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欠陥転生者たち、そして覇道へ  作者: 朽木 庵
古龍登場編
30/34

27話 銀灰の剣

最後まで、気が抜けませんよ!?

 迷宮探索を始めて、3日目の朝。

 俺とアレク、リタリアが朝食を取っていると、アリスとグラディアが宿に入ってきた。


「おはよう。全員揃ってるわね。」

「おう。今日はもう・・・行くのか?その、・・あそこに。」


 宿には主人もいる。それに、誰がこの会話を聞いてるかもわからない。

 安易に迷宮の名前は出さない方がいいだろう。

 しかし・・・・。


「ええ?迷宮でしょ?もちろん、行くわよ。」


 アリスは安易に口に出した。


「お、おい。いいのか?そんな軽く口にして?秘密の場所なんだろ?」

「ああ・・・。それについては大丈夫よ。

 ここの村の人間は、みんな迷宮の存在を知っているから。」

「え?そうなの?」

「そうよ。そもそもあなたたち、この宿でお金払ってないでしょう?

 おかしいとは思わなかったの?」

「いやまあ。随分羽振りの良い宿屋だなとは思ったけど・・。」

「この村は、あの迷宮で得た富を活用してるのよ。

 だから無料で宿にも泊まれるし、食事もできるの。」

「へ、へー。」


 つまり言い換えると、この村で迷宮の利益を独占してるってわけか。

 かなり、勝手なことしてるくない?

 これ国にバレたら、マジで大変なことになるだろ。


「話を戻すけど、今日ももちろん迷宮に行くわ。

 でも、行く前にある程度情報を共有しようと思って。」

「それって、例の文献を私たちにも見せてくれるってことですか?」

「申し訳ないけど、それはできないの。」

「なんでだよ?」

「なんでもよ。ただ、知り得る限りの情報は共有するから。

 それで我慢してちょうだい。」


 アリスが、嫌がらせで文献を見せたくないと言ってる訳ではないのはわかる。

 どうしても、見せられない理由があるのだろう。

 それについて、何か言うつもりも、もうない。

 情報を教えてもらえるなら、それでいい。


「それじゃあ、まずフロアボスのことからね。

 フロアボスは全部で4体。それぞれ2層、4層、6層、8層にナワバリがあるとされてるわ。」

「うん。そこまでは昨日も、聞いてる通りだな。」

「けれど、私たちが迷宮に入った時には、2層と4層のフロアボス。<装甲竜>と<赤炎竜>の姿はなかったわ。」

「「え?」」(え?)


 今、なんて言った?知ってる竜の名前が出てきたぞ。

 それも、どっちも知ってる。

 俺たちの戸惑った様子に、アリスも困惑の表情を浮かべる。


「ど、どうしたの?」

「いや、フロアボスの名前、わかってたんだ・・・。」

「そう・・ね。確かに言ってなかったわ。ごめんなさい。」

「いや・・・、そうじゃなくて・・。」


 要領を得ない俺の言葉に、アリスは首を傾げる。

 言いたいことはあるのに、言葉がまとまらない。

 困惑しているせいで、頭の回転が(にぶ)い。

 俺は助けを求めるように、アレクとリタリアに目を合わせる。

 その意図を汲んでか、リタリアが早口気味に口を開いた。


「あ、あの。私たち、戦ったんです。<赤炎竜>と。」

「え!?なにを言って・・・」

「<赤炎竜>と戦ってるんですよ、私たち!ゾダニアから少し離れた森で!

 その時、ナズ君たちが助けに来て<赤炎竜>を倒してるんです!」


 リタリアの言葉に熱が(こも)る。

 この話を信じられないのか、アリスは俺たちに視線を向けた。

 俺はリタリアの話が本当であることを伝えるため、無言でカクカク頷く。


「おかしいとは思ってたんです。どうしてあんな場所に竜がいるんだって。

 でもまさか、迷宮から出てきてたとしたら・・・。」

「そこにいた、辻褄が合うわね。」


 アリスとリタリアは自分達が出した結論に、唾を飲む。

 二人はまだ確信が持てないのだろう。

 まだ、たまたま偶然という可能性だってある。

 しかし、俺とアレクは違う。

<赤炎竜>だけなら、俺たちも確信は持てなかったが、<装甲竜>の件もある。

 俺が異世界に来た初日。神位スキルで張り倒したのが<装甲竜>だ。

 偶然にしちゃ、出来すぎている。

 これを二人に伝えるべきかどうか。

 俺はアレクに目で訴える。


(安易に<装甲竜>のこと言うのもあれだけど・・・。

 でも伝えたほうが、いいか・・・。ナズ。僕の言う通りにみんなに伝えて。)


 了解です。


「あのさ。俺たち、<装甲竜>のことも知ってるんだ。」

「あなた、それ、本当に言ってるの!?」

「ああ、マジで言ってる。えっと・・・、俺たち、ゾダニアに来る前、少し王都にいたんだけどさ。

 そこで王国騎士団が<装甲竜>を倒してるの、見てるんだ。

<装甲竜>の遺体を城に運んでた。間違いない。」

「そう、なの・・!!?」

「それじゃやっぱり、迷宮から出てきたって事・・なんですかね・・!!」


 俺たちはあくまで、遠くから見ていただけというスタンスで、話を伝えた。


「でも、それでも納得いかないことがあるわ。

 その二体の竜が迷宮から出てきたのだとして、果たして王国騎士団に倒せるかしら?」

「お嬢様の(おっしゃ)る通りです。今のオネマリッタ王国は戦争中で、国のエリート軍はそっちに駆り出されています。

『玉座』や『氷剣』がいたとしても、迷宮の<装甲竜>相手に一筋縄では行かないはずです。」


 それまで、口を閉じていたグラディアが、意見を述べる。


「そうよね。それも、ただの<装甲竜>ではなく、迷宮で古龍様の影響を受けた<装甲竜>よ。

 そういえば、ナズたちは、どうやって<赤炎竜>を倒したのかしら?」

「どうって。ナズくんが魔法で一撃ですけど・・・。」


 リタリアが遠慮がちにそう言った。


「はあ?そんなのあり得ないわ。」

「そうだ、リタリア。適当なこと言うな。」

「いや、その反応はごもっともなんですが。私も見ちゃってるので・・」


 あれ?思ってた反応と違う。なんか怒られてるんだけど。


「いや俺、本当に魔法で倒したぞ!?

 『銀灰の剣』の他のメンバーも見てるから!」

「でも、魔法で一撃って・・・・。」


 しばらくの沈黙が流れる。

 この重い沈黙を破ったのは、リタリアだった。


「もし・・・、ですよ?もし、私たち以外に迷宮を攻略してる存在がいたら・・・?

 その人物がフロアボスと戦って、弱ったフロアボスが迷宮から逃げ出したとしたら・・・?

 全部の辻褄が合いませんか?」

「・・・確かに。それなら、迷宮から出てきた理由も、王国騎士団や、ナズが魔法で一撃で倒せたのも、説明がつくわ。」


 そういえば、あの時。<装甲竜>の、あの黒い鎧は傷だらけだった。

 そういうものだと思ってたけど、あれは誰かと戦っていたからなのか・・?


「その発想はなかった・・・!!すごいな、リタリア。よくそんなこと思いつくな!!」

「いえ・・・まあ。あくまで予想なんですけどね・・。」

「いや、あながち間違ってはないかもしれないわ。

 フロアボスがいなかったから、そっちが衝撃的すぎて。これは本当に少しの違和感だったのだけど・・・。」


 そう前置きして、アリスが続ける。


「私たち、迷宮の踏破スピードが早すぎるのよ。

 本来は一日1層くらいの想定だったの。その時は私の予想よりパーティーの戦闘力が高かっただけ、と流したけど・・・。

 もしかしたら、その謎の存在によって、魔物が減らされてたとしたら。

 この違和感にも納得がいくわ・・。」

「てことは、マジで俺たちの他に迷宮を攻略してるやつがいる可能性があるな。」


 俺の言葉に、全員が互いの顔を見合わせる。

 パーティーの覚悟が決まったのを感じる。


「今日、ここに話し合いの場を設けてよかったわ。

 今後の迷宮攻略。その第三者の存在を最大限警戒していきましょう。

 相手はフロアボスをも打ち倒せる実力を持つわ。」


 アリスの言葉を聞き、俺たちは頷く。

 それを締めとして、俺たちは話し合いを切り上げ迷宮に向かおうと、腰を上げた。

 そこでちょうど、宿の扉が開く。

 この朝方。宿に入ってきた人物。

 それは、宿の店主からナズの伝言を受けたヒナだった。


「あのー。ナズくんは・・・・・」


 何か見えないものでも警戒しているのか、扉を盾のようにして宿に入るヒナ。

 入り口で店番をしていた店主に、か細い声で尋ねている。


「おお、来たのか姉ちゃん。ボウズ共なら、奥に座ってるぜ。」

「ぁ・・・・ぁすぅ・・・・。」


 そそくさと逃げるように食堂へ行くヒナを店主は生温かい目で見ていた。

 礼が言えるようになっただけ成長したなと、店主は人知れず感じていたのだ。

 俺を見つけたヒナは、周りに自分の知らない人がいることに気づき固まる。

 わかる、わかる。

 友達が自分の知らない友達といる時って、こっちから話かけ辛いよな。


「よう、ヒナ!来てくれたのか!!」

「あ・・・・、うん・・・。」

「あら、この方は・・・?」

「この前、ナズ君がナンパしてた人ですよ。」

「いや、だから違うって・・・。こいつはヒナ。

 俺とアレクと、同じ出身っていうか・・。そう、同じ地元みたいな感じで。

 それで話が合っちゃって。」

「そう・・・なの。」


 アリスがヒナをじっと真剣に観察している。

 その目は値踏みするような不快な感じはなく、むしろ憧れに近いようですらあった。

 しかしヒナは、蛇に睨まれたカエルのように縮こまっている。

 可哀想なので、やめるように言うか?

 と思った矢先、アリスが口を開く。


「その髪は、生まれつきかしら?」

「ぇ・・・・。はぃ、そう、・・だと思い、ます。」

「そう。いい色ね。とても縁起がいい色よ・・。」

「・・・?」


 ヒナは困惑しているが、アリスは満足そうだ。

 そんなアリスは置いといて。


「せっかく、来てくれたのに、ごめん、ヒナ。

 俺たち今から、迷宮に行くんだよ。」

「え?・・・・迷宮に行ってるの・・・?」

「おう?古龍様に用があるらしくてな。それがどうかしたか?」

「い、いや、なんでも、ない、の・・・。」

「スキルのこととか教えて欲しいけど、また夜でも良いか?」


 俺の言葉を聞いたアリスが会話に割って入る。


「あら、ヒナさんも何かスキルが使えるの?どんなスキルが使えるのか、私も興味があるわ。」

「ぁぇ・・?・・・ぇっと、空間魔法とか・・・・?ですかね・・・」

「あら、随分強力な魔法スキルを持ってるのね。」

「多分ヒナは、俺たちより強いぜ。」


 なんせ、アレクの神位スキルの鑑定に一切引っかからないからな。

 隠密スキルとかも持ってるだろう。


「それなら、ヒナさんも一緒に迷宮攻略しないかしら?」


 それは・・・面白いかもしれん。

 ヒナのスキルを見るチャンスだし。


「いいな、それ!ヒナ、どうだ?」

「いや、ちょっと・・・。ごめんなさい。私、戦うのとかはちょっと苦手で・・・。」


 そうだった。ヒナも異世界人で、元は平和な日本で育ってきたんだ。

 他の奴らで麻痺してたけど、戦うのって普通に怖いよな。


「なんだ。強いんじゃないのか?」

「戦わない強さってのも、あるんだよグラディア。」


 ヒナの株を落とさずにフォローする。

 そんな意味ありげに言った俺の言葉に、グラディアは首を傾げた。


「何を言ってるんだ。武力は行使して、初めて強いという意味を持つだろ。

『使わない』ならまだわかるが、『使えない』ならただの置き物に過ぎんぞ。」


 確かに、そうかも。

 こんな秒で論破されたやつ、久々に見た。

 俺なんだけどね・・・。


「ま、まあ無理にとは言わないから。

 気になるなら、来ても良いよってくらいで。」

「う、うん。ありがと・・・。」

「それじゃ、行くか。」


 ヒナを宿に残して、俺たちは今日も迷宮に向かった。



 ***



 現在、迷宮5層。

 リタリアの索敵で迷宮の奥を目指す。

 来る道中、パーティーとしての方針を決めた。

 謎の第3者の存在は確かに気になるが、こっちの用があるのは古龍だ。

 相手が敵か味方かわからない今、会わないならそれが一番いいだろう。

 こちらの索敵に引っかかったとしても、無視することになった。

 前ではリタリアがいるし、後ろではアレクも索敵している。


(任せてよ。人と魔物は感知での反応が全然違うから。

 僕なら、その謎の存在がいたとしても、うまく避けれるよ!)


 と、アレクも自信ありげだ。

 ただアレクの神位スキル【万象ヲ賛美スル瞳(ヘル・メス)】は鑑定がメインらしい。


(索敵も一応はできるんだけど、解析が主だから。

 能力というか、性能は一段下がっちゃうんだよ、索敵の。)


 と、保険も張っていた。

 そんな保険掛けるなら、最初から自信ありげに言うなよ。

 そんなこんなで、、もう6層に到着だ。

 確かに魔物は相変わらず手強いが、数が少ない。

 なんなら、上の層よりも楽なまである。


「魔物の数。顕著になってきたわね。」

「だよな。俺でも気づくくらい少なくなってる。

 こりゃ、謎の攻略者が近くにいるのかも知れんな。」

(一応、人の反応はまだ引っかかってないけど・・・。)


 果たして、ここの6層には、フロアボスはいらっしゃるのか。

 なんなら、全部倒してくれても良いんだぞ。

 その方が俺たちも楽だから。

 なんて怠惰な考えを巡らせていると、前のリタリアから声がする。


「皆さん、こっちです。今のところ、人の気配もありません。

 魔物は、ポツポツって感じなので、そちらも上手く避けていきましょう。」

「了解。アレクも人の反応はないってよ。」

「よし。いきましょう。」


 リタリアが先導する形で、いつものようにパーティーは進んでいく。

 順調な足取り。魔物の数も少ないから、疲労も少ない。

 軽快に進む俺たちは、二人の索敵に全幅の信頼を寄せ、最短で奥を目指していた。

 と、ここで少し大きいホールのような空間に出た。

 そこでは、明らかに何かが戦ったような痕跡が残されていた。

 地面は抉れ、壁には無数の傷がつけられている。


「迷宮は、時間が経てば壊れた壁や地面も元通りになるわ。

 その修復が間に合ってないってことは、やはり近くにいるようね。」

「ああ。気ぃ引き締めないとな。」

「それにしても、これは凄まじい戦闘痕です、お嬢様。おそらくここのフロアボスと、謎の攻略者が戦ったのでしょうが。これは本格的に只者ではないかと。」

「あなた一人では、勝つことも厳しいほど?」

「・・・恥ずかしながら。しかし、ここにいる者が連携すれば、勝つのも可能です。」

「ふふっ。あなたの正直なところ好きよ。大丈夫。うちの男二人は、ちゃんと強いもの。」

「お!?・・おう。任せろ。」

「ああ。しっかり連携するんだぞ、ナズアレク。」

「人の名前繋げるな。一人みたいになってるだろ。」


 アリスとグラディアは、なんだかんだ俺たちを認めているようだ。

 意外にも。かなり意外ではあったけど。

 最初の頃に比べると、対応の違いに涙を禁じ得ない。


「私たちも、なかなかパーティーらしくなってきましたね。」

「本当か、リタリア?」

「本当ですとも。今なら、『銀灰の剣』にも負けないくらいの信頼関係のはずです!」

「それは言い過ぎじゃ・・・。」

「そんなことないですよ!名付け親の私がこのパーティーにいるんですし、むしろこっちが『銀灰の剣』を名乗っちゃいましょう!!」

「なんでそうなるんだよ・・。」

「あら、良いじゃない。パーティー名がある方が団結しやすいと思わない?」

「お嬢様の仰る通りです。」

「お嬢様全肯定ボットが・・・・!!」

「決まりです!ここの迷宮にいる間だけ、『銀灰の剣』の名前を借りておきましょう!」


 と言うわけで、俺たちが『銀灰の剣』らしい。

 ごめんなアンス他の方々。

 そういえば、このパーティー名の由来ってなんな・・・・


「ん?なんだあれ?光ってる?」

「!?」


 そんな俺の視界に、キラキラと輝くものが映った。

 俺の言葉に素早く反応したのは、リタリアだった。


「なんでしょう?どれですか?」

「ほらあれ。なんか光ってるだろ。」


 壁の隅の方に光るそれに近づく、パーティー一同。

 それは銀色が散らばった灰色の、いわば『銀灰色』・・・?

 の獣の体毛だった。


「獣毛?いやでも、毛・・・・って珍しいよな。この迷宮で。」

「そうね。出てくる魔物は全部、鱗で覆われてたものね。」

「一風変わったフロアボスがいたのかも知れません。毛だらけのドラゴンとか。」

「そう・・かも?だとしたら、見てみたかったな。」


 この時、俺たちは、パーティーと言うものを信頼しすぎていたのかも知れない。

 いやまあ、仲間なんだし。信頼するなって方が無理な話か。

 数々の仲間割れの危機を乗り越えてきた訳だし?

 絆はガチガチだと、俺は思ってた。

 仲間の言うことは間違いない、と。

 裏切るはずがないと、脳死で信じていたんだと思う。

 あいつ以外は。

 ホールを出て、細くなった道を進む。

 するとここにも、その銀灰の獣毛がパラパラと散らばっていた。


「あれ?ここにも獣毛が散らばってる?しかも奥に続いてんな。」

「てことは、そのフロアボスは割と小型だったのかも知れないですね。

 まだ生きてて、奥に逃げてるとか?」

「なるほどな。やっぱベテラン冒険者は、予測のスピードから違うな。」

「いや・・・そんな・・。それより、そんなフロアボスを倒しちゃう謎の攻略者って人の方が気になりますよね。

 一体どんな人なんでしょう。一応まだ、それらしき気配はないんですが・・・。」

(こっちも。人の反応はないよ。)


 謎の攻略者を警戒しつつ、俺たちパーティーは7層へ到達した。

 魔物との戦闘が明らかに少ないからだろう。

 潜るスピードも段違いに早い。


「今日はこの層も攻略しちゃいましょう。」

「そうですよね!皆さん、こっちです。」


 いつもは2層分しか進まなかったが、アリスのGOサインで更に奥へ進むことが決まる。

 疲れを表に出すタイプのリタリアも、今日の足取りはまだ軽いようだ。

 というか、今のパーティー内で一番シャキシャキ動いている。

 その姿は、どこか焦っている様にすら見えるが・・・。

 リタリアを先頭に進む。

 すると、アレクからの【年話】が突然響く。


(ナズ!妙だ!)

「わっ。ど、どうしたアレク?」

(この先、戦ってる奴らがいる。)

「えっ!?まさか・・。」

「ナズくん?アレクくんはなんと・・・」

「しっ」


 リタリアの言葉が、グラディアによって止められる。

 静まった空間に、道の先から(かす)かな音が聞こえてくる。

 ガンッ!!ゴンッ!!

 何か固いものがぶつかる音?

 リタリアが先頭で歩を進め、それに呼応するようにパーティーも前へと動く。

 近づくにつれ、その音は大きくなってきた。


「この先で、戦いが発生していますね・・。」

「ああ。アレクもそう言ってる。」

「てことはまさか、例の攻略者がいる・・・?」


 アリスの予測を、アレクが否定する。


(ナズ、多分違うと思う。だってこの先で戦ってるのは、どっちも魔物なんだ。

 人の反応じゃない。)

「え・・・!?まじか。・・・アレク曰く、この先戦ってるのは魔物同士らしいぞ。」

「・・・と言うことは、攻略者じゃない?でもなぜ魔物同士が?」

「ナワバリ争い、とか?するのか知らんけど・・・。」


 俺たちは慎重に、先を進む。


「魔物は、<強化ワイバーン>が複数・・・。今もどんどん減っていってる。

 んで、もう片方は、見たことない魔力反応・・だと言ってる。アレクが。」

「謎の魔物が、一対多をしている?それこそ、冒険者のよう・・・」


 グラディアが言い切る前に、奥から魔物の断末魔が聞こえる。

 全員が唾を飲むのを感じた。


「・・・<強化ワイバーン>の魔力反応が全て消えた、らしい・・。」

「ただの魔物ではない。・・・お嬢様、ここは別ルートを選択することも。」

「そうね。イレギュラーに自ら飛び込む必要はないわ。

 ここは迂回して・・・って、リタリア聞いてる?」


 アリスの問いに、リタリアは答えることなく、またその足が止まることもない。

 むしろ、歩くペースは早くなっている?

 先頭が止まらなければ、全体も止まらない。

 リタリアはちょうど、このパーティーで、マラソンのペースメイカーのような役割をしていた。

 思えば今日も、リタリアの進むペースが早かったから、攻略が早かったのかも知れない。


「おい、リタリア!アリスの話聞けって・・・」


 俺はリタリアを止めるために手を肩に乗せる。

 しかしリタリアは俺の手を払い退け、なお前に進む。

 盲目的に。その姿は、何かに取り憑かれているようで。

 何を言っても止まらないリタリアに、俺たちは付いて行くしかなかった。


 進んだ先は、(ひら)けた空間になっていた。

 おびただしい量の<強化ワイバーン>の死体が、乱雑に転がる。

 そこにはついさっきまで激しい戦闘が行われていた熱気が充満していた。

 そして、この空間の中央。

 一際でかい<強化ワイバーン>の上に腰を落とした、1匹の魔物の姿が。

 太々(ふてぶて)しく座った、銀灰の体毛に覆われるそいつは、バリバリと・・・魔石を喰っている!?

 俺たちを見つけると、大量の血を吸った巨大な両刃斧を杖にして立ち上がり、いやらしく笑った。


「やっと・・・・」

「っ、・・・リタリア?」


 そいつの存在感に、息をする事を忘れていたらしい。

 リタリアの声で、現実に引き戻されたが、そのリタリアの様子が明らかにおかしい。


「やっと見つけた・・・!もう、逃さない!!

 家族の、仲間の、・・姉の仇!!!ここで、死ねっ!!!ダイスポット!!」


 絶叫し、構えた弓から矢を放つリタリア。

 もう何がなんだかわからないが、とりあえずあいつを倒せばいいのか!?



 これは、あとで知ったことだ。

『銀灰の剣』

 それは、銀灰の獣を殺すための仲間(どうぐ)たちに、リタリアが付けた名前だった。


『次回:ナズたち死す!?』

次回も絶対読んでくれよな!

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