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蒼穹幻島ミラクネア  作者: 楊咲
第一パーティー 第一章
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1-3 和やかな会話


 目覚めたアイナは大きく伸びをしてから、こちらへと視線を向けてくる。


「おはよう。アッカーは寝てなかったの?」

「おはよう、眠気がこなかっただけだ。アイナはもういいのか?」


 今も彼女は欠伸をしては、目をパチパチとしている様子。


 深夜は見張りとして起きていたアッカーとアイナは、朝日が昇る前にてカイルとシェルミルに変わってもらったが、自身は眠ることができなかった。

 結果、昼前には三人揃って寝てしまったので見張りでいいやと起きていた。


「えぇ、十分よ。魔力のほうはどんな感じ? ネヒッカからハイグリアまで行けそう?」

「少しは歩かせるかもしれない。でもすぐに着くはず」


 ちなみにアッカーは、アイナに敬語禁止となっている。

 それはもう他人でもないからといった理由ではあるのだが、シェルミルは癖だからと名前だけは呼び捨てでとアイナが頼んでいた。


 アッカーとして敬語禁止は特に構わない。アイナのことは、話だけならよく聞いていたため、そこまで他人な感じはしないから。


 それは向こうも一緒だろうと考える。


「……おはようございます」


 アイナとの会話か、もしくはアッカーが動かしたからか、シェルミルが目を覚ましてしまっては目を擦りながら覇気のない声を出す。


「おはよう、シェル。ぐっすり寝ていたわね」

「そうかもしれません……馬車でここまで眠れたのは初めてです……」


 アッカーは彼女らの会話の間にあまり意味のなかった畳んでいる布をサッと回収する。


 この様子だと本当に熟睡していたっぽく、寄りかかって来たのも覚えていなさそうであった。


「この馬車を予約して良かったわ。カイルは……まだ寝ているようね」


 アイナはそう言い、カイルへと視線を向ける。


 三人の視線を受けている彼は、足を下に降ろさず歌膝の状態で背もたれの角に持たれ寝ているよう。


 あの様子だと熟睡しているようであり、ソファーのような座席に屋根付き、窓ガラス有の密閉された馬車ともなれば快適であった。


 現在、アルワーナ大陸代表六地名を筆頭に徐々にこの馬車へと移行するようになっている。

 襲われる可能性などを危惧した設計に費用などが見合うかどうか、その点においては現状上手いこと行っているのが各地で広がっている要因であった。


 ただし、戦場への使用には向いていない。人の出入りが円滑に進まないのが一番の原因である。


「馭者さん、あとどれくらいでネヒッカに着きますか?」

「日が落ちる時間には必ず着きますよ」

「そうですか。ありがとうございます」


 いつ頃着くか気になりアッカーは訊いたが、あともう少しかかるとのこと。

 彼女らも聞けばアイナがため息をつきながら退屈そうに、暇になるわねと言った。


 そんな彼女に、アッカーはとあることについて聞かせてもらう。


「アイナ。ひとつ訊きたいことがあるんだけどいいか?」

「構わないわよ。むしろ暇だから話題を出していってほしいわ」

「じゃあ、遠慮なく。どうしてパーティーを組もうと思ったんだ?」

「私もそれは訊きたかったです。アイナが私たちに組んでほしいと頼んだ理由がわかりません」


 アッカーの質問にシェルミルも同じことを思っていたらしく問い詰めるも、アイナは考えるような仕草を見せては、しばらく黙ってしまう。


 自分から誘ったはずなのだが、考える必要があるようだった。


「……アッカーとは関わってみたかったから……かしら? 同じクラフォスの冒険者にも関わらず話したこともなかったし、噂もちろんだけど、話だけはよく聞くから余計よね。シェルに関しては、ずっと固定のパーティー組もうとしてなかったし、伸びしろはもっとあるから誘ったわ」


 アイナは天井へと視線を向けながら思い出すかのように話せば、次のシェルミルの問いには間もなく答える。


「アイナの中ではトルクワで出会った時から、パーティーを組む予定だったってことですか?」

「それは今回の魔神討伐の一件があったからよ。三人の実力でパーティ―組まないなんてもったいないって、頭で考えたら勝手に行動していたわ。むしろ、アッカーとシェルはどうして組んでくれたの? アッカーに限っては、そういった話を断ってきたって聞くけど?」

 

 最終的には自身の直感を信じたらしいアイナは、今度はふたりが誘いに乗った理由を訊いている。


「断っていたのは、結構焦っていた時期ってこともあった。ひとりのほうが動きやすいし、あと途中から邪魔する形で入るのは気が引けたから。組んだのはアイナが実力者だし、パーティーが一からだと入りやすいだろ」

「私は単純にアイナの誘いだからです。それ以外の人は基本断ります。特に拠点のクラフォスから離れる場合は確実です」


 アッカーは誘われた時に思ったことを口に出しては、シェルミルは率直に言っていた。


 彼女らは魔神討伐前から仲が良かったらしく、今までの付き合いから“単純に”といった言葉が出て来るのだろうと見受けられる。


「そうなのね。さっきアッカーが入ってくれた理由を聞く限りだけれど、私より先にムイちゃんが誘っていたら向こうのパーティーに入っていた?」


 アイナはもしもの話をしてきては、答えを求めてくる。


 それはトルクワを旅立つ手前に話にもあった出来事であった。


「……ムイさんのほうは……スイハさんとシキさんの返事によっては入っていたかもしれない。でも、強さだけの判断よりも女性だけだし、迷っていたかもな。割り込む形にもなるし」

「迷っていた、ね……。そこは私が誘ったからって感じのことを言うべきでしょ。ちょっと傷ついたわ」

「ごめんとは言いたいけど、どっちも深くは知らないから仕方ないだろ。それにこれは例え──」


 アイナがわざとらしく悲しんだ顔を見せると、アッカーは少しは笑顔にするよう話そうとしたのだが……話を遮るかのように誰かのお腹の音が鳴っては、馬車内が静かになった。


「違います」

「私でもないから……」


 思わず口を止めてしまうアッカーだが、シェルミルが即答で否定し、アイナは隣の人物へと視線を向ける。


 すると、いつの間にかカイルが目覚めていた。


 そういえばお昼の食事がまだだったとアッカーは気付けば、そろそろかと準備に入ろうとする。


「じゃあ、お昼にしましょうか。アッカー」

「……はい?」

「『はい?』じゃなくて、ほら、用意してくれてたんでしょ?」


 アイナは自身の手元にあるバスケットを指さしながら、早くしてと手で合図をする。


 どうして知っているんだと言いたかった。


「よく見てるな。どうぞ食べてください」


 三人の前でバスケットの中身を見せる。


 中には物を包んだ紙が四つほどあり、アッカーは何重にもしておいた紙を取っては薄いパン切れを出す。


 そして、同じように残り三つも紙を取って見せ、二枚のパン切れをひとつの具材に挟んでアイナに手渡す。


「ありがと」

「温かいの好むんだったら、自分の魔法で頑張ってくれ」 

「出発の時から持ってましたけど食べても大丈夫なんですか? 腐ってないですか? それとも殺すつもりで用意しました?」

「……大丈夫だ“アイスピアー”入れてる」


 どれだけ信用がないんだと思いながら、アッカーはバスケットの中にある物をシェルミルに見せる。


 アイスピアーとは、縦に少し長い六角形の物で食材の鮮度を保つために使われている、鉱石のひとつ。

 氷は溶けてしまえば水になってしまうのに対し、アイスピア―は溶けるのではなく時間が経つにつれ回りから擦り減っていき、液体にはならず蒸発するかのように消えていく。


 バスケットといった隙間が空いている箱であろうとアイスピアーを敷き詰めて置けば、夏であろうと常に中は冷えている状態になってくれてと、旅のお供には必須の鉱石でもあった。

 効力に関しては、気温の変化にもより続くのは最低でも四週間。これは外への持ち出しで夏の季節の場合らしく冬はさらに伸びて来る。


 なお、鉱山で簡単に採取可能の功績である。


「パンは出発に合せて作ったし、具材のほうは今日の朝一に焼いたやつ。シェルミルは……これでいいか?」

「……いただきます」


 魚の身と野菜を挟んだパンの切れをシェルミルに手渡す。


 祝賀会の際、彼女は肉を好んで食べないようなことを言っていた。そしてシュゴルミィといった海に生息する温厚な魔物の身は食べていたため提供する。シュゴルミィは肉というよりは魚の身に近いから。


「アッカー、俺にもくれるか?」

「当たり前だろ、ほら」


 寝起きのカイルがやつれたかのよう言ってくると、アッカーは肉を挟み手渡した。


 のんびりと昼食を摂れば、馭者を担う男性にも手渡し、移動しながら共に食べるのであった。


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