05話 すごいスキル・・・らしい。
アンジェの城案内が終わり、食事を済ませる。
その後、俺たちはメイドさんが淹れてくれたお茶を飲んで、一息ついていた。
そこにギーシャさんがやってきた。
今回は、あのでっかい剣は持っていないようだ。
まあ、いつも持ってたら疲れるよね。
ギーシャさんは、俺が倒れた後のことを教えるために来たらしい。
「そもそも、我々が君に気づいたのは、城外の森から莫大な魔力反応が感知されたからだ。敵国の攻撃とも考えられたが、感知部隊によると、一人の人間から発せられているものだとわかった。数年前にも似たようなことがあったのでね。すぐにピンときたよ。」
「そう、私の時だ!私も騎士団たちに取り囲まれたが、その時は弱っていたので、おとなしく捕まったんだ。だが、ナズみたいに魔力切れで、倒れたりなんかはしてなかったぞ!」
若干、ギーシャさんが渋い顔をしたが、何かは聞かないでおいた。
それよりも気になるワードが出てきたな。
「・・・・?魔力切れ?」
なんのことかわからなかった。
確かにあの時は、眠くて倒れていたが・・・。
「ナズ、あの時、異常に体がダルかったんじゃないか?体に力が入らず、眠気もひどい。そんな状態ではなかったか?」
「そうなんですよ!あの時はもう、眠くて眠くて、仕方がないって感じでした。」
「それが魔力切れという状態だ。君はこの世界に来てから、常に、大量の魔力を体から放出していたんだ。そして、あの<装甲竜>を殺した時に、その魔力も底が尽き、魔力切れの状態となったのだろう。」
なるほど。
だからあんなに眠かったのか。
あと、あの黒いドラゴン、そんな名前だったのか。
「え・・・ていうか。あのドラゴンって俺が倒したんですか?ていうか死んでたんですかっ!」
少し声が上擦ってしまった。
「?ああ。状況から見て、それしかありえん。ナズがスキルを使って殺したんだろう?それも一撃で。」
「いや、俺は、歩いてたら急にドラゴンと遭遇して、、、、怖くて、必死になって逃げてただけなんで・・・。」
「まあ、必死だったのは向こうも同じだろう。何せ、膨大な魔力を体から吹き出して、こちらに向かってくるんだ。ドラゴンも相当警戒していたに違いない。本当に恐怖していたのはドラゴンの方かもな。」
俺の方が怖かったに決まってるだろ!
何言ってんだ、このおっさん!
いや、でも、まさか・・・。俺が本当にドラゴンを殺してるなんて。
虫でさえ、あんまり殺したことなんてないのに。
猫より大きい生き物なんて、殴ったりすらもしたことない。
だからだろう。
一つの生命の、命を奪ったという事実に手が震える。
この辺の感覚はアンジェも一緒なのだろうか?
すると大人しく聞いていたアンジェが口を開いた。
「装甲竜を一撃とは、すごいスキルなんだな、ナズ!」
こいつ、ニコニコと笑顔で、俺のスキルを褒めてきた。
全く、俺の心境がわかってないご様子だ。
まあ、あまり期待していなかったが。
だが、聞けば流石にわかるんじゃないか?
「アンジェも、この世界にいるモンスターとか、もう殺したりしたのか?」
「ああ、当然だ!私だってものすごく強いモンスターや、敵国の猛者をたくさん葬ってやったぞ!!」
「それって、人もってことか!!??」
「・・・?当たり前だろう?なんせ私は、この国で、騎士団の総団長なのだからな!!」
誇らしげな顔をしている。
ダメだ、この女。完全にバグってやがる。
まさか、人まで殺ってるなんて。
いや、でも元の世界で、人を殺す系の仕事を生業としていた、という線がまだあるか・・・。
「なあ、アンジェは、前の世界でも・・・・・」
続きは、怖くて聞けなかった。
もし、普通の女の子だとすれば、それがなんの躊躇いもなく、人を殺したなんて、言えるわけないだろう。
この世界の環境、自分に宿った大きな力。
そのせいで価値観が変わってしまうのなら、それは心底、恐ろしいと思った。
だから、答えなんて知らない方がいいんだ。
てか、人を殺す系の仕事ってなんだよ。
物騒すぎるだろ。
俺が変なとこで、質問を切ってしまったため、その場に微妙な空気が流れた。
「・・・・話が少し脱線したな。戻すぞ。・・・・ナズが装甲竜を倒し、魔力切れでその場に倒れていたところを、騎士団が保護し、そこから城の部屋で、2日ほど眠っていたわけだ。」
「えっ、俺、2日も寝てたんですか!!?」
「ああ。初めての魔力切れゆえ、その回復にも時間がかかったのだ。次に魔力切れを起こした時は、もう少し、早く起きられると思うがな。」
「安心しろ!私も、この世界に来て、騎士団に捕まった時は、3日ほど目を覚さなかったらしいからな。それにしても、先ほどの食事の食いっぷりは、なかなか見事だったぞ!」
2日も寝ていたら、そりゃ、腹減るよな。
人生で一番、飯が腹に入ったやも知れん。
「これが、お前がこの世界に来て、そして倒れてから起こったことだ。理解できたか?」
「・・・・はい。・・・色々、説明してもらって、ありがとうございます。」
受け入れるのには、時間がかかりそうだが。
そんなことは言わなくてもいいだろう。
そういえば、倒れる前に金毛の猫を見たな。
それで思い出したが、あの金髪の獣人。俺のスキルを鑑定してくれたやつ。
あの獣人とも話してみたいな。
「あの、ギーシャさん。」
「ん?まだ何か、わからんことがあったか?」
「いえ、そうじゃなくて・・。俺のスキルを鑑定してくれた、金髪の獣人。あの子はなんて名前なんですか?」
「あー、獣人のことか。名前は・・・知らんな。文官の誰かに聞いてみるといい。知っているやも知れん。あれは獣人だが、鑑定のスキルが非常に高い精度で扱えるのでな。この国で文官をさせているのだ。」
・・・・・。なんか引っかかる言い方だが、たまたまか?
その場を後にして、城内ですれ違う文官たちに、獣人くんの名前を聞いてみた。
驚くことに、ほとんどの人が名前を知らなかった。
いわく、獣人はこの城内では彼一人だから、獣人と呼べばいいらしい。
いくらなんでも、それはひどくないか?
その後、やっとの思いで、名前を知ることに成功した。
「あーー、あの獣人の名前な・・。確か、アレクっていったけな。まだやつが、この城に入ったばっかの頃に、名前を教えてきてな。ほらあの獣人、喋れねえからな。紙に字書いてよ。ったく、紙は貴重なもんなんだから、無駄遣いすんなって、怒ったんだよ。その時の記憶で、名前も一応、そんな名前だったかなって覚えてたわけよ。」
本来、その獣人くん、改めアレクとすれ違えられたら、本人に名前を聞くだけで済んだのだが。
そもそもアレクは喋れないらしい。
だから、スキルを鑑定してくれた時も、ずっと静かだったのか。
にしても、喋れないやつが、紙に自分の名前を書くのは、全然、紙の無駄使いじゃない気がするが。
それほど、紙は、この世界では貴重なものなのかな。
そんなこんなで、日が暮れた。
驚きの連続だったせいか、2日も寝ていたにも関わらず、夜には当然のように眠くなった。
ベッドの寝心地は、やはり最高だった。
***
次の日。
豪華な朝食を楽しんでいると、メイドさんが、女王様との約束の時間を、伝えに来た。
軽く返事をして、部屋に戻る。
時間まで、部屋でゆっくり過ごしていると、迎えが来た。
連れて行かれた先は、広場・・・・いや修練場だろうか?
そんな場所に似つかわしくない、オシャレなティーテーブルに、女王様は座っていた。
女王様の後ろには、ギーシャさんもいる。
日を遮るためにテーブルについた傘のフリフリが、修練場とのミスマッチにひどく貢献していた。
総じて、あまり居心地のいい場所ではなかったが、絶対に口に出してはいけないことはわかる。
女王様に勧められて、向かいの椅子に座る。
「せっかく、外が晴れてるんですもの。ここでなら、スキルも使えるし、講義の場所としては、打って付けよね。」
「はい、、、、今日は、ありがとうございます、女王様。勉強させてもらいます!」
「うふふ、やる気のある生徒は、大歓迎ですよ。あと、いつまでも女王様なんて呼んでないで、私のこと、名前で呼んでくれて構わないわ。」
「じゃあ、マリー様・・・・でいいんですか?」
大丈夫か?
不敬罪に当たらないか??
「ええ、アンジェもそう呼んでくれるし、私も嬉しいわ。ギーシャは、私のこと、そう呼んでくれないのだけども。」
そう言ってマリー様は、少し顔を膨らませる。
「私は、クリスティーナ様に誓って、御身を守る盾であり続けますので。ご命令とあらば、そう呼びますが。」
「もう、そうじゃないのっ!私はもっと、気軽に接してほしいのよ!」
「そういうことならば、できませぬ。」
マリー様はより一層、怒ってみせるが、本気じゃないことくらい、見てればわかる。
マリー様が接しやすい人で、俺も緊張がほぐれた。
そして、気になる名前が出てきた。
「あの、マリー様。クリスティーナ様って・・・?」
俺は恐る恐る、聞いてみた。
「ああ、クリスティーナはね、私の姉なの。私と違って、厳格で優秀な人だったわ。けれど、敵国の謀略に嵌ってしまって・・・。お父様、前国王も一緒にね。今はもうこの世にはいないわ。お母様も、私を産んだ時に、命を落としてしまって・・・。だから王家の血は、もう私だけになってしまったの。」
想像以上に重い話を、気軽に聞いたことに申し訳なくなる。
「いいのよ、そんな顔しなくて。姉様は私の母親の代わりをしてくれたし、お父様にもたくさんの愛情を注いでもらった。私は幸せに生きてきたわ。敵国のことは許せないけれど。私はこの国を、お父様や姉様がやろうとした分まで、豊かにしていくつもりよ!」
・・・・・・なんて素晴らしい女王様なんだぁ。
こんな素敵な人の家族を奪うなんて、敵国の奴らは、どんだけ酷いんだよ。
健気に頑張ろうとするマリー様の想いに、俺は、目頭が熱くなるのを感じる。
「さあ、こんなお話はもういいから。本題に入りましょう!」
・・・切り替えの速さがすごい。
もう完全に前を向いているのか。
強い人なんだなあ。
「とりあえず、あなたのステータスを見てもらいましょうか。」
そう言ってマリー様は、俺に1枚の紙を見せてきた。
これは、獣人のアレクが、書いたものを、まとめたものだろうか?
「すみません、紙に書いてもらって。紙、貴重なものなのに。」
「いいのよ、紙くらい。たくさんあるから。そんなに貴重でもないわ。」
あれ?紙って貴重なものじゃないのか?
疑問を抱きながらも、紙に目を落とす。
そこには俺の名前や、年齢。魔力量?
そして、スキルの段階っぽいのと、その横にスキルが書いてあるようだ。
ステータス
名前:ナズミ・スグル(17)
種族:人族
魔力量:S
スキル:神位スキル【森羅ヲ崩壊スル力】(固有)
極位スキル【緋雷ノ獣】(固有魔法)
上位スキル【身体強化】(強化)
【言語理解】(強化)
魔法適性:雷