表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/52

風来凛斗の依頼

◇◆◇◆


 ────東雲柚子の依頼から、一週間ほど経過した頃。

俺は突如として、幼馴染みの風来凛斗に呼び出された。

それも、風来家の本邸に。

いつもは大体通話一本で済ませるか、外の料亭などを貸し切りにして会っているのに。

『余程重要な案件なのか』と身構えながら、俺は縁側に腰掛けリンの話に耳を傾ける。


「はぁ……それはまたなんというか、きな臭い案件だな」


「そうなんだよね。だから、とても困っているんだ」


 そう言って、隣に座る白髪の男はカチャリと眼鏡を押し上げた。

レンズ越しに見える金色がかった瞳を怪しく細めながら。


「という訳で、セイちょっと頼まれてくれるかい?」


「何が『という訳で』なのか分からんが、お断りだ」


 『絶対ろくなことにならない』と吐き捨て、俺はリンの頼みを突っぱねた。


 幸い、今はお金に困っていないからな。リンの依頼を無理して、引き受ける必要はない。

まあ、いつも世話になっている身としては少々心苦しいが……でも、この業界は同情心でやっていけるほど甘くないから。

仏心を出したばかりに、命を落とした……なんてケースはザラにある。


 『安請け合いはしないに限る』と考え、俺は縁側から立ち上がった。

と同時に、リンが口を開く。


「百万」


「……はっ?」


 思わず呆然と立ち尽くしてしまう俺に対し、リンは不敵な笑みを浮かべた。


「ついでに行方不明になった(・・・・・・・・)ウチの部下(・・・・・)を一人連れて帰ってくるごとに、十万上乗せしよう」


「……」


 基本ケチなリンが七桁の報酬金額を提示したことは、今までない。

つまり、それだけヤバい案件ということ。

ますます引き受けたくなくなるが……七桁の金額を放棄するのは、ちょっと惜しい。


 つい金に目が眩んでしまう俺は、顎に手を当てて悶々と考え込む。

『百万あれば、寿司を食える……』と悩み、小さく唸った。

すると、リンがスッと目を細める。


「風来家は今回の件を全面的にバックアップする。物資の提供や貸し出しはもちろん、送迎だって行おう。本当にヤバそうなら、僕も出張るし」


「……お前が?」


「ああ。セイでも無理なら、それこそ次期当主たる僕くらいしか解決出来ないだろう?」


 『他の奴じゃ、歯が立たない』と言ってのけ、リンは和服の裾に手を入れた。

かと思えば、白い布袋を取り出す。


「僕お手製のお守りだよ。本当にどうしようもなくなったら、これを使うといい」


「……サンキュ────って、俺はまだ一言も『やる』なんて言ってないんだけど!?」


 何故か承諾する方向へ話が進んでおり、俺は思わず受け取ったお守りを握り締めた。

その際、ちょっと硬い感触が。


「何入ってんだよ、これ」


「それは開けてからのお楽しみ。それより、送迎はどうする?」


 もはや行くことは決定事項のようで、リンは交通手段について問うてきた。


 なんだか釈然としないが……まあ、いい。

ここまで食い下がってくるなら、引き受けてやる。


「途中まででいいから、送ってくれ。帰りは、まあ……自分で何とかする。いつまで掛かるか、分かんねぇーからな。あと────報酬金額は二百万にしろ。絶対、百万じゃ割に合わねぇ」


 と、宣言した数時間後。

俺は林道沿いにある山間の集落の近くで、車を下りた。

送ってくれた風来家の人間に軽く礼を言い、目的地の集落へ足を向ける。

と同時に、肩を叩かれた。


「ねぇ、僕のことを置いていくなんて酷くない?壱成」


 そう言って、振り返った俺の頬を(つつ)いたのは弟子の悟史だった。

後ろには、及川兄弟の姿もある。

どうやら、ここまで付いてきたらしい。


「何でお前らが居る……」


 今回の案件は色んな意味で未知数のため、敢えて声を掛けなかったのだが……バッチリ顔を揃えている。

『リンから話が行ったのか?』と首を傾げる中、悟史は大きく胸を張った。


「壱成のスマホに仕掛けた追跡アプリで、付いてきたんだよ」


「堂々と言うことじゃねぇ……てか、いつの間にそんなの……」


 慌ててスマホの中を確認する俺に対し、悟史は何故か得意げに笑う。

『アプリを隠すアプリまで入れてあるから、バレないよ〜』と口にしながら。


「いやね?最初は『風来家からの帰り道に、どこか寄っていくのかな?』と思ったんだよ。でも、どんどん自宅から遠ざかっていくからさ。これは確実に何かあるなって思って、仕事を抜け出してきちゃった」


「『きちゃった』じゃねぇーよ、仕事しろ」


 『可愛く言っても無駄だ』と叱りつけ、俺は目頭を押さえる。

と同時に、深い深い溜め息を零した。


「とにかく、今回ばかりは同行を許可出来ない。あの風来家ですら、手を焼く案件なんだよ。だから、大人しく帰れ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ