26.5話 とある少女の独り言?
本編の裏では、少女の激しい独り言(?)が呟かれていたようですね。
彼女は今、ひどく興奮していた。
〜〜〜
最近は自身のコミュ力向上のため、近くの村に通って人と関わってきた。
と言っても、その村唯一の宿、兼レストランに入って食事をするだけだが。
会話をすることはないし、目も合った記憶はないが、宿屋の主人はこんな自分にも親切に接してくれる。
それに、これでも彼女にとっては、精一杯のコミュニケーションをしているつもりなのだ。
『この村は大丈夫だ。』とソフィも言っていた。
あの人がそう言うなら、信じてみよう。
彼女はソフィに安心してもらうためにも、自分を変えようとしていた。
そして今日。
いつものように宿屋で食事をしていると、扉が開く音が聞こえてきた。
この村には、滅多に旅人が来ない。
当然、宿屋はいつもガラガラ。自分以外に利用している者はいなかった。
周りの目を気にしなくてよいこの空間を、彼女は居心地よく感じていたのだが。
しかし今日、珍しく自分以外の人間が入ってきた。
嫌だなー。早くどこかに行かないかなー。
密かにそんなことを思いつつ、自分の気配を殺す。
空気と一体になる感じだ。
彼女の得意分野の一つで、処世術と言っても良い。
前の世界でも、毎日のようにやっていた。
それなのに、今日に限って上手くいかなかったようだ。
一人の男が、こちらに向かって、喋りかけてきた。
〜〜〜
興奮冷めやらぬまま、彼女は自身の寝床を目指した。
心拍数が上がっているのは、村を駆け足で出てきたからではない。
火照った体を冷まそうともせず、彼女は足を急に止めた。
ここから歩くとそれなりに時間が掛かるのだが、そこは異世界。
魔法でワープして、すぐに到着。
便利すげる・・・!!と心の中で、震える。
寝床に着くと、リラックスした格好になって、話たいことを整理する。
こんなにも喋りたいことがあるのは、いつぶりだろう。
・・・そろそろだろうか。
「・・・・・・あ、おかえり・・!」
「・・え?テンションが高い?・・・うん、そうかも。実はね、今日他の異世界人に会ったの。」
「そう。しかも二人。一人は日本人だったんだ!」
「・・いや?男の子だったよ。どっちも。」
「・・・大丈夫だよ・・!優しい人たちだったよ。」
「・・・ふふっ。酷い言い草。そっちもだいぶ苦労してるみたいだね。」
「久しぶりに、ソフィ以外の人とあんなに話したよ。また今度、話す約束もしてるんだ。」
「えー?大丈夫だと思うけど・・・。うん。・・・わかった。・・ありがとう。」
「じゃあ、今度はそっちの話。今日はどうだった・・・?」
その空間に、彼女以外の生き物などいない。
彼女のそれを、独り言だと認識してしまうのだって、無理もない。
しかし、彼女は明らかに誰かと喋っている様子だ。
彼女の独り言から出た、ソフィと呼ばれた人物。
遠い場所にいる誰かなのか。それとも、近くにいるのだろうか。
そもそも、存在しているのか。
真相はわからない。
だが、コミュ症の彼女がなんの気兼ねも無く話せている時点で、親密な仲であることが窺える。
「・・・うん。じゃあまたね、ソフィ。おやすみ。」
彼女の言葉は、その場にひっそりと消えていく。
大迷宮の最奥で、他の誰に聞かれることなく。