08話 訓練するのも、楽じゃない。
最近、モチベーションが高い。
いいことです。
それから2週間くらいが、経過した。
第一騎士団の元で、訓練をする毎日。
俺の戦闘スタイルとしては、神位スキルを主に、活用していくのがいいとのことだ。
アンジェと違い、俺の神位スキルは、欠点を除けば、コスパも良く、長く使える。
欠点の視力だって、発動を解除すれば、瞬時に元に戻るし。
護身用に、剣の訓練もしているが、これは最低限でいい。
だって、スキルを使ったら、刃物なんて簡単に砕けるからね。
簡単な話だ。
当たる前に、折っちゃえばいい。
それを可能とする、上位スキルの【身体強化】だ。
見えさえすれば折れるので、ほぼ勝ちゲーだ。
下位スキルの【結界】も、【防護結界】に進化できた。
これで、アンジェの一振りを喰らっても、死にはしないらしい。
実際に当たりはしてないし、そんな実験も、するつもりは毛頭ないけど。
そして俺は、この訓練期間に、下位だけど、魔法のスキルもいくつか覚えた。
城内には、魔法師団もいたみたいで、そこで簡単なものだけ習ったのだ。
そこの人たちも、多くは戦争で出払っていたため、あまり人数はいなかった。
だがマリー様の願いもあってか、残った魔法師団の人たちは、快く俺に教えてくれた。
魔力の流れや、イメージなどを教えてもらい、俺は2週間で、【雷球】【雷鳴】【雷槍】を習得した。
2週間でこの数は中々すごいと、褒めてもらった。
だが、気になることが一つ。
俺の雷魔法は、全て赤かったのだ。
固有魔法の【緋雷の獣】が赤い雷なのは、固有魔法だからで、解決したけど、今回のは全て一般の魔法スキルだ。
赤いものなんて、見たことないそうな。
これも結局のところ、原因不明だったので、固有魔法に影響したのだろう、とういことに落ち着いた。
ただこれだけ訓練続きだと、俺も気が滅入ってくる。
今日も訓練でへとへとだ。
俺は重い足で、訓練場をあとにする。
「・・・・・!
お兄ちゃん、訓練はもう終わったの!?」
「・・・おう!待っててくれたのか、エフィ?ありがとな。」
この少女はエフィ。
最近9歳になった女の子だ。
1週間ほど前に城にやって来た、奴隷たちの一人だ。
そう。
この国・・・というより世界では、奴隷制度が広く普及しているらしい。
この国も例に漏れず、『奴隷』という地位がある。
最初に奴隷を見た時、ギーシャさんに詰め寄ったことを思い出す。
〜〜〜〜
「この国、奴隷がいるんですか!?」
「ああ。この国というより、世界中に、奴隷はたくさんいる。」
俺はギーシャさんの言葉に、耳を疑った。
あり得ない、といった俺の顔を見て、ギーシャさんは諭すように言う。
「他の国のことは知らない。
だが少なくとも、この国では、生まれた瞬間に、やるべきことがある程度決まる。
私であれば、女王様をお守りすることだ。
貴族の息子は貴族として生きるし、パン屋の息子はパン屋を継ぐ。
奴隷の子だって奴隷になる。
何か特別な力があれば別だが、なければレール通りの人生だ。
みんなやるべきことをやる。
私も貴族も、パン屋も奴隷も、そこは変わらない。
それがここの常識だ。
どうか受け入れてくれ。」
・・・・この国の常識。
確かに、ここは異世界だ。
俺が一人で、おかしいなんて言っても、それは俺が変なだけだ。
「それに、奴隷だからと、ぞんざいに扱われたりはしない。
社会的地位が低いのは確かだが、奴隷にも仕事があり、それをこなしてもらうだけだ。」
「そうなんですか・・・。
前の世界でのイメージでは、殴られたり、蹴られたり。
休みなしで、無理やり働かされたりとかだったので・・・。」
「そうか。
この国でそんなことをしている者がいたら、即刻捕まるな。」
〜〜〜
ギーシャさんの説明で、ある程度、奴隷の理解はした。
だが納得したかと言われれば微妙だ。
まあ、とやかく言ったところで、変わるものではないので、考えないことにした。
「お兄ちゃん、大丈夫?訓練で、チヲナガシスギタ?」
「んん!?血は流してないから、大丈夫だよ。」
ぼーっとしてたから心配してくれたのだろう。
エフィが心配そうに声をかけてくれる。
優しい子だ。
だが心配の仕方が、少々、過激すぎるな。
血を流しすぎるのは、訓練とは言わないわな。
「ていうか、どこでそんな言葉覚えたの?」
「アンジェお姉ちゃんが、言ってたの。
お姉ちゃん、戦いのお話いっぱいしてくれるから。
そこで、覚えたの!」
「そうだったのか!でもその言葉は、びっくりするから、もう言わなくていいよ。」
「えーー。折角覚えたのにー!」
アンジェとは後で、話し合う必要があるな。
エフィは拗ねたような顔をしているが、素直に従ってくれる。
いい子なのだ。
エフィは人懐っこい子で、城に来てから、よく俺と遊んでいる。
小さい頃の妹を彷彿とさせて、俺としても懐かしい気持ちだ。
そもそも、エフィたち奴隷が城に来たのは、健康診断?みたいなのが目的らしい。
詳しいことは知らないが、エフィに聞いたところ、体調や病気について調べられたと言っていた。
奴隷にもそんなことをしてくれるなんて、かなり扱いが良いな。
エフィの順番は最初だったらしく、他が終わるまで、城内で自由に過ごしていた。
「それじゃ、エフィ。今日は何しようか?」
「えっとね、私、中庭に行きたい!前にも行ったけど、お花、綺麗で楽しかったから!」
「オッケー。中庭、綺麗だもんな。一緒に行こうか。」
「おっけー!!」
笑顔ではしゃぐエフィ。
ぴょんぴょんと、その場で飛び跳ねている。
『オッケー』の意味はよくわかってないらしいが、俺の真似をして、使っているらしい。
中庭に行く道中。
俺たちは、金髪、猫耳、獣人のアレクとすれ違った。
ここで訓練している日々で。
俺は何度か、アレクと会っている。
最初に会った時は、嬉しくて、話しかけようとしたが、アレクは忙しいらしい。
軽い会釈だけして、歩いて行ってしまった。
まあ、仕事の邪魔しちゃ悪いしな。
それからは、会うたびに挨拶している。
エフィが来てからは、エフィが手を振ったりするので、アレクも少し笑って、手を振り返してくれるようになった。
「アレクさんだー。こんにちわー!」
「よう、アレク。仕事、お疲れ様。」
アレクは手を振ってエフィに答えてくれる。
俺にもお辞儀してから、やはり忙しそうに、行ってしまった。
「アレクさん、今日も静かだったねー。」
「アレクは喋れないからな。でもいつか、一緒に遊べると良いな。」
「うん!今度遊びに、誘ってみよー!」
それから俺たちは、中庭で時間を過ごす。
その間、アンジェも中庭にきて、自分の武勇伝を語り出そうとした。
「お前それ、エフィの教育上、悪いから、今後禁止な!」
「えーーー!」
「えーーーーーーー!」
アンジェとエフィが悲しそうな顔をする。
特にアンジェは、世界の終わりみたいな顔をしている。
どんだけ話したいんだ、こいつ・・・。
「話をするにしても、表現はマイルドにしてくれ。」
こいつはどうでもいいんだが、エフィの悲しそうな顔に負けて、折れてしまった。
こんな感じで、最近の俺の1日は終わる。
城の人たちの計らいで、夕食は、俺とアンジェ、エフィで一緒にする。
それからは、各自の部屋に戻って、眠りについた。
***
夜。
このところ毎日、同じような夢を見ている。
一人の騎士が、マリー様に跪く夢。
この夢を見ると、やはり、マリー様に忠誠を誓えと、焦らされる。
しかも、最初は寝てる最中や、寝起きだけだった。
だが、ここ最近は、起きてる日中でも、この思考に陥ることがある。
ふとした瞬間、突然に思い出すのだ。
それからしばらくは、その事で頭を埋め尽くされる。
それに最初は、ただ焦らされてる感じだけだった。
しかし今では、この考えになるだけで、とても苦しい。
呼吸も上手くできなくなり、汗が止まらなくなる。
もういっそのこと、忠誠を誓ってしまおうか・・・。
そんな事を考えると、それはダメだと踏み止まる自分もいる。
マリー様には失礼な話だが、『マリー様に忠誠を誓う』ことに対して、強い嫌悪感を抱いているのだ。
だから、やはりこの夜も、長く、苦しい、軽い拷問のような時間を過ごした。
***
それからさらに数日。
相変わらず、例の夢に苦しめられてはいる。
それでも、体は眠れているようなので、元気に振る舞っている。
そろそろ、精神的に辛いものがあるが・・・。
そんなこんなで、魔物を討伐に行く日がやって来た。
これまで、訓練でしてきたことをぶつければ、余裕だと言われた。
なんか部活みたいだ。
まあ、最初に竜を倒してるしな。
ネックなのは、気持ちの方だ。
俺が、魔物への恐怖心と、殺しへの忌避感を克服できればいい。
これまで一緒に訓練してきたサバロスさん、アンジェ。
そして、サバロスさんの部下2人、計5人で森へ向かった。
そういえば、城の外に出るのは、これが初めてだな。
城の中から、見てはいたけど、毎日訓練で、忙しかったからな。
でもいつか、行ってみたいと思っていた。
なんならこのまま、魔物の討伐なんてやめて、街の散策がしたい。
許されるわけないけど・・・。
門番に出る旨を伝えて、俺たちは森に入る。
「いいですか、ナズさん。
このへんの魔物は、基本的には弱い奴らばかりです。
ただ稀に、強力な魔物も出現することがあります。
これには、いろんな要因がありますが・・・・。
ナズさんが倒したという、<装甲竜>も、そのケースです。
なので、今日、強力な魔物に出会う確率は、とても低いでしょう。
大丈夫、弱い魔物ばかりですよ!」
サバロスさんが説明してくれる。
その間も、俺たちは、森の深くへ、入っていく。
曰く、国を囲む壁には、魔物を近づけない特殊な技術が使われてるらしい。
これも、魔巧帝国から、もらい受けた技術だそうな。
「出てきた魔物は、基本的に全て、ナズさんに倒してもらいますよ?」
「はい、サバロスさん!俺も覚悟は決まってるので!頑張ります!」
「大丈夫!訓練通りにやりゃあ、ナズ殿には楽勝ですよ!」
「はい、ありがとーございます!」
軽く俺を励ましてきたのは、第一騎士団第2部隊の、アッシュさんだ。
チャラチャラした感じの人で、前の世界だったら、絶対に関わらない系の人だ。
もう一人の寡黙な人物は、同じく第2部隊の、モルクさん。
訓練の頃から、この人が喋ってるところは、中々見れなかった。
「ご飯を食べるみたいにやれば、簡単だ!」
とアンジェもよくわからない励まし?をしてくれてる。
「それくらい、『気楽にやりましょう』って意味だと思います。」
すかさず、サバロスさんの注釈が入った。
ありがたい。
この注釈に、訓練中も何度か、助けられた。
それから歩くこと、数分。
一匹の魔物が、俺たちの前に、現れた。
エフィを書くのが、楽しいです。