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儀式の正体

「信じられない気持ちは分かりますが、俺の予想は多分合ってますよ。神聖で美しいものだけが、神とは限らないので。特に日本はあらゆるものを祭り上げ、神として崇めてますから。ほら、祟り神や疫病神なんて言葉もありますし」


 悪霊を神格化して怒りを鎮めようとする手法も昔からあるため、アレが神じゃない根拠はどこにもなかった。

もちろん、そう思った要因は他にもあるが。


「あと、高宮二郎さんのやっていた降霊術。これ、何かの儀式に似ていると思いませんか?」


「えっ……?」


「神社のお参りですよ。二礼二拍手一礼って言葉、知りません?」


「あっ……!」


 『言われてみれば!』と納得し、高宮二郎は大きく瞳を揺らした。

衝撃のあまりまた腰を抜かしそうな彼に、俺は言葉を続ける。


「多分、この降霊術は神様を降ろす儀式の一つなんだと思います。と言っても、成功率は極めて低いため、基本何も起きませんが……でも────風の気を持つ(・・・・・・)貴方は違う」


「か、風の気……?」


「霊力に宿る属性みたいなものだって。他にも、火水土があるよ」


 さっき習ったばかりの知識を披露し、悟史は少し得意げ。

まあ、そんなの初歩中の初歩なんだが。


「風は謂わば、空気ですよね。そして、空気はどこにでも存在する。つまり、風の気を持つ者はあらゆる空間と繋がりを持てる立場にあるんです」


「は、はあ……?」


「だから、風の気を持つ者は降霊術などが得意なんです。もちろん、個人差はありますが」


「えっと、要するにこの人は風の気を持っていたから降霊術に成功しちゃったってこと?」


 高宮二郎を指さして尋ねてくる悟史に、俺は『そうだ』と頷いた。


「あと、降霊術について何点か補足するが、高宮二郎さんの使用した方法は自分の体に神様を憑依させるタイプだ。『食べられた』という解釈は恐らく間違いで、体を乗っ取られそうになったんだと思います」


「なっ……!?」


 ただ背後霊のような感じでくっついているだけだと思っていたのか、高宮二郎は表情を強ばらせる。

想像以上に危ない事態だったと悟り、ゆらゆらと瞳を揺らした。

『私はどうなるんだ……』と狼狽える彼の前で、俺はフッと笑みを漏らす。


「でも、不幸中の幸いだったのは強力なお守りがあったこと、それから────封印されている(・・・・・・・)神が相手だったことです」


「ふ、封印……?」


「はい。そうでもなきゃ、こんな中途半端な憑依にはなりませんし、御札程度で退きません。本来であれば、現世に干渉することも出来ないほど頑丈な封印を施されているのかと。でも、貴方がうっかり降霊術でこちらとの繋がりを作ってしまったから……」


「す、すみません……」


 身を縮めて俯く高宮二郎は、かなり反省しているようで覇気がない。

いくら素人とはいえ、不味いことをした自覚があるらしい。

すっかり意気消沈している彼を前に、俺は腰に手を当てた。


「で、ここからが本題なんですが────貴方には神上げの儀式と縁切りの儀式、どちらか……もしくは、両方をやっていただきます」


「えっ!?私が!?」


「はい。まあ、後者についてはあまりやらない方がいいんですけどね」


 『封印されている状態とはいえ、相手は神だし』と肩を竦め、俺は人差し指を立てる。


「まず神上げの儀式についてですが、こっちは簡単に言うと降霊術……神降ろしの儀式で呼び出した神をあるべきところへ帰す儀式です。ただ、こちらは神本人の同意を得られなければ成立しません。なので、正直成功するかどうか微妙なんです」


 『あと、基本呼び出した本人にしか出来ない儀式です』と言い放ち、俺はもう一本指を追加した。


「次に、縁切りの儀式。これはその名の通り、特定の物や者と縁を切る儀式です。こちらは俺や悟史がやっても問題ありませんが、高宮二郎さん本人にやってもらった方が確実です」


「それは当事者だから?」


 コテンと首を傾げて尋ねてくる悟史に、俺はすかさずこう答える。


「それもあるが、一番は風の気を持っているからだ。風は時に刃のような鋭さを持っているだろ?だから、何かを切るというのは得意分野なんだよ」


「へぇー」


 しげしげといった様子で相槌を打ち、悟史は両腕を組んだ。

かと思えば、大きな溜め息を零す。


「やっぱ、風の気が良かったなぁ」


「こればっかりは運だから、諦めろ」


 『生まれつきのものなんだ』と語り、俺は高宮二郎へ目を向ける。

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