29話 終わりの隣で、それでも僕らは戦った
あの女性が大活躍!?
男性陣は活躍しないのか!?
いや、そんなことはないのか!?
この状況で最初に動いたのは、やはり<ダイスポット>。
殺戮を楽しむ化け物は、真っ先にアレクに向かっていった。
やっぱり、あいつは考えて戦っている。
一撃で致命傷を与えてくるアレクを最初に狙っているのが何よりの証拠だ。
多くの魔物が本能的に戦っている中、<ダイスポット>は戦略的に戦う。
知能が高いんだ。
あんなのに、勝てるわけ、ない・・・。
(・・・・っ、勝負だっ、化け物!!!)
突っ込んでくる<ダイスポット>を前に、アレクは吐き捨てる。
そうだ。
アレクだって、俺と考えてることは同じなんだ。『勝てるわけない』って。
でも、戦おうとしている。怖いはずなのに。
俺よりずっと勇敢だから。ほんとにすげーよ。
呆然と見ることしかできない俺とは大違いだ。
<ダイスポット>の両刃斧から放たれる、強烈な横薙ぎ。
アレクはこれを上にジャンプして回避。そして流れるように、攻撃を繰り出す。
闇を纏ったかぎ爪は、突っ込んでくる<ダイスポット>と噛み合うように顔面を捉えていた。
が、これを<ダイスポット>はそこに攻撃がくるのをわかっていたかのように、綺麗に避ける。
首を傾けただけの、最小限の動きでだ。
アレクと<ダイスポット>が交錯する。
この瞬間、言わずもがなアレクは空中に浮いていた。身動きができない状況。
対して<ダイスポット>。地上で最小限の動きをしただけの奴は、即座に体を反転させた。
そして縦一閃される、両刃斧。アレクのがら空きの背中を狙った攻撃。
これにアレクは空中で無理やり、体を回転。
腕をクロスさせ、<ダイスポット>の斧を防御した。
背中への直撃はなんとか避けたが、それでも<ダイスポット>の攻撃が芯から命中する。
(ごはっ・・・・!!)
目で追えないスピードで地面に叩きつけられたアレクは、次の瞬間にはバウンドし、宙高くに浮いていた。
アレクの落ちた地面がクレーターのようにへこんでいる。
その地面が、先の攻撃がどれほどの威力だったかを物語っていた。
空中で、まだ目の焦点も合っていないアレクに<ダイスポット>はお構いなしに追撃を開始。
自身もアレクと同じ高さまでジャンプ。と同時に、ずっと片手で振り回していた両刃斧を両手で持ち直す。
そして空中で、バットでも振るかのようにアレク目掛けて斧を振り抜いた。
あの状態のアレクに防御もクソもない。
ただただ、まともに<ダイスポット>の攻撃がアレクに入る。
もう、アレクからの【年話】は聞こえなかった。
壁に叩かれたアレクの姿は、土煙に隠れてよく見えない。
どうなったのか。まだ生きてる・・・・?
いや、死ぬわけない、よな?どうなんだ!?
確かめたくても、やはりこの体は動かない。
ただ、自分の呼吸が荒くなっていくのだけがわかる。
<ダイスポット>が地面に着地。同時にアレクを隠していた土煙も晴れる。
アレクは・・・・・。崩壊した迷宮の岩に囲まれていた。
しかしその岩を支えに、なおもアレクは懸命に立とうとしている。
頭は力無く下を向いていた。されど戦う意思はまだ燃えていたのだ。
もういいよ・・・。立つなよ。
お前ほんとに、死んじゃうよ・・・。
けれど、口に出すことはできなかった。
口に出してしまえば、自分が代わりに戦わなければいけない。
それが、とても恐ろしい。
いつの間にか汗だくになっていた額から、顎を伝って汗が滑り落ちる。
その必死なアレクの姿に、<ダイスポット>は愉快そうに嗤う。
『そんなに死にたいなら、殺してやるよ』と。
そんな風に、アレクに飛びかかった<ダイスポット>は両刃斧を斜めに振り落とした。
防げない。本当に、アレクが死ぬ・・・!?
うご・・・かない。
俺の足は鉛のように重かった。
「あっ・・・・・」
俺の口から情けない声が漏れ出る。
友達が目の前で殺される現実に、全身の血が冷たくなった。
バギィィイイイイン!!!
と、甲高い音が迷宮を鳴らす。
金属同士がぶつかり合った音。
見ると、アレクに振り下ろされた両刃斧は、グラディアの細剣でその進行を止められていた。
「・・・・くっ・!!」
「グラディア!!」
「ぁあ・・・。」
俺の歓喜の声と、アリスの安堵の息が同時に漏れる。
よかった・・・、アレク!!まだ生きてる・・・!!
ありがとう、グラディア!!てか、お前も生きてたんだ!!
いや、死んでるとか思ってないけど、マジで。
でもよかった・・!!
なんであのバカでかい斧を、その細剣で止められてんのかは謎だけど・・!!
マジで、物理法則とかバグっちゃってるけど、やっぱグラディア半端ないよ!!
俺の頭が色んな想いでかき混ぜられる。
グラディアもアレクも、生きててよかったし。
でも<ダイスポット>は怖いし。
何がなんだか、自分がどんな感情なのか。自分でもよくわからなくなっている。
「・・・・っ、ナズ!!!」
グラディアが叫ぶ。<ダイスポット>の両刃斧を押し返しながら。
その声に、俺の肩が跳ねる。
いきなり名前を叫ばれたら、誰だってそうなるだろう。
グラディアは自分の脇腹を押さえながら、顔を歪ませて、俺の方に声を迫り出す。
「ナズっ!!まだ動かないつもりか!?仲間が、本当に死ぬぞっ!!お前の目の前で・・・。
お前のせいで、死んでしまうぞ!!ごちゃごちゃ考える前にお前も・・・、戦うんだっ!!!」
グラディアの言葉に、頭が真っ白になる。
アレクは優しいから俺に『一緒に戦って死ね』なんて言わない。
だからアレクは、一人で戦ってたんだ。見てるだけだった俺に、何も言わずに。
しかしグラディアは違う。
核心を突いたその言葉にハッとさせられる。
さっきのだって、グラディアがいなければ、アレクは死んでいた。
俺のせいで。何もしなかった俺のせいで、アレクは死んでいたのだ。
俺だって、そんなのわかってた。気づかないふりをしてただけだ。
俺のせいで、アレクが死んでしまいそうになったあの瞬間。
全身の血の気が引いていく感覚。
それは、目の前の化け物なんかより、はるかに怖かった・・・はずだ!!
「・・・・っ、やって、やる!!!!」
喉が切れそうなくらい叫んだ。
自分を奮い立たせる。そのための咆哮。
自分から死へ飛び込んでいく。
死の場所へ。
その恐怖で、思わず目から涙が溢れてくる。
しかし、そんなものは気にしない・・!!
ガチガチとうるさい奥歯を噛み締め、全力で<ダイスポット>へ直進した。
その、俺の咆哮に。突っ込んでくる俺に。
<ダイスポット>が俺の方に視線をやる。
その隙を逃すグラディアではなかった。
<ダイスポット>の死角から、喉を狙った高速の刺突。
当たれば喉に風穴が空くその一撃を、<ダイスポット>はノールックで回避した。
「くっ・・!!」
(そんなの、知ってたよ!!)
「ああっ!!」
【悟ル危機】による、最強の危機察知能力。
これまで見せてきた<ダイスポット>の異次元の攻撃対処能力は、全てこれによるものだ。
しかし、もう驚きはしない。その回避だって想定の範囲内だ。
攻撃を仕掛けてきたグラディアにカウンターを繰り出そうとする<ダイスポット>。
剥き出しの爪がグラディアを襲うが、それよりも早くアレクが動く。
<ダイスポット>の懐に潜り込んだアレクは、グラディアに攻撃が当たるより早く自身の掌底を食い込ませる。
これに、<ダイスポット>は回避を選択。
グラディア目掛けて放った爪をビタ止めして、横っ跳びでその場から消えた。
これもわかってる。
理不尽の塊みたいな化け物ヤロウだ。避けるに決まってる。
だから俺は焦らず、魔法スキルを展開だけして発射せず、待機状態にしていた。
そして、奴が避けた先。
そこを狙って、総数10発の【雷槍】を囲むように放つ。
<ダイスポット>の真後ろだけを開けて。
案の定やつは、後ろに跳んで退く。
しかしそこは誘導されたルート。
その回避先を読んでいたグラディアが、<ダイスポット>の着地に合わせて細剣を腹に突き刺す。
が、<ダイスポット>はどこに突きがくるのか知っているかのように、斧で細剣を防ぐ。
これも防ぐのかよ・・!!
と、嫌になるも、まだ終わりじゃない。
そのグラディアの反対側に、アレクが構えている。
(くらえ・・・!!【闇弾丸】ガトリングっ!!)
それは魔力量にモノを言わせた【闇弾丸】の超連射。
一般人には真似できないスキルの無茶な使い方だ。
無茶だが、効果的ではある。
どこに弾が来るのかわかっていようと、避けられなければ問題ない。
アレクは避けられないほどの弾幕で押し切るつもりなのだ。
これを<ダイスポット>は跳躍して回避する。
しかし、これは悪手と言えるだろう。
最初は避けれても、いつまでも撃ち続けるその弾幕に、身動きの取れない空中では格好の餌食だ。
跳躍した<ダイスポット>は、・・・・あれ?
止まらない。高い・・・・!!
その理不尽な脚力から放たれた跳躍は、迷宮の天井に届く。
(・・・・っ、だから!!どうした!!)
構わず撃ち続けるアレク。天井に【闇弾丸】の照準を合わせる。
対する<ダイスポット>は、そのでかい両刃斧を口に咥える。
そして天井に4速歩行で張り付いた。
何を・・・・?
と、俺が疑問に感じる間もなく、その理不尽の権化は、天井を走り出した。
「はぁ!!!??」
「んな!?」
(嘘、でしょ・・・!?)
あいつ、重力無視でもできんのかよ!?
そんな疑いすらあったが、すぐに気づく。
<ダイスポット>は自身の爪を天井に食い込ませ、落ちないように張り付いているのだ。
それでも、十分理不尽な動きではあるが。
そのままアレクの魔法を回避しつつ、攻めの姿勢に入る。
アレクの魔法のエイムが、自身から離れた瞬間、<ダイスポット>はアレクに飛び掛かる。
天井から、地面まで。
かなりの高さがあるにも関わらず、その距離は一瞬で埋まった。
今までは足だけでの移動だったが、四足歩行になったことで機動力が急激に上がったのだ。
アレクの目の前の地面が爆ぜる。アレクは急いで魔法を中断し、後ろに回避した。
舞う土煙の中から、<ダイスポット>はなんと、俺の方に向かって突進してきた。
その体勢は、すでに二足歩行の状態に戻っている。
「ははっ・・・・、こいよ・・・・!!!」
視界に入れちまえば、こっちのもんだ。
俺も負けじと<ダイスポット>に突進する。
そして神位スキル【森羅ヲ崩壊スル力】を使う。
周りの視界がぼやけるが、唯一、目の前の怪物だけははっきりと視界に映る。
お互いに距離を詰めたせいで、接近が早かったのだ。
しかしこれは、嬉しい誤算。
視界に映ったのなら、もう簡単だ。
<ダイスポット>は両手で持った斧を右上から切り落としてくる。
俺は姿勢を低くし、その攻撃の下を滑り込むようにして回避。
<ダイスポット>から距離をとった。
それと同時に、右腕を横に一閃。
視界に映ったものに、莫大な力を加える能力。
俺が何もない空を殴っても、その力は、何十倍にもなって、俺の意図した場所にヒットする。
右腕を振り抜けば、そうなっていた。しかし、出来なかった。
(ナズ!!)
「ナズっ!」
仲間の声が聞こえ、同時に背中に感じる、違和感。
そして脳が理解する。斬られていたことを。
見れば<ダイスポット>は両刃斧を一回転させていた。
だが、俺は距離を取ったはずだ。
その斧の間合いにはいない・・・・・いやこれ、【斬撃波】だ・・・・!!!
この戦闘中、ほとんど使われていなかったスキル。
完全に頭から抜けてた。
ここにきて、それを使ってきた・・・!?
冷静に考えつつも、その頭はすぐに痛みで支配される。
俺の体が硬直するのに、これ以上の理由はいらない。
振り抜こうとしていた右腕は、完全に停止していた。
感じる衝撃。ばっくりと斜めに割れた背中から噴き出る血。
全身の神経が脳に痛みを訴えかけている。
「あ゛、・・・あああああああ゛あ゛あ゛!!!!」
叫ぶ。大絶叫だ。
しかし、ここで攻撃をやめたらもう、勝てない・・!!
溢れる涙はお構いなしに、歯を食いしばる。
「んぐぅううふっ!!」
無視できない痛み。
全身がバラバラになりそうなくらい痛い。
それでも!!
目から、鼻から、全身の毛穴から。いろんな汁が吹き出す。
が、俺は気合いで、硬直した右腕を振る!!!
〜〜〜
頃にはもう、遅かった。
俺が必死こいて痛みと戦ってる時間に、<ダイスポット>は最も危険な場所を察知する。
俺の右腕。
俺のスキル発動条件を【悟ル危機】で感覚的に掴んだ<ダイスポット>は、迅速に対処する。
いつの間にか、俺の背後に移動していた<ダイスポット>。
涙で滲む視界で、アレクがこっちに手を伸ばしているのがわかる。
口を大きく開けて、何かを叫ぼうとして・・・。
ははっ・・・。お前、【年話】じゃないと、声聞こえないじゃん・・・。
自分で喋れないの忘れて・・。
ゴギリュッ!!!
俺の右腕が何かに踏み潰されて、聞いたことがない音を鳴らす。
あ・・・・・
「ヒュッ・・・・・」
俺の喉から笛みたいな音が出る。
それと同時に視界が暗転・・・・・・
「ナズっ!!!!まだ落ちるなっ!!!!」
グラディアの声に視界が蘇る。
ここで気絶出来たら、どんなに楽だっただろう。
背中の痛みにも引けを取らない激痛が、右腕に走る。
へし曲がった腕が燃えるように痛い。
高熱に炙られた無数の針で、内側から刺されている、みたいだ。
もはや全身が痛い。痛すぎて、脳が痺れてきた。
手足の先も、氷水に突っ込んでるみたいに冷たくて・・・。
でも傷口は、相変わらず熱くて・・。
(は・な・れ・ろっ!!!!)
アレクが<ダイスポット>に連撃を仕掛ける。
激しい猛攻に、防戦一方となる<ダイスポット>。
その隙にグラディアが俺を担ぎ、アリス・リタリアの位置まで退避した。
「ナズ・・!!やだ・・、何これ・・!?」
それ、俺の右腕見て言ってんの?
だとしたらちょった酷くない?
俺、頑張って戦ったんですけど。めっちゃ痛いんですけど。
まあ確かに、自分でも直視できないくらいのグロ画像が、俺の右腕には付いてるんだと思うんだけどさ。
「ごめんなさい・・・。ごめんなさい・・・。」
掠れた声で、リタリアがボソボソ言っている。
意識戻ったのか。でも今それどころじゃないのよ。
その謝罪でもう、いろいろ察するけど・・。
今はもう怒るとかじゃなくて。生き残りたい一心よ、こっちは。
「・・・お嬢様。回復薬はまだお持ちですか?私のはもう、使い切りました。」
「グラディア・・・。ええ。あと一本だけ残ってるわ。」
「でしたら早く、ナズにそれを。」
「わ、わかったわ・・・。」
アリスの手から、ビンが口に付けられる。
そして口の中に液体が流れ込んでくる。
すごい!全身元通り!!
なんて都合よくはいかない。多少痛みが引いて、背中が少し気にならなくなったくらいだ。
身体中、普通に痛い。右腕は特に痛い。
でも、動ける・・・?今の俺の気合いの入り方なら、なんとか動ける。
「ナズ。動けるか?」
「な、なんとか。」
そう言って、寝っ転がった体勢から起きあがろうと、右腕をつく。
「ひぐぅっ!!!」
「馬鹿なのか、お前は。そんな腕使って起きようとするな。」
いつものクセで右腕をついたが、それが激痛を生む。
てか、今初めてまともに腕見たけど。
折れてるどころの話じゃないよね。
なんかもう、稲妻みたいに二段階に折れ曲がってて、別の形になってる。
腕がフォルムチェンジしちゃってる。
「ほらっ。反対の手をかせ。」
そう言ってグラディアに引っ張って、立たせてもらう。
「すまないが、もう少し戦ってもらうぞ。」
「ほんまですか・・・。」
エセ関西弁も出てしまうよ、こんな状況じゃあ。
スパルタが過ぎるんだよな、まじで。
でも、もうなんか戦うの、嫌じゃないんだよな。
前よりはって話だけど。うん。やってやろうって感じ。
やっぱ、人間。怪我すると思考が鈍るのかな。
「そういえば、グラディアは、大丈夫なのか・・?」
「ふっ。大丈夫そうに見えるか?」
「いや、見え・・・ないな。ずっと脇腹抑えてる。」
「・・アバラが何本か折れている。肺にも、刺さっているようだ・・・。」
まじか、この人。そんな状態で・・・
「グラっ・・・」
「姫様!!!」
「っ!!」
か細いアリスの声。
その声を掻き消したグラディア。
放たれた言葉に、アリスの瞳が揺れる。
それより・・、なんだ?姫様・・・?
「姫様・・!ここはお逃げくださいっ!!!あなたがいれば、生きてさいれば国はどうとでもなります!!」
「い、いや・・・・。いやよ、グラディア!!そんなこと・・・・」
「姫様!!・・・私はもうダメです。この命もあと僅かでしょう・・。
ですが姫様がお逃げする時間なら、まだ稼げます。いいえ、稼いでみせます!!
ですから姫様。どうか、あなたの悲願をお叶えください。そのために、どうか・・・・。
どうか、お逃げください・・・!!!」
捲し立てるように、グラディアはアリスを急かす。
その迫力に、思わず息を呑む。
ずっと瞳に溜めていた涙。意地でも溢さなかったそれを、アリスはとうとう崩壊させた。
しかし、それでも。
アリスは自分にとって、最善の行動を取った。
「くっ・・・・。」
迷宮を引き返し、全速力で足を動かす。
とてもお姫様には見えない走り方だ。
でもそういえば、最近まで冒険者だったからしょうがないよな・・・・。
「不甲斐ない騎士をお許しください、姫様。」
呟くグラディアの口からはキューキューと、変な音が漏れ始める。
「お前、肺に骨刺さってるんだろ・・!?なんで動けてんだよ!?
なんで、叫べてたんだよ・・!」
「それはな、ナズ・・・。私が姫様の騎士だからだ。騎士は姫を安心させるのも仕事なんだ・・。
・・・・そして、姫を背に守る時の騎士は・・・・最強だ・・!!」
グラディアは得意げに笑う。
いや、かっけえよ、グラディアさん。まじで、かっこよすぎだって。
本物じゃん。本物の騎士じゃんかよ、グラディアさん。
しかし、その目は焦点が定まっていない。限界が近いのだ。
それでも、グラディアの足が止まることはなかった。
アレクの攻撃を防ぎ、<ダイスポット>はカウンターを入れる。
吹き飛ばされ、地面に転がるアレク。
すかさず追撃を・・・と考えた<ダイスポット>の動きが止まる。
おそらく、察知したのだろう。【悟ル危機】が最も危険な人物を。
いや、スキルなんて無くてもわかる。
グラディアから放たれる存在感。
<ダイスポット>はグラディアに向き直った。
そして二人は対峙する。武器を構え、目を離さない。
ふうっと息を吐いたグラディアがまたしても笑う。
「さあ、怪物よ・・・。私は今、姫様を守る最強の盾となった・・!!
この盾・・・・・怪物ふぜいに突破できると思うなよっ・・・!!!」
<ダイスポット>の顔から笑みは、消えていた。
「キソテリア王国・王女アリス・キソテリア。その第一騎士、グラディア。
・・・・推して参る!!」
動くグラディア。それに合わせて、俺も<ダイスポット>に突っ込む。
立ち上がったアレクも参戦する。
これで最後だ・・・。
どちらかが、死ぬまで・・・・!!!
****
「はあっ、はあっ、はあっ、」
どれだけ走ったのだろう。
とうに枯れたと思った涙も、次の瞬間には溢れ出てくる。
得意だと思ってたんだけどな、我慢するの。
どんなに辛くても。理不尽な現実を見せられても。
我慢できていたのに・・・。
今までの溜めてた分が、一気に出てるのかな。
「はあっ、はあっ、くっ・・・、はあっ」
心臓が激しく動きすぎて痛い。
足も千切れそう・・・。
「あっ・・・」
グシャっと地面に転がる。
動かし過ぎた足が、限界を告げるようにもつれた。
ブワっと湧いて出る涙。それでも。
私の騎士が言ったのだ。逃げろ、と。走れ、と。
私がいれば国はどうにでもなると。
だから、立ち上がる。
そして再び走るのだ。
ぐしゃぐしゃになった顔を腕で雑に拭った。
「誰・・・か・・・。誰かっ・・・。」
誰か・・・。誰か助けて・・・。
今までは、その誰かが、グラディアだった。
私の騎士。唯一の味方。
国から半ば追い出された時も、私を守ってくれた。
だた一人、着いてきてくれた。
そのグラディアが。今、私を守るために死のうとしている。
嫌だ・・・・。そんなの耐えられない。
あなたがいたから、私は涙を我慢できたのに。
誰でもいい・・・から。
お願い・・・。女神様が見ているのなら、どうか・・!!
走ることに夢中で、周りになんか注意を払ってられなかった。
「・・・あっ・・。」
「っ・・。」
何かにぶつかった。
大きい、人?
見上げるとそこには、敬愛する方の髪色を持った、女性がいた。
宿屋でナズに紹介された・・・・そう名前は確か、ヒナ。と言ったか。
「ぁの・・・大、丈夫ですか・・・?」
下手くそな気遣いを見せるヒナに、なんともいえない感情になる。
大丈夫に見えるのだろうか。こんな状態の人間を前に。
もっと、『何があった?』とか『他のみんなは?』とか。
聞くこと色々、あるでしょ・・!
なんて考えるが、すぐに違うことで頭がいっぱいになる。
ナズが言っていた。『ヒナは俺たちより強い』と。
アリスはヒナにしがみ付いた。
「お、お願い!!あなた強いんでしょう!?グラディアが・・・私の仲間たちが、殺されそうなの!!」
「ぇっ・・・・!?」
今まで誰かへの願いを口にしたことなどなかった。
命令をした回数なら数知れないが、願いなどはしない。
あったとしても、決して口には出さない。
だから、やり方なんてわからない。ただ必死に。
ヒナの服を握りしめ、膝を地面につく。
そして言葉を絞り出す。
「お願いします・・・。私の・・・騎士なんです・・・。初めて出来た仲間たちなの。・・なんです。なんでもします・・。だから・・、」
「ナズ君たちが、その、死にそう、なんですか・・・!?」
「・・・・ええっ!!そうなのっ。このままだと全員、死んでしまう!!
だからお願いよ、ヒナさんっ!!私たちを、助けて・・・・!!」
顔を上げて懇願する。
この時、ヒナの顔を下から覗き込んだ形となった。
前髪に隠れていた目が、視界に映る。
その目は、不安に満ちた目だった。とても、頼れたものではない。
もう、ダメ、なのだろうか・・・・。
「わかり、ました・・・!!」
予想外の答えだった。しかし、アリスは形振り構っていられる状況ではない。
「ぁあ・・・。ありがとうっ!!場所は・・・・」
「場所は、7層ですねっ。ナズ君たちがいました!」
「えっ・・?」
「行きますっ!!捕まってください!!」
「ちょっt・・・」
視界がブレる。
感じたことない感覚に、思わず目を固く瞑った。
そして耳に響く金属音。
****
何発かは掠ってんだけどな・・。
俺の攻撃も、グラディアの攻撃も。
<ダイスポット>はアレクの攻撃だけはなんとしても避けている。
それ以外の攻撃もできる範囲で避ける。
当たるとしても、最小限に。
それに対してこちらは、何回も吹き飛ばされている。
そのたびに手放しそうになる意識を、必死に繋ぎ止めている状態だ。
まじで、なんで自分が今立ってるのか、理解できない。
俺にも理解できてないんだ。目の前の怪物は、もっと不思議に思ってるだろう。
そして、異変に最初に気づいたのはアレクだった。
(ナズ・・!・・・・ヒナが、ヒナがいるっ!!アリスもっ!!)
「はあっ!?」
俺は視線を動かす。
するとそこには、アレクの言った通り、ヒナとアリスがいた。
俺の声にグラディアと<ダイスポット>も反応する。
「なっ・・・!!姫、様!?どうしてここに、いや、いつの間に、そこにっ・・・。」
もうグラディアに叫ぶ力は残っていない。
それでも、小さな声で驚きを口にする。
アリスも訳がわかってないような顔だ。
しばらく辺りを見回していたが、すぐにグラディアを見つけ、涙をこぼす。
「グラディアっ!!」
悲痛な姫の叫びが迷宮にこだまする。
全員の時が止まっていた。
<ダイスポット>も例に漏れず、止まっていた。
何かを警戒している・・?ヒナか・・!!
ヒナを警戒している、のか?
でもすぐ逃げないってことは、ヒナが戦闘できないことも、わかってるのか!?
そこまでわかっちゃうのか、【悟ル危機】って。
ハッタリは効かない!?
「アリスさん、少し離れて、くださいっ・・・」
「え・・?ええ・・。」
ヒナがアリスを遠ざける。
何をするつもりだ、ヒナ。
「・・・よし、いきますっ!!」
小さく気合いを入れるヒナ。
その瞬間。
この場の重圧が変わる。
なんと言うか、重力が倍になったような。
ヒナから放たれるオーラみたいなものが。
別次元にワープしたみたいに、ガラッと変化する。
「解除・・・!!」
小さく呟いた彼女の声は誰に聞こえるでもなく、消えていった。
そしてヒナの体が眩しく光る。
眼前に現れたのは、青みがかった白銀の鱗。
一枚一枚が、世界に唯一の宝石だと言わんばかりに輝く鱗に包まれた、巨大な竜。いや、龍だ。
誰に説明されるまでもない。
生き物としての核が違いすぎる。
これが・・・・・・。
(なんて・・・・。見たことないくらい・・。綺麗な魔力・・・。)
アレクの【年話】での呟きが頭に響く。
「まさか、これは・・・・。」
グラディアが呆然と立ち尽くす。
「ああ・・・あなたが・・・。やっと、やっと。お探ししておりました・・・。古龍様・・・・!!」
アリスがヒナを、その古龍を崇める。
胸の前で手を合わせて、古龍を見上げている。
自然とそういうポーズになるのだろう。
だってずっと、言ってたし。古龍様、古龍様って。
でも、まあこれはなんと言うか・・・。
「・・・チート、すぎるだろ・・・。」
古龍の咆哮が迷宮に鳴り響いた。
かなり、長くなりましたね。
描いてるうちに、想定の5倍くらいに伸びました。
・・・はい、ちょっと盛りました。