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欠陥転生者たち、そして覇道へ  作者: 朽木 庵
古龍登場編
34/34

31話 リベンジマッチ!!

陽の光が完全に顔を出した頃。

俺たちは村を出て古龍の大迷宮を目指し歩いていた。

ヒナは迷宮の前で待機しているらしい。

なんでも、件のバフ系スキルを思い出すために一人になりたいんだとか。

そういうことならと、一時的に別れていたのだ。

アリスも一緒にいる。

本当なら宿で待っててもらうはずだったのだが、迷宮の前まで付いてくると聞かなかった。

グラディアは最初こそ渋い顔をしていたが、「まあ、それくらいなら」と渋々了承していた。


「なあ。今更なんだけど、アリスって本当にお姫様なの?」


ずっと、なあなあになっていたことを聞いてみる。

多分アレクとリタリアも気になってたはず。

なんだけど、それ以外のことで手一杯だったため聞けず終いだったのだ。

俺の質問にアリスは平然と答える。


「そうね。私商人ではなく、本当はお姫様なのよ。嘘ついててごめんなさいね。」

「この際それはもういいんだけどさ。いや、なんで冒険者してんのかなって。

しかも、護衛はグラディア一人っておかしくない?」

(ナ、ナズ・・・!!??)


気になっていたことを、ストレートに聞く。

するとアレクから、『こいつ正気か!?』みたいな【年話】が響く。

あれ、変なこと言ったか俺?

そんな俺に対して、アリスは少し暗い顔をして口を開く。


「私の国にもいろいろと事情があるのよ。詳しい事は話せないけど、古龍様を求めて国を出てきたの。

・・・・半ば、追い出される形でね。」


自虐気味に、アリスは笑った。

あー、なるほど。訳ありも訳ありって感じだったのね。

アレクはなんとなく、その辺気づいてたのかな。

教えといてよ、そういうの。いや俺が鈍感すぎなのか?


「ご、ごめんな?なんかズケズケ聞いちゃって・・・」

「ナズが配慮の足りない人というのは、知っていたわ。大丈夫よ、気にしないで。」

「それフォローになってないよ、アリス・・・!ごめんよ、ほんと。気をつけます・・・。」

「全くだ。配慮の足りん男は、長生きできんぞ。」

「え・・・。『モテないよ』とかじゃなくて?長生きできないの?」

「こと、姫様に関しては、だ。」


そう言ってグラディアは、自身の剣に手をかける。

おお、こいつは容赦なくぶった斬られそうだ。

「姫を泣かせるものは、何人も許さない」みたいなオーラでぷんぷんです。


「・・・長生きしたいです。」

「なら、言動には気を付けることだな。」


まあ、今から理不尽の権化みたいな怪物と戦いに行くんですけどね。

そんな現実を前に「長生きしたい」なんて、馬鹿みたいだな。

でも言動に気を付ける方が、長生きできそうだ。


「キソテリア王国・・・・。龍に守られる国、でしたよね・・?」

「あらリタリア。気づいてたの?」

「いえ、ただ・・・。

古龍に関わりのある国といえば、あそこは有名な場所なので。

でも、ここからかなりの距離がありますし。もしかしたらその関係者かなとは思ってたんですけど・・・。

まさか、お姫様ご自身だなんて。驚きですよ。」

「そう?案外、勘付いてるようではあったけど?」

「まあ、その・・。隠し事をしてる者同士、なんとなく雰囲気が・・・。何かあるのかな?くらいには。」


こいつらで通じるものがでもあったのか。

ちなみに俺は、本気で商人の娘だと思ってた。

やっぱり、鈍いのかな俺は。


「キソテリア王国って、どんな国・・・か、聞いてもいいでしょうか・・?」


俺は、何か失礼に当たらないか、気をつけながら慎重に質問する。


「ええ、もちろん。

・・・我が国は昔、ひどい飢饉に襲われたの。それと同時に疫病(えきびょう)も蔓延したわ。

国力が低下したことにより、周辺の国からも侵略が始まって・・・。

そんな、国が崩壊しかけた時に救ってくださったのが古龍様よ。

古龍様が守ってくださったの。古龍様は龍種の中でも、慕われているお方。

その古龍様がお守りしてくださったことで、他の龍も我が国を守護するようになったの。

実際、過去に何度か、他の龍が助けてくれたことがあったわ。

だからキソテリア王国は、龍に守られる国と呼ばれているのよ。」


古龍や、他の龍種にも守られている国。

そんな国のお姫様なのか、アリスは。

だから、あんなにも古龍を敬愛していたんだ。

でも、じゃあ。今までのアリスの態度って結構わかりやすくない?

その国の存在知ってたら、俺だって気づいてたはず。多分・・・。


「ともかく、続きが聞きたかったら、生きて帰ってきなさい。

・・・・聞きたくなくても、生きて帰ってくるのよ?」


いつの間にか、迷宮の前に到着していた。

アリス様のご命令に、全員で頷く。


「あれ、ヒナ・・・・古龍様はどこだ?」


迷宮の前にいる手筈なんだけどな。

ちなみに、古龍のことをヒナと呼んでいたら、アリスから怒られた。

「我が国にいたら不敬罪でどうのこうの・・・」とうるさいので、アリスの前では古龍様と呼ぶことにしたのだ。

中身は、俺と同じ日本人の女の子なんだけどな。

アリスにはこのことを伏せてた方がいいだろう。

少なくとも、ヒナ本人の許可がいるよな。


「本当ですね。古龍様、どこにいるんでしょうか?」

「・・・・・ぁの?」

「うわあっ!!!」


リタリアの背後から声がする。

その声にリタリアが飛び上がった。

全員で即座に顔を向けると、そこにはヒナがいた。


「い、いつの間にそこに、いたんですかっ!?」

「あ、えっと・・・今、来ました・・・・。」

「気配を悟らせないなんて、流石古龍様です!」


アリスは感心しているが、できればビビらせない方向で登場して頂きたい。

ヒナにあとで伝えとこう。


「それで、スキルは思い出せたのか・・・・ましたか?」


アリスがギロっと視線を向けてくる。

そういえば、古龍に向かって敬語を使わないことも怒られてたのだ。

俺は、怖いので敬語に言い直した。

ヒナが少し不思議そうな顔をしつつ、俺の質問に答える。


「はい・・・。えっと、何個かいいのを、見繕ってきたので・・・。」

「ありがとうございます、古龍様!!」

「感謝いたします。」

「マジで、助かるよ!あ、助かります・・・。」


アリスとグラディアが丁寧に礼を述べる。

俺も勢いで礼を言うが、またアリスに睨まられる。

アホなのか、俺は・・・。

疾風の如き速さで、訂正した。


「では、早速、お願いいたします。」

「はい・・・。じゃあ、いきます・・・。」


そうしてかけられたバフスキルは二つ。


導ク開花(スキル・ブースト)】【断ツ苦痛(シャット・ハーツ)】(付与)


「ナズ君も、他の皆さんも、、基本のスキルは持ってるので・・・・。

だから【導ク開花(スキル・ブースト)】でスキルの性能を底上げしました・・。」

「そんなこと出来るの!?」

「はい・・・。だけど、このスキルは発動してから30分ほどで効果を失います・・・。

ですので、30分で倒しちゃってください・・・。もし過ぎたら、私が追い払います・・。」


なるほど。制限時間付きってわけか・・・。

それを差し引いても、強力なスキルだけど。


「もう一つは、痛みを感じなくなるスキルです。これは一日保ちます。

でも、本当に痛くなくなるので、怪我したことに気づき辛くなるのが、難点です。」

「おー。痛くないのはありがたいな。正直、またあんな痛みを経験するのは怖かったから。

胸がスーって軽くなった気がするわ。」

「・・・・それなら、えっと・・。よかった、ね。」


ヒナが少し微笑んでくれる。

自分のスキルが役に立って、嬉しそうな顔だ。


「えっと・・・、それじゃあ、皆さん。・・頑張ってください・・・。」

「私も、ソフィアリス様と一緒に待ってるから。良い知らせを期待してるわ。」

「はっ、姫様。必ずや、討ち取って見せます。」

「おっしゃ、やってやるか・・!!」

「皆さん、本当に、ありがとうございます!」

「いいって、もう。仲間なんだから。リタリアの家族の仇、晴らしに行こうぜ。」

「・・・はい!!」


そうして俺たちは、迷宮に潜った。

深い深い、死の場所を目指して。



〜〜〜〜



古龍の大迷宮、第9層。

上層の敵はリスポーンしてきていたが、下層に行くほど、その数は減っている。

やはり<ダイスポット>の影響が出ているようだ。

9層に着く頃には、不気味なほど魔物の声や気配は無かった。


「どうだ、アレク、リタリア?<ダイスポット>の気配は。」

「これほど、魔物の数が減ってるんです。わかりやすいくらい、察知できます。」

(僕も。一つだけある強い魔力反応で、もう目立ちまくりだね。)

「そうか・・・。もう、接敵しそう?」

「もう少しですね・・・。向こうも、私たちの気配に気づいてるみたいです。

でも、動く気はない・・・・。

<ダイスポット>から見たら、獲物が自分から狩られにきているようなものなんでしょうね。」

「はっ・・・。その傲慢な足元、(すく)ってやるってんだ・・。」

(ナズ・・・。なんかそれ、雑魚敵のセリフみたい・・。)

「え。まじ・・・?今後言わんとこ。」


俺とアレクが下らないことを話していると、グラディアから横槍が入る。


「ナズとアレク。リタリアも。わかってると思うが、<ダイスポット>に接敵したら出し惜しみは無しだ。」

「はい・・・!!」

「おう、わかってる。」

「古龍様の【導ク開花(スキル・ブースト)】によって底上げしたスキルで、やつを速攻叩く。

なるべく、短期決戦に持ち込むんだ。」


コクンと全員が頷く。

もしも速攻でケリをつけれなかった場合は・・・


「その時は、しょうがない。切り替えて、無理せずやるんだ。

もし怪我を負ったなら戦線を引いて、後ろで援護に回っているリタリアに回復してもらう。」

「その間は、二人で耐えるってことだな?」

「ああ。何があっても、一対一の状況は作るな。首を飛ばされたら、そこで何もかも終わりだからな。回復もクソもない。」


思わず自身の首に触れる。

どんだけスキルが充実してようと、人間なんて首が飛んじゃえば、そこで人生ターンエンドだ。


(ナズ・・!!この先にいる・・・!!)

「皆さん、あそこです。この通路を抜けた先に<ダイスポット>です。」

「よし・・。ナズ、準備はいいな?主に心の。」

「オッケーです。もう前みたいに、怖くて固まったりしません。」

「ならいい。じゃあ、気合いを入れる一言でももらおうか。」

「・・・・え?」


なんですか、その無茶振り。

新手のパワハラやめてください。労基に電話しますよ?


「戦を始める前の、お祈りみたいなものだ。早くしろ、かつ全員の士気を上げろ。」

「え〜〜・・・・。」


なんなの、このパワハラ鬼上司は。

俺の頭は今、最高速で回転していた。高速すぎて、目も回ってきた気がする・・・。


(頼むよ、ナズ?)

「アレクまで・・・。くっ・・。」


こうなったら、やるしかない。

勢いに任せて、流れに身を任せて。

俺は口を開いた。


「・・・俺たちはっ・・・、俺たちは、銀灰(ぎんかい)の獣を殺す最後の(つるぎ)だ!

この刃に、全ての無念を乗せて、やつの喉笛(のどぶえ)()()ってやるんだ!!」


最後に一息。大きく吸って、死地に乗り込む。


「行くぞっ!!『銀灰(ぎんかい)(けん)』!!」

「ああっ!!」「はいっ!!」(うんっ!!)



****



フィールドに入ってきた俺たちを見て、<ダイスポット>は何を感じただろうか。

きっとこう感じただろう。『何かがおかしい』と。

<ダイスポット>はあくまで、自身を狩る側の存在だと認識していた。

一度逃した獲物が、またノコノコと近づいてきている、と。

奴の最強の危機察知能力【悟ル危機】も、警告アラームは鳴らさなかっただろう。

だから逃げもせず、俺たちをただ待っていた。

それがどうだ。

部屋に入ってきた途端、俺たちの危険度が跳ね上がった。

【悟ル危機】は、うるさい程その警鐘を鳴らしたはずだ。


俺たちは部屋に入った瞬間、ヒナの【導ク開花(スキル・ブースト)】を発動した。

このスキルは俺たちが持つスキルのランクを一段階上昇させる。

例えば、上位スキルの【身体強化】でも、このブーストを使えば極意スキル相当の性能になる訳だ。

マジでぶっ飛んでるよね。

それじゃあ、最上位のランクである神位スキルの性能は?

どうなるの?

答えは不明だ。まあ使ってみりゃわかる。


「ナズ、アレク、速攻で叩くぞ!!」

「了解っ!!」(はいっ!!)


<ダイスポット>は最初、あの下水のように嫌な笑みを貼り付けていた。

しかし、部屋に入って【導ク開花(スキル・ブースト)】を発動した俺たちを前に顔色を変える。

混乱している様子だったが、即座にグルンと向き直り、逃げる判断をした。

その判断の速さはビンタを許さないほどだったが、こちらも逃すつもりはない。


「逃しませんっ!!」


リタリアの風魔法スキルを纏わせた速弓が、<ダイスポット>の足に飛ぶ。

逃げるために踏ん張ったその足を<ダイスポット>は、矢を避けるべく仕方なく抜いた。

見事<ダイスポット>の逃走を(はば)んだ矢が、戦闘開始の合図となる。


「待てよ、ワンちゃん!!」


この隙に俺は、跳ね上がったスピードを活かし<ダイスポット>の逃げ道に先回りした。

退路を絶たれた<ダイスポット>は苦い顔をしたが、戦うことを決めたようだ。

持ち前の巨大な両刃斧を片手で薙ぎ払い、俺を牽制する。

『近づくんじゃねぞ』『近づいたら、この斧で真っ二つだ』と威嚇しているようだ。


「そんなにビビるなよ。それに俺ばっか見てると、後ろが危ねえよ?」


言葉が通じる訳でもないが、警告してやる。

ヘラっと笑う俺に、<ダイスポット>は注意深く視線を向けてくるが、攻撃するのは俺だけじゃないんだよな。

背後から、漆黒のオーラを纏った獣人が音もなく忍び寄る。


(がら空き、すぎっ!)


そう言ってアレクは、<ダイスポット>の背後を闇の鉤爪で切り裂く。

これを咄嗟のところで回避する<ダイスポット>。

完全に視覚からの一撃だったんだけどな。相変わらず理不尽すぎる回避性能。

<ダイスポット>は直撃を避けた。かに思えたが・・・・


『ギャッッ』


と、怪物から短い悲鳴が漏れる。

なんと避けたはずのアレクの攻撃が当たっていたのだ。

見ると、アレクの闇の爪が伸びている。


「それ、伸ばせたの!?」

(いや無理だった、よ?今さっきまでは。

・・・このオーラの部分は布みたいにふよふよ浮いてて、操作とか出来なかったんだけど・・。

今は粘土みたく、固定したり形を変えたりできるっぽい。

これもスキル・ブーストのおかげだね、おそらく。)

「おおぉ。」


そうだ。

こっちも理不尽をひっさげて、この場所に来たんだった。


「ナズ!感心してる場合じゃないぞ!!今のうちに畳み掛けろっ!」

「あい、あい、さー!」


グラディアが細剣をを抜いて<ダイスポット>に近づく。

アレクの攻撃を喰らった<ダイスポット>は一度距離を取ろうと、ジャンプで下がる。

しかしその後を追うように、俺とグラディアは怪物に近づく。


『グギャオッ』


汚い鳴き声を漏らしながら<ダイスポット>は両刃斧を振るう。

以前なら速すぎて見えなかったその攻撃も、今はなんとか反応できる。


「うおっ」


(うめ)き声を交えつつ、俺は上体を反って回避。

空振った斧を目で追いながら安堵する。

その隙に、俺の後ろから隠れるように付いてきていたグラディアが顔を出す。

同時に最速で怪物の心臓に刺突を繰り出した。

刺突は真っ直ぐ、心臓に向かって伸びる・・・。

が、刺さる直前に<ダイスポット>が腕で心臓を庇う。

回避が間に合わなかったのだ。

そのまま、グラディアの剣は腕を貫通した。

しかしその剣は心臓まで伸びることはなく、途中で停止する。

「くっ!」っと苦い顔をしたグラディアは速攻で剣を引き戻す。

<ダイスポット>は目の前で攻撃が失敗したグラディアに対して、ガードしていた腕をブンっと振り払った。傷口から血が吹き出しているが、そんなのはお構いなしに。

接近していたグラディアはこれを後方に飛んで避けた。

と同時に体勢を戻していた俺とアレク。

示し合わせたかのように<ダイスポット>の両脇から飛びかかった。

空に舞う怪物の鮮血がゆっくりと視界に映る。その奥で焦燥に顔を歪ませる怪物の姿も。

俺の手には、速射性に優れた【雷球(サンダーボール)】。もちろんスキルブーストされている。

これにガンガンに魔力を詰め込んだ俺の攻撃と、アレクの暗黒を孕んだ爪が<ダイスポット>を襲う。

もはや避けられる体勢ではない。

どこに攻撃が来るか分かってようが関係ない!!


そんな俺の思考は当たっていた。

そう、避けられない。

ならば、次に取る行動といえば?

迎え撃ってくる。

残念ながら俺の頭はそこまで回っていなかった。


(うわっ!!)


とアレクから仰天の声が響く。

見ると<ダイスポット>はアレクの爪を両刃斧で受け止めていた。

またその斧から【斬撃波】を発動。

ゼロ距離から放たれたそれを、空中で受けたアレクは容赦なく吹っ飛ばされる。


「アレクっ・・!!くそっ、避けないと思ったらこれかよっ!!」


回避が出来ないからといって全てを封じた気でいたが、その先も当然ある。

アレクを吹っ飛ばした<ダイスポット>は俺に視線を移す。

俺はギリギリまで魔力を送り続けた【雷球(サンダーボール)】を手から放った。

イメージとしては、某忍者漫画の螺◯丸のような感じだ。

子供の頃に死ぬほど練習したそれを、今実践で発揮する。

通常の何倍も高密度な雷が凝縮されたその球は、<ダイスポット>の腹目掛けて(えぐ)りこんで行くが・・・。

向かってくる【雷球(サンダーボール)】に<ダイスポット>は、剥き出しの5本の爪で空を切った。


「何を・・・・・」


俺が言い終える間もなく、事は起きた。

裂いた空中から生まれた5本の斬撃が、【雷球(サンダーボール)】に衝突したのだ。

斬撃は【雷球(サンダーボール)】とぶつかると、一瞬均衡を保ったが、すぐに【雷球(サンダーボール)】を切り裂いた。

残った【雷球(サンダーボール)】の破片は<ダイスポット>にヒットしたものの、勢いはかなり殺された。

『グギャッ』と悲鳴を漏らしたが、大したダメージにはなってないだろう。

対する、俺に飛んできた【斬撃波】。

こちらも同様に勢いは死んでいたので、腕をクロスにして【防護結界】で防ぐ。

なんとかはなったが、かなり驚いた。


「おいおい、まだそんな隠し球持ってたんかよ!」と悪態を()く。


<ダイスポット>のスキル【斬撃波】。今までは斧(づた)いでしか飛ばしてこなかった。

だから勝手に、斧を介さないと発動できないと思ってたけど・・・。

互いの攻撃が入ったことで、両者は一旦引く判断。

その間に吹き飛ばされたアレクの生存確認も兼ねて、文句を言い放つ。


「ちょっと、アレクさん!?あんな事できるんなら、教えといてよっ!」

(ごめん、スキル鑑定した時点ではあんなこと出来るなんて書いてなかったから・・。

<ダイスポット>はスキルの使い方が恐ろしく上手いんだ。)

「なるほど。見習いたいな!!」


そう言って俺は<ダイスポット>に【雷槍(ライトニング)】をぶち込む。

これもスキル・ブーストのおかげで発動タイムや威力が上昇していた。

前回は斧で軽く弾いていたそれに、<ダイスポット>は回避を選択する。

最低限の動きで、俺たちの攻撃を避け続けていた。

しかしそれは、回避先を読み易いということでもある。


「ここ、ですっ!!」


近距離戦を仕掛ける俺とアレク、グラディアから離れた場所で、弓を構えたハーフエルフが言い放つ。

目で追うことが許されない、その放たれた矢はどこに当たるか分かっていても回避は不可能だろう。

それを証明するかのように、矢は冷酷に<ダイスポット>の右目を潰す。


『ギャァス!!』

「ナイス、リタリア!」


思わず(こぼ)れた賞賛の声。

この好機を逃すまいと、全員が追撃に出る。

潰れた右の視界から、音を消したアレクが迫った。

さらに背後からグラディアの必殺の一撃が繰り出される。

俺はあえて、<ダイスポット>の目に映る左から攻め込んだ。

目で見える情報。俺という存在で気を散らすことで、仲間の攻撃をより確実にするためだ。

<ダイスポット>はまさに袋のネズミといった状態だった。

誰かの攻撃は当たる。そう俺が確信した時。

<ダイスポット>は両刃斧を口に咥えた。

そして両腕を広げ、爪を剥き出しにしたかと思えば。

次の瞬間、グルンと宙を一回転した。


あまりに一瞬の出来事に、呆気に取られる。

両の爪と、口に咥えられた斧がそれぞれに襲いかかった。

まずい、まずすぎる・・!!

不用意に近づいていたせいで、回避が間に合わない。

俺は脇腹に飛んでくる両刃斧を腕でガードする。

上位スキルの【防護結界】。これも当然スキル・ブーストの影響を受けている。

切断されることはないだろう・・・。

というか、切断されるなっ!!耐えろ、俺の腕!!


「ぐっ・・!?」


腕にものすごい重力を感じる。

が、吹き飛ばされるほどじゃない。今の俺なら踏ん張れる・・!!

だが<ダイスポット>の攻撃はこれで終わらなかった。

直撃した両刃斧から、さらなる衝撃。

【斬撃波】だ。

これが先ほどのアレクよろしく、ゼロ距離で俺のガードした腕に撃ち込まれる。

その場に立ってられなくなり、体が浮く。

ただでさえ強力な衝撃だったのが、【斬撃波】によって更に強くなる。

俺は成す術なく、壁に投げた卵みたいにべちゃっと迷宮に叩きつけられた。


「ナズっ!!」(大丈夫、ナズ!?)


二人はうまく攻撃を()なしたようだ。

グラディアは細剣で防ぎ、アレクは【深淵ノ衣(フォルーン・アビス)】でガードしていた。

そのまま反撃に転じつつ、二人は俺の心配をする。

器用な奴らだ。

一方、俺はというと・・・・


「ごほっ、ああ!!無事だっ!!」

「よし!すぐに戻れ!!」


多少むせたが、全くどこも痛くない。

これが【断ツ苦痛(シャット・ハーツ)】の能力か。


「マジですごいな・・・!!」


これなら、戦うの全然怖くないじゃん。

【防護結界】の性能が上がっていたのも、効いてるだろう。

何はともあれ、早いとこ戦線復帰しなければ。

俺はグラディアの声に応えるように、足を踏み込んで<ダイスポット>に向かおうとする。

が、異変に気づく。右手に力が入らない・・・?


「あれっ!?」


俺の右手を見ると、情けなくプラーンと垂れていた。


「折れてる・・・。」


全く痛くないとは言っても、これはグロいな。

見てるだけで痛くなりそうだ。

俺は一旦、後ろで援護しているリタリアの場所に行く。


「リタリアっ!すまん、右手が折れてるみたいっ。治してくれー!」


リタリアは「えっ?」と理解が追いつかないみたいな顔して俺の方に振り返る。

まあ腕が折れた人間は、こんな軽い感じで治療を願い出ないだろうからな。

そしてリタリアはギョッと俺の右腕に目をやる。


「あれ、さっき大丈夫って言ってませんでした!?それのどこが大丈夫なんですか!?」

「いや、ほら。痛くないからさ。気づかなくって・・・。」

「そうなん、ですか・・?それに額からも血が流れてますよ?」

「え、ホント!?」


俺は額を手のひらで拭ってみる。

すると、べったりと手に血がこびりつく。


「うわぁ。全然気づかなかった・・・。」

「どうなってるんですか、まったく・・・。とりあえず治療します。大人しくしててください。」

「はい・・。」


リタリアに右腕と額を治療してもらう。

うん、右腕が動くようになった。


「無茶しないでくださいねっ。」

「分かってる。行ってきますっ!」


治療を終えた俺は、前線に戻る。

<ダイスポット>は俺が少し目を離した隙に、かなり疲弊しているようだ。


「ただ今戻りました!・・って、攻撃かなり入ってるじゃん!」

「ああ。ナズが受けたあの攻撃。かなり無茶な体勢だったからな。

その後隙に、何発か入れさせてもらった。」


ピューっと口笛を吹く。

このままジリジリやっていけば、そのうち決着がつく。

・・・けど、そういえば俺たちにはタイムリミットがあったんだ。

導ク開花(スキル・ブースト)】の効果時間、30分。


「なあ今、何分経った?」

「およそ10分と言ったところだ。モタモタしてられんぞ。」

「だな。こっからテンポ上げてこう。」


幸いにも、ここに他の魔物はいない。

つまり、魔石を喰って回復されることがないということだ。

俺たちと<ダイスポット>では今の所実力は拮抗しているが、こちらには数の利がある。


(ナズ!僕に作戦がある。)

「!なに、どんなの!?」


近くまで寄ってきていたアレクが【年話】で続ける。


(今のままじゃ勝てはしても時間がかかる。

ナズの神位スキルが1発でもまともに入れば、そこからナズが連撃に繋げられるだろ?)

「まあな・・。」


それが出来れば苦労しないが、<ダイスポット>はそれを許さないだろう。

俺が狙おうとすれば【悟ル危機】が最大の警報を鳴らすはずだ。

絶対に間合いに入れない。


(だから、僕たちでナズの攻撃レンジまで、<ダイスポット>を持っていく。ナズはその時が来るまでスキルを発動して待ってて。)

「俺以外の3人でやるのか!?」

(そう。ナズはノータイムでスキルが使えるように常に発動しといて。)

「いやでも、そしたら俺。ほとんど見えなくなっちゃうぞ!?」

(そこは・・・・しょうがないから。絶対に成功させるから、信じて待ってて。)

「まじか・・・。」


「信じて」とか言われたら、信じたくなってしまうじゃんか。

不安はあるが、アレクがやると言ってる以上、やるしかないか・・・。

それに、俺に他の策があるのかと言われれば、あるわけないしな。


「おいさっきから、二人で何を話している・・!」

「ああ、グラディア・・・。アレクが作戦があるって。俺はやるつもりだ。

グラディアは・・・」

「アレク、作戦の成功確率は!?」


俺とグラディアはアレクに視線を向ける。

【年話】で答えたアレクの言葉を、俺はグラディアに伝える。


「100%だってさ!」

「ふっ、ならやるしかないな!」


にやっと笑ったグラディアに、作戦を伝える。

最初こそ目を丸くしていたグラディアだったが、徐々に覚悟を決めた顔に変わる。

リタリアにも作戦を共有して場を整えた。


「よし、やるぞ!!」


というグラディアの号令で俺は、戦線を引いた。

前線で戦うアレクとグラディアを残し、その場を踏み締める。

そして【森羅ヲ崩壊スル力(ア・レース)】を発動。同時に視界がモザイクのように悪くなる。

近くのもの以外まともに見えないこの視界では、当然仲間の戦いなど見えるはずない。

今どうなっているのか。戦況は?

俺が抜けたことで、不利になってないか?

信じて待つという己の状況に不安が募り、手に汗が滲む。

だけども、いつ<ダイスポット>が飛んできてもいいように、その準備だけはしておく。



〜〜〜



耳からしか情報を得られない。

こんなの、ほぼ目を閉じてるといっても、過言ではない。

・・・いやそれは過言だったけど。

一体、どれだけ待っただろうか。

5分?10分?

体感でしか言えないが、かなりの時間を待ってるように感じる。

それでも仲間たちは必死に戦っている。

金属がぶつかり合う音と、仲間の息遣い。

それが耳に入ってくるたびに、自身に気合を入れ直す。

体を緩く動かしながら緊張させないように、すぐに動けるように・・・


「よし、いいぞ、アレク!!」

「はあっ、はあっ。左、まともに入りました!!」

「よく、やったリタリア!!いけるぞ!!」


金属音しか響かなかった迷宮で、仲間の声が聞こえる。

しかもいい状況のようだ。


「・・・よし今だっ!!やれアレク!!」

(はああ!!!)


バゴンッと、何かが強く叩きつけられる音がする。

過敏になった俺の耳は、パラパラと割れた地面が散らばる音すら拾い上げる。

来る・・・!!


「行ったぞ、ナズ!!」

(ナズ!!頼んだよっ!!!)


息を切らし、疲弊したグラディアとアレク。

そんな二人からの縋るような叫び声を受け取った。

俺は自分を奮い立たせるために、返事も兼ねて短く言葉を吐き出す。


「っしゃ、任せろおおおお!!!!」


次回、決着!!

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