26話 不穏な空気
展開のジェットコースターをどうぞ!!
迷宮。
それは、強大な魔力を持った魔物を核に形成された空間。
魔物にとって城の様なものである。
迷宮内ではボスモンスター(核となった魔物)の影響を受けた、珍しいモンスターが出現する。
通常より手強いが、その分素材や魔石も高値で取引される。
そのため、迷宮はそれだけで国を豊かにすると言われている。
迷宮の、最も特質した点。
それは、時間経過でモンスターが復活するというところにある。
これによって、冒険者がいくら狩ろうと絶滅することはない。
しかし、ボスモンスターだけは別。
ボスを倒したら、迷宮としての機能はなくなり、生態系のみが残るらしい。
つまり、節度を守らないと、絶滅しちゃうよってこと。
なら、ボスを倒す意味なくない?って思うかもしれない。
けど、そんなこともないらしい。
曰く、ボスを倒した者には、相応の<ギフト>が与えられる。
更に、素材・魔石の値段も半端ないとか。
残った生態系をしっかり管理できるなら、ボスを倒せるに越したことはないとのことだ。
以上が、アレクに【年話】で聞いた迷宮の情報だ。
アリスたちの話を真剣な顔で聞いていたが、その実、迷宮が何なのかよくわかっていなかった。
そこを、皆にバレずにフォローしてくれるアレク君、まじサイコー。
「古龍の・・・大迷宮。やっぱり、ここは迷宮だったんですね・・・!
なら早く、ギルドに報告しないと・・・・!!」
そう。
迷宮は、それだけで大変貴重なものだ。
よってどの国でも、見つけ次第、ギルドを通して国に報告する義務がある。
なんでそんなこと、しなきゃダメなの?
と、アレクに目で聞いてみたところ・・・
(迷宮ってのは、巨万の富をもたらすからね。
単純に、国も冒険者ギルドも、その甘い汁をチューチューしたいんだよ。)
まあ、自国で管理してたら、利益も好きなように出来るしな。
だから、わざわざ義務付けてんのか。
(ちなみに、隠蔽の疑いでも出ようもんなら、即刻、打首ものらしいよ。)
いや怖すぎるだろ。
疑いの時点で打首とか、どんだけ迷宮欲しいんだよ。
そこまでされたら、隠す気とか起きないのかもな。
目の前の娘さんは、違うみたいだけど。
「それはダメよ、リタリア。ここに来る前も言ったでしょ?外部には秘密にするようにってね。」
「確かに、言われましたけどっ!!迷宮についてなら、話は変わります!!
失礼な言い方ですけど、一商人の手に負えるものではないですよ!!
絶対に報告した方がいいです・・・!!」
リタリアがそう言うのも納得だ。
このことが公になれば、指名手配まっしぐらだろう。
まあ、忘れがちだけど、俺とアレクは元からこの国には追われてるんだけど。
リタリアの力説にアリスは、ふぅと息を吐いた。
諦めたのか?・・・いや、違うみたいだ。
見てわかるくらいに、説得に応じたやつの目つきじゃない。
「私は、あなたがこの場所を秘密にできると、約束してくれたから、同行を許可したのよ?
それを、やっぱり出来ませんなんて、酷い話じゃないかしら?」
「そうですけど・・・・・。でも・・・・!!」
「そう・・・・。」
アリスは一拍置いてから、言葉を続けた。
「あまり、伝わってなかった様だから、確認しておくわね。
あなたがパーティーに加わるとき、私が言ったこと、覚えてるかしら?」
「えっと・・・・・・はい・・・。」
リタリアは、その言葉を思い出したのか、生唾を飲んだ。
俺も当然、覚えている。何とも悪の親玉みたいなセリフだったからだ。
『破らないようにね?自分と周りの命が惜しかったら。』
確かに、そう言っていた。
「あれは冗談を言っていたわけではなくて、脅迫してたのよ?
この意味、わかるわよね?」
アリスの言葉に応える様に、隣に立っていたグラディアが、剣の柄に手を乗せる。
それに呼応して、リタリアも体を緊張させ、得物に手を近づけた。
不安や敵意、緊張やらがごちゃ混ぜになった空気が、場に流れ出す。
「お、おい・・・・、」
急変した空気を和ませようと、口を開いてみたけど、続く言葉を見つけることはできなかった。
いや、無理でしょ、だって。この空気、重すぎるって。
何で?仲間じゃないの、俺たち。
さっきまで、普通だったじゃん。
てかここ、危険な場所なんだよね。仲間割れしてる場合じゃないって。
言いたいことは山程湧いてくるのに、口には出来ない。
出来るような雰囲気じゃないし。
この時間は、数秒にも満たなかったのかもしれない。
一時間か、一日だったかも。
とにかく、時間の感覚がぶっ壊れるくらい張り詰めたこの空気を、終わらせたのは、リタリアだった。
「わっ・・・・わかりました。ギルドに報告はしません・・。
まだ死んだら困るので、約束は守ります。」
リタリアの声は、若干震えていたが、そこは冒険者。
最大限、弱みを見せない様に、取り繕った態度を貫いていた。
「・・・・・・そう、ならもういいわ。賢い選択をしてくれて、私も嬉しいわよ。」
そう言いながらアリスは手で、グラディアに戦闘体制をやめるよう指示する。
すると、気が緩んだのか、リタリアがグデッと大袈裟に肩の力を抜いた。
「ああ〜、怖かったですっ。グラディアさんの殺気やばすぎですよ・・!
こんなに死を実感したのは、久しぶりです・・・・。」
わざとらしく、半べそをかきながらリタリアが言う。
それによって、少し空気が和んだ。
てか、グラディアからそのレベルの殺気を向けられてたのか、リタリアは。
同情するよ。マジで。
あと、仲間に殺気とか、向けんなよ。
「お嬢様の命令ならば、致し方ない。恨んでくれるなよ。」
「マジで、お嬢様ファーストだよな。グラディアさんはっ。」
「当然だ。お嬢様の命令が、何より優先されるのだ。」
「それでこそ、私の騎士よ。グラディア。」
「はっ!ありがたき御言葉!!」
「でも、本当に殺されたら、化けて出てやりますよ。」
「問題ない。その時は私が地獄に送ってやる。」
「問題あるだろ。まず殺すなって・・・・。」
「うう・・・。せめて天に送ってください。」
「殺されるのは、受け入れるのかよ。」
パーティーにいつもの調子が戻ってきた。
そうそう。
ギスギスしてるより、こっちの方が断然いい。
軽口を叩き合う仲で。殺気を叩きつけ合う仲なんてごめんだ。
「歩きながら聞いて。もうお分かりでしょうけど・・・」
会話を見守っていたアリスが、口を開く。
止められなかったら、永遠に喋りそうな勢いだったので、こういう時、仕切ってくれるアリスは助かる。
俺たちは迷宮の奥を目指し、歩きだす。
「ここは古龍様の迷宮よ。その影響で、龍の特徴を持つモンスターが出現するわ。
さっきの<リザードマン>みたいにね。」
「ああ・・・、羽の生えたあの<リザードマン>な。
じゃあ火ィとか吹いたりする奴もいるのかな・・・?」
「・・あなたの発想力がおめでたいのは、わかったわ。」
褒められてる・・。?
いやこの感じは多分、皮肉を言われてる。
遠回しに、小馬鹿にしてきてる・・!!
「古龍様に、不可能なことなどない。
スキルや魔力、肉体においても、世界の頂点とされるお方よ。
その影響を受けてるのだから、何が起こっても不思議ではないわ。」
「奥に進むほど、古龍様の影響も大きくなる。
羽が生えただけの<リザードマン>と、同様に考えていたら、死ぬことになるぞ。」
アリスとグラディアの忠告に、唾を飲む。
てか言葉の節々から感じる、こいつらの古龍へのリスペクトがすごい。
そんなに好きなのかな・・・
「なあ。すげー古龍を慕ってるみたいだけど、何でなの?」
「え?・・・ああ、家のね。・・商人の守り神みたいな存在でもあるのよっ。」
「へえ。商人の・・・」
「そうよっ!私の名前も、古龍ソフィアリス様から取られて付けられたのよっ?」
「そ、そうなんだ。・・だったら商人の娘はアリスって名前多そうだな。
同じ考えの人がさ。何人か絶対いるよ。」
「ふふふ、そうね〜。それに、グラディアの鎧や剣も、綺麗な色でしょう?
これも、古龍ソフィアリス様のお姿に沿って作られているのよ。」
「お、おお〜。」
アリスが急にめっちゃ早口になった。
古龍の話が出来て嬉しいのだろうか。
その圧に、若干気圧された。
まるで、自分の推しを熱心に布教する人みたいだ。
熱量がハンパない。
もはや崇拝してるレベル。
古龍教に入信しちゃってる。幹部レベルよ完全に。
などと、くだらない事を考えていると、リタリアがスッと手を上げる。
「何かしら、リタリア?」
「あの、大迷宮なんですよね、ここ。
だったらいるんですよね?・・フロアボス。」
フロアボス?・・何それ。教えてアレクえもん・・!
視線をアレクにバッと回す。
目だけで『お願い!!説明して!!』と訴えたところ、【年話】が頭に響く。
(フロアボスってのはね。規模の大きい迷宮に出現する、中ボスモンスターのことだね。
通常の迷宮のボスくらい強いらしいよ。古龍の迷宮なら、それ以上かも。)
なるほど。
俺はアレクの話に驚きつつ、顔には真剣な表情を貼り付ける。
これによって周りには、話に付いて行ってる様に見えているはずだ。
腕を組んでおくのがポイントだ。
実際はアレクの補助輪込みで、ギリギリなんだけど。
「ええ、いるわ。」
「やっぱり・・・。で、そいつはどこにいるんですか?
というか、アリスさんたちはこの迷宮のこと、どこまで知ってるんですかっ?」
「そうね。もう隠すこともないし、ちゃんと言うわ。」
「お願いしますよっ!」
俺もこくんと頷いておく。
「この大迷宮は、深度10層から成っているわ。
と言っても文献で読んだだけで、実際に行ったことがあるわけではないのだけど。」
「深度10・・・!!古龍さん、凄まじいですね。
そのレベルの迷宮なんて、世界に数えるほどしかないですよ・・!」
通常の迷宮は、3〜4層らしい。
7層から大迷宮と呼ばれるようになり、フロアボスが出現するそう。
ちなみに、世界最深だと11層の大迷宮があるらしい。
「古龍様の迷宮なのだ。世界有数のものであるなど、当たり前だ。」
「こりゃ、攻略するのも一苦労だな。もっと簡単な依頼だと思ってたわ。」
「確認不足ね、ナズ。」
アリスがニコッと悪戯っぽく笑う。
お前が騙してたんだろうが。
とは口には出せないので、心の中でつぶやく。
(そっちが騙してたんじゃないか!)
アレクは元から口に出せないので、【年話】で言いたい放題言ってる。
「うう・・。じゃあやっぱり、フロアボスも1体だけじゃないんですかぁ・・?」
「そうよ、リタリア。流石はベテラン冒険者。感が鋭いわね。」
「2体もフロアボスがいるなんて、骨が折れそうです・・・。」
「本当にな。物理的に折れた時は、治療頼んだぞ・・・。」
俺とリタリアは、これから背負うであろう互いの苦労を同情し合う。
そこに、美少女の皮を被った悪魔からの言葉が降りかかる。
「あら?私がいつ、2体だなんて言ったかしら?」
「「え?」」
「フロアボスは、全部で4体よ?」
「「はあっ!!??よんっ!!??」」
リタリアと俺の声が綺麗に重なる。
当然のことの様に、アリスはさらっと告げた。
「え?だって・・!!最深11層の大迷宮ですら、フロアボスは2体ですよ!?
なのに、10層の、この迷宮が、4って・・・」
「まあ、古龍様の大迷宮なんだもの。しょうがないわ。」
「しょうがなくねえよっ!!何してんだ、古龍様!!!
中ボスを4体も置くなよ!!調整ミスってるだろ、これ!?」
頭が現実を受け入れようとしない。
バランス調整が終わってるクソゲーをやってるのか?
俺は今、クソゲーをやらされてる?
早く、売りに行かないと・・・!!
ブックOFFさんか、ゲオさんに駆け込まないと・・・!!
「はいはい。ツベコベ我儘言って、足が止まってるわよ。
早く進まないと、グラディアに後ろから刺してもらうわよ?」
いや、スパルタ過ぎてビビるんだけど。
これ我儘とかじゃないだろっ。
正当に嘆いてるだけなんですけど。
こいつ本気で、悪魔の可能性出てきたぞ・・・。
とは言え、刺されるのは嫌なので、仕方なく奥を目指した。
***
翼の生えた<リザードマン>。竜の鱗に包まれた<大鬼>の群れ。
複数の魔法属性を操る<コカトリス>。
極め付けは<ワイバーン>。
三叉に別れた尾が、それぞれ意思を持ったように、殴ってきたり、魔法を使ったりしてくる。
しかも、目がいっぱい付いてる。6個くらい。
いや、目は2個にしとけよ。正直に言うと、キモいんだよ。
6個の目が独立して360度確認するみたいに、ぎょろぎょろ動いんてんの。
こんなにてんこ盛りなのに、口から火は吐かなかった。
口は噛む専みたいだ。そこは、吹いとけよ、火。
俺の唯一の予想が外れたじゃねえか。
このようなユニークな魔物が出現したが、こちらの戦力も高い。
苦戦しつつも、確実に魔物を倒していく。
結局、初日は2層まで突破して、引き返した。
「今日は、フロアボスとやり合わないんだな。」
「そうね。・・・でも明日は確実に戦うことになるでしょうから。
しっかり休んで、覚悟も決めておきなさい。」
「そう言われると、緊張して眠れないかも。なあ、リタリア?」
「何言ってるんですか、ナズ君。こんだけ戦ったら、クタクタですぐ寝れますよ・・!!
何なら、今寝てやってもいいんですよっ・・!!?」
そう言うと、前を歩いていたリタリアは、俺の方に背をもたれ掛けてきた。
ふわっと香った甘い匂いに、少しドキッとする。
けど、悟られない様に、その背を押し返す。
「寝るな寝るな。わかったから、一人で歩け。」
「はーいはい。宿に着くまで寝ないので、安心してください。」
迷宮を出て、村に帰り着く。
ここで、アリスとグラディアとは別れた。
リタリアは宿に着くなり、部屋に消えていった。
シャワーを浴びて、すぐ寝るらしい。
俺たちはと言うと、まだ寝るわけにはいかない。
飯を食べないといけないのもあるが、もう一つ。
ヒナと話す約束をしている。
「おっちゃん、ただいまー。」
「おー、お客さん。お疲れさま!!飯は食ってくかいっ?」
「お願いしますー。二人分ね。」
「あいよっ!」
俺とアレクは食堂の椅子に腰掛け、一息つく。
周りを見渡さずともわかる。
俺たち二人だけだ。ヒナは部屋にいるのかな。
「なあ、おっちゃん。今日の昼、ここにいた女の子さ。
今、部屋にいるの?」
「んあ?・・・あー、あのデケー姉ちゃんな!
ありゃ、泊まりの客じゃねえよ?」
「え、そうなの?」
「おう。最近よくフラっと来るな。昼ごろに飯だけ食いによ。
この辺の森に、一人で暮らしてんのかね。」
いや、日本人がいきなり森で一人暮らしは、ハードル高いだろ。
それも俺と同い年だし。
「でも、確かに、泊まってるなんて言ってなかったな。」
(最近、こんな感じの勘違い、多いね、僕たち。)
「だな。『また会ったら』って言ってたから、今夜のことだと思ってたけど、違ったんだな。」
(明日は昼前から迷宮に行くから、会えないかも。)
それだと困るな。こんな時、スマホがあれば便利なんだけど。
そんなもの、異世界には持ち込めないので、おっちゃんを使おう。
「おっちゃん。悪いけど、次その女の子来たらさ、伝言頼まれてくれない?
朝か夜の都合いい時に、宿に来て欲しいって。
昼は・・・忙しいから会えないって。」
迷宮に行ってることは、秘密にしてた方がいいよな。
ヒナにも、おっちゃんにも。
「ああ、いいとも。最近やっと、あの姉ちゃんの言いたい事とか伝わってくるようになったからな。
最初の頃は酷かったんだぜ?店の中には入ってきてるのに、うんともすんとも言わねえんだ。」
「ははっ・・・・。じゃあまあ、頼みます。」
ヒナは結構、コミュ障っぽいもんな。
しかも、思い立ったら行動しちゃうタイプのコミュ障か。
〜〜〜〜
翌日。
今日も今日とて、迷宮攻略。
1、2層の魔物は、昨日あらかた討伐したため、残りは無視して、ガンガン進んだ。
そして3層、さらに4層も突破した、ナズたち。
順調に5層へのルートを確保し、一息ついた段階で、アリスが口を開く。
「おかしいわ・・・!」
「やっぱり・・・?」(だよね・・。)「そうですよね・・。」「ふむ・・・。」
4人とも、似たような反応を示す。
その原因とは。
「フロアボスが見当たらない・・。」
そう。
今日、確実に戦うことになると言われた、フロアボスがいないということだ。
「まさか下の方に移動して、最後にボスラッシュみたいに襲ってくるとか?」
「ナズの発想はユニークだけど、それはない・・・はずよ。」
「左様です、お嬢様。通常、フロアボスは自分のナワバリから出ません。」
「それに、フロアボスのいる層は、文献に記載されていたわ。
それぞれ2、4、6、8層にいるとされていたわ。」
「え、でも昨日の・・・。2層にもいなかったし、この4層にもいないじゃんか・・!?」
「だから、おかしいと言ってるのよ。
昨日は、文献を読み間違えたのかとも考えたけど、そうではなかった。
なのに、どうして・・・・・」
「そもそも、文献自体が間違ってるんじゃないのか?」
「それこそ、あり得ないわ。」
「なんでだよっ?」
「その文献はね。古龍ソフィアリス様が自ら書いたものだからよ。
だから、何よりも信ぴょう性があるの。」
「いや、そんなの・・・。古龍さんが嘘ついてる可能性だって・・・」
「それこそ、あり得ないわ。」
「・・・なんの自信だよ。」
「おい貴様っ。お嬢様が間違ったことを言ってるとでも・・?」
「可能性はあるだろって、話で・・・」
迷宮攻略におけるイレギュラー。
冒険者というのは、こういったイレギュラーをどの程度柔軟に対応できるかで、生存率が変わってくる。
当然、ムキになって言い争うなど、論外だ。
しかし、ここに集まったのは、冒険者経験の浅い、ビギナーたち。
そんなこと、知ったこっちゃない。
・・・一人を除いては。
「皆さん!!こういったイレギュラーには落ち着いて対応しましょう!!
不安かもしれませんけど、言い争ったって、良いことないですよっ!
話し合いをしましょう?」
一人で黙々と、辺りを探索していたリタリアが戻って声をかけてきた。
その声に、言い争いをしていた者たちの頭が冷える。
「・・・リタリアの言う通りだな・・。言い争ってる場合じゃないわ。
ごめんな、感じ悪いこと言って。」
「いいえ・・・。私も意地になっていたわ。ごめんなさい。」
「私は、至って落ち着いていたぞ。」
「ふっ、そうね。確かに、グラディアは通常運転だったわ。」
「いつも、あんな感じだもんな。」
冷静さを取り戻したパーティーは、話し合いに戻る。
「とりあえず、今日はここで切り上げましょう。
私ももう一回、文献を調べ直しておくわ。」
「そうだな。・・・リタリアもありがとうな。」
「いえいえっ!私は、ベテラン冒険者ですから。」
「同行してもらってよかったわ。本当、頼りしてるわね。」
パーティーとしての絆が深まったのを、ナズは感じていた。
〜Side リタリア〜
フロアボスがいない。
4層と5層の境目でアリスが切り出した。
全員が薄々感じていたこと。
異常事態。
その言葉に、全員が唸り声を上げる。
リタリアも同様に、首を傾げて唸っていた。
その拍子に、リタリアの視界にキラッとあるものが写った。
普通なら気にならないようなもの。
しかし、リタリアはそれを見逃さなかった。
なぜか。
それは一重に、それを探し続けていたからだろう。
常に、それを探し続けた。
見つけては、追いかけて、見失い。それを繰り返し。
頭は常に、そいつに支配されていた。
ようやく、その痕跡を見つけた。
『銀灰』色の毛玉。
灰のようにくすんだ色の中に、キラキラと光る銀色が散らばる獣毛。
言い争いを始めるナズとアリスを無視して、その『銀灰の獣毛』に近づく。
何かと戦った際に、毟り取られたのだろう。
迷宮に吸収されそうになっているそれを、逃すものかと拾い上げる。
この迷宮の奥に、奴がいる。
とうとう追い詰めた。
復讐の炎に焼かれたリタリアの顔は、その場の誰にも見られることはなかった。
ふうっと息を吐き、努めて明るく、言い争いをする武器たちに声をかける。
冒険者というのは、戦いに私情を持ち込んだ時点で、生存率が変わってくる。
さあさあ。不穏な空気になってまいりましたよっ(嬉)。