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欠陥転生者たち、そして覇道へ  作者: 朽木 庵
古龍登場編
31/34

28話 死に至る場所

魔物の情報、後書きに載せてます!

ちなみに両刃斧の読み方は『りょうじんふ」です。

異論は認めます。

 その魔物は、二足歩行の巨大な狼だった。


 種族で言うと、<コボルド>・・・なのか?

 自分で言ってて、疑わしくなる。なぜかって?

 だって、<コボルド>は通常1.5mほどの大きさだからだよ。

 人間の子供くらいの魔物ってこと。

 それが、目の前に存在する狼は、3〜4mはある。

<コボルド>と言うよりは、むしろ<ミノタウロス>と言った方がしっくりくるね。

<ミノタウロス>のムキムキのでっかい体に、狼の頭が乗っかってる感じ。

 女神様が生み出す時に、くっつけるパーツ間違えたのかな。

 

 以上が【年話】でアレクが喋っていた内容。

 傷一つない銀灰色の毛皮を返り血で染めたそいつの目は、なおも殺戮を望んでいるようだった。


 俺はそれを黙って聞いていた。

 というかその魔物を前に、俺は黙ることしか出来なかった。

 多分、本能的に隠れようとしたのだろう。

 その殺気に当てられて。

 もう見つかっているにも関わらず。


 今まで、魔物から殺気を向けられたことがない訳じゃない。

 どんな魔物も、自身を殺しにくる冒険者には殺気を向ける。

 しかしこれは、種類が違う。

 他の魔物は、(せい)にしがみつくために戦う。生き残るために。

 だがこいつは、殺しを楽しむために戦っている。

 その薄ら笑いから発せられる殺気を前に、自身が一獲物に過ぎないことを自覚するのは、簡単だった。


 ゲームを始める時のように、どこか気怠げに、それでいて楽しそうに、そいつはユラっと立ち上がった。

 嫌な笑みを浮かべたそいつの頭は、目の前の玩具をどう壊すかで支配されているだろう。


「ここで死ねっ!!ダイスポット!!!」


 リタリアから聞いたことないくらい強い語気と絶叫が飛ぶ。

 そして放たれた速弓。

<ダイスポット>と呼ばれた魔物に高速で飛んだ矢は、片手で握られた両刃斧に叩き落とされた。


「おい、リタリア?あいつのこと、何か知ってるの!?」

「そんなことより、リタリアっ!!お前なんと言った!?

<ダイスポット>だと!?あいつがそうなのか!?」


 俺の質問は、グラディアの質問で上書きされた。

 なん、なんだ?あいつ有名な魔物なの?

 アレクに視線で「お前も知ってんのか?」と聞いてみるが、アレクは首を振る。


(何なに!?僕も知らないよ!?)


「そうです!!あいつが・・・あいつが<ダイスポット>・・!!

 ここまで追ってきて、ようやく殺すチャンスが今、来たんです!」

「くっ。と言うことは、まさかこの大迷宮を荒らしていたのは・・・」

「あいつです!」

「な!?お前さては、知っていたな!?今まで黙ってたのか!?」

「・・・・・」


「いや、置いてくなよ!?なんだよ!?<ダイスポット>って!?」


 リタリアとグラディアが口論気味に言い合い、話が進んでいく。

 揉めているようだけど、俺とアレクは何もわかってないよ!?

 どういう状況なの!?

 しかし俺の混乱を、グラディアとリタリアは解決する気がないようだ。

 口論を繰り広げつつも、二人の目が<ダイスポット>から離れることはなかった。

 互いに得物を構え、目の前の魔物相手に隙を見せないようにしている。

 この迷宮で出会ったどんな魔物よりも警戒していた。

 いや、わかるけどさ。だってあいつ、明らかにやべえもん。

 俺もそういうの肌感でわかる様になってきたけどさ!

 でも無視はないんじゃない!?混乱してる仲間がいるんだよ!?


 仕方ない。

 俺は視線をアリスに移して、質問のターゲットを変更した。

 アリスは俺の意図を汲んだのか、深刻そうに黙りこくっていた口を開いた。


「・・・<ダイスポット>。それはある一体の魔物に付けられた名前よ。

 その魔物が襲った村や街の人々は・・・・、ほとんど皆殺しにされてる。

 そいつのいる場所が、死に場所となることから<ダイスポット>と呼ばれる様になったわ。」

「そ、そんなの、ギルドがほっとくわけないだろっ!?」

「もちろん、その残虐性と危険性から、すぐに討伐隊が組まれたそうよ。

 しかしついぞ、討伐が叶うことはなかったわ。」

「・・なんで・・!?」

「討伐隊は、<ダイスポット>を見つけられなかったのよ。

 優秀な索敵要員も、参加していたそうだけど。

 戦力は十分だった。見つかりさえすれば確実に仕留められてたほど。

 しかし何故か、見つからない。

 被害が出るたびに即座に討伐隊が組まれ、そのたびに<ダイスポット>は姿を消す。

 こんなことが何十年も繰り返されてるから、<ダイスポット>は言わば都市伝説的な魔物なのよ。」


 その<ダイスポット>が目の前にいる。

 いやでもなんで、こんなとこに!?

 リタリアは<ダイスポット>に並々ならぬ執念があるようだし。



(なるほど・・・。大体わかってきたよ・・・。)


 よしっ!俺の第二の脳みそ!!解説カモン!!

 そんな俺の気持ちに、アレクが答える。


(さっきの口ぶりから、リタリアはあの<ダイスポット>って魔物を追っていた。

 迷宮を荒らす存在があいつだって即答したことから、リタリアは<ダイスポット>がここにいるってわかってたんだと思う。

 わかってて、黙っていた・・・。)


 そういえば、迷宮に謎の攻略者がいるって言い出したのも、リタリアだった・・・。

 じゃあ、いつから・・・!?どうして教えてくれなかったんだ・・!?


「ナズっアレクっ!!いつまで(ほう)けているっ!!殺される・・ぞっ・・!!??」


 グラディアが俺とアレクに喝を入れる。

 しかし言い切る前に、グラディアが自身の細剣で何かを弾いた。

 しっかり見えなかったけど、・・・空気の斬撃?のようなものだったと思う。

 あれが、【斬撃波(エア・スラッシュ)】か・・・!!

 間一髪で弾きはしたが、その衝撃でグラディアは後ろにのけ()った。

 俺たちを正常に戻すために、一瞬目を移したグラディアはその隙を狙われたのだ。

 次の瞬間。

 グラディアの目の前に<ダイスポット>が高速で移動する。

 体勢を崩していたグラディアに、<ダイスポット>は片手で持った両刃斧を薙ぎ払った。


 両刃斧は余裕で、人一人分ぐらいはある。多分2mあるだろう。

 それを<ダイスポット>は、片手で軽々と振り回していた。

 本当は、軽いんじゃないの?と密かに思ってたんだけど。

 しかし、それは目の前で起きた現実に否定される。


 無理な体勢で両刃斧を受け止めたグラディアの細剣から、ガギィィンッ!!と重く鈍い音がなる。

 軽い物からは絶対に出せない音が迷宮に響いた。

 ダンプカーでもぶつかったかのような音が、その攻撃の凄まじさを語った。

 そんなものを細剣で、しかも無理な体勢で受けたグラディアは、とんでもない勢いで壁に叩きつけられる。


「グラッ・・・」

「グラディアッ!!!!」


 俺の声がアリスの悲鳴にかき消される。

 いつも気丈に振る舞っていた彼女の悲鳴に、俺は動揺した。

 多分アレクもそうだったと思う。

 グラディアはどうなった!?生きてるよな!?

 そんな考えで頭を埋め尽くされたが、一人そうでない者がいた。


「うわぁぁあああ!!!」


 憎しみに満ちたその声と共に、リタリアは短刀を<ダイスポット>に突きつける。

 しかし激情に任せたその攻撃は、易々(やすやす)と<ダイスポット>に避けられた。

 いつもは見ないような、精細を欠いた攻撃。

 ベテラン冒険者とは思えないその一撃は虚しく宙を裂いた。


 そして隙だらけのリタリアが、その場に残る。

 そのがら空きの背中を<ダイスポット>は、両刃斧の(つか)で殴り落とした。

 グラディアを薙ぎ払った手を戻すついでの様に、残酷にその攻撃はリタリアに深く入る。


「グフッッ!!?」

「ひっ!」

「なっ!?」

(あっ!!)


 悲痛な声。

 それと共に、およそ人から出てはいけないよう音が、リタリアの背中から鳴る。

 流れるように、彼女の華奢な体は地面に叩きつけらた。

 立て続けにやられる冒険者たち。

 やらなきゃ、やられる!!俺の頭はそれだけに支配されていた。


「ふっ!!!」


 短い息を吐き、俺は<ダイスポット>に突っ込む。

 神位スキル【森羅ヲ破壊スル力(ア・レース)】を発動。

 このスキルの性質上、俺は近接戦を余儀なくされる。

 それは相手の間合いで戦うと言うこと。

 それがこんなに怖いと感じたのは、今日が初めてだ。

 こんなに、怖かったけ・・・!?

 背中から吹き出す冷や汗に、気づかないふりをする。

 震える指を、息を止め(りき)むことで、無理やり(おさ)えた。


 そんな俺を前に、怪物はニヤァと(わら)う。

 舐めんなっ!!まずはそのバカデカい斧をぶっ壊すっ!!

 俺は<ダイスポット>の顔から、両刃斧に視線をギロっと移す。

 そして躊躇なく拳を握り締め、斧の刃を壊しにかかった。


 そう。躊躇はなかった。この時出せる最速だったと思う。

 しかし、無理やり(りき)んでいたことや、極度の緊張が邪魔したのだろう。

 いつもより、スピードが落ちていた。

 よって、<ダイスポット>の攻撃が間に合ってしまった。

 両刃斧を凝視して突っ込んでくる俺に、<ダイスポット>は反対の手を繰り出す。

 固く握られた<ダイスポット>の拳が、俺の頬に飛び込んでくる。

 巧妙に、俺の死角を狙ったその一撃に、気づくのが遅れた。

 ヒヤッとした殺気を視界の外から感じ、緊急停止。

 ここで気づく、<ダイスポット>の攻撃。

 この時点で、【森羅ヲ破壊スル力(ア・レース)】を解除し、避けるために死力を尽くす。

 顔面を後ろにずらすことで、ギリギリ直撃を回避。

 目の前を<ダイスポット>の拳が通過した。


 俺はすぐさま、後ろにいたアレクとアリスの元まで退避し、安堵(あんど)を得る。


「はっ、はあ、はああっ、はっ、ふっ、っっはすっ・・」


 呼吸が、意味わかんないくらい乱れる。

 本当は無視できないくら噴き出していた冷や汗で、背中がびしょ濡れだ。

 先ほどの攻撃を思い出す。

 避けられた安心感と、当たっていた時のことを想像して、震えが止まらない。

 指も手も、膝も笑っている。もう大爆笑。M-1でも見てんのかよ、マジで。


 必死に平静を(よそお)おうと、関係ないことを考える。

 そんな努力はお構いなしに、<ダイスポット>は獲物に殺気をビシビシ向けてくる。


(ナズっ!?大丈夫!?当たってないよね!!?)

「ナズ!あなた、大丈夫なのよね!?」

「あ、ああ・・!!うん、当たってない・・。」


 アリスは戦闘において、軽いサポートしかできない。

 本当はこの迷宮に入るのも、とても危険なのだ。

 しかし、グラディアがいた。常にアリスを守る鉄壁の騎士がいた。

 よってアリスは迷宮で不安など、抱くことはなかった。

 それくらい、グラディアは強かったのだ。

 その騎士が一撃で吹き飛ばされた。

 これが意味することは、想像に(かた)くない。

 正気を保ってるだけ、すごいと言える。

 今、まともに戦えるのは、俺とアレクだけ・・・。


(ナズ!!やるんだ!僕たちでっ!!全力でっ!!)

「あ、ああ・・!!!」


 いや、怖いよ。なんでアレクはそんな覚悟決まってるの!?

 震えが止まんないのよ、俺!

 勝てんのかな!?無理じゃないかな!?

 だって、ほら!?

 もう生き物として、違いすぎるやん!?


(ナ、ナズっ・・!?)


 動こうとしない俺に、アレクが怪訝そうな顔を向ける。

 そんな中<ダイスポット>は、残虐に満ちた眼で、地に伏せるリタリアに右手を伸ばした。

 お、おいおい・・・。おいおいおい!!!

 何するつもり・・・、倒れてるだろ・・!!?

 マジで殺す気か・・・!?


(っ、させるかっ!!)


 動いたのはアレクだった。

 俺も・・!!と思っても、笑う膝が邪魔をして動くことが出来ない。


 アレクは極意スキル【深淵ノ衣(フォルーン・アビス)】を発動して、漆黒に全身を包む。

 蹴り上げた地面が爆発し、一瞬で<ダイスポット>に接近した。

 そしてリタリアに伸ばした<ダイスポット>の右手を振り払うように蹴飛ばす。


(うらぁあっ!!)


 この時、初めて<ダイスポット>に攻撃が入った。

 蹴りの衝撃で<ダイスポット>はあとずさる。

 しかもその攻撃は、死のオーラを纏ったアレクの極意スキルだ。

 ヒットした部分が回復不能および、機能不全に(おちい)る。

 当たれば最後の致命の一撃。


「い、いける・・・・!?」


 ポツリと出た己の言葉に不安が取り除かれる。

 本当に矮小(わいしょう)な人間だ、俺は。

 今まで動くことすら出来なかったのに、希望が見えたとたん、やる気が出てくるなんて。

 卑怯なやつなんだ、根本的に。

 まあ反省するのはあいつを倒したあとでも、遅くないか。


「やるぞ、アレクっ!!」

(ナズっ・・・!!!)


 攻撃に参加する意思を示すために、アレクに声をかける。

 下位スキル【雷槍(ライトニング)】を数個同時に発動し、<ダイスポット>に飛ばした。

 これに<ダイスポット>は、両刃斧で軽く対応。片手で全て無効化した。


 しかしこれは囮。

 俺は【雷槍(ライトニング)】を発動後すぐに、極意スキル【緋雷ノ獣(ブロッディ・バーク)】を発動していた。

 展開までに時間のかかるこのスキルを、【雷槍(ライトニング)】を打つことでその時間を稼いでいたのだ。

 だが<ダイスポット>は、予想以上に素早く【雷槍(ライトニング)】に対応した。

 普通なら使い物にならなくなった右手に、動揺するもんじゃない!?


緋雷ノ獣(ブロッディ・バーク)】発動まで、まだ時間がかかる。

 余裕で防がれる・・・・?

 俺が一人ならね。

 そう。俺にはアレクがいる。

 しかも絶対に当たってはいけない攻撃を繰り出すアレクが。

 当たればそれまでだし、避けても俺の魔法で消し飛ばす!!

 完璧や!!

 案の定、アレクは俺の時間を稼ぐために、追撃を開始。

 放たれるアレクの右手は、・・・・見事<ダイスポット>の肩にヒットする。

<ダイスポット>はアレクの攻撃を避けようともせず、俺に突っ込んできたのだ。


 正直、予想外だ。

<ダイスポット>は他の魔物とは違う・・・感じがしていた。

 当然アレクの致命傷となる攻撃は避けてくるだろうと、踏んでいたんだけど・・。

 所詮(しょせん)は、魔物の脳みそってことか?


 俺は【緋雷ノ獣(ブロッディ・バーク)】の発動をが間に合わないことを察し中断、すぐさま【雷球(サンダーボール)】を複数個<ダイスポット>に向けて撃つ。

 避けきれない数の【雷球(サンダーボール)】に<ダイスポット>は停止し、両刃斧で迎えうつ。

 がしかし何個かは(さば)ききれず、そのまま命中した。

 見れば、<ダイスポット>はボロボロ。

 アレクの【深淵ノ衣(フォルーン・アビス)】によって右上半身は使いものにならない。

 さらに【雷球(サンダーボール)】も何個かまともにヒットしている。

 俺とアレクでなら、なんとかできる・・!!


(ナズ。油断せずいこう!!油断しなかったら、絶対いける!!)

「ああ!!」


 勝ち濃厚のこの状況で、<ダイスポット>は・・・・なおも(わら)っていた。

 その不気味な笑みを貼り付けて、<ダイスポット>は逃げ場のない壁側に飛んで下がった。


「・・・?」

(どうする、つもり・・?)


 俺とアレクは相手の出方を(うかが)う。

 なんてことはせず、一瞬の隙も与えず<ダイスポット>に攻撃を繰り出す。

 何もさせてはいけない・・・!!

 俺たちの意思は共通していた。

 特攻したアレクを前に<ダイスポット>の取った行動。

 やつは()()の右肩から先を両刃斧で切り落とした。


「はっ!!?」

(えっ!?)


 <ダイスポット>はその勢いのまま、突っ込むアレクに両刃斧を振るう。

 目の前で起きたことに呆気に取られていたアレクは、寸前でその斧を受け止める。

深淵ノ衣(フォルーン・アビス)】によって真っ二つにされることはなかったが、攻撃の衝撃はまともに入っている。

 地面を転がりながらアレクは必死に受け身を取った。


「あいつ、自分の体・・・。切りやがった!?」

(嘘でしょ!?回復スキルなんて持ってないよ!?)


 そう。アレクは<ダイスポット>のスキルを看破している。

 神位スキル【万象ヲ賛美スル瞳(ヘル・メス)】の前に隠し事は、基本的に不可能だ。

 俺もそれをわかっていたから、その行動はあり得ないと思っていた。

 唾を飲む。

 その一瞬の隙で、やつは動いた。やばいっ!!と思った時にはもう遅い。


<ダイスポット>は近くに転がっていた<強化ワイバーン>の死体に手を突っ込んだ。

 そこからあるものを取り出す。それは魔石だった。

 キラキラと光る魔石を<ダイスポット>は、そのでかい口の中に放り込んだ。


「魔石・・を喰ってる!?」

(だね。そういえば、ここに入ってきてた時も、食べてたけど、なんの意味が・・・)


 そもそも魔物が魔石を食べるなんて聞いたことない。

 見たこともないし、教えられたこともない。

 人間が動物の心臓食っても何もない様に、魔物も魔石を食ってもどうにもならない。

 若干、栄養価が高いくらいか?人間と同じなら。


 魔石を喰らった<ダイスポット>からは、切り落としたはずの右腕が生えてきていた。


「!!???」

(はあっ!!!??)


 それどころか、【雷球(サンダーボール)】によって与えた傷も、(ふさ)がっている。

 いや、てかっ!!なんで・・!!?

 はっ・・!??意味わかんない!!


「アレク!!?回復スキルないんじゃないのか!?」

(ないよ!!今見ても、そんなスキル増えてないし!!

 最初に伝えた時から、変わってるわけじゃない!!)


 じゃあ、なんで!!?


「あ・・・。ここ迷宮・・・。」


 いつの間にか、リタリアの側に寄っていたアリスが呟く。

 リタリアに回復薬を飲ませていたその手が、自身の言葉によって、思わず止まる。


 しかしこの言葉で、理解してしまう。

 そうだった。ここは迷宮の中だ。

 全ての魔物は、ボスモンスターの恩恵を受ける。

 そしてここのボスは古龍だ。魔物がどんな進化をしても不思議ではない。

 これは迷宮を攻略する時に、全員で共有していた情報だ。

 それを忘れていたなんて。


(っ、最初からおかしかったんだ・・!!この部屋に転がる<強化ワイバーン>の数。

 この数相手に、一人で無傷って。それくらい強いんだって、思ってたけど・・・!!)


 俺たちが入ってくるとき、やつは魔石を食っていた。

 あそこで、回復・・というか再生していたのか!!


「でも、そんなスキル持ってないんだろっ!?」

(だからっ!<ダイスポット>は種として・・。魔物の種として進化したんだ。

 ここの魔物全員がそうなのかもしれない!!

 けどこれは<ダイスポット>だから、魔物を殺す魔物だから気づけたってことだ・・・。)


 なんだよ、それ・・・!!!

 理不尽すぎるだろっ!!

 やりすぎてるよ、古龍様!マジで。加減ってもんがあるじゃん。


 完全復活した<ダイスポット>。

 先ほどの好機は、アレクの初見殺しが決まったおかげだ。

 こちらの手の内はもうバレている。

 同じ手は通用しない・・・。


 勝て・・・ない・・?

 蘇る絶望。

 思い出した様に、震え始める手。


『第二ラウンド開始だ。』

 そう言わんばかりに、<ダイスポット>は凶悪な笑みを浮かべた。


種族名:コボルド(強化)

二つ名:ダイスポット

スキル:極意スキル【悟ル危機】(固有)

    上位スキル【防護結界】(強化系)

         【斬撃波】(魔法系)

    下位スキル【剛腕】(強化系)

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