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欠陥転生者たち、そして覇道へ  作者: 朽木 庵
傀儡の城脱出編
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07話 生きていくのも、大変そうだ

たくさんご評価いただいて、とても嬉しいでございます!

 俺とギーシャさんは、無言でマリー様の元へ戻る。

 マリー様の向かいに座り、恐る恐る、顔を見てみた。


「ま、まあ、ああなってしまったものは、しょうがないわ!

 弁償なんて、気にすることないのよ!」


 と言ったマリー様の笑顔は、引き()っていた。

 いや、どんだけ高いんだよ、あの人形。

 後ろで聞いてたギーシャさんも、すかさずフォローに入る。


「そうだぞ、ナズ。

 あれに傷をつけるスキルも、少ない中で、握り潰すなんて。

 相当に、攻撃力の高いスキルだって、わかったじゃないか!」

「そうよ!耐久テストに協力した、転生者の神位スキルよりも上ってことよ。

 これはもう、喜ぶべきことよ?それにあの状態でも、まだ使えるかもしれないわ。」


 二人がすごくフォローしてくれる。

 その気遣いで、逆に申し訳なくなってしう。

 でも、あの人形、まだ使うつもりなのか・・・。


「他の国にも、転生者っているんですか?」


 気まずくて、俺は話題を変えた。

 ちなみに後日、第二騎士団の一人が、ふざけてあの人形を叩いたところ・・・・・へし折れたらしい。

 俺、知らないから、そんなんこと!!


「ええ。大きい国には、それぞれ2、3人ほどいるわ。

 それに、まだ確認できてないだけで、他にもいる可能性だってあるわ。

 ただ、どの国もお互いに、いい関係とは、言えないけどね。」

「それって、今も戦争中ってことですか?」

「そうよ。この国も他人事(ひとごと)ではないわ。

 自国を守るために、軍事力の強化は、最重要事項なのよ。」


 そうだったのか。

 平和な時代を生きてきた俺は、戦争なんて、話の中だけでしか知らない。

 けどこの国は、今だって、戦争の真っ最中なのだという。


「そこでね、ナズ。あなたにも、この国を守るために協力してほしいの。

 私にとって、あなたはもう、この国の一員よ。

 生活の保証もするし、転生者でも、生きていけるようにサポートするわ!

 だからナズも、私たちに力を貸してくれないかしら?」


 確かに、俺がこの先、生きていける保証はない。

 それに、マリー様にはこれまでよくしてもらったし、他の人たちも皆、親切だ。

 同じ転生者のアンジェだって、幸せそうにしてるし。

 だけど・・・。


「すいません・・・・俺。

 前の世界で、戦ったこともないし、なんなら、まともに喧嘩もしたことないんです。

 素人の俺が、役に立つかどうかも怪しいし・・・・・。

 何より、人を殺せる気がしません・・・・。」


 これが俺の本音だ。

 どんなにすごいスキルがあっても、人に向かって撃てるかと言われれば、無理だろう。

 申し訳なくて、たまらず、俺は顔を伏せる。

 だが、マリー様は怒ってはいないようだ。


「そう、大丈夫よ。ナズが出来ないというなら、無理強いはしないわ。

 ・・・・だったら、魔物相手なら、どうかしら?

 国周辺の魔物を退治してくれるだけでも、私たちはすごく、助かるわ!」

「それは・・・・・・」


 俺は答えに言い淀む。

 魔物って、あのドラゴンとかってことだろ?

 それだって、もちろん怖いよ。

 怖いし、出来るだけ、殺しもしたくない。

 ・・・・・でも、この世界で、生きていくってのは、そういうことなのだろう。

 マリー様も譲歩(じょうほ)してくれてるんだし。

 これを断ったら、追放されそうだしな。

 わがまま過ぎて。

 俺も覚悟を決めよう。


「・・・・はい!それだったら、俺も頑張ります!」


 俺は自分に言い聞かせるように、言い放つ。


「よかったわ。これが断られたら、もう文官になるくらいしかなかったのよ!

 ナズに文官をやらせたら、宝の持ち腐れよね!」


 ・・・・今からでも、文官になれないだろうか。

 早速、俺の覚悟がぐらついてしまった。


「それじゃあ、この先は、城にいる第一騎士団に参加しなさい。

 スキルの解析や習得、あと、戦闘訓練なんかも受けるといいわ。

 大丈夫、魔物なんて、すぐに倒せるようになるわよ!」

「わかりました。俺も役に立てるように、頑張りますね。」

「ええ。期待してるわ。この国と、私のために頑張ってね?」


 マリー様は冗談めかしく笑う。


「はい!」


 という俺の返事にも満足そうだ。

 本当は、戦うよりも、文官の方になりたかったというのは、心にしまっておこう。



 ***



 こうしてこの日は、日が暮れた。

 あの後、俺はメイドさんの案内で、第一騎士団がいる訓練場に案内された。

 明日からここでお世話になるらしい。

 期待に胸を膨らませる。

 そこにはアンジェもいたので、折角だし、訓練の見学をしてきたが・・・。

 アンジェが見たこともないスピードで、大剣を振るっていた。

 それを受ける騎士の人も、余裕綽綽(よゆうしゃくしゃく)といった感じだ。

 剣からは、火花なんかが飛び散っていて。


 ・・・・俺、ついていけるのか、あれ。

 胸を膨らませていた期待は、胃を貫通させる不安に変わっていた。

 出来るだけ、優しく教えてもらおう。



 その日の夜。

 変な夢を見た。

 マリー様に(ひざまず)く騎士。

 それを遠くで見ている夢。

 ギーシャさんかな?なんとなく。

 顔は見えないけど、すごく忠誠を誓ってるようだ。

 俺も、マリー様のことは親切な人だとは思ってる。

 けど正直、命を投げ出すほどは、忠義はない。


 しかし、その騎士を見ていると、なぜか自分も、忠誠を誓わねばと、焦らされる。

『そんな必要ない』と思う自分と、『早く忠誠を誓え』と思う自分。

 それが頭を悶々と駆け回り、その日はぐっすり眠れなかった。

 折角のいいベッドが勿体無い!



 ***



 次の日。

 少し遅めの朝食をとる。

 寝不足ってわけじゃないけど、なんか疲れているな。

 逆に、寝過ぎたのかな。


 そんなわけで、少しゆっくりしてから、俺は、訓練場へと足を運んだ。

 訓練場に着くと、一人の男が声をかけてきた。


「おはようございます!ナズさん。待ってましたよ。」


 この人は、サバロスさん。

 第一騎士団の第2部隊、その隊長さんだ。

 フルネームは忘れてしまったが、お貴族様だそうだ。

 第一騎士団には多くの貴族が所属していて、これは、長男がいて後を継げない貴族たちが、貴族ゆえの高い魔力量によって、平民出身の人よりも、強いためらしい。

 そんなサバロスさんも、どこかの貴族の3男だそう。


 ちなみに、第一騎士団の団長、副団長は、絶賛、最前線で奮闘中らしい。

 そのため、城に残っている隊長のサバロスさんが、俺の戦闘の指南をしてくれる。


「それでは早速、ナズさんのスキルがどういったものか、そしてナズさん自身の、基礎戦闘能力、向上のための訓練をしていきましょうか!

 同時進行で、いきますよ!時間は限られてますから!」


 そこから俺は、自分の持ってるスキルの理解に(つと)めた。

 俺の神位スキル。

森羅ヲ破壊スル力(ア・レース)】は、使用時、目に映ったものに力を加える、といったスキルだった。

 念力みたいな感じだ。

 シンプルだが、強力なんだそう。

 ただこのスキル。

 使用すると、(いちじる)しく視力が下がるという欠陥があった。

 ここで、近くにいたアンジェが口を開く。


「ナズの神位スキルは、視力が下がるのが欠点なのか。」

「みたいだな。アンジェにも欠点があるのか?」

「ああ、ある。私のは使うと、体の体温が奪われる。

 冷え性の私に、これは辛いんだ。だから長期戦なんかは向かないな。」


 へー。アンジェにもあるのか、欠点。

 ていうか、アンジェの神位スキルはどんなんなんだ?


「なあ、お前の神位スキルって、どんな感じの能力なんだ?」

「そういえば、ナズは知らなかったか。ここで使ってみせようか?」

「おお、やってみてくれ!」


 すると、俺たちの会話を聞いていた、サバロスさんが、急いで止めに入った。

 他に訓練していた騎士団の人たちも、凍り付いている様子だ。


「冗談はよしてくださいっ、総団長!

 ここであなたに神位スキルを使われたら、死人が出るかもしれないでしょ!」

「そうか?死なんように調整はするが・・・。まあ確かに、危ないかもな。

 すまんナズ。やっぱなしで。」

「ああ・・・、別にいいけど・・・・。」


 こいつのスキル、どんだけ危ないんだ。

 死なないように調整しても、事故が起きるかもとか。

 あのまま使われてたら、俺ももしかして・・・・。

 嫌な予想と共に、寒気がした。


「私の神位スキルはな、【冥府へ続ク扉(ハ・デース)】というんだ。

 指定した場所に、ブッラックホールみたいなのを出すぞ!」


 ・・・さらっとエグいことを言いやがる。

 それに吸い込まれてたら、ただじゃ済まないだろ、絶対。


「ブラックホールが何か、私にはわからないんですが、ナズさんはわかったんですか?」

「あ、はい。なんとなく、どんなスキルかわかりました。

 でも、だとしたら、だいぶヤバいスキルですよね?」


 この世界では、あまり宇宙のこととか、知られてないっぽいな。

 それより、アンジェのスキル。

 殺しに特化し過ぎてないか?

 俺は、サバロスさんに聞く。


「そうですな。総団長のスキルは、他の神位スキルに比べても、殺す能力はピカイチでしょう。

 ただ、出せる範囲はあまり広くないのと、本人の体温が下がっていくので、長くは出せませんが・・・。

 しかし、本人がスキルに吸い込まれることはないし、やはり強力ですね。」


 アンジェは他にも、魔法系スキルが使えるようで、それと組み合わせたら、かなり強いらしい。

 敵じゃなくてよかったと、サバロスさんも言っている。


 (いわ)く、神位スキルには、強力な力がある反面、それを使う上で、欠陥があるようだ。

 俺なら、視力が下がるとか、アンジェなら、体温を奪われるとか。


 それからも、俺のスキル研究は進む。

 そして一つ、面白いことがわかった。

 俺の神位スキルは、使うと視力が悪くなるが、一度見えたものは、少しの間、遠くでも見えるようになる。

 大体、2、3秒だろうか。

 その間だったら、見えてなくても(目を瞑っていても)、力を加えられるっぽい。


 さらに極位スキル【緋雷の獣(ブロッディバーク)】の研究をするが。

 これは、発動まで時間がかかる代わりに、威力の高い魔法系スキルらしい。

 それだけだって。

 魔物相手なら、かなり有効な手段だと言われた。


 一通り研究が終わると、基礎戦闘訓練に移る。


「私たちは戦うとき、基本的に、【防護結界】を(まと)って戦います。

 そこからさらに、強化系のスキルを発動する人もいます。

 ただ、強化スキルは全員持ってるわけではないです。

 逆に、【防護結界】なら、魔力を持つものなら全員、習得できます。

 ナズさんにはまず、【防護結界】の習得に(はげ)んでもらいますよ!」


【防護結界】は自身の体に流れる、魔力を操作して作るようだ。

 素人の俺は、魔力を操作することから始めた。

 魔力は体の中に溜まっていて、スキルを使うときなんかに操作するらしい。

 一度覚えたスキルは、その後、体が魔力の流れを覚えて、意識しなくても使えるようになるんだとか。

【防護結界】はその魔力を、血液みたいに体に循環させて、行うイメージらしい。


 説明は聞いてみたものの、いまいちピンとはきてない。

 まずは、魔力を感じることかららしいけど、どうやってやるんだ。

 訳がわかってない俺の顔を見て、サバロスさんが、口を開く。


「転生者にとって、分かりやすい説明があると、聞いたことがあります。

 確か、『オーラを出す』?ようにすればいいらしいですよ。」


 ・・・・なるほど。オーラか。

 中二の時に練習したな。

 よく、虹色のオーラを出したものだ。(実際には出てない)

 たくさん汗をかいた冬の日に、体から白い湯気が出ていたときは、感動したなぁ。

 俺はあの時の再現をしてみることにした。


「ふんっ」


 俺はその場で、踏ん張ってみた。


「・・おおおっ。出来てまよナズさん!ちゃんと魔力が放出されてます!」

「ほ、本当ですか!?な何色ですかね?虹色ですか!?」

「いや、何色かって言われても・・・。透明ですかね。」


 そうか。

 あの時のイメージが功を奏して虹色に・・・なんてことはなかったらしい。

 だが自分が実際に、体からオーラが出ているというのは、興奮するな。


「私は、『オーラを出せ』なんて言われても、よくわからんかったから苦労したぞ。」

「まあ、これは日本人の特権てやつだな。一部の海外の人は、わかるかもしれないけど。」


 そして、サバロスさんの熱血指導が始まる。


「じゃあその魔力を、体の中でぐるぐる回してみてください!イメージして、動かしてみて!」

「こ、こうですか?」

「もっと隅々まで!」

「・・・こうですか?」

「手足から、頭の先までですよ!」

「・・・・こうか?」

「もっと魔力を流して!」


 格闘すること数十分。

 バチンッ。

 体の中で何か弾ける音がした。


「おお!成功しましたよ、ナズさん。

 下位スキルの【結界】を習得できたみたいです。

 あとは、練習して、より多くの魔力を、より精密に扱えたら、上位スキルの【防護結界】を習得できるはずです!

 大丈夫です。魔力量は十分にありますから!」


 成功したっぽい。

 俺もスキルを確認してみる。

 ・・・・確かに、獲得できたみたいだ。

 やったぜ!


「ではこの調子で、戦闘訓練、ビシバシやっていきますよ!」

「え・・・・・・・。」


 優しくして下さいと、伝え(そこ)ねていた。

ステータス

 名前:アンジェリーナ・イネッサ

 種族:人族

 魔力量:S +

 スキル:神位スキル【冥府ヘ続ク扉】(ハ・デース)(固有)

     

     極位スキル【氷ノ権能】(アイスエクソシア)(固有魔法)


     上位スキル【身体強化】【防護結界】【言語理解】(強化)


     下位スキル【水弾】(ウォーターバレット)

          【水刃】(ウォーターカッター)(魔法)


 魔法適正:水・氷

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[良い点] 他国と戦争中の状態で、しかもそうした国にも主人公と同じ転生者が存在する状況…どう関わり合っていくか気になります。
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