0-4 迎えた今日
次の日の明け方ごろ、目覚めたアッカーは洗面所へと向かい顔を洗った。
昨日は食事を終えたあと、よくお世話になっている宿屋で部屋を借りてはシャワーを浴び、ギルド職員に手渡された紙を広げては書かれている内容に目を通してと早めに就寝したつもりだった。
それでも良くない表情が鏡越しで見て取れては、眠れていなかったのかと思いもしてしまう。
少し緊張している。意識しているのもわかる。だからこそ昨日知れてよかったと思えると、アッカーはすぐに準備に取り掛かれた。
着替えを済ませるとバックの中身を一度取り出し、ベッドの上に広げる。
入念に確認。それが終えると干していた服からしまっていってはバックを腰に取り付け、太ももにもベルトを通し固定する。
次に左腕に付けている腕輪と腰に取り付けたダガーを見ては、胸ポケットに入れている硬貨の入った魔道具を確認し、まだぼんやりとした脳を起こすため両頬を叩いた。
朝日が昇り始めている空を窓越しで見て取れれば、壁に立て掛けていた槍を持ち部屋に忘れ物がないか確認しては部屋を出て鍵を閉めた。
「おー、随分と早いな坊主」
階段を降りては一階の受付に向かい、眠たそうな宿屋の店主に借りていた部屋の鍵を返す。
「おはようございます」
「おはようさん。また日が空く感じか?」
「一ヶ月以上は戻らないかもしれないです」
「わかった。またちゃんと顔見せろよ」
店主の言葉に頷いてみせると外へのドアを開け、振り返る。
すると店主は朝早くからでも明るい笑顔で見送ってくれてと、アッカーも笑顔を見せた。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
外に出ると紙に書かれた内容に再び目を通しては冒険者ギルドへと向かう。
紙に書かれている内容は『明日の早朝、冒険者ギルドに来てほしい。緊急の依頼であるため準備は怠らないように』とだけ。
早朝の時間帯に呼んだことに加え、緊急の依頼、準備を怠るなと書いてあることからより魔神討伐の依頼だと言われている気がしてならない。朝早くから勘弁してほしいが、魔神討伐ならやむを得ない話で合った。
静かな街を見渡す。
散歩する人、店の周りの掃除をする人、眠たそうに見回りをする衛兵。
人気の少ないこの時間帯は空気が澄んでいるように思えては空を見上げると心が落ち着き、先ほどまでの緊張を忘れさせてくれる。
「おはようさん」
「おはようございます」
見ず知らずの人でも、目を合わせ、挨拶を交わす。
この場所は今も平和ではある。ただ、それがいつまで続くはわからない。
友人と話していた二ヶ月前の出来事がそう思わせてしまう。
突如として居場所を奪われ帰る家がなくり、家族が……離れ離れになり……。
友人が言っていたハーフエルフの少女がそのひとりの人物に当たるのだろう。
生存して何を思ったのだろうか。連れてきたといった理由から察するに、親が居なくなり親戚もいない状態だったかもしれない。
救いは彼らに出会いパーティーに入ったことではあった。
それでもどうしていくかは彼女次第。生きていくためには働かないといけない。例え魔法を授かったからと言って冒険者になる必要もないから。
少女のことを考えていると、頭の中で過去の出来事が蘇る。
(…………急ごう)
今は過去を悔やんでいる場合ではない。そして、手掛かりがあるかもしれない依頼。魔神討伐だろうと絶対に死ぬことはできない。
意思が固まっているアッカーはその言葉を胸に足早に冒険者ギルドへと向かった。
冒険者ギルドに到着すると、まだ開いていないため目の前の扉をノックする。
少しの間待っているとギルド職員の人物が扉を少しだけ開け顔を覗かせた。
「お待たせいたしました。どのような……──おはようございます、アッカー・ラビスさん。ギルドマスターからお話は伺っております。どうぞ、こちらへ」
ギルド職員はノックした人物がアッカーだと知ると、華やかな笑顔で応対してくれてはギルド内へと案内。冒険者ギルドの中に入らせてもらうと、ほかのギルド職員がフロアの清掃や依頼の張り出しをしている姿が目に映った。
一見、静かに作業しているように見えるも、職員たちはどこか急いで作業しているようにも見えては何かあったのだろうかと気になってしまう。
フロアから離れるようにして一階の奥にある受付の裏へと案内されると、フロアで作業しているギルド職員がなぜ急いでいたのか見当がつく。
「報告書と完了書の数合ってるよ。そのまま提出して。慌てずにね」
「番号の振り分け確認終わったよ!」
「銅等級から金等級の依頼はまだ?!」
「今チェック終わりました!」
「昨日の依頼書全部ありました!」
「ありがとう。あっちにも確認してもらって貼れるようにしておいて。ほかにも手が空いた人はこっち手伝って!」
受付の裏では別のギルド職員たちが書類やらなんやらで騒々しく作業していては、声が飛び交っている。
慌てた様子で仕事をするギルド職員を見ていると、朝から大変そうだなと心の中で思う。
「すみません、朝から騒々しくて」
「気にしないでください。いつもこんな感じですか?」
裏で作業するギルド職員たちの場所を通り過ぎると、案内してくれているギルド職員が困ったような表情で謝っている。
アッカーとしてはギルド職員の裏での仕事はたまに見ることがあったものの、早朝がこれほど忙しいとは知らなかった。
「今日はたまたま問題になることが重なりまして……いつもはもう少し落ち着いています。夕方から入る人たちが早朝の仕事を効率よくできるよう仕分けもしてくれていますので」
案内してくれているギルド職員は快く質問に答えてくれながら壁際に置かれている灯りを手に取り、目の前の扉の鍵を開ける。
厳重にされた扉は二か所の鍵に加えて通常の扉より重く物音がするような設計。毎回のように手伝うとギルド職員が礼を言った。
開けた先の階段を上りきり、二階となっているだろう場所には長い廊下と奥に大きな扉が見て取れる。
そこまで案内されると待つよう促され、ギルド職員が目の前の扉をノックした。
「クレオです。アッカー・ラビスさんをお連れしました」
ギルド職員が扉越しに伝えると、部屋の中から「入ってくれ」と男の声が聞こえ、ギルド職員が扉を開けてくれた。