1-25 勘違いからの再開
「ここですよね?」
「うん……」
目的地に到着すると、アッカーは彼女に続くようにして目の前の店に入っていく。
中を見てみる限り、荒らされた形跡は見られず灯りが点いている状態。椅子の一部はテーブルの上から下ろされ、布巾がカウンターに放置されたまま。
おそらく、開店の準備をしていた時に騒ぎが起きたのだろう。
「あの、ご両親とは逸れたとかではないんですよね?」
しっかりと理解していなかったため、もう一度訊いてみる。
「うん。魔物が襲ってきた時には、あたしは外に出ていたから……」
彼女は質問に答えてくれながら別の部屋へと入っていく。
それは二階の部屋も確認して。
「この騒ぎは少し前に起きていたんですよね?」
「危険が迫っていたことは、こっち側は遅れて知らされたの。だから、この辺もまだ逃げれていない人がいるかも知れない」
召喚してくる敵だったから危険を知らせるのが遅れたと見るべきか。
だとすると、もう家を出たいところであった。
ご両親はいないことを知れたし、魔物も増え続けている可能性があるから。
「もう外に出ますけどいいですか?」
「うん……」
「大丈夫ですよ。思ってた以上に避難が早かったかもしれません」
心配そうな彼女を励ましては、ふたりして店を出る。
まずはこのウエイトレスを安全な場所に向かわせたいのだが……。
「あの、ここから──」
「さっきも言ったけど力になれるから。それに……戦える人間が戦わない。そんな臆病者じゃないし、この街を守らせて」
「……わかりました」
こちらの言葉を先読みし、彼女は協力すると言ってきた。
役に立つのは言うとおりで先の魔法を見ればわかる。
ここは強引にでもとなってしまうが……ご両親にはあとで謝らないといけない。
「リーシャちゃん!」
突然、彼女の名前を呼ぶ声が聞こえる。
声のしたほうへと視線を向けると、ひとりの衛兵がこちらに走って来てはアッカーたちの目の前で止まる。
昨日店にはいなかった人物だが、彼女も反応したことにより知り合いではあるらしい。
「た、隊長さん」
「無事でよかったよ。住民の避難が完了してるけど、リーシャちゃんだけが避難できていないってファリアさんたちが言ってたから心配したよ」
「そうなんだ……よかった……」
さっきまで心配していた彼女だったが避難できている報告を聞けては安心している。
「ふたりには大丈夫って伝えといて。あたしはこの人と魔物を斃してくる。この人冒険者でほかにも人がいるから大丈夫」
「待ってくれ、いくら冒険者でも……いや、わかった。情けない話だが、彼女のことを頼む」
衛兵は一般時のはずの彼女を放ってこの場を立ち去る。
隊長と呼ばれてはいたが、アッカーの腕輪を見て判断したよう。
「早く斃そう。この街を壊されたくないから」
こうして、ふたりは引き続き行動することになる。
まだ訪れていないネヒッカの中央付近に向かうと、その場には魔物が予想以上に多く出現していては、彼女を気にしながら斃していく。
そんななか、雨粒が落ちてきては少しづつだが雨が降ってくる。
「はっ!」
彼女は巧みに魔法を使っては近くの魔物を殲滅していく。
協力してもらって正解のようで、思った以上に戦闘になれている。
少しづつぬかるんでくる地面だろうが、今のところ全ての魔法を敵に命中させているのが何よりも証明してくれている。
アッカーも彼女と同じく斃していると、残りは動きが俊敏な一体だけとなった。
敵の攻撃を全て槍で流していると彼女からの補助が入ってくる。
それは攻撃しやすいようにしてくれていては、回避ばかりする敵を簡単に斃すことができるのであった。
「ありがとうございます。……これ着ていてください。大きさは合うかわかんないですけど、腕のほうは巻くってください」
「……何これ?」
この辺の魔物を殲滅し終えると、雨が強くなっていたこともあって彼女にローブを着てもらう。
雨が強くなるのは燃えている家が助かるけど、こちらとしては辛いため早めに終わらせたい。
アッカーは彼女に渡したローブを着終わったのを見るとフードを被っていなかったため、申し訳ないが勝手に被せた。
「視界が狭まるのが怖かったら取ってもらって構いませんけど、できる限り濡れないように。それか、様子を見る限り避難できてると思うので、あなたも……わかりました」
「雨とかそんな言い訳──ッ! ご、ごめん!」
彼女の目を見て、やはり引き返すことを望んでいないと知ると、いきなり彼女が退けるようにアッカーを強く突き飛ばす。
敵が現れたのかと、何とか踏ん張りながら周囲に目を向けると、雨も相まって視界が見づらいがそこには何かがいたのだった。
「ッ!?」
速くてわからなかったが、彼女は敵に向かって水の魔弾を飛ばしたのだろう。敵からのうめき声が聞こえてくる。
そんな敵に対して、彼女は続けて攻撃していく。
敵は慌てた様子で二発の魔弾によって左右に避けられないようにされては、頭と思わしき箇所に残りの三つの魔弾が命中した。
そして、今度は固まったかのように敵が立ち止まってしまった。
「た、斃せたの?」
「…………あ、あの、あれ人間に見えるのは俺だけですか?」
「……ほ、本当に?」
目がいいほうではないと思っているので、アッカーは彼女に訊いてみた。
よく見ると、そいつは大盾を持っていることが見て取れる。
(……カイルだろうな)
近づいてくるとわかりやすかった。
彼女は内心ドキドキしていただろう。近づいてくるにつれ謝ろうとしていた彼女に、アッカーも止めなかったことに関して弁解しようと試みる。
「カイル、ごめん。わざとじゃ──」
しかし、カイルはアッカーを無視しては真っ先に彼女の胸ぐらを掴んだ。
「!? ちょ、ちょっと、そこ──」
「てめぇ、ふざけてんのか?」
カイルは静かに口を開いた。声からしても相当怒っている。
そして威圧する声音を睨みつけながら彼女に放つ。
「ふざけてんのかって言ってんだよ。こんな時に人を狙うとか頭どうかしてんだろ。……おい、アッカー、どうしてこんな怪しい奴といるんだよ。こいつが街燃やした元凶とかねぇだろうな」
シェルミルに負けず劣らずと言ってもいいカイルの静かな怒りには、少しばかり怖気づいてしまったアッカー。
そんななかでも弁明を試みる。一目ぼれした彼女を悪者扱いをしているのはたしか。
これは早く止めないとまずい。怒っているからか、確実にカイルは目の前の人物を一目ぼれした相手だと認識していない。
「か、カイル、俺も悪かったから離してあげてくれ。彼女も勘違いでやってしまったんだし、謝るつもりだったんだ。許してくれ」
「何発も撃ってきやがったよな?」
「だから勘違いだって。彼女は俺が危ないと思ってやった行動なんだ。魔物が生きていたら追撃するのは普通だろ?」
「……そうかよ」
慌てるような口調になっていると、カイルはすぐに冷静になってくれては怒りを鎮めてくれる。
よかった、そう安心しているとカイルは目の前の彼女へと視線を向ける。
まずは離してあげたら? なんて思ってアッカーは見ていると、顔を真っ赤にし涙目になっていた彼女が目に映る。
「……リーシャ……さん?」
カイルは目の前の彼女を見て困惑した様子。
そういった反応になってしまうのは仕方がないこと。
知っていたら、普通あそこまで怒らないだろう。
「当たってるから……離して……」
彼女の涙目になった理由が怒られたからと思っていたが、すぐに彼女の言葉を理解しては視線をふたりから逸らす。
今のカイルは彼女が着たローブの胸元付近を両手で掴んでいては、その両手が脱力している状態。
そうなると、自然に……と言えばいいのか、そこを掴んだ時点でって話であった。
「わ、わりぃ……じゃなくてごめん!」
指摘された本人は、すぐに手を離しては頭を下げる。
すると、手を離された彼女は自身の身体を守るような体勢になりながらアッカーの後ろに回った。
こちらに回られるとすごく気まずいのは当然である。
カイルのやってしまったと反省している視線も、何だかアッカーの心に来ていた。
「!?」
重苦しい空気の中、奇妙な叫び声のようなものが三人の耳に聞こえてきては、周囲へと視線を移す。
しかし、周りにはアッカーたち以外に人も魔物もおらず、雨の降る音に暗い天気は不気味さが増す。
「……俺が行ってくるわ」
流石に自分が行かなくてはと思ったのか、カイルが声がしたほうへと様子を伺いに行こうとする。
「あぁ、頼んだ」
「ま、ま、ま、前!!」
突然彼女が声を震わせながら、アッカーとカイルの後ろを指さす。
どうしたのかとふたり揃ってそちらを見た瞬間、アッカーが相手の攻撃によって飛ばされてしまった。
それでも、彼女のおかげもあって魔障壁を先に張れていては、飛ばされようとも全く痛みもない。
アッカーは水溜めりだらけの地面へと転がれば、魔法を使って敵の目の前にいきなり現れ、仕返しに蹴り飛ばし、ふたりの傍に戻る。
「おい、大丈夫か?」
「大丈夫。それより守ってくれ、服がずぶ濡れだ」
「無理言うんじゃねぇ、気配すら感じなかったぞ」
そうだな、なんてアッカーでも心の中で思う。
こちらに気配すら感じさせなかった敵の姿は、人間の形をしていてはフードで見えない顔から光の眼光が二つ覗かせ、宙に浮いている。
見たことのない敵であったが、間違いなく目の前のヤツがこの街を襲ったのだろうと確信する。
敵は自身のわきに魔法陣をあっという間に作り出しては魔物を召喚しているから。
「コイツで間違いねぇな」
「本体は俺がやるから召喚されるのは任せる。まずい感じがしたらこっちで時間作るから、そのあとに戻って来てくれ」
「あたしは絶対に逃げないから」
カイルに頼んでいたことを盗み聞きされたが……それよりと、街を襲った主犯が直々に現れてくれたことに感謝する。
全く知らない敵ではあるが、カイルに彼女を任せれば問題ない。
「よし、頼むぞカイル」
彼には視線を向けずに言っては、アッカーは軽く息を吐き、動き出す。
これが街を襲った敵との開戦の合図となった。