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蒼穹幻島ミラクネア  作者: 楊咲
第一パーティー 序章
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0-6 謝罪と出発


 魔神討伐の依頼を受けたアッカーとクラフォスの王女シェルミルは、現在迎えの男が待つクラフォス城内の出入り口へと向かっていた。

 その道中では、良い空気とも言えずただ任務をこなすかのように淡々と。

 他人とも取れる距離ではないが、仲が良好とはいえない空気でもあった。


 話すことがない。というわけではなく、話しにくいが正しいだろうか。


 泣かせた噂については自身が悪かったと自覚している。

 出発する時間での話し合いでは訊くのを躊躇わずにできた。


 まずは何か話す前に謝るべきだった。


 結局のところ、いつまで経っても謝れてはいなかった。長引かせてしまったせいで謝りづらい状況ではあるが、自身の心が許さずにいる。


「……あなたは……魔神討伐、初めてですか?」


 謝ろうと様子を伺っていると、シェルミルのほうから話し掛けられる。

 そんな予想外の出来事にアッカーは少し驚いてしまい、彼女は目を細めてこちらを見ていた。


「なんですか? 話し掛けたらダメなんですか?」

「……魔神討伐は初めてだ」


 怒気を含みながら訊いてくるシェルミルに圧を感じ、戸惑う形で答える。


「そうですか。あなたでも初めてなんですね」

「俺でもってのは意味がわからないな」

「…………」

「ギルマスも言ってたけど百年か二百年に一回あるかないかの頻度だろ。今だと三百と十三年前になるから存在してすらいない。……五大魔神は知ってるか?」


 依頼を受けた代わりには前情報は知っておいてほしい。

 そんなことから訊いてみた内容だったが、シャルミルは問題なく答え始める。


「年号の判明はできていないですが、その遠くの昔、マルベラといった人物によって生み出された五体の魔物が何百年と生き延び、通常の魔物より強さが逸脱しているためのちに魔神と呼ばれるようになった。そして、その召喚された五体を五大魔神と纏めて呼ぶようにもなった。……」

「それは知ってるんだな」

「すみませんね、あなたのように博識でなくて」


 思わず余計なことを口にしてしまうと、彼女の機嫌が見るからに悪くなる。


「ごめん、余計だった」

「……謝ること、知っているのですね。驚きです」

「当たり前だ」


 即答で答えたのは本心から思っていること。悪いと思ったら謝るのは当然のことだから。


 ただ彼女にあの事を謝っていないと気付いた時にはもう遅かった。


「よくその口から言えたもので。度胸だけは認めます」

「……度胸なんてない」


 流れるような形。あまり良くないと思ったが彼女の正面に入り立ち止まる。

 そして、彼女と目を合わせてから頭を下げた。


「あの時は本当に悪かった。出会ったばかりで、無視したり、押しのけたり……暴言吐いたり……本当にごめん」


 声を掛けられても無視をした。しつこくなかったのに感情のまま押しのけ、大声で暴言を吐く。

 それは感謝の意味も込めて謝罪した。彼女からの許しの言葉を聞くまで頭を下げ続けるつもりであった。


 だけど、許しの言葉は帰ってこない。流石にダメか、過去を振り返ってもそれほどのことをやってしまったと自覚していては、顔を上げようとする。

 しかし、もう少し場所を考えるべきであった。周りの人たちのひそひそと話す声を聞いてしまい、注目されているのだと思ってしまう。


 ここ王都クラフォスでは冒険者であるアッカーのことを認知している一般人も少なくはない。

 それは金髪系統が多めの場所と銀色の髪は見ることがないから。

 そして、シェルミルを泣かせてしまった噂が一番印象付けたからだろう。


 場所も考えるべきであった、そう思い頭を上げると彼女の姿がなかった。


 どういうことだと思って辺りを見渡すと周囲の人たちの視線が突き刺さる。


 すでに朝日が昇っていては街の人々が活動し始める時間帯。人はまばらではあるものの結構な人たちに見られていた。


 アッカーへと視線を向ける人たちは、何をしているのかと不思議な目で見ているのがわかる。


 自身の存在が注目を集めてしまっている、そう思っていたが客観的に見れば違うかもしれない。

 謝罪相手の彼女が近くにいない。立ち止まったままなぜか頭を下げている。居ないはずの誰かに向かってしゃべっていた。


 周りの人たちが今思っていることといえば、王女を泣かせた人物というより可笑しな人だと思っていることだろう。


「……やられた」


 立ち止まって謝罪を聞いてくれていたと思っていたアッカーだが、目を瞑っていたのと周囲の生活音のせいか気づかなかった。

 では、彼女はどこに行ったのか。それはかなり前方のほうまで歩いていては、アッカーは周囲の視線から逃れるように小走りで追った。


「顔、赤いですよ」

「……」


 彼女に追いつくと同時に顔が赤いことを指摘される。

 口角が上がっているのを見る限り、さぞうれしそうであった。


「私も同じ気持ちだったことを忘れないでください。むしろこの場所と冒険者の人たちとでは羞恥の度合いはくらべものにはなりません。それと許しはしませんから」

「わかった。……あと、否定し続けてくれて助かった、ありがとう」

「……わかっているようですね」


 とりあえず魔神討伐前にこの話ができてよかったといった安心感と、自身に残されていた罪悪感が少しは解消される。

 許してはくれないらしいが、それは仕方のないことではあった。


「話の途中でした魔神についてですけど、今回討伐対象の魔神はわかりますか?」


 シェルミルは先ほどの話を戻しては訊いてくる。


「絞ることはできるんじゃないか」

「では、絞るとどの魔神が?」


 流石に、今日魔神討伐を依頼され、どの魔神が討伐対象か事前情報がなければわかるはずもない。

 そんななか、困ったしたアッカーは可能性として挙げられる魔神の名前を出してみる。


「二体には絞れるかもな、”グラキラーザ”か”スイリア”に」

「上の方面で確認されていた魔神ですね?」

「そうだな。過去に確認された、だけどな」

「その二体はどのような魔神ですか? 扱う属性は? 体系は? それぞれの挑戦回数は?」

「……」

「どうしました? 名前だけでほかは知らない感じですか? それとも思い出しているのですか?」


 アッカーとの距離を取っていたはずのシェルミルだが、今は前のめりになるぐらいの距離まで近づきながら訊いている。


 それは話す速度が少し早く、緊張しているようにも感じられた。


 だけど彼女の知的探求心故の行動かもしれない。流石に人の心の中を見通せないので、アッカーは遠回しにはいかず訊いてみる。


「あのさ」

「なんですか?」


 シェルミルは前のめりだった身体を元に戻し、首を傾げる。


「緊張してるか?」

「……してません」

「……そうか」


 間があったがここは何も言わないでおく。

 自身も緊張しているし、ここでいじるような子どもではない。それにこれ以上の亀裂が生まれるのは避けたかった。同じクラフォスの冒険者として。


「あの方ですかね」


 そうこう話したりしている間に、迎えの男が待っているはずの目的地が見えてくる。


 その付近には門番だろう衛兵の人たちと、ヒッポグリフらしき魔獣を手懐けているひとりの男が居るのが見て取れる。


 男の方はというと地面に座って誰かを待っていたらしく、アッカーたちが参加する人だと察したのか、座りながらこちらに手を振っていた。


「だろうな。そもそも出入り口で座ってて怒られてないんだな」

「衛兵の人からしては迷惑でしょうね。走りましょう」


 シャルミルに付いて行くように走ると、その姿を見てか座っていた男は腰を上げては背伸び。

 そして衛兵のひとりに話しかけているも厄介払いされては、ヒッポグリフらしき魔獣を連れ衛兵の元から離れた。


「すみません、お待たせしました」

「えーよえーよ。全然待ってへんし休憩できたから気にせんで」


 迎えの男の元までたどり着くと、男は欠伸をしてからシェルミルの言葉に返している。


「これ、渡しておきます。クラフォスギルドマスター、ターデ・ザリエードからです」


 アッカーは先にと、ギルドマスターから渡すよう頼まれていた物を渡す。


 それは硬貨が入っているであろうと持っていた感覚からは感じ取れた。


「これは……まいど! ほな、出発しようか!」


 男は中身を見ては笑顔で感謝を伝えてくる。かなりの金額が入っていたのかは知らないが、先ほどの疲れてそうな声とは違って声に張りがあった。


「ほら、早く乗ってや」


 ヒッポグリフに騎乗し後ろに乗るよう男に合図されると、アッカーもすぐ乗ろうとヒッポグリフに付いている鐙に片方の足を履き、男の手を借り騎乗した。


「お嬢さんどうした? なんか忘れもんでもしたんか?」


 男の言葉にシェルミルを見てみると、彼女は立ち止まったまま一歩も動こうとしていなかった。

 表情がなぜか険しい。


「すみません、質問いいですか?」

「ん、なんや?」


 立ち止まっていたシェルミルは、ヒッポグリフから男へと視線を移し質問する。


「一頭だけですか?」

「そうやな、詰めて三人までやったら乗れる。それに翼に当たらんよう膝は曲げてもらうけど、ちゃんと足を掛ける場所もあるからしんどくはないはずやで」

「追加の手配は?」

「それは一回クラフォスの運送商会に向かわんといかんな。出せるんかしらへんけど。元々速達でひとりかふたりって昨日知ってたから来たのは俺だけやで」

「……そうですか。わかりました」


 欲しい答えが返ってきたのか、シャルミルは仕方なくといった感じで鐙に片方の足を履く。


「ほら」

「……」


 ヒッポグリフに乗ろうとするシェルミルに手を差し伸べると、彼女は少し躊躇いつつもアッカーの腕を掴み引っ張り上げては後ろに騎乗する。


 彼女は未だに表情が険しいかと思えば、今度は鋭い眼差しでこちらを睨みつけてくる。


 何を言ってくるのかと思えば、


「飛行中に変なところを触ったり怪しい動きみせたら問答無用で突き落とし、落下死させますよ。……いいですね?」


 冷徹さを感じさせる声音と共に放たれた内容に対し、アッカーは冷静に心の中で言い返しておく。前に座っている人間が、飛行中にどうやって触るのかと。

 そんなことをしたら、彼女に落とされる前に確実に自身が落ちるのは間違いないだろうと。


「……安心しろとは俺が言う立場じゃないけど、そんなことはしないから。あと言っておくけど上空から落とそうが俺は死なないぞ」


 言葉で伝えても信じるわけがないだろうが、念のため言っておいた。


 すると、最後の言葉にかシェルミルは目をぱちくりさせると、アッカーの顔をまじまじと見ては俯き……黙り込む。


「本当に落とすなよ」

「もう話は終わったかぁ? 出発するで?」


 迎えの男が待ってくれていたのか、話の区切りがついたのを見計らって声を掛けてくれる。

 待たせているのを素で忘れていた。


「すみません。お願いします」

「お嬢さんも大丈夫か?」

「はい、大丈夫です」

「じゃあ、ちゃんと掴まっとれや!」


 男の掛け声でアッカーは男の腰に手を回し、シェルミルはアッカーの腰に遠慮気味に手を回す。

 ふたりとも落ちてしまわないようしっかりと捕まると、足掛けも確認。

 男は首にかけていたゴーグルを掛け手綱を握りると、ヒッポグリフに飛ぶよう合図を送り走らせては大きな翼で空高くへと彼たちを連れ、目的地へ向かうのであった。


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