0-11 討伐説明と質疑応答
「これより、魔神グラキラーザ討伐の作戦等の説明を行います。冒険者のみなさんは檀上付近までお願いいたします」
檀上の端にいる女性がフロアの皆に聞こえるぐらいの声量で集まるよう言っては、冒険者一行は言われたとおりに檀上近くへと集まる。
「なぁ、あれ案内してくれた人じゃねぇか?」
カイルは檀上の端にいる女性を見ながら言った。
よく見てみると、彼の言っている通りこのフロアまで案内してくれた女性が佇んでいた。
さらには、檀上の上にはトルクワまで送ってくれたヤカワもいてはアッカーの視線に気が付くと笑顔を見せている。
「戻ってきたよ」
「おかえりなさい」
冒険者の皆が檀上の近くに集まりだすと、先ほどまでシェルミルに挨拶をしに行っていたスイハがこちらへと戻ってきては、案内してくれた女性が次へと進めていく。
「冒険者の皆様、本日は魔神討伐の依頼をお受けいただき誠にありがとうございます。私が今回の進行役及び討伐説明を行わせていただきます、ヒイマ・シンゼイと申します。短い時間ですが、よろしくお願いします」
進行役と説明を担うらしいヒイマは軽く会釈をし、次は檀上にいる三人を紹介する。
「それでは初めに、今回参加します、魔神討伐特殊兵団に所属する二名及び、トルクワの領主様をご紹介させていただきます」
ヒイマの言葉を聞き、冒険者の皆が檀上の中央付近に立つ三人へと視線を移す。
「近接部隊隊長、ヒサメ・キコウ」
名を呼ばれた男は少し前に出て軽く会釈をしては元の位置へと引き下がる。
赤き鎧を所々に身に着け、手に持つは薙刀。風貌からして歴戦の強者と言ってもいい人物である。
「続いて、飛行部隊隊長、ヤカワ・サンエイ」
次に呼ばれたヤカワはその場から動かず笑顔で右手を上げた。
贈ってくれていた時の格好とは違う。運送商会の制服から、黒と赤を基調とした服装に着替えており腰には短剣を携えていた。
「最後に、領国トルクワの領主、シンラ・ミカド様です」
最後に紹介されたのは檀上の中央に立っているトルクワの領主、シンラであった。
シキが言ってたとおりラストネームが同じミカドであることから、スイハはトルクワの領主様の娘なんだと再認識する。
スイハと雰囲気や顔つきはどことなく似ているが、目つきは親の方が鋭く怜悧な目つきなのが遠目からも見てわかる。
アッカーはふと疑問に思う。領主様が魔神討伐に参加する。今まで一番上の地位に立つ人物が参加するなんて聞いたことはなかった。
人員や道具の手配に動くことはするだろうが、それほど今回の魔神討伐に関して重要視しているのかも知れない。
「この場には不在ですが残り二名の隊長を含め、以上が今回魔神討伐にあたる隊長及び領主様です。次に領主様から、冒険者の皆様へのお言葉です。シンラ様、お願いします」
ヒイマがお辞儀をすると冒険者はシンラへと再び視線を向け、話し始める。
「先ほどの紹介に預かったとおり、領国トルクワの領主であるシンラだ。今回の魔神討伐では兵団の中に存在する魔法部隊の隊長を務めさせてもらう上、ここにいる冒険者たちを含めた全部隊の指揮系統に携わる団長として今回の魔神討伐に参加させてもらう。この度急遽の呼びかけにも関わらず、各ギルドマスターを通して依頼を受けてくれた冒険者たちには非常に感謝している、ありがとう」
シンラは淡々と挨拶をすると、これで終わりなのか檀上の中央から少し逸れる。
すると、檀上の裏手から四人の男が出てきては何やら準備を始めるもシンラは本題へと入っていく。
「ここからは主にヒイマに任せ、今回討伐にあたるグラキラーザの特徴や現在地などを説明してもらう。冒険者の者たちは心して聞くように」
「……お言葉はもう終わりか? 随分ずいぶんと短いんだな」
「そこの少年、私語は慎んでくれ」
「……へいへい」
冒険者の皆が静かに聴いているなか、カイルだけが声を出してしまい領主様に注意される。
そんな注意された本人はあまり悪びれた様子はなく、小声で文句を言っている。彼の言葉に便乗する者は多くいたが、口に出したのがいけなかった。
「それではまず、今回の討伐に参加する人数と討伐対象の居場所──すなわち戦場をお伝えしていきます」
シンラが下がるとヒイマが説明に入っては、話している最中に準備されていた地図の近くに寄り、討伐に参加する人数から話していく。
「我々、魔神討伐特殊兵団が参加する人員は計九十二名。そのうち冒険者が二十二名、近接部隊三十名、遠距離部隊十五名の地上は一部の部隊を除き六十七名。そして飛行部隊が十名と、臨機応変に対応する即応部隊十名が参加します。続いては戦場となる場所です」
説明していくヒイマは、机の上に立てかけてある地図に今回の戦場となる場所を長い木の棒のようなものを使って指す。
「ここ、トルクワから八時方向にございます、ロルフ平原が今回の戦場となります。昔はこの場所に大きな街がございましたが、魔神グラキラーザにより滅ぼされたと伝えられています。ここ何十年かはグラキラーザの存在が確認できていませんでしたが、作昼ではロルフ平原にてグラキラーザが出現したと観測班からの情報が入ってきました。現在は偵察部隊に任せていますが、彼らからの情報によりますと今もロルフ平原の辺りをうろついているとのことです」
「聞いてのとおり、現在もグラキラーザはロルフ平原に出現しているが、いつまた姿を暗ますか不明だ。勝手な話だが、我々トルクワは入念に準備を重ねてきたために今日討伐すべき魔神でもあることは頭に入れておいてくれ」
シンラが補足するように急ぐ理由を説明している。
魔神はここアルワーナ大陸にも出現するが姿を消していることが多い。突如出現しては、冒険者や行商人たちを襲っては殺し、再び姿を消す。
そのため、魔神が出現した付近では、魔神討伐の目的以外では基本的に誰もが近づかないようにはしている。
冒険者ギルドでは依頼が張られる掲示板の一番上に、過去の各魔神の出現した年月日と場所の名を記載しており、初めて冒険者になった者たちは必ずその説明も受ける。
今頃クラフォス冒険者ギルドでは、ロルフ平原にて魔神が出現したと大きな紙が貼られていたり、ギルド職員が依頼を受けた冒険者に注意するよう呼び掛けていることだろう。
アッカーは、今朝ギルド職員が問題が起きたなどと言っていた原因がこれなのかと思った。
「次に生態についてです」
アルワーナ大陸の地図を板から綺麗に剥がされると、大陸の地図の下にもう一枚の紙が貼られていた。
そこには、これから説明する魔神の前からと横からの姿だと思われる絵が描かれていた。
「こちらを見ていただくとわかりますが、前足と後ろ足を使って歩く四足歩行の魔神です。全長は飛竜と変わりないと言ったところ。全高だと飛竜の頭の高さに背中が来ています。幅は見たことのない山を連想させる広さでしょう。そのような魔神グラキラーザは、魔神の中ではニ番目の大きさだと言われています。見た目の大きな身体からは想像できない素早い動きで攻撃することが可能らしく、背中には鎧のような頑丈なものを覆っています。属性は地属性の攻撃を扱ってくるため、魔法での攻撃も注意を。決め手となるのは懐に入る近接戦かもしれませんが、大きな体に潰されないようにも注意を向けて置いてください」
説明を入れながら、今度はある一転の部分をヒイマは差す。
「そちらに加えまして、グラキラーザは大きな翼が生えているため飛ぶことが可能です。グラキラーザが飛んでいる際、近接攻撃の者はできる限り距離を取り回避できる体制を。遠距離攻撃が可能な方々は、魔法部隊と共に敵を撃ち落とすような攻撃をお願いいたします。そして相手が飛行の際に気を付けておくのは、飛竜などと比べものにならない速さで急降下してくることです」
グラキラーザの基本的なこと教えられると、シンラが斃すにあたっての説明をする。
「どの魔神も弱点は不明だが、今回討伐するグラキラーザは主に鎧で覆われていない箇所を攻撃するのが定石となってくる。しかし、ほかの方法……背中にある鎧を壊したり、剥がしたりとしてもらって構わない。巨大な敵に対し鎧のない背中はこちらにとって格好の的。近接攻撃の者は、飛行部隊をも有効的に使ってくれても構わない」
助言なるようなものを聞きお終えると、シンラが作戦を伝えるようで話し始める。
「最後に作戦について、私から説明させてもらうが……その前にひとつ、今回の作戦の要となる魔道砲について簡単に説明させていただく。魔道砲は我々トルクワが所有する、対魔神用として作られていた古代兵器だ。それは一度しか放てないということを頭に入れ、作戦を聞いてほしい」
魔道砲とやらを簡単に教えられ疑問がいくつか残るものの、質問する機会があるだろうと皆が黙っておく。
「手始めに、我々兵団内の部隊の者が攻撃を仕掛けていく。冒険者の者たちは一時待機し、その待機時間の間、敵の動きを観察してもらいつつ新たな情報はこちらから伝達させてもらう。できる限り、我々がグラキラーザの攻撃や動きがどのようなものか、君たちに知ってもらえるよう尽くす。次に、状況を見計らい君たち冒険者にも攻撃に参加してもらいつつ、魔道砲をグラキラーザに打ち込む合図を送らせてもらい、一気に片を付ける」
領主様は間を開けてから続けて話す。
「しかし、筋書で行けば魔道砲で終わらせたいものの、敵は何百年、いや何千年と生きてきたかもしれない魔物。魔道砲を受けてもなお生きている前提で事を進め、撃ち込んだあとも油断しないように。状況によっては作戦を逐一伝達する形になることも頭に入れておいてくれ」
これで作戦の説明を終えたのかシンラは顔を下に向け黙ってしまっては、次に進むだろうとヒイマの話を聞こうとする。
しかし、ヒイマさんからの話はなく少しすると領主様が顔を上げ、再び話し始めた。
「このようなことを言うべきではないと承知の上だが、魔神討伐に加え、ここまで大きな戦は誰もが初めてかもしれない。領主であり、団長として皆の足枷にならないよう死力を尽くすが、冒険者として危機に飛び込む君たちだからこそ、経験も頭脳も力も、大いに頼らせてもらうことになるだろう。……今日はよろしく頼む」
シンラが深く頭を下げると、冒険者たちの心の中では期待に応えようと気持ちが定まる。
急遽の依頼、魔神討伐、誰も経験がない。それでも討伐すると決意を固めた。
「以上で、魔神討伐の説明は終了といたします。冒険者の皆様、質問がございましたら挙手をお願いします」
ヒイマが檀上の中央に立ち質問の時間を作くると、早速一人目の質問者が出て来る。
「どうぞ」
「ふたつ質問がある。まずひとつ。今回の人数も、魔神の特徴も、作戦の要が魔道砲だと言うことも理解した。そこでヒサメさん、あんたに訊きたい」
男は名指ししたのは近接部隊の隊長ヒサメ。その人へと、質問者は顔を向けながら話す。
「こちらの戦力に関してだ。冒険者は文句がないほど優秀な者たちが揃っているのは見ればわかる。だが、そちらの部隊の者がどれほどの強さかを知りたい。作戦を聞いた限りだがそちらの部隊が弱ければ先の作戦は成り立たず、俺たちに情報を与えるどころか無駄に死者を増やすだけだ」
男の話を聞き、ヒサメは少し間を置いてから話す。
「そこの冒険者の言うとおり、冒険者は過去三度のグラキラーザ討伐に比べれば、今回も期待できるほどの人材が集まってくれていると言われている。だからこそ、こちらの部隊の戦力に関して気になるのは当然のことだ。……君たち冒険者がこれを聞いて納得するかは知らないが……」
少し考える仕草を見せ、答え始める。
「冒険者の等級で例えるなら銅等級は確実だと言わせてもらう。それに加え本討伐隊は魔法を授かっているものしか参加させていない。我らなりにだが、相当訓練を積ませてもらっては中級魔法までは短縮詠唱で唱えることが可能、魔障壁も張るに関しては問題ない。……これを伝えるのは必要かはわからないが獣人も属している。戦闘に関しては言わずもがな。そのことも踏まえ、隊長である私は十分な戦力が揃っていると見ている」
強さを示すために冒険者等級と魔法を授かっている人数も聞ける。
誰もが使うことができない魔法は、この世界の少数の者のみが神に等しい存在である精霊から授かるもの。
それを踏まえ獣人も今回の討伐に所属しているのだと知ると、部下に関しての強さは問題ないだろうと知れる。
「この答えに関して、質問がございますか?」
ヒイマが質問した男に向けて訊くと、男は特に何もないと仕草を見せる。
「では、ふたつ目の質問をお願いします」
「あぁ。ふたつ目は魔道砲を打つ際の合図だ。領主様が指示するとは思うが、その合図の出し方について聞きたい」
「そちらに関しましては皆様の質問が終わり次第、最後にご説明させていただきますので少しお待ちください」
「了解だ」
「では、ほかに──どうぞ」
男の質問が終わったことでヒイマは次の質問者がいないか訊こうとすると、隣の人物が手を上げていた。
質問者はカイルであった。
「魔道砲だったよな。そいつは本当にグラキラーザに命中するのか聞きてぇ。罠とかに嵌めたりしてから、撃ったりしねぇのかって」
カイルの質問は誰もが聞きたかった魔道砲について。
今回の作戦の要が威力が良くても、そもそも命中しなかったなんてことは困る。
これにはシンラが答える。
「安心してもらっていい。過去に金等級に該当する魔物を骨も残らず消したらしく、威力は保証する。命中に関しても問題はない。光の速度で、と言えばわかるだろうが避ける暇はない。罠に関しては過去に仕掛けたことが何度もあるらしいが、全て不発に終わっている。この体系と翼もあり、力でねじ伏せられることがあったらしい。やはり唯一の足止めは現技術では厳しく、君のような魔法だが、希少な属性故に今まで試せたことはないと聞いている。もしもの時、いや確実と言っておくが、頼ることになると思っておいてくれ」
金等級の魔物を消してしまうほどの威力があり、避ける暇がない。
その情報を聞けるだけで皆が納得する。
「以上でよろしかったですか?」
「おう」
「ほかに質問がある方はいらっしゃいますか?」
カイルの質問が終わり再び質問者がいないか確認する。
ここで誰も手を上げなかったことで、ヒイマは次の話へと移す。
「それでは最後に、飛行部隊隊長のヤカワから、先ほどの合図に関しても含め説明がございます。ヤカワ、お願いします」
「はいよ」
ヒイマさんが中央の位置から一歩逸れると、ヤカワさんが彼女の隣に立っては元気よく話し始める。
「飛行部隊隊長のヤカワや。まずは俺の部隊について説明させてもらうけど、主に救援と道具などの手配、敵の観察などを行っていくつもりや。重症者が出てしまったりポーションを切らしたりしたら、すぐにでも駆けつける。そいでもって、飛行部隊の誰もが負傷した人間とかに気づかない場合があるかもしれへん。そんときは、荷車に乗り込む前に支給するコレを使って俺たちを呼んでくれや」
ヤカワさんはポケットから筒のような形状の、手のひらの大きさの物を出しては、俺たち冒険者に見せる。
「コレはここの出っ張った場所を押すと、赤い信号弾が出る仕組みになっとる。呼ぶ際には上空に向けつつ押してくれると少し低い位置で小さく光る。限度は二回までで当たっても害はないんやけど、極力飛行部隊の俺たちに当てんように出してや。無くなったらこっちで補充してあんの渡すから、そんときは言ってくれや」
ヤカワは飛行部隊の話を終えたのか一旦話を区切り、今度は魔道砲の合図に付いて。
「それと最後に質問でもあった魔道砲を打つときの合図に付いて説明させてもらうな。まぁ、気づいてるとは思うんやけど、この信号弾を使って合図を出す。放つ時はわかりやすいように、五発の信号弾かつ、緑の信号弾を敵の上空付近に向かって同時に出すから、これだけは絶対に覚えといてや。合図が出されたら声が掛かると思うから、全員敵から遠くに離れつつ、魔道砲の射程から離れるんやで。一応、逃げ遅れは俺たちが回収するけど、何人もはやめてや。以上で説明は終わり、長くなってすまんかったな」
ヤカワはそう言いながら、シンラを置いて同隊長のヒサメと檀上の裏手へと姿を消した。
「それでは以上を持ちまして解散とさせていただきます。出発は準備が整い次第、各自荷台に乗り込んでもらい出発します。冒険者の皆様は最初に案内した道を辿るのではなく、出入り口を出て右方向へとお進みください」
こうしてヒイマの指示の元、魔神討伐の説明が終わり、冒険者はフロアから退出するのであった。