい風を浴びている間、

ジョーが受付で館長を呼んでくれた。

しばらくすると、肌黒のターバンを巻いた男の人が

「私がここの館長ですが、なにか?」

と、声をかけてきた。ジョーが

「お忙しいところ、申し訳ありません。実は私たち、スフィンクスの事で調べものをして

いまして、館長にお聞きしたいことがあるのですが」

「スフィンクスの・・・。私に分かることでしたらお答えしますよ」

「ありがとうございます。実はスフィンクスが見ている方向を調べていまして、私たちで調べたところ、街のケンタッキーの店の方を見ていると情報を得たのですが、店が出来る以前の事が知りたくて・・・。店のオーナーが館長なら、御存じだと伺ったものですから、こうして押しかけて参りました」

館長は頷きながら

「そうでしたか。それは暑い中、大変でしたね。確かに、ここの資料館には、いろいろな

ピラミッドについての事が書かれていますが、スフィンクスに関しては、そう多くはないの

です。ただあなた方も言われたように、一説によると店の方角を見ているという、情報があります。私が知っていることといえば、今のケンタッキーの店ができる前、あそこ一帯は砂漠

でした。確か禁書の方に、それについての資料があったはず。ちょっと待っていてください」館長はそういうと、鍵の付いた束を手に、特別区画の場所へ資料をとりにいった。

5分、10分と時間が長く感じた。そのまま永久に時が過ぎるのではないかと思った時、館長

が分厚い本を1冊抱えて戻ってきた。

「すいません。探すのに手間取ってしまって・・・。これです」

館長はそういうと、本を机の上に広げた。

そこに町の歴史が、古い写真とともに記録されており、あのケンタッキーの店の工事写真も

あった。

マリウス達は、目で食い入るように写真を見た。細かいところは、テッドが持っている拡大鏡でみた。

その中でエレノアは、あるものに目を奪われた。

それは作業場で1人の男が手に持っている木片だった。

「館長、これは?」

エレノアは、写真を指差して館長に質問をした。館長は目を細めて

「これは、木片ですね。ここから出たこういう物は確か・・・」

館長は先のページに目をやり

「ああ、ここに書いてありました。これらは、まとめて保管しているのです」

「そこは私たちでも見に行けますか?」

「民間の方は入れません。許可証を持った者か、関係する人がいっしょでないと」

「館長となら、入れるということですね」

「あそこをご覧になりたいのですか?ここからだと車で10分といった距離ですが」

エレノアは目を輝かせて

「行きたいです。ぜひ。連れて行ってもらえませんか?」

「今ですか?」

「はい、今すぐに」

「分かりました。では少しお待ちください」

館長はそう言うと、他のスタッフを探しに離れた。

この一部始終に唖然と見ていた4人は

「エレノアどうした?なにか見つけたのか」

「すごい剣幕で驚いたよ、僕」

「エレノア様に、こんな一面があるとは驚きです」

皆次々と、エレノアに質問を投げかけた。

「確かなことは言えないのだけど、さっきの写真に木片が見えたの。それがどうも気に

なっちゃって・・・」

「木片?」

「あのね、拡大鏡で見たとき、木片に何か文字が見えたの。昔の文字だから、すぐには読めなかったけど、あれは象形文字だと思う。何文字しか読めなかったから、はっきりとは分からないけど、なにか暗号のような抽象的な表現がされていたわ。だから確認してみたいの」

マリウス達は顔を見合わせながら

「すごいな、エレノア。そんなところに注目するなんて。僕たちとは違う目線だ」

そんな話をしていると、館長がカギを手に

「お待たせしました。では行きましょうか」

5分後、マリウス達は、館長の運転する車に乗り、10分離れた保管場所へと向かって

いた。

「なかなか、保管場所へ民間の方をお連れすることはないのですが、何か理由がありそうですね」

「いえ、単なる好奇心です」

ジョーが上手く誤魔化した。

保管場所は、資料館の1階部分くらいの大きさで、発見された場所ごとに区分けされて

いた。館長の案内で、店の場所から発掘されたものを机に並べてもらい、各自でそれを見渡した。

そこには木片が数多くあり、その他には変わった形の石の塊、何かを入れていただろう麻袋、何かの像らしき残骸があった。

エレノアは、木片を1つずつ手に取り、確認しながら、自分が写真で見たあの木片を探した。ふとエレノアの手が止まり、1つの木片をジーと見ている。

マリウス達はエレノアの行動に皆手を止め、エレノアが何を言うか待った。

「見つけたわ、これを見て」

エレノアは、木片を皆に見えるように机の上に置いた。皆はそれを囲むように眺めた。

木片は脆くなっており、所どころ崩れかけているが、確かになにかの文字が見える。

「館長さん、木片の文字、読めませんか?」

館長は、どれどれとスマホに撮った文字を見てくれたが

「全部は読めませんね。所々で良かったら、分かるところもありますが・・・」

「少しだけでもいいので、読んでもらえませんか」

「いいですよ。えーと、 ‘我を見出し・・・の子孫よ。この母なる・・・をさかのぼり偉大な・・・のもと民は幸せ・・。‘ と、書いてありますね」


ホテルに戻った6人は、エレノアとアルが、木片の解読をしている間、マリウス達は今後の事を話しあっていた。

 「何かヒントが出たら、それを基にして次の国に行かなくちゃ。追手が追いついたら危険だよ」

 そんな話をしていると、アルとエレノアが難しい顔をして

「皆、ごめんなさい。私の早とちりだったみたい。この文章は、暗号でも何でもなかった。ここエジプトの未来を祝った、王の言葉を書き留めたものだったわ」

「えっ。じゃあ・・・にはなにが入るの?」

テッドは無邪気に聞いてきた。

「続けて読むとね。 ‘我を見出し王の子孫よ。この母なるナイル川を坂のぼり、偉大な王の元、民は幸せなり。ねっ、何の暗号にもならないわ」

エレノアは申し訳なさそうに俯いている。マリウスは

「エレノア、気にしないで。僕たち、少しエレノアに頼りすぎていた」

エレノアが落胆しているのをみて、明るく言った。

「そうですよ。エレノア様が、今までの暗号を解いてくださっていたから、我々も、甘えていました」

「なあ、今日はもう、作業を止めないか。1回、頭をリセットしようぜ。そしたら何か、

いい案が浮かぶかも・・・」

アルが皆に提案してきた。

「休憩・・・。そうだね、それもいいかも。ジンジャー、奴らの気配は今のところない?」

「ああ、だが奴らのネットワークを舐めない方がいい。用心に越したことはない」

「了解。じゃあ、ここで少し休息を取ろうか。どうだい、皆」

マリウスが、皆を見ながら言った。誰も反対する者はいなかった。

実際ここまで、何か国、何千キロと、緊張しながら、危険な目に合いながら、旅をしてきたのだ。皆の疲労や緊張はピークだった。

「よし。じゃあ、今日は自由行動にしよう。ただし3人ずつの行動で頼むよ。ジンジャーはエレノアに付いてくれ。あと、アルも一緒に頼む」

「兄さん、じゃあ僕たちで3人行動だね。このメンバー久しぶりだなー。どこに行く?

ジョー」

テッドは観光と聞くと、途端にウキウキしてテンションが上がっている。

「どこでもいいですよ。テッド坊ちゃん。行ってないのは市場ですかね。私も、この国の

食文化には興味ありますから行きましょう」

 早々と出て行こうとするメンバーに、マリウスは慌てて

「ちょっと待って。別行動といっても、定期的には連絡を入れること。ジョーはホテルに

滞在延長をしてくれ。6時にはホテルに着くこと、それから絶対に1人にはならないこと」

「おう、任せとけ。エレノアは、俺とジンジャーで守るからよ。安心してお前たちも久しぶりの家族を楽しみな」

アルはジンジャーの肩を持って言った。

「いいね、エレノア。絶対に、2人から離れちゃだめだよ。それから暗号を見つけよう

なんて考えない事。今日だけはリフレッシュすることに専念してくれ」

リーダーらしくマリウスは、少し語尾を強くしてエレノアに言った。

「・・・分かったわ。私も、今日は暗号の事を忘れて楽しむことにする。アル、ジンジャーどこに案内してくれる?」

「そうだなー。ラクダに乗ってみるか。それともナイル川を下ってもいい。なあ、ジンジャー」

アルは、ジンジャーがいつも任務モードで疲れないか気にしていた。

だからこの休息が、ジンジャーにとっても、いい骨休みになる。

常に気を張っていては、さすがのジンジャーも疲れるし、ストレスもたまるだろう。

お堅いあいつが少しくらい羽目を外しても、だれも文句は言うまい。

アルは内心そう考えていた。

「じゃあ、マリウス、俺たちは行くぜ。ジョー、気をつけろよ」

「お前こそ、アル。あまり羽目を外すなよ」

ジョーにクギをさされて、アルはギクッとしたが、苦笑いで

「ああ、大丈夫だ。じゃあな。」

と、2人を連れて部屋から出て行った。

それを見届けてテッドも

「兄さん、じゃあ僕たちも行こうよ。僕もラクダに乗りたい」

「さあ!どこに行きます?どこでもお供しますよ。お2人の行きたいところが、私の行きたいところですから・・・」

「よし、じゃあ行こう。旅へ!」


ホテルを出たアルとエレノア、ジンジャー組は、ラクダに乗るべく道を歩いていた。

露店が続く商店街を覗いては、冷かしながら歩くアル。

なにか気になるのか、手を口に当て歩くエレノア。ジンジャーは変わらず周囲に目を光らせている。

ケンタッキーの店の前を通りかかった時、店の中で、外国人が店のオーナーに、何か聞いているのが聞こえた。

「6人組だ。1人は女、子供もいる。見なかったか」

「6人ねえー。見ての通り観光地だから、観光客は多い。いちいち覚えてねえわな」

オーナーはとぼけた表情で、その怪しげな外国人をあしらっている。黒服たちの懐には、

何か隠しているように膨れている。

オーナーは懐の中を気にしながら

「さあさ、もういいだろう。他の客の邪魔だ、買わないなら出て行ってくれ」

「チィ」

外国人は悪態をつきながら、店を出ていった。

よく見ると、この暑い中でも黒服で身を固め、サングラスといういでたちだ。

他の観光客や、地元の人間も、妙な外国人をじろじろと見ている。

外国人たちは、そんなことにはお構いなしに、いろんな店に入っては同じことを聞いている。ジンジャーは、黒服の行動に気を配りながら、アルとエレノアを隠すように人込みの中を歩いた。

黒服は、マリウス達の写真を持っているようで、いろんな人に見せながら探している。

ジンジャーは舌打ちをしながら

「アル。怪しげな奴らが俺たちを探している。目立つ行動は避けてくれ。それからこの事をマリウスに連絡して、ホテルに戻るように伝えてくれ」

ジンジャーの言葉にアルは{エッ}と、周りを見ながら驚いた。

ジンジャーはアルの不自然な行動を制止し

「早く!奴らかもしれない」

アルはそれを聞いて、慌ててスマホを取り出した。

丁度その頃、マリウス達は、ナイル川クルーズに参加しようと列に並んでいた。

そこへ、アルからの電話

「アル?定期の電話はまだ早いけど、何かあった?えっ?よく聞こえない。周りが賑やかで」

どんどん順番が近づき、マリウス達の受付の順番になる。

「だからー、黒服の怪しい男たちが、俺たちを探しているみたいだから、急いでホテルに

戻れ」

「黒服の男・・・?僕たちの前に、そんな男がいるけど・・・、なにか皆に声をかけているみたい。写真のようなものを持っている。これって・・・」

アルは声を張り上げて

「逃げろ!マリウス。奴らだ。ホテルで待ち合わせよう。いいか、気をつけろ」

マリウスは、アルの電話をジョーの耳元で聞かせた。ジョーは機転を利かせてテッドに

「テッド様、先にこちらで食事に致しましょう。さあ、静かにいらしてください」

「ええ?もうすぐ順番だよ。それに、僕まだお腹すいてない」

「珍しい食べ物があったのです。きっとテッド様が、お気に召すと思いますよ」

「仕方ないなあー。じゃあ食べたらすぐに行こうよ」

テッドはしぶしぶ、ジョーに付いて行く。

マリウスはホッとして、自分もその場から離れた。

黒服はもう近くまで来ている。あと数メートルでマリウス達の姿を捉えるだろう。

「この子供見ていないか?」

黒服は、マリウス達の後ろに並んでいた観光客に、同じ質問をした。

写真をみた女性は

「あら、さっきまで、私たちの前に並んでいた子に似ているわ。3人だったけど、あっちの方へ行ったみたいよ」

と、マリウス達が去った方を指さしている。

「おい、いたぞ!こっちだ」

黒服は仲間を呼ぶと、マリウス達が向かった先に足早に向かった。

逃げるマリウス達は、なるべく人の多い場所を選んでホテルに向かった。

観光客が多い商店では、同じような身なりの外国人がいても目立たないからだ。

どうにか追っ手を撒いて、マリウス達は無事にホテルに到着した。アルたち3人も、部屋で

マリウス達が着くのを待っていた。飛びこんできたマリウス達をエレノアが先に迎え

「マリウス大丈夫だった?ケガはない?」

テッドも、今やっと、なにがあったか理解してジョーに

「もしかして奴ら?どうしてここが分ったのかな?」

「奴らの中に、頭の切れる奴がいるのだろう」

ジンジャーが、ジョーの代わりに答えた。

「と、言うことは、フランスからここまで見張られていたってことか。くそ!動きがとれないな。どうしたらいいだろう」

アルが、机を叩いて悔しがった。ジンジャーは冷静に

「どうしようもないな。手下が世界中に散らばっていると考えた方がいい。俺たちは早く暗号を解いて、次に進む必要がある」

ジンジャーが警告するように見渡した。皆は頷いた。

「そうね、ジンジャーの言う通りだわ。暗号を解くには、もう1度、保管場所に行くべき?」

エレノアはもう1度、あの保管場所を、自分の目で確認したい気持ちがあった。

しかし、アルが

「今、動くことは、得策ではないだろう。奴らが、俺たち全員の写真を持っているかどうかわからない今は、軽率な行動は危険だ」

アルが珍しく正当な事を言った。それほど今は危険ということなのだろう。

全員が黙って考えている。これからどう動くべきか、どうすれば奴らを出し抜いて、ここから出国できるか。

ここで不意にテッドが言った。

「そう言えばアル、さっきの麻袋の中身、何だったの?」

「!!!そうだ!おい、ジョー。さっき俺が撮っておいてくれと頼んだ、袋の中身は何

だった?」

アルは急に眼を輝かせて、ジョーを見た。

「俺もまだ見てない。それどころじゃなかったからな」

「じゃあ今、見ようぜ」

アルがスマホの映像を、PCに転送する間、皆は手荷物をまとめて、いつでも出国できるように準備をした。

やがてPCへ、ダウンロードされた映像がでてきた。

そこには袋が映し出されており、一見、何の違和感もないただの袋だった。麻で作られた袋は大人片手くらいの大きさで、年代物だ。

次の映像は袋の中。石が入っている。違う、何かの種だ。

そして・・・皆の気を引いたのは筒だった。金属でできたそれは、今でいう金の延べ棒のような形をしている。

「それになにか文字が書かれているみたい。拡大してみて」

エレノアの声に、アルは映像を拡大した。

前にエレノアが見つけた木片と同じ、象形文字だ。しかし、あれが読めるのは館長だ。

だが、今は動けない。皆、気落ちしたが、ここでアルが

「オイオイ、誰かを忘れていませんかね、俺に任せろ」

そう言うと、PCの前に陣取って、ネットワークから象形文字に強い仲間を見つけた。

そして、詳しいことは伝えず解読依頼のみした。その間、6人は、どうやって敵の目を

かいくぐり出国できるか相談しあった。これから先、見つからない方法なども話し合った。

「奴らは写真を持っている。ただ全員の写真を持っているかは不明だ。マリウス達3人の写真はもっているだろう。俺たち3人は後から合流したから、その可能性は低い。と、すると面が割れているマリウス達をどうするかだ」

アルの言葉に皆、頷いてマリウス達を見た。マリウスも、自分たちと知られずに出国できる方法がないか考えた。

「こんな方法はどう?変装」

マリウスが指を立てて、皆に提案した。初め皆は、きょとんとしていたが、マリウスの言うことが理解できると、アルは

「あーそうか。変装ね。確かにいい案ではあるな。マリウス達を変装させて、出国させようってわけか。しかし上手くいくかな。しかもゲートで引っかかったらアウトだぞ」

「やってみないと分からないよ。それとも何か、他に案がある?」

マリウスの一声で

「うーん、そうだなー。よし!やってみるか」

アルは手を打ち

「エレノアは男の格好にして、マリウスと一緒に帽子と大きな服で。テッドは、俺と

サングラスでラッパー風にする。ジンジャーとジョーは‥・そうだな。まあ、何か考えようぜ」

「そうと決まれば、服の準備をしなくては・・・。エレノア様には、マリウス様の服を御貸しします。サングラスはアル、貸してくれ」

ジョーは、荷物の中から服を出してきた。皆一様に変装っぽく着替えてみた。

「OK、いいぞ。いけそうだ」

アルはニヤッと笑った。


 「ピピピ」

「おっ、皆来てくれ。返事が来たぞ」

アルの声で皆、PCの周りに集まった。アルが開いたページには

「お前、何に関わっている。変わった言葉だ。気をつけろ」

と、追伸が書き込まれていた。アルはそれをスルーし

「じゃあ見ようか。なになに、


‘世界一大きな絵の姉妹の元へ。大いなる寺院の神は聖なる川と繋がる。王は王妃を愛し流れた涙が民衆の前に‘

 

「これだ!次のヒントは」

「アル、それをスマホに撮っておいてくれ。俺は紙に残しておくから」

ジョーはアルにそう言うと、ホテルの紙に暗号を書き写してマリウスに渡した。

マリウスはそれを受け取ると、皆に見えるように机に置き

「アル、友人にお礼を言っといてくれ。さあ、今度はこの暗号にとりかかろう」

腕まくりをし、コーヒーをガブっと飲み干してから、もう1度暗号の紙を見た。     

最初声を出したのはテッドだった。

「この世界一大きな絵ってなんだろう。世界中にはいろんな絵があるけど、その中から大きな絵を探せってこと?」

「いいや、テッド。世界一大きな絵というのは、なにも紙に書かれたものだけじゃない。

これはナスカの地上絵のことだと思う。ナスカの地上絵は巨大すぎて空からでしか確認できないほどの大きさだ」

「私もアルと同じ考えです。大学でも、この話は講義で出たほどで興味もありました。学生の中には、それを卒論のテーマにしていた者もいたほどです。しかし、この絵が地上絵として次の姉妹とはなにを意味するのでしょうか」

「ふふっふ。ジョー、それも大学で調べていた変な奴がいたぜ。いろんな地上絵を地球儀にあてはめて、その先になにがあるのか、ってな。最近そのことで、ネットを騒がせていた

ニュースがあったはずだ」

アルとジョーの大学卒業生同士が、暗号を解読しているのを、マリウス達はただポカンと

見ていた。

{やっぱり大学ってすごいな。いろんな分野の勉強ができるし、エレノアも考古学に興味を持っている。僕もまた落ち着いたら勉強したい。でも、今は・・・}

「これだ」

アルがパソコンの情報から拾った文面を、皆に見せた。

「えーと、アマチュアの考古学者が論文をだしている。一説では、ナスカの地上絵の線を

延長させると、ある場所に繋がるらしい。それが暗号の姉妹という意味じゃないか。繋がる=姉妹でさ」

「うん、いい線いっていると思う。で、それはどこの国?」

「カンボジアのアンコールワット」

「アンコールワット・・・」

マリウスは、昔ジョーから習った、カンボジアのアンコールワットの画像を思い出そうとした。

「じゃあ、ペルーっていう国まで行かなくていいの?」

「ああ、情報さえ分かれば行く必要はない。次の目的地はカンボジアだ」

{そこになにがあるのか分からないが、今は向かうしかない}

マリウスは、そう考えた。

「ジョー、明日1番のカンボジア行きの飛行機の手配を頼む」

「ジョー、偽名で確保してくれ。それも2人ずつで」

ジンジャーがそう言うとアルも

「そうか。変装しても名前で見つかる可能性もあるな」

こうして明日、カンボジアに向けてマリウス達は出発することになった。     

その夜、寝つきが悪いマリウスは、この晩もなかなか寝付けずにいた。仕方なく窓際の椅子に座り、夜の闇を見ていた。

浮かんでくるのは両親の笑顔。

{今の僕たちを見たら何と言うだろうか。父様、母様、僕たち今ここに居るよ。仇が打ちたくて、仲間もこんなに出来た・・・。心配しないできっと帰るから}

闇に浮かぶ2人の顔に声をかけたが、返事はなく、スーと消えた。

マリウスはまだ夜の闇にいる


何かの機会にナスカの地上絵の記事があり、そこからヒントを得て、この物語に組み入れました。地上絵は世界7不思議にあるくらい神秘的で不思議な光景が広がる場所です。書いたのは宇宙人か否か  物議が広がるミステリーをこの物語にいれることで、世界の神秘に関心を持っていただけたら幸いです。

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