表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
欠陥転生者たち、そして覇道へ  作者: 朽木 庵
古龍登場編
28/34

26話 不穏な空気

展開のジェットコースターをどうぞ!!

 迷宮。

 それは、強大な魔力を持った魔物を核に形成された空間。

 魔物にとって城の様なものである。


 迷宮内ではボスモンスター(核となった魔物)の影響を受けた、珍しいモンスターが出現する。

 通常より手強いが、その分素材や魔石も高値で取引される。

 そのため、迷宮はそれだけで国を豊かにすると言われている。


 迷宮の、最も特質した点。

 それは、時間経過でモンスターが復活するというところにある。

 これによって、冒険者がいくら狩ろうと絶滅することはない。


 しかし、ボスモンスターだけは別。

 ボスを倒したら、迷宮としての機能はなくなり、生態系のみが残るらしい。

 つまり、節度を守らないと、絶滅しちゃうよってこと。


 なら、ボスを倒す意味なくない?って思うかもしれない。

 けど、そんなこともないらしい。

 (いわ)く、ボスを倒した者には、相応の<ギフト>が与えられる。

 更に、素材・魔石の値段も半端ないとか。

 残った生態系をしっかり管理できるなら、ボスを倒せるに越したことはないとのことだ。


 以上が、アレクに【年話】で聞いた迷宮の情報だ。

 アリスたちの話を真剣な顔で聞いていたが、その実、迷宮が何なのかよくわかっていなかった。

 そこを、皆にバレずにフォローしてくれるアレク君、まじサイコー。


「古龍の・・・大迷宮。やっぱり、ここは迷宮だったんですね・・・!

 なら早く、ギルドに報告しないと・・・・!!」


 そう。

 迷宮は、それだけで大変貴重なものだ。

 よってどの国でも、見つけ次第、ギルドを通して国に報告する義務がある。

 なんでそんなこと、しなきゃダメなの?

 と、アレクに目で聞いてみたところ・・・


(迷宮ってのは、巨万の富をもたらすからね。

 単純に、国も冒険者ギルドも、その甘い汁をチューチューしたいんだよ。)


 まあ、自国で管理してたら、利益も好きなように出来るしな。

 だから、わざわざ義務付けてんのか。


(ちなみに、隠蔽(いんぺい)の疑いでも出ようもんなら、即刻、打首ものらしいよ。)


 いや怖すぎるだろ。

 疑いの時点で打首とか、どんだけ迷宮欲しいんだよ。

 そこまでされたら、隠す気とか起きないのかもな。

 目の前の娘さんは、違うみたいだけど。


「それはダメよ、リタリア。ここに来る前も言ったでしょ?外部には秘密にするようにってね。」

「確かに、言われましたけどっ!!迷宮についてなら、話は変わります!!

 失礼な言い方ですけど、一商人の手に負えるものではないですよ!!

 絶対に報告した方がいいです・・・!!」


 リタリアがそう言うのも納得だ。

 このことが(おおやけ)になれば、指名手配まっしぐらだろう。

 まあ、忘れがちだけど、俺とアレクは元からこの国には追われてるんだけど。

 リタリアの力説にアリスは、ふぅと息を吐いた。

 諦めたのか?・・・いや、違うみたいだ。

 見てわかるくらいに、説得に応じたやつの目つきじゃない。


「私は、あなたがこの場所を秘密にできると、約束してくれたから、同行を許可したのよ?

 それを、やっぱり出来ませんなんて、酷い話じゃないかしら?」

「そうですけど・・・・・。でも・・・・!!」

「そう・・・・。」


 アリスは一拍置いてから、言葉を続けた。


「あまり、伝わってなかった様だから、確認しておくわね。

 あなたがパーティーに加わるとき、私が言ったこと、覚えてるかしら?」

「えっと・・・・・・はい・・・。」


 リタリアは、その言葉を思い出したのか、生唾を飲んだ。

 俺も当然、覚えている。何とも悪の親玉みたいなセリフだったからだ。

『破らないようにね?自分と周りの命が惜しかったら。』

 確かに、そう言っていた。


「あれは冗談を言っていたわけではなくて、()()してたのよ?

 この意味、わかるわよね?」


 アリスの言葉に(こた)える様に、隣に立っていたグラディアが、剣の(つか)に手を乗せる。

 それに呼応して、リタリアも体を緊張させ、得物に手を近づけた。

 不安や敵意、緊張やらがごちゃ混ぜになった空気が、場に流れ出す。


「お、おい・・・・、」


 急変した空気を和ませようと、口を開いてみたけど、続く言葉を見つけることはできなかった。


 いや、無理でしょ、だって。この空気、重すぎるって。

 何で?仲間じゃないの、俺たち。

 さっきまで、普通だったじゃん。

 てかここ、危険な場所なんだよね。仲間割れしてる場合じゃないって。

 言いたいことは山程湧いてくるのに、口には出来ない。

 出来るような雰囲気じゃないし。


 この時間は、数秒にも満たなかったのかもしれない。

 一時間か、一日だったかも。

 とにかく、時間の感覚がぶっ壊れるくらい張り詰めたこの空気を、終わらせたのは、リタリアだった。


「わっ・・・・わかりました。ギルドに報告はしません・・。

 まだ死んだら困るので、約束は守ります。」


 リタリアの声は、若干震えていたが、そこは冒険者。

 最大限、弱みを見せない様に、取り(つくろ)った態度を(つらぬ)いていた。


「・・・・・・そう、ならもういいわ。賢い選択をしてくれて、私も嬉しいわよ。」


 そう言いながらアリスは手で、グラディアに戦闘体制をやめるよう指示する。

 すると、気が緩んだのか、リタリアがグデッと大袈裟に肩の力を抜いた。


「ああ〜、怖かったですっ。グラディアさんの殺気やばすぎですよ・・!

 こんなに死を実感したのは、久しぶりです・・・・。」


 わざとらしく、半べそをかきながらリタリアが言う。

 それによって、少し空気が和んだ。

 てか、グラディアからそのレベルの殺気を向けられてたのか、リタリアは。

 同情するよ。マジで。

 あと、仲間に殺気とか、向けんなよ。


「お嬢様の命令ならば、致し方ない。恨んでくれるなよ。」

「マジで、お嬢様ファーストだよな。グラディアさんはっ。」

「当然だ。お嬢様の命令が、何より優先されるのだ。」

「それでこそ、私の騎士よ。グラディア。」

「はっ!ありがたき御言葉!!」


「でも、本当に殺されたら、化けて出てやりますよ。」

「問題ない。その時は私が地獄に送ってやる。」

「問題あるだろ。まず殺すなって・・・・。」

「うう・・・。せめて天に送ってください。」

「殺されるのは、受け入れるのかよ。」


 パーティーにいつもの調子が戻ってきた。

 そうそう。

 ギスギスしてるより、こっちの方が断然いい。

 軽口を叩き合う仲で。殺気を叩きつけ合う仲なんてごめんだ。


「歩きながら聞いて。もうお分かりでしょうけど・・・」


 会話を見守っていたアリスが、口を開く。

 止められなかったら、永遠に喋りそうな勢いだったので、こういう時、仕切ってくれるアリスは助かる。

 俺たちは迷宮の奥を目指し、歩きだす。


「ここは古龍様の迷宮よ。その影響で、龍の特徴を持つモンスターが出現するわ。

 さっきの<リザードマン>みたいにね。」

「ああ・・・、羽の生えたあの<リザードマン>な。

 じゃあ火ィとか吹いたりする奴もいるのかな・・・?」

「・・あなたの発想力がおめでたいのは、わかったわ。」


 褒められてる・・。?

 いやこの感じは多分、皮肉を言われてる。

 遠回しに、小馬鹿にしてきてる・・!!


「古龍様に、不可能なことなどない。

 スキルや魔力、肉体においても、世界の頂点とされるお方よ。

 その影響を受けてるのだから、何が起こっても不思議ではないわ。」

「奥に進むほど、古龍様の影響も大きくなる。

 羽が生えただけの<リザードマン>と、同様に考えていたら、死ぬことになるぞ。」


 アリスとグラディアの忠告に、唾を飲む。

 てか言葉の節々から感じる、こいつらの古龍へのリスペクトがすごい。

 そんなに好きなのかな・・・


「なあ。すげー古龍を(した)ってるみたいだけど、何でなの?」

「え?・・・ああ、家のね。・・商人の守り神みたいな存在でもあるのよっ。」

「へえ。商人の・・・」

「そうよっ!私の名前も、古龍ソフィアリス様から取られて付けられたのよっ?」

「そ、そうなんだ。・・だったら商人の娘はアリスって名前多そうだな。

 同じ考えの人がさ。何人か絶対いるよ。」

「ふふふ、そうね〜。それに、グラディアの鎧や剣も、綺麗な色でしょう?

 これも、古龍ソフィアリス様のお姿に沿()って作られているのよ。」

「お、おお〜。」


 アリスが急にめっちゃ早口になった。

 古龍の話が出来て嬉しいのだろうか。

 その圧に、若干気圧(けお)された。

 まるで、自分の推しを熱心に布教する人みたいだ。

 熱量がハンパない。

 もはや崇拝してるレベル。

 古龍教に入信しちゃってる。幹部レベルよ完全に。

 などと、くだらない事を考えていると、リタリアがスッと手を上げる。


「何かしら、リタリア?」

「あの、()迷宮なんですよね、ここ。

 だったらいるんですよね?・・フロアボス。」


 フロアボス?・・何それ。教えてアレクえもん・・!

 視線をアレクにバッと回す。

 目だけで『お願い!!説明して!!』と訴えたところ、【年話】が頭に響く。


(フロアボスってのはね。規模の大きい迷宮に出現する、中ボスモンスターのことだね。

 通常の迷宮のボスくらい強いらしいよ。古龍の迷宮なら、それ以上かも。)


 なるほど。

 俺はアレクの話に驚きつつ、顔には真剣な表情を貼り付ける。

 これによって周りには、話に付いて行ってる様に見えているはずだ。

 腕を組んでおくのがポイントだ。

 実際はアレクの補助輪込みで、ギリギリなんだけど。


「ええ、いるわ。」

「やっぱり・・・。で、そいつはどこにいるんですか?

 というか、アリスさんたちはこの迷宮のこと、どこまで知ってるんですかっ?」

「そうね。もう隠すこともないし、ちゃんと言うわ。」

「お願いしますよっ!」


 俺もこくんと頷いておく。


「この大迷宮は、深度10層から成っているわ。

 と言っても文献で読んだだけで、実際に行ったことがあるわけではないのだけど。」

「深度10・・・!!古龍さん、凄まじいですね。

 そのレベルの迷宮なんて、世界に数えるほどしかないですよ・・!」


 通常の迷宮は、3〜4層らしい。

 7層から大迷宮と呼ばれるようになり、フロアボスが出現するそう。

 ちなみに、世界最深だと11層の大迷宮があるらしい。


「古龍様の迷宮なのだ。世界有数のものであるなど、当たり前だ。」

「こりゃ、攻略するのも一苦労だな。もっと簡単な依頼だと思ってたわ。」

「確認不足ね、ナズ。」


 アリスがニコッと悪戯(いたずら)っぽく笑う。

 お前が騙してたんだろうが。

 とは口には出せないので、心の中でつぶやく。


(そっちが騙してたんじゃないか!)


 アレクは元から口に出せないので、【年話】で言いたい放題言ってる。


「うう・・。じゃあやっぱり、フロアボスも1体だけじゃないんですかぁ・・?」

「そうよ、リタリア。流石はベテラン冒険者。感が鋭いわね。」

「2体もフロアボスがいるなんて、骨が折れそうです・・・。」

「本当にな。物理的に折れた時は、治療頼んだぞ・・・。」


 俺とリタリアは、これから背負うであろう互いの苦労を同情し合う。

 そこに、美少女の皮を被った悪魔からの言葉が降りかかる。


「あら?私がいつ、2体だなんて言ったかしら?」

「「え?」」

「フロアボスは、全部で4体よ?」

「「はあっ!!??よんっ!!??」」


 リタリアと俺の声が綺麗に重なる。

 当然のことの様に、アリスはさらっと告げた。


「え?だって・・!!最深11層の大迷宮ですら、フロアボスは2体ですよ!?

 なのに、10層の、この迷宮が、4って・・・」

「まあ、古龍様の大迷宮なんだもの。しょうがないわ。」

「しょうがなくねえよっ!!何してんだ、古龍様!!!

 中ボスを4体も置くなよ!!調整ミスってるだろ、これ!?」


 頭が現実を受け入れようとしない。

 バランス調整が終わってるクソゲーをやってるのか?

 俺は今、クソゲーをやらされてる?

 早く、売りに行かないと・・・!!

 ブックOFFさんか、ゲオさんに駆け込まないと・・・!!


「はいはい。ツベコベ我儘言って、足が止まってるわよ。

 早く進まないと、グラディアに後ろから刺してもらうわよ?」


 いや、スパルタ過ぎてビビるんだけど。

 これ我儘とかじゃないだろっ。

 正当に(なげ)いてるだけなんですけど。

 こいつ本気で、悪魔の可能性出てきたぞ・・・。


 とは言え、刺されるのは嫌なので、仕方なく奥を目指した。



 ***



 翼の生えた<リザードマン>。竜の鱗に包まれた<大鬼(オーガ)>の群れ。

 複数の魔法属性を操る<コカトリス>。

 極め付けは<ワイバーン>。

 三叉に別れた尾が、それぞれ意思を持ったように、殴ってきたり、魔法を使ったりしてくる。

 しかも、目がいっぱい付いてる。6個くらい。

 いや、目は2個にしとけよ。正直に言うと、キモいんだよ。

 6個の目が独立して360度確認するみたいに、ぎょろぎょろ動いんてんの。

 こんなにてんこ盛りなのに、口から火は吐かなかった。

 口は噛む専みたいだ。そこは、吹いとけよ、火。

 俺の唯一の予想が外れたじゃねえか。


 このようなユニークな魔物が出現したが、こちらの戦力も高い。

 苦戦しつつも、確実に魔物を倒していく。

 結局、初日は2層まで突破して、引き返した。


「今日は、フロアボスとやり合わないんだな。」

「そうね。・・・でも明日は確実に戦うことになるでしょうから。

 しっかり休んで、覚悟も決めておきなさい。」

「そう言われると、緊張して眠れないかも。なあ、リタリア?」

「何言ってるんですか、ナズ君。こんだけ戦ったら、クタクタですぐ寝れますよ・・!!

 何なら、今寝てやってもいいんですよっ・・!!?」


 そう言うと、前を歩いていたリタリアは、俺の方に背をもたれ掛けてきた。

 ふわっと香った甘い匂いに、少しドキッとする。

 けど、悟られない様に、その背を押し返す。


「寝るな寝るな。わかったから、一人で歩け。」

「はーいはい。宿に着くまで寝ないので、安心してください。」


 迷宮を出て、村に帰り着く。

 ここで、アリスとグラディアとは別れた。

 リタリアは宿に着くなり、部屋に消えていった。

 シャワーを浴びて、すぐ寝るらしい。


 俺たちはと言うと、まだ寝るわけにはいかない。

 飯を食べないといけないのもあるが、もう一つ。

 ヒナと話す約束をしている。


「おっちゃん、ただいまー。」

「おー、お客さん。お疲れさま!!飯は食ってくかいっ?」

「お願いしますー。二人分ね。」

「あいよっ!」


 俺とアレクは食堂の椅子に腰掛け、一息つく。

 周りを見渡さずともわかる。

 俺たち二人だけだ。ヒナは部屋にいるのかな。


「なあ、おっちゃん。今日の昼、ここにいた女の子さ。

 今、部屋にいるの?」

「んあ?・・・あー、あのデケー姉ちゃんな!

 ありゃ、泊まりの客じゃねえよ?」

「え、そうなの?」

「おう。最近よくフラっと来るな。昼ごろに飯だけ食いによ。

 この辺の森に、一人で暮らしてんのかね。」


 いや、日本人がいきなり森で一人暮らしは、ハードル高いだろ。

 それも俺と同い年だし。


「でも、確かに、泊まってるなんて言ってなかったな。」

(最近、こんな感じの勘違い、多いね、僕たち。)

「だな。『また会ったら』って言ってたから、今夜のことだと思ってたけど、違ったんだな。」

(明日は昼前から迷宮に行くから、会えないかも。)


 それだと困るな。こんな時、スマホがあれば便利なんだけど。

 そんなもの、異世界には持ち込めないので、おっちゃんを使おう。


「おっちゃん。悪いけど、次その女の子来たらさ、伝言頼まれてくれない?

 朝か夜の都合いい時に、宿に来て欲しいって。

 昼は・・・忙しいから会えないって。」


 迷宮に行ってることは、秘密にしてた方がいいよな。

 ヒナにも、おっちゃんにも。


「ああ、いいとも。最近やっと、あの姉ちゃんの言いたい事とか伝わってくるようになったからな。

 最初の頃は酷かったんだぜ?店の中には入ってきてるのに、うんともすんとも言わねえんだ。」

「ははっ・・・・。じゃあまあ、頼みます。」


 ヒナは結構、コミュ障っぽいもんな。

 しかも、思い立ったら行動しちゃうタイプのコミュ障か。



 〜〜〜〜



 翌日。

 今日も今日とて、迷宮攻略。

 1、2層の魔物は、昨日あらかた討伐したため、残りは無視して、ガンガン進んだ。

 そして3層、さらに4層も突破した、ナズたち。

 順調に5層へのルートを確保し、一息ついた段階で、アリスが口を開く。


「おかしいわ・・・!」

「やっぱり・・・?」(だよね・・。)「そうですよね・・。」「ふむ・・・。」


 4人とも、似たような反応を示す。

 その原因とは。


「フロアボスが見当たらない・・。」


 そう。

 今日、確実に戦うことになると言われた、フロアボスがいないということだ。


「まさか下の方に移動して、最後にボスラッシュみたいに襲ってくるとか?」

「ナズの発想はユニークだけど、それはない・・・はずよ。」

「左様です、お嬢様。通常、フロアボスは自分のナワバリから出ません。」

「それに、フロアボスのいる層は、文献に記載されていたわ。

 それぞれ2、4、6、8層にいるとされていたわ。」

「え、でも昨日の・・・。2層にもいなかったし、この4層にもいないじゃんか・・!?」

「だから、おかしいと言ってるのよ。

 昨日は、文献を読み間違えたのかとも考えたけど、そうではなかった。

 なのに、どうして・・・・・」

「そもそも、文献自体が間違ってるんじゃないのか?」

「それこそ、あり得ないわ。」

「なんでだよっ?」

「その文献はね。古龍ソフィアリス様が自ら書いたものだからよ。

 だから、何よりも信ぴょう性があるの。」

「いや、そんなの・・・。古龍さんが嘘ついてる可能性だって・・・」

「それこそ、あり得ないわ。」

「・・・なんの自信だよ。」

「おい貴様っ。お嬢様が間違ったことを言ってるとでも・・?」

「可能性はあるだろって、話で・・・」


 迷宮攻略におけるイレギュラー。

 冒険者というのは、こういったイレギュラーをどの程度柔軟に対応できるかで、生存率が変わってくる。

 当然、ムキになって言い争うなど、論外だ。

 しかし、ここに集まったのは、冒険者経験の浅い、ビギナーたち。

 そんなこと、知ったこっちゃない。

 ・・・一人を除いては。


「皆さん!!こういったイレギュラーには落ち着いて対応しましょう!!

 不安かもしれませんけど、言い争ったって、良いことないですよっ!

 話し合いをしましょう?」


 一人で黙々と、(あた)りを探索していたリタリアが戻って声をかけてきた。

 その声に、言い争いをしていた者たちの頭が冷える。


「・・・リタリアの言う通りだな・・。言い争ってる場合じゃないわ。

 ごめんな、感じ悪いこと言って。」

「いいえ・・・。私も意地になっていたわ。ごめんなさい。」

「私は、(いた)って落ち着いていたぞ。」

「ふっ、そうね。確かに、グラディアは通常運転だったわ。」

「いつも、あんな感じだもんな。」


 冷静さを取り戻したパーティーは、話し合いに戻る。


「とりあえず、今日はここで切り上げましょう。

 私ももう一回、文献を調べ直しておくわ。」

「そうだな。・・・リタリアもありがとうな。」

「いえいえっ!私は、ベテラン冒険者ですから。」

「同行してもらってよかったわ。本当、頼りしてるわね。」


 パーティーとしての絆が深まったのを、ナズは感じていた。



 〜Side リタリア〜


 フロアボスがいない。

 4層と5層の境目でアリスが切り出した。

 全員が薄々感じていたこと。

 異常事態。

 その言葉に、全員が(うな)り声を上げる。

 リタリアも同様に、首を傾げて唸っていた。


 その拍子に、リタリアの視界にキラッとあるものが写った。

 普通なら気にならないようなもの。

 しかし、リタリアはそれを見逃さなかった。

 なぜか。

 それは一重(ひとえ)に、それを探し続けていたからだろう。

 常に、それを探し続けた。

 見つけては、追いかけて、見失い。それを繰り返し。

 頭は常に、そいつに支配されていた。

 ようやく、その痕跡を見つけた。

『銀灰』色の毛玉。

 灰のようにくすんだ色の中に、キラキラと光る銀色が散らばる獣毛(じゅうもう)


 言い争いを始めるナズとアリスを無視して、その『銀灰の獣毛』に近づく。

 何かと戦った際に、(むし)り取られたのだろう。

 迷宮に吸収されそうになっているそれを、逃すものかと拾い上げる。

 この迷宮の奥に、奴がいる。

 とうとう追い詰めた。

 復讐の炎に焼かれたリタリアの顔は、その場の誰にも見られることはなかった。


 ふうっと息を吐き、努めて明るく、言い争いをする武器(なかま)たちに声をかける。




 冒険者というのは、戦いに私情を持ち込んだ時点で、生存率が変わってくる。

さあさあ。不穏な空気になってまいりましたよっ(嬉)。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ