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ことの真相

「ここからは僕が話すよ」


 そう言って、リンは手に持った久世の写真をヒラヒラと揺らした。

かと思えば、金色がかった瞳をスッと細める。


「集落の人々や封印中の子狸を問い質して判明したんだけど、逃亡中の久世は一度あの集落を訪れたことがあるらしい。それで、祓い屋としての力を使ってわざと怪奇現象……奇跡(・・)を起こした。これは土地神様のお力によるものだと銘打って、ね。その際、色々協力してくれたのが子狸。だから、奴を土地神様として祭り上げるよう仕組んだ」


 『利己的であるが故にある程度操りやすいタイプだったし』と言い、リンはカチャリと眼鏡を押し上げた。


「ただ、普通の妖が神となるには多くの信者や年月を必要とする。でも、霊力を増やせばある程度補える。そこで、久世は視える体質の人間を生贄として捧げるよう言った。子狸には本物の神になるための近道だと、そして集落の人々には土地神様の力を増大させる一番の方法だと言い聞かせて」


 『唆したとも言うね』と苦笑を漏らし、リンは手にした写真をテーブルの上へ戻す。

と同時に、頬杖をついた。


「でも、当然視える体質の人間なんてなかなか見つからない。おまけに、集落の人間を殺すのは気が引ける。だから、久世は外部の人間を生贄にするよう助言した。だけど、誘拐はリスクが高い。また、視える体質の人間を見分ける術など集落の人々は持っていない。だからと言って、この世ならざる者である子狸に生贄を用意させるのは不可能」


 『複数人となれば、尚更』と零し、リンはおもむろに天井を見上げる。


「なので、久世は『風来家というところにはたくさん視える体質の人間が居て、霊媒師をやっている。だから、何かしら怪奇現象をでっち上げて依頼すればあちらからやってくるぞ』と言ったんだ」


「それでものの見事にしてやられた、と」


「悔しいけど、そういうことになるね」


 やれやれと(かぶり)を振って嘆息し、リンはトンッとテーブルに手を置いた。

かと思えば、少しばかり表情を険しくする……いや、引き締めると言った方がいいか。

『随分と空気が重いな』と苦笑する俺を前に、彼はこちらを向いた。


「あちらとしては、風来家を弱体化……最低でも依頼を受けられない状態にして、氷室組の協力を断るよう仕向ける算段だったみたい。それで、自分は海外に逃亡。そこまですれば、さすがに追って来れないからね。でも────」


「────わりとあっさり解決してしまった上、久世の動向も割れた。ついでに風来家も敵に回した。あっちとしては、大誤算だろうね」


 例の如く最後のセリフ(美味しいところ)を持っていき、悟史は小さく笑った。

『全部裏目に出ててウケる〜』とでも言うように。


 まあ、子狸や集落の人々に儀式方法を授けてまで時間を稼ごうとしたのに、全部空振りどころか逆効果じゃな……一周まわって笑えてくる。


「久世ってやつは本当に馬鹿だなぁ。余計なことをしなければ、もうちょい長生き出来ただろうに。一番面倒なやつと一番厄介なやつを怒らせやがって」


 『お気の毒様』と嘲ると、悟史とリンが微かに反応を示した。

こちらをじっと見つめながら微笑み、少し身を乗り出す。


「ねぇねぇ、一番面倒なやつって僕のこと?」


「じゃあ、一番厄介なやつは僕かな?」


「そうだ」


 特に隠すことでもないので大きく首を縦に振り、俺は認めた。

すると、二人は呆れたような……半ば感心したような表情を浮かべる。


「壱成って、本当に裏表がないというかなんというか……」


「デリカシー皆無だよね。馬鹿正直とも言うのかな」


「お前らにおべっか使ったところで直ぐにバレるから、使わないだけだ。一円にもならないしな」


 『時間と労力の無駄』と言い切り、俺はチラリと写真を見た。


「それより、久世の方はこれからどうやって対処していくつもりだ?」


「とりあえず、海外に高飛びは出来ないよう空港に人を配置している。捜索の方は……」


「風来家で請け負うつもりだよ。顔と名前は判明している訳だし、占いで地道に見つけていく予定。日本全土となると、捜査範囲が広すぎて一発で居場所を特定するのは不可能だけど」


 『まずは東西南北どの方角に行ったか、占うかな』と零し、リンは一つ息を吐いた。

“今”、対象がどこに居るのか何をしているのか特定するのは風の気の得意分野だが、一日にそう何度も占える訳じゃないため長期戦を覚悟しているのだろう。

まあ、それでも人海戦術で見つけるよりは早いだろうが。


「そうか。まあ、頑張ってくれ」


 あくまで他人事のため適当に励まし、俺は封筒を持って立ち上がった。

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