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蒼穹幻島ミラクネア  作者: 楊咲
第一パーティー 序章
13/46

0-12 届ける祝杯


 アイナの魔法により、ほとんどの者が吹き飛ばされては、すぐには立ち上がれず動けない。 

 それはアッカーも例外ではなく、今も耳鳴りがしていては視界には薄くも砂埃が舞っている。 

 一緒にいたはずのヤカワが近くにいないが、ヒッポグリフが庇ってくれていては無事だと思いたい。内心焦るアッカーは、ゆっくりと立ち上がれば、グラキラーザが居た方向へと視線を向ける。

 

 未だ黒煙によって斃れてくれたのかわからない状態。それでも、杖を持ったまま立ち上がろうとしているアイナと、少し先に飛行部隊の人間とヒッポグリフを発見する。

 ふらついてはいるも、今は助けるのが先。そう判断すれば、無理やりにでも身体を動かしては彼女たちの元まで駆けていく。


「セルミスさん!」

「アッカー君……私のことはいいから、グラキラーザを見てきてちょうだい。場合によってはまだ……」 


 彼女の言葉に頷き、飛行部隊の人も大丈夫だと知ると優先順位を変える。

 目の前にアッカー自身が入れる枠を出し、目に見える遠くの場所、黒煙が舞っている手前に同じ枠を出す。目の前に作った枠の中に入り遠くに出していた枠へと一歩でたどり着くと、グラキラーザがいるだろう黒煙のなかを躊躇うことなく突き進み、吹き飛ばされても手放しはしなかった槍を使って足元を確認しながら進んでいく。


(風魔法があれば……)


 黒煙の中は当然視界が悪い。それでも、魔道砲を放ったときとは状況が違うためグラキラーザの状況をすぐにでも確認しなければならない。あれほどの魔法を受け、生存しているとは考え難いが、まだ息があるなら止めを刺しておきたい。


 足元を警戒しながら進んで行くと、槍の穂が地面から外れる。

 アイナが魔法を放った位置で間違いなく、地面が窪んでいれば滑った先にグラキラーザがいるかもしれない。仮に穴ができていたら、グラキラーザは翼を切り落とされた影響もあって地上に出にくいだろうと考える。


「──!?」


 地面に足をつけると、黒煙を掻き消すように強い風が吹き荒れる。

 グラキラーザの攻撃かと即座に後方へと下がると、視界が良好になり円形に深く窪んだ跡地を目にするのだが……そこにはグラキラーザの姿はなかった。


 だとしたら、と思い周囲を見渡すと、右前方にシキが立っていては目が合い、アッカーは枠を再び出して彼女の隣に移動する。


「アッカーさん、見ましたか……?」

「いえ……でも、グラキラーザが回避したとは思えない……シキさん、腕──」

「大丈夫です。わたくしはあとで構いません。傷口はほとんど塞がっていますので」


 確認し合う中、アッカーの目に入ったのは、シキの血だらけの腕。傷跡が残りそうとみられる負傷具合ではあるのだが、彼女自身それよりもと周りへと視線を向けている。


「あれって……」


 再びグラキラーザが居た場所へと視線を移すと、アッカーはとあるものを目にし、傾斜面を降りては手にする。

 それはグラキラーザの皮膚のような薄黒いもの。原型が保っていないと持っていてもわかるが、あの魔法なら仕方がなかった。


「さっきの風魔法は、シキさんが使ったんですよね?」

「はい、わたくしなので……」


 シキの元に戻れば、ふたりはグラキラーザの破片へと視線を移す。

 すると、その破片はやさしく吹く風に招かれるよう空へと舞えば、粉々になって消えていく。ふたりして視線で追っていれば互いに目を合わせ、周りの状況を確認することに。


 今は砂埃が収まっていては、皆が起き上がり、どうなったのかと困惑している様子。

 誰もが見届けたアイナの街を軽く消滅させる魔法は、間違いなくグラキラーザに命中していては、目の前には円形に深く窪んだ跡のみ。それは、先の破片が粉々になったことからもわかること。

 ここで口にするべきことは、グラキラーザを討伐したと大声で報告すること。さすれば、歓喜の輪があちこちにできるはずなのだが、これは消し炭にまでした本人にしてもらいたいことと、アッカーとシキは同じ考えのようであった。


「セルミスさん、こっちに入ってください」

「!? ……わ、わかったわ」


 アッカーは魔法を行使し、アイナを呼び寄せる。

 当の本人は、いきなり声を掛けられたことに驚いていたが、言われるがままこちらへ移動してくれると、アッカーは自身とシキを挟んで真ん中に立ってもらい、ジッと彼女へと視線を向ける。


「どうして見られているのかしら……?」


 困惑しているアイナは気恥ずかしそうに尋ねている。残念ながら、彼女は凝視されている理由がわからず、居心地悪そうにしている。

 なにをすればいいのか。次の笑顔を向けながら話すシキの言葉には、躊躇もしてしまう。


「アイナさん、今ほとんどの方々が、グラキラーザがどうなったのかと困惑しています。ですので、みなさんにご報告を」

「え、いや、私じゃなくてもシキちゃんが言ってくれたら……あ、アッカー君でもいいわ。男の子なんだし、大きな声は張れるでしょ?」

「いや、俺がグラキラーザを消したわけではないんで、セルミスさんが言ってください」

「そうですよ。わたくしは作戦を立てはしましたが、決めたのはアイナさんです。歴史に名を刻んだ英雄なるご本人が口にしなければ締まりません」


 恥ずかしいからと逃げるアイナに対し、アッカーとシキは逃がさないように言葉での包囲網を敷く。

 すると、アイナは観念したのか諦めたようにため息をついた。


「わかったわよ。報告すればいいんでしょ? 報告すれば」


 何やら拗ねたような態度を見せたアイナだが、思惑通りに行ったため、ふたりとしては笑って見せる。


 立役者は、一旦俯いてから顔を上げる。

 そして、自身の杖を空へと高く掲げれば、


「う、討ち取ったぞおおおおおおおお!!!」


 静寂のロルフ平原に、大きな声を響き渡らせた。


「……」


 再び訪れる静寂。誰もがポカーンっとなっていたのだが……──遅れて、歓喜の叫びが飛び交い始めた。


 短くも長い戦いに終止符を打つことができた。指標最高峰に位置する魔神を討伐した達成感から、誰もが喜びを噛みしめ合った。

 ようやく二体目。早くも二体目。今生きる彼たちにとっては現実味を感じない六百年といった年数。そして、たったひとりで打ちのめした人物を合わせての討伐数。それを世論としてはどのように評価をするのか気になるところではあるのだが、今この瞬間言えることは──よくやった──その一言に尽きるのであった。


 なお、声を上げた本人は頬を赤く染めながらも堂々とした佇まいでいては、肩を落とすように安堵の表情を見せていた。 


   ◆


「いやぁ、すごいね。魔法陣が描かれてなければ上に向かって放たれていたのに、地面がこんなことになるなんてさ」


 スイハが目の前の大きすぎる窪みを見て言った。

 今はアッカー、スイハ、カイルの三人が、グラキラーザが居たはずの窪みへと残っていては、シキやアイナが壁を壊せないかとほかの冒険者や部隊の者たちを呼んで試している。

 アッカーは移動専門、スイハは斬る専門、カイルは守るのが専門。それも魔神が作る分厚い壁ともなれば三人は力になれず集まり、ほかにグラキラーザの破片などが残っていないのかと探しては、今しがた終えていた。


 不思議に思うは、あの戦闘でもどこも壊れていなさそうな壁。逃げられないようにするのは徹底していたようで、魔道砲をその壁で防げた可能性を考えると、少し恐ろしくなるのであった。


「グラキラーザを消しては魔法を放った本人すら吹き飛んでいますし、それほどの威力であり危険な魔法でもありますよね」

「そこだよ。完全に上級魔法の類じゃなくて、あれって固有魔法になるんでしょ? さすが《爆炎の魔女》って言うべきか、アイナさんに言っちゃ悪いけど化け物の部類に入るよね」


 スイハの言葉には同意せざる終えない。強力過ぎるあの魔法はアッカーでも初見である。

 斃すか鱗を剥がすかの目的で立てられた作戦が、まさかの消し炭にまでしてしまった。それに関しては流石としか称賛しようがなかった。


「気持ちはわかるけどよ……消すことはねぇだろ……」


 カイルはこちらの話を耳にしては悲し気に座り込み、目の前の窪みを見つめている。


「仕方ないだろ。結果的に斃したんだから、今回は報酬だけで我慢しろよ」

「考えてみろ。アイツが消えずに斃せたら、あの頑丈そうな鱗が素材になってたんだぞ? 明らかに希少な素材。今の大盾以外にも、魔防具も強くできたかもしれねぇのに……」


 落ち込むカイルを見ては、アッカーは一応慰めておく。

 気持ちはわかるが、そんなことを言っても死体が出てくるわけではあるまいし、と思うも、よほど欲しかったのかカイルの表情は変わることはない。

 そんな彼に、スイハが作戦の部分である戦いを振り返りながら話し掛ける。


「でも、今の大盾はどうしたの? 背負ってもないけど」

「ほかの人に持って行ってもらった……腕が痛てぇから……」

「ムイみたいに身体全体に魔障壁を纏えないの?」

「纏ってこれだよ。そもそも、あんな巨体を止めんのに纏わなかったら、絶対に手も腕も粉砕してるに決まってんだろ。……ヒビは入ってるかもしんねぇ……」


 カイルは力の入っていない両腕を見せつけながら低い声音で話すと、やれやれとスイハが治癒魔法をかけてあげている。

 その光景を横目に、アッカーは壁を壊そうとしている人たちへと視線を向けてみる。

 やはりと言うべきか、かなり頑丈らしく壊すことは無理そうで、シキが部隊の人間と一緒にリミチェアに乗っていては、近くまで戻ってきていた。


「アッカーさん、頼みたいことがあるのですが……」

「はい、全員を外に出すのをですよね?」

「お願いします」 


 シキが申しわけなさそうに言っている姿を見ては、アッカーはそうだろうなと笑ってみせる。 

 早速と魔法を行使し片足だけ枠へと入れるのだが、後ろから並んでスイハとカイルが付いてきていては足を止める。


「……」

「どうしたの?」

「おい、何で止まんだよ」


 移動には便利であり、当然ついてくるのはアッカーとしても理解できるのだが、


「移動くらい自分の足で歩いてください」

「え? アッカーって、そんなけちなこと言うの?」

「これ、枠通るだけだろ? 何で入れさせてくれないんだよ」

「他人とかが入ると、自分が入るより魔力消費するんだよ」


 その答えに対しスイハとカイルはなぜ? といった顔でアッカーを見ている。 

 自身が一番訊きたいことであった。


「ですので、歩きでお願いします。リミチェアも含め全員出さないといけないんで、できるだけ魔力は残しておきたいんです。ポーション飲んでも、もう効果が得られそうにないんで」


 体感での魔力量も口にして断りを入れるアッカー。

 何かごちゃごちゃ言ってくるだろう。そう身構えていたが、ふたりはあっさりと身を引いてくれた。


「じゃあ、カイルでいいや。木みたいなやつで送ってよ」

「無理だ、魔力がもうすっからかんだ。それに戦うわけでもねぇのにゴミを撒き散らすわけにはいかねぇ」

「なら、シキのほうに乗せてもらうよ」

「おい、待ちやがれ。俺を置いて行く気じゃねぇだろうな? 流石に乗せてくれるよな?」


 少々面倒そうな会話を耳にしたアッカーは、ふたりのやり取りを無視して皆が集まっている場所へと魔法で移動。縦に三列に並ぶよう兵団全員に指示を出しては、魔法を使って人もリミチェアもと壁の上へと一回、外に一回と二回に分けて出していく。

 飛行部隊には少数となる冒険者から乗せてもらっては、できる限り手伝ってもらった。


 途中、団長のシンラや近接部隊隊長であるヒサメ、そしてヤカワが無事だったことを知れては、ムイには横から胸倉を掴まれかなり怒鳴られたが……アッカーは力ずくで飛行部隊に引き渡した。

 あれはシキの指示である。作戦通り単純に撃ち落としただけに過ぎなければ、ムイたちが風圧に巻き込まれたのは言うまでもなく、不可抗力でもあった。


 謝りはした。言いわけも含めてではあったのだが、あの時自身も焦るようなことがあった。

 頑丈な鱗を考慮した撃墜は完全に貫通すれば、思ったより深く刺さってと、アイナの魔法に巻き込まれるんじゃないか冷や冷やしていた。

 ついでにとなったが、グラキラーザの小が一体近くに出現していたのを見て斃しに行きはしたが、まだ放たないでくれとアッカーも余裕はなかったと、こちらの気持ちも理解してほしかった。


 現在の時刻は不明。空は曇り空。そんな少し暗い空の下、アッカーたちは迎えを待っていた。それはグラキラーザによる、最初の咆哮という名の風魔法によって荷車を壊されたから。

 帰還の目途は、ヤカワがヒッポグリフに乗ってトルクワにいる衛兵と荷車を引くリミチェアを連れて来てから。行方不明だった偵察部隊の人間たちも含めて来ていては、全員無事だったらしい。

 

 こうして魔神討伐特殊兵団は、迎えを待つ間も帰る時も魔物などが襲ってくることなく無事にトルクワへと帰還。兵団全員が力尽きたかのように眠りについた。 


 


 魔神討伐後となる、次の日の朝。冒険者たちはトルクワの本部にある個室で寝泊まりをさせてもらっていたのだが、そよ風に靡く芝生となるその場は、心地よい静けさと共に心落ち着かせる場となっている。

 彼を覗き誰も起床していない。芝生に寝転がる銀髪の男は、空を見上げながら柔らかい表情でいた。


 苦戦どころではなく、全滅を覚悟しなければいかなった生還には八年の旅に重ねるものがあり、心底討伐できてよかったと瞼を下す。

 振り返れば、今回集まった冒険者たちやトルクワの人員含め、この討伐隊でなくては勝利を手にすることはなかった。消し炭にした冒険者はもちろんの事、重い一撃を放ち続け、時間稼ぎのため守りに徹し、先を見通した策略を立てる。個々の力も存分に発揮し、応える者たち。

 過去の情報が綺麗さっぱりと言っても過言でない状況下で、よく戦ったと称賛するべきだ。

 自身も褒め称え、上から目線にもなってしまうのは許してほしいと誰かに心の中で伝えるのであった。


 心地よいこの場に静かな足音を耳にする。

 冒険者の誰かが起床したのか、それともトルクワの関係者か。瞼を開き、起き上がれば後者。しかし、関係者と纏めてはいけない人物であった。


「座らせてもらうよ」


 身体のあらゆるところに包帯を巻いている女性、トルクワ領主シンラ・ミカドがゆっくりとアッカーの隣に腰を下ろしてみせる。

 内心慌てふためいてしまうほどの登場には、アッカーは冷静に対応しようと姿勢を正した。


「緊張するのは無理もないが、警戒しないでくれ」

「そのつもりは──」

「君みたいな人物だと感じてしまうんだよ《白銀の冒険者》」


 微笑んでみせるシンラにとっては、スイハと同じ子どもを相手にしているようなもの。 

 ただ言葉からしては、そのようなつもりで接しているわけではなさそうであった。


「助かったよ、本当に。討伐日に依頼して、わざわざ戦ってくれて」

「そのようなお言葉をいただき光栄です。魔神グラキラーザを相手に勇者と言っても過言ではない姿を見せていた、トルクワの領主様に言っていただき」

「娘にも似たようなことを言われたよ。魔神相手に互角に渡り合えるほど強いとは知らなかったと。魔法を授かていたことは教えていたが、親として、トルクワの領主として面目が立ったことだろう」


 それはそうだと、シンラの言葉にアッカーは思う。

 魔神といった最高峰の等級指標である相手に対し、立ち塞がることのできる人物だったとは思っても見なかったから。

 むしろ、そこらの冒険者よりも強いと知れ渡るこれからのことを踏まえると、話題としてはアイナの次に持ち切りとなることが予想された。


「聞きたいことがあるのだが、いいか?」

「なんなりと」

「畏まらなくてもいい」

「失礼ですが、崩すことは出来そうにありません。トルクワの住民でありましたから」

「……そうか。では聞かせてもらおう。君の目には、私はどう見えていた?」


 こちらに顔すら向けることはないその質問。芝生へと移す視線に、質問の意味は自身を見つめているような気がした。


 どういった返答が正しいのか。考えるもなくアッカーは率直に答える。


「領主様がお求めになる答えをお聞かせすることは叶いそうにありません。ただ、果敢に立ち向かい先導するその姿は国の鏡となる領主様そのもの。応える者たちからすれば、その背中に迷いの文字は一切なかったことでしょう」

「……」

「精霊は授ける者を見間違うことはない。一番の信頼は、そこにあるかと」


 耳を傾け、一度瞼を閉じる。

 少ししてシンラは空を見上げれば、口角を上げ立ち上がった。


「たしか、君は蒼穹幻島(そうきゅうげんとう)を探しているはずだったな」

「……はい、領主様は情報をお持ちですか?」


 領主本人からその言葉を聞けるとは思わず、アッカーは目線を合わすよう立つことも忘れて聞いた。

 だが、シンラは首を横に振る。


「申しわけない、私も旅をするようなこともあったが見たことも聞いたこともない。ジュメスト大陸でも耳にすることはなかった」

「そうですか……」

「ただ、国王陛下なら少し情報を持っている可能性はある。私も滅多にお目に掛かることはないが、君なら指名依頼で出会えるかもしれない。その際に伺ってみるのもいいかもしれないな」

「……わかりました、ありがとうございます」


 彼女から口にした当たり、魔神討伐に参加した理由を察していたのだろう。アッカーとしては、領主なる人物でも情報がないと知るも、他の可能性を教えてもらい感謝する。


「それでは邪魔をした。気まぐれなおばさんの話は忘れてくれ」

「仰せの通りに。領主様からのお話しは忘れないように致します」


 立ち去るその姿を目にしていると、シンラの質問は本当に気まぐれだろうと忘れてしまう。魔神討伐後の余韻であり、領主だからこその悩みなどもあるのだろうと思うことにした。


 その後は気ままに過ごしていると、ほかの冒険者たちは昼頃に起床した。そして迎えた夕方では、シンラがトルクワに住む人々全員に外出するよう指示を出し、冒険者をも含めて大きな広間へと集めた。

 そこでは魔神討伐が完了したことを改めて領主シンラの口から報告し、果敢に挑んだ者たちへの敬意と勲章の授与、最後には立役者となった冒険者アイナ・セルミスの名を広めるのであった。

 表では胸を張って応対する彼らではあるのだが、疲れが取れていないのは言うまでもなかった。


 諸々が終えると、時間も過ぎ去り日が落ちる。赤や青、緑と黄色といつも通りの四色の星が夜空を彩る時間帯へとなると……。


「全員声出す準備もできとるな。勇敢に戦ってくれた同胞たちに聞こえる声量で頼むで。…………ほな、俺たち魔神討伐特殊兵団に──カンパーイ!!!」 


 飛行部隊隊長ヤカワによる合図で、ほとんどの者たちが木製のジョッキをかち合わせては声を高らかに上げてと、魔神討伐成功の祝賀会が行われた。

 各テーブルには様々な豪華な食事が用意されており、アッカーたち冒険者は全員が参加することができると、四つのテーブルに固まって座っていた。


 こちらのテーブルは、アッカーの向かい側の左から、シキ、ムイ、シェルミル、アイナ。そして、アッカーが座っている左側からスイハ、アッカー、カイル、クラバンと、ひとつのテーブルに八人が座っている。


「おいしい……」

「お? ウチの作ったやつ気に入ったんか? それ、旨いやろ」


 隣同士に座っている、ムイとシェルミルは仲良く話し合っている様子。

 シェルミルが口にしたのは魚料理であった。


「はい、この食べ物は何ですか?」

「シュゴルミィのギュムレや。少しピリってくるやろうけど、横のギュムレのソース付けてみ?」

「これですか?」

「む、ムイ!」


 首を傾げたシェルミルは、ムイに言われたソースへと目を向け付けてしまう。 

 赤いソース。辛いのだろうとわかっていたから、シェルミルはシキの声には大丈夫だろうと気にせず食べてみる。


 すると、電気が駆け抜けたかのように目を見開き、シェルミルは固まってしまった。 

 ギュムレというのは果実であり、ここアルワーナ大陸ではあまり出回らない珍しい食材。完全に熟成するには二年ほどかかるのだが、途中で採取することによって味が変化している。

 二年の熟成では刺激を与える食材の香辛料として有名どころではあるが、赤いのだと半月ほどでの採取となり、激辛だと評判である。


 口にしたシェルミルはというと……。


「辛くておいしいですね。それにさっきより身のほぐれ方が良くて……口の中に広がる感じがいいです」

「おー、王女様はよくわかっとるなぁ! いける口なら……こっちの辛いのも食べてみ?」


 シェルミルは辛さに強いのか、おいしいと口にしながらもう一度赤いソースを付けて食べれば、ムイが薦める食べ物も口にしていく。


 付けることに躊躇い、避けるのが一般的。度胸は素晴らしいものをお持ちのよう。

 アッカーと同じく、最悪な展開になってしまうと恐れていたシキは、肩を落とせば失礼がなかったことに安堵している様子ではあった。


「カイル、食べにくいか?」 


 和気藹々と食事をする中、カイルが食事に苦戦しているよう。アッカーに指摘されれば、彼は苦い顔をし、腕を見せる。


 ほとんどの冒険者が頭や体に包帯を巻いているのは言うまでもない。それはカイルも同じことではある。 

 討伐後にも言っていたことだが、腕が痺れている。魔法により多少は問題なかったが、上手いこと腕が動いてくれない。フォークでの一刺しが難しく、疲れからか奮闘もできず半ば諦めているようであった。


「カイルさん、こちらでよろしければどうぞ。辛くはないですが、さっぱりとしていておいしいですよ?」


 その状況を見かねてか、シキがカイルの口元に赤身のある肉とサラダが刺さったフォークを持ってくる。

 広間の空気が一変した。部隊の人たちの視線がこちらのテーブルへと集まっていては、何やら不穏な空気が漂い始める。


 口を開けるよう促されている本人はというと、困惑した表情で戸惑っていた。

 それもそうである。通り名に相応しい美麗たる人物に食べさせてもらうなんてことは、滅多にないだろう。ほかの者たちからしては羨ましい限りであった。


「あ、あの、カイルさん程ではないですが、わたくしも腕が痛むので早く口を開けてもらうと助かるのですが……」

「わ、わりぃ……じゃあ」


 テーブル越しと言ったこともあり、腕が震えるシキを見ると、カイルは咄嗟に身を乗り出した。 

 周囲の視線が気にもなる。乗り出す腕は振るえながらも支え、視線の先にはフォークに刺さる食べ物に併せ笑顔のシキ。

 どうにでもなれ、カイルは目を瞑り、パクっ──と口にしたはずなのだが、差し出されたはずの食べ物は、とある人物によって食されてしまう。


「うん、おいしいね」

「お、おい、何でスイハが食うんだよ!?」 


 おいしそうに食べたのはスイハ。そんな彼女はカイルの発言に対し、人差し指を向けてはこう話す。


「何でって時間切れ。せっかくの好機をすぐに掴もうとしないからこうなるんだよ。今度は逃さないよう、ちゃんと捕まえなさいって、良い教訓にもなったんじゃないかな」 


 ちょっとした授業みたいに教えるスイハ。今後の彼にとって良い教えになるのかはわからないが、今度は逃さないようにと言った話は、恋愛関連の話に重きを置いたもの。美人さんは眺めているだけではすぐに掻っ攫われるぞと。


 言われた本人は、なぜか困惑した表情が見て取れるが、何を言われたのか理解していないかもしれない。その後の彼は、気にするだけ無駄だと思うことにしたようで、目の前の料理に手を付け始めた。

 食事に関して手古摺るのは変わりない。それでもムイが手助けをしていれば、彼女は討伐時を振り返っては煽り、カイルを弄ぶ。

 対するカイルは、反抗するかのように罵倒したかったようだが、誉め言葉になっていたようで、彼女が喜んでいては悔しそうにしていた。


 アッカーは、ふと視界に入った三人に目を向ける。その三人とは、アイナ、クラバン、シェルミルの三人であり、気になる話を耳にする。


「──ようやく、世代交代の顔が出来上がっただろうな」

「今世代はクラフォスの冒険者になりますが、アイナさんに()()()さんのふたりが、現在の冒険者の顔になりますかね」

「それはどうかしらね。この場の銅等級以上ならみんな入ってくるでしょうし、クラフォスなんて銅等級以上はざらにいるじゃない? ほかには新人冒険者の中に居たらいいわね」


 三人の会話の内容は、冒険者の世代交代であった。 

 ここ数年、何かと等級が高い者の中で辞職する者が出てきたり亡くなったりしていたと、冒険者界隈では気にされていたことらしく、だからこそ話題に上がっているのだろう。

 やはり冒険者は死と隣り合わせの職業かつ、怪我の原因で関わる古傷や、家庭を持ったときたら辞める人間が大半となる。三十代、四十代ともなれば、体力といった話も出て来るのが現実ではあった。


「そうだな。シェルミルに関しては、年数を重ね次第で上に行けるだろうから……頑張れ」

「あ、ありがとうございます。クラバンさんも、今回の魔神討伐で金等級に近づいたと思うんで頑張ってください」

「いや、俺は冒険者しか生きる道がないと思ってやってきただけで、上に固執はしていない。それに冒険者は今日を持って辞めることを決めていた」

「は? 何で辞めんだよ、クラバンさん──いっ……!」


 突然のことで、カイルは自分の腕のことを忘れながらも、隣に座るクラバンの肩を掴んだ。


 あまりの衝撃的過ぎる彼の言葉には、ほかの冒険者たちもなぜかと気になっては視線を向けている。

 銀等級は想像以上に険しい道。アルワーナ大陸で見れば冒険者は千といる中で、二桁ほどの等級指標。給与といった生活面でもかなりの保証をされている。


 同業者の皆に気に掛けられる状況の中、クラバンは少し躊躇ってしまっては悩むような仕草を見せるも、辞める理由を口にする。


「……実はだな…………結婚することに──」

「「結婚!!!?」」 


 まだ話している最中、スイハとシキのふたりが結婚といった言葉に過剰に反応を示しては、彼の言葉を遮った。

 耳元で叫ばれては驚いたアッカーは、隣に座るスイハに押しつぶされるかのようにのしかかられる。自身の目の前に座るムイも同じ状態であり、うるさかったせいか彼女は苦い顔をしていた。


「誰だ!? 無事に生還しては、幸せの道まで踏み込もうとしているやつは!」


 大きすぎたのであろう彼女たちの声には、あっという間に酒に酔っていた部隊の人たちの耳にまで届いてしまい、全員が反応を示す。


「どいつだ!?」

「あの兄ちゃんだ! 周りのガキんちょなわけがねぇ!」

「あれはクラバンさんや! 全員でこっちに連れてこい! いろいろ話、聞かせてもらおうやないか!」


 ヤカワの最後の一声でノリのいい複数の部隊の人がクラバンさんを捕まえようと、こちらへやってくる。

 その光景を見たクラバンは、アッカーへと顔を向けてきていては遅れて気づく。


「アッカー、頼む」

「……──はい、了解です」


 大事になるとは思っていないのは間違いなく、やむ負えずとクラバンは頼んでいる。 

 こういったときのために自身の魔法があると言っても過言ではないため、アッカーは快く案内しては、彼は去る形に。


「アッカー、どうして逃がすの!?」

「そうですよ、アッカーさん! いろいろお聞かせいただきたいじゃないですか!」


 気持ちが高ぶっているスイハに肩を掴まれ、シキにいたっては鬼の形相とはいかないが、気迫ある顔と声を向けられては、アッカーはふたりに口にしようにも言えない。

 だからと、ヤカワたちのほうを見るよう指さしては、ふたりの視線を誘導。そこには、なぜか、なぜだろうか。クラバンの後ろ姿が皆の目に映った。


「……」

「ん? なんで……そうか! でかしたで、アッカー君!」


 ヤカワは、背後に呆然としていたクラバンがいると知れば、アッカーへとジョッキを掲げて笑顔を見せた。


「お前、最低だな」

「逃がしてくれとは言ってない。それに、最低になったかどうかは後日聞けばいいだろ」


 カイルの言葉に対し言いわけも含めてアッカーは答えた。


 このように、冒険者を辞めるといった良い例がクラバンとなる。

 冒険者を辞めた人間の今後だが、基本的に等級が高い冒険者は次の職に困ることはないと話では聞く。それは等級が低かろうが、魔法を授かっていない者たちと不公平さを無くす政策もされていようが、魔法を行使できる人が歓迎される職は数多く存在している。


 クラバンに関しては、どこかの傭兵団に所属するか、木属性を活かす職に就くのかもしれない。栽培関連だと養分として木属性を行使することもあれば、冒険者とは正反対ののんびりした職も良いことだろう。一度戦うことから離れるのも、いい人生経験になるのは間違いがなかった。


 こうして、クラバンの騒ぎにスイハとシキは言わずもがな、ムイを除く女性冒険者全員がクラバンの結婚話を聞こうと席を立ち移動する。

 そして部隊の人たちも集まってと人数が多かったからか、一度空けた庭に移動しクラバンを中心に円になって彼らは座ると、女性陣は興味津々に話を聞き、出会いや経緯についても詳しく質問していた。

 アッカーはその光景を座りながら見ていては、ムイとカイル、それと今まで関わったことのなかった男性冒険者たちと話す機会ができては、共に食事を摂った。 



 祝賀会が始まってから二時間ほど、各々が勝利を分かち合うため立ち回っては酒と会話が進んでいる。目の前の食事を含め全て平らげてしまえば、今となっては交友を深めてと、冒険者ギルドと変わらぬ光景が出来上がっていた。


「ねぇ~え~、アッカーはお酒飲まないのぉ~?」


 アッカーの隣には、ほろ酔い状態のスイハが顔を火照らせながらすり寄っている。 

 彼が知っている限り、スイハはまだ三杯目のはずだが酔うのが早い気がしていた。


「飲まないですよ、おいしくないですし」

「ふ~ん、子ども舌なんだねぇ~」


 楽しそう且、挑発しているような視線を送るスイハに対し、少しばかりアッカーはムカつきはしていた。

 だからといって、酒を飲もうという気にはならない。初めて飲んださいに不味すぎて吐き、それ以降酒は飲まないと決めたから。 

 周りにいた冒険者たちにゲラゲラとバカにされたのも忘れない。非常に屈辱的な日であった。


「そういえばさ~、どうして死んだふりしてたのぉ? 心配したしぃ、謝ってもらってない……」 


 唇を尖らせ、チラチラ見てくるスイハ。死んだふりをしていたわけではないが、ここは素直に謝ろうとした。 


 しかし、心の中で待てが掛かる。それは今日出会ったばかりの彼女に対しての印象である。 

 怒ったシキに対し逆撫でし、魔神討伐では自身はからかわれた。何かしらの要求がありそうな気がし、今となっては酔っている状態。弄ばれそうな未来が見える……が我慢するしかないと思い、予定通りに。


「心配かけてすみませんでした」

「ううん、こっちも守ってくれてありがとぉ。それでなんだけど……ん」


 素直に謝れば、素直な返答が返ってくる。

 何もない、というわけではなくこちらに右頬を向けているのは、理解ができなかった。


「……なんですか?」

「ほらぁ、頬にキス。唇にしたら、責任取ってもらうからね~」


 スイハの誘惑するような言葉に、アッカーは心の中の自分に言わせてもらう。

 さっきの我慢するは撤回させてくださいと。


「しませんから。別の要求にしてください」

「なんでさ~。クラフォスじゃ普通にするって聞いてるけど~?」

「俺はクラフォス生まれの人間じゃありません。ここトルクワに近い町です」

「はいは~い、そうなんだね~。なら、また今度別の要求させてもらうよ~」


 スイハはそう言って、にこにこしながらお酒を少しだけ飲むのであった。 

 

 早く寝させないといけない。どうしてかというと、スイハが先ほどからアッカーにダラダラ絡んでは、たまに瞼をこすり眠たそうにしていたから。今もボーっと視線を下に向けていては欠伸をしている。


「誰か……」


 スイハを寝かすため、アッカーは個室の部屋へと一緒に連れて行ってくれる女性を探す。

 無難なのはシキかムイだろう。アイナに頼るのもありだが、どこかに行ってしまっては見当たらない。 


 このように思い当たる人を探しているとシキを見つけることができた。

 そう、できたのだが……


「おお! シキちゃん十四!」

「隊長! シキさんに負けますよ!」

「おい、ヒサメ! 女の子に負けてどないするんや!」

「黙って見とけ、ヤカワ。俺はまだまだいける……!」

「ヒサメさん、遅いです! わたくしが注いだのに飲めないなんて言わせませんよ!?」


 前方にてかなりの人が集まってると思いきや、お酒の飲み比べをしているらしい。

 そのなかには、シキが混じっていれば三人は倒れ、隊長ヒサメだけが何とか持ちこたえている様子であるものの、彼女が圧を掛けていては地獄のような光景が目に映っていた。 


 完全に戦力外であった。

 ならばと、同パーティーのムイと行きたがったが、なかなか見当たらない。


「…………」 


 アッカーはシェルミルを発見することができると、念を送ってみることに。 

 周りから見れば可笑しな人間か、はたまた変質者か。しかし気づいてくれたのか、視線が合い、アッカーは未だ頬付いてきたりするスイハを指さし助けを求める。

 だが、やはりというべきか、シェルミルには無視をされてしまった。


「スイハちゃん、大丈夫?」


 これは関わったことのない女性冒険者に頼むしかないと思ったその時、後ろから助けが現れてくれる。 

 そう、魔神を消し炭にしたアイナであった。 

 見た感じではお酒を飲んではなさそうなため、問題なく頼めそうであった。


「セルミスさん、彼女が眠たそうなので、部屋まで連れて行くの手伝ってもらっていいですか?」

「ボクは眠くな~い~まだ飲む~」

「わかったわ。アッカー君は左をお願い」 


 駄々をこね始めたスイハを見てアイナは微笑み、運ぶのを手伝ってくれる。

 アッカーたちが泊まらせてもらった個室の部屋は、ここ本部の庭に設置されており二階構造、男女別で階層を分けられていた。


 扉を開け中に入ると、部屋のドアが全て空いていては女性が使っていた下の階へとアイナに案内される。


「たしかこの部屋だったはずだから、ベッドに寝かせてあげて」


 そう言われた部屋は、下の階に降りて一番奥の部屋。アッカーはスイハをベッドに寝かせると、冷えてはいけないと肌掛けではなく毛布をかけてあげることに。


「襲っちゃだめよ」


 幸せそうなスイハの寝顔を見ていると、部屋の外からアイナがからかってくるので早々に退出してはドアを閉め、自動で鍵も閉まった。 

 かわいい寝顔だったのは、心の中に閉まっておくアッカーである。


「冗談よ。あなたがそんなことをする人じゃないって聞いているわ」 


 クスクスと笑うアイナに対し、もしかして彼女も酔っているのかと思ってしまう。


「セルミスさん、お酒飲みました?」

「これから飲むつもりよ。領主様と話してたのもあるけど……」


 階段を上り始めたころで聞いたのだが、途中でアイナは黙ってしまう。アッカーが先に階段を上っていたため、後ろを振り向き彼女の顔を覗いてみるも、なぜ黙ったのかはわからない。


「アッカー君」


 階段を上りきり、外へと繋がる扉を開けると名前を呼ばれる。

 それは、さっきまでとは違う真剣な声音であった。


「大事な話があるの。少しだけそこで待っててちょうだい」


 そう言われた場所は、トルクワの夜景を眺められるバルコニーであった。

 アイナが一度この場から去るのを見ては、大事な話とは、とアッカーは景色を眺めながら待ってみることに。


 少しすると、彼女が戻ってくる。

 しかし、どうしてかシェルミルを連れて来ていた。


「シェルちゃんはアッカー君の隣に行って」

「……わかりました」


 言われるがままシェルミルはアッカーの隣に立つも、少し離れた位置。これにはアイナから困った表情が伺えるも、シェルミルは気にした様子もなく切り出す。


「大事な話って何でしょうか?」

「え、えぇ、それは……」


 大事な話の内容が同じらしく、促されたアイナは少し間を置いてから口を開いた。


「──私と一緒に、パーティーを組んでくれない?」 


 アイナは真っ直ぐにふたりを見つめながら、笑顔を見せてそう言った。 


 …………あまりにも予想だしていなかった言葉を聞き、アッカーは固まってしまう。 

 金等級冒険者《爆炎の魔女》の通り名を持ち、魔神討伐の立役者となったアイナ・セルミス。 

 今後、確実に、冒険者界隈だけではなく一般人の多くに知れ渡り、未来永劫英雄としても語り継がれるであろう人物。

 そのような人からの、パーティーを組んでほしいとのお誘い。 

 大事な話とは聞いたが、まさかパーティーを組んでほしいとは思わなかった。


「アイナさん、元のパーティー……()()()()さんたちの元に戻らないんですか?」


 シェルミルは、ここ最近まで彼女が組んでいたパーティーについて話を出す。それは、クラフォス冒険者ギルドでは現在、一番の強さを誇っていると口にされるパーティーであり、元々彼女は手を組んでいたらしい。


「戻らないわよ。私は必要ないでしょうし、あの四人でやっていけるわ」

「ですが……」

「俺は組ませてください。セルミスさんほどの実力者で断る理由がないです」 


 アッカーは真っ先に組みたい意思を伝えると、アイナは少し呆気にも取られていたが頷いてみせた。


「わかったわ。シェルちゃんは……悩むようだったら後日で大丈夫よ」 


 そう言われた彼女は、チラチラとこちらを伺うような視線を向けてきている。


 一緒にパーティーすら組みたくないほど嫌いだと、アッカーの目には見える。謝りはしたとはいえ、そこまでだったのかと半ば複雑な気持ちではあった。


「わかったよ。そんなに嫌うんだったら、俺が諦めるからそっちが入れよ」

「どうしてそうなるんですか? 一言もそんなこと言ってないのですが?」

「目が言ってるんだよ」

「言ってません。次何か言ってきたらぶん殴ります」 


 右手に拳を作りながら脅迫してくるシェルミル。ムカついたら暴力を振るう、本当に誰がそうしろと吹き込んだのかとアッカーは呆れてしまう。


「……迷惑じゃなければ、私もそのパーティーに入らせてください。お願いします」 


 少しの間沈黙が訪れてから、シェルミルは口を開きセルミスさんに頭を下げながら言った。


「そんなに畏まらなくて大丈夫よ。じゃあ、ふたりとも組んでくれるってことでいいわね?」


 アイナはふたりに最終確認を取れば、笑ってみせる。


「じゃあ、これから長い付き合いになるだろうから、よろしく頼むわよ。アッカー、シェル」

「よろしくお願いします」

「……よろしくお願いします」


 こうしてアッカーとしては、想像もしていなかった出来事に驚きつつも、アイナとシェルミルの三人とパーティーを組むことに──。


「言っておくけど、カイルも合わせて四人だからね」

「カイル? あいつも入ってくれるって、ひとりだったんですか?」

「そうみたいよ。私が話を持ち掛けたら、ちょっと悩んでたけど組みたいって言ってくれたわ」 


 ということらしいので、アイナ、アッカー、シェルミル、カイルの四人で今後冒険することが決まるのであった。


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