04話 他にも転生者が、いたらしい。
「・・・ああぁ、よろしく・・・・・。」
アンジェの高いテンションに、少し気圧されながらも、とりあえず返事をする。
「アンジェ。あなたも確か、自分が死んだ時の記憶はないのよのね?」
「はい!マリー様!・・・でも女神様のことは、はっきり覚えています!」
「・・・・ん?女神様?」
なんだ、こいつ。いきなり何を言い出すんだ?
アンジェはキョトンとした顔をしている。
女王様やその後ろのギーシャさんまで、俺に懐疑的な目を向けている?
「ナズ。お前まさか、あの美しい女神様のことも忘れたのか!!??」
「・・・覚えてない。」
「は〜〜〜〜。なんて失礼なやつなんだ、お前は。せっかく女神様は私たちに、2度目の人生を与えてくれたのに。それなのにお前は、その恩人の顔も覚えてないなんて!!」
覚えてないものは、仕方ないだろう。
ていうか俺、死んで間も無い人なんだから、もうちょっと優しくしろよ。
死んだとか、転生したとかで、これでも動揺してるんだぞ、今。
だがここで、俺はあることに気づいた。
「・・・・!いや待って。『2度目の人生』・・・。」
聞き覚えのある言葉。
あの光の中で聞いた美しい声。
脳裏に刻まれた言葉。『それでは、良い2度目の人生を』
「いや、もしかして俺、女神様に会ったかもしれない。声を聞いたんだ、光の中で。『それでは、良い2度目の人生を』って。これ女神様の声なんじゃないか!!?」
「おお!そうだ、私も同じことを言われた!!なんだ、ちゃんと会ってるじゃないか!なんで嘘なんかついたんだ?」
「嘘じゃなくて、女神様の姿は見てないんだよ。声、聞いただけで。だから女神様かどうかか、わからなかったんだ。」
「そうか、そうだったのか。じゃあナズは、失礼なやつじゃなくて、勿体無いやつだったんだな!女神様はとても美しくて、神々しかったんだぞ!!」
神々しいのはなんとなくわかるけど。
めっちゃ光ってたし。
てか、こいつの女神見たマウントはなんなんだ、腹立つな。
ここで、俺とアンジェの話し合いを見ていた女王様が、口を開く。
「これまでに確認された転生者は、全員、女神と会ったと言ったわ。女神の姿を見ていないのなら、転生者かどうかも怪しところね・・・。」
女王様は何か考え事をしたのか、一呼吸置いて、また続ける。
「ともかく、スキルを鑑定すれば、あなたが転生者かどうか、はっきりするわ。」
「・・・・スキル?俺そんなの、持ってるんですか?」
「ええ、あなたが本当に転生者ならね。<女神の祝福>といって、決まったスキルを与えられてるはずだわ。転生者を見抜く基準になるのよ。」
「そうなんだ!すごいだろ!!」
アンジェが自信満々に言い放つ。
「アンジェが発見したのか?この法則性。」
「いや、全然私じゃないぞ!!」
じゃあ、なんで『自分が見つけました!』みたいな顔してるんだ、こいつは。
なんでそんなに、誇らしげなんだよ!
「それじゃあ早速、鑑定しましょうか。今日はそのために来てもらったのよ。」
そう言うと、女王様は文官たちのいる方へ視線をやった。
するとその中から数人がこちらに向かってきた。
おお、なんか目立つのがいるなと思ったら、金髪の猫耳を生やしたやつが混ざっている。
これは・・・・獣人か!
しかも猫の獣人。いいね、好感が持てる。
前髪が目までかかっている。静かそうな印象だ。
たぶん男だろう。
すると猫の獣人は俺の後ろに立って、背中に手を当ててきた。
「あの・・・・これは?」
わけがわからなかったので、女王様に質問してみた。
「ああ、そのまま楽にしてなさい。スキルの鑑定はね、その人に触れて、同意を得る必要があるのよ。だからナズは鑑定に同意してくれさえすればいいわ。」
俺は頷いて、『鑑定に同意します!』と心の中で叫んだ。
・・・・叫ぶ必要はなかったのかもしれない。
少しすると、猫の獣人は文官たちの方に戻って、何かやりとりを始めた。
なにか紙に記録しているのかな。
文官たちは、猫の獣人の記録が書かれるのを見ると、興奮したようにその紙を取り上げ、女王様の方に向かっていった。
取り残された猫の獣人は、列の中に戻っていった。
紙を見て、文官たちと、そばにいたギーシャさんと少し会話をした女王様は、俺の方に視線を向けると、笑みを浮かべた。
「ナズ。やはりあなたは、転生者だったようね!転生者特有のスキル、【言語理解】【身体強化】そして神位スキルの発現がみられたわ!」
どうやら、証明できたっぽいな。
にしても、スキルか・・・・。
どうやら言葉が通じているのも<女神の祝福>による【言語理解】ってスキルが働いてるらしいな。
「女神様は優しいからな!私たち転生者が、この世界で生きていけるようにスキルをくれてるんだ!」
「へーー、そうなのか。太っ腹だな、女神様は。」
「おい、失礼だぞ、ナズ!女神様のウエストは細いんだぞ!!見てないから知らんかもしれんが!!」
「女神様のこと、デブとは言ってねえよ!」
「・・・?それならいい!」
アンジェ、こいつ女神様のことすげー慕ってるな。
ちょっとアホっぽいけど。
「それじゃあ、ナズ。今日のところは、これで解散よ。この後は同郷のアンジェと話してるといいわ。スキルやこの世界のことについては、また明日。教えてもらうといいわ。・・・アンジェ、ナズにお城の案内してあげてね。」
「わかりました!マリー様!」
「それから・・・・・、バラン。ナズにスキルのことについて諸々、教えてあげれないかしら?あなたの部下でも良いのだけれど・・。」
女王様の視線を辿ると、身なりのいい文官らしき男が、前に出てきた。
細身で、結構老けた顔だな。
穏やかそうな顔をしている。たぶん優しい人だろう。
バランさんは、チラッと女王様の方を見たかと思えば、すぐに俺に視線を向けてきた。
「初めまして、ナズさん。私がバラン・クレイスフィルです。この国で、内務大臣をしております。」
「あ・・・・初めまして・・・・ナズです・・。」
なんて自己紹介すればいいかわからなかったので、変な感じになってしまった。
バランさんは、女王様の方を向き、申し訳なさそうに口を開く。
「ナズさんにご教授したいのはやまやまなのですが、対処しなければならない問題がいくつかあり・・・・。そのため、申し訳ないのですが、そちらまで手を回せそうにありませぬ。」
「そう・・・そうね。今はみんな忙しいものね。・・・・・わかったわ。ナズ、明日は、私があなにスキルやこの世界のこと、教えることにするわ!」
「え!・・・いいんですか?女王様が自ら?」
俺が聞くと、女王様は美しく微笑んだ。
「ええ、みんな忙しいのだし、私もできることをしなくては!というわけで、時間は明日の朝食の時にでも、伝えに行かせるわ。今日はお疲れ様、ナズ。」
それから俺はアンジェに連れられて、城の中を歩いて回った。
自分の部屋も与えられたが、今度はちゃんと窓もついてて、快適そうだった。
「へーー、ナズは日本人なのか!私、日本人初めて見たぞ!!でも、ナズは日本人なのに、ちょんまげじゃないんだな?」
「・・・・現代の日本人は、いろんな髪型なの。全員がちょんまげだったのはもう、ずっと昔のことで、今は一部の人しかしてないよ。」
いまだに日本人が全員ちょんまげだと思ってるやつ、いたのか。
まあ、これでこいつも少し賢くなれたのだし、良しとするか。
「そうなのか・・・・昔の時代のことなのか・・・・。なあ、ナズ。」
「ん?」
「手裏剣、投げてみてくれよ!」
「っふ、お前もうちょっと黙れよ・・。」
アンジェのあまりのアホさに、不覚にも少し吹き出してしまった。
目をキラキラさせてワクワクしていたところを、シュンとした顔にしたのは少し悪かったかもしれない。
ナズ(17)174cm 人族
2日前に転生
アンジェ(19)183cm 人族
3年前に転生