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欠陥転生者たち、そして覇道へ  作者: 朽木 庵
古龍登場編
24/34

22話 大穴での戦い

 突如として地中に大穴を開けた<パルスワーム>は、無責任にも他の穴に姿を消した。

 ぽっかり口を開けた大穴の中を、俺とアレクは滑り落ちていく。

 どうしてこうなった?

 詳しいことはわからないが、どうせスキーロスが何か仕組んだに違いない。

 大量の<リザードマン>の死骸と共に、大穴をクネクネと滑り落ちながら、そんなことを考える。

 しばらくすると、地面と並行に掘られた別の穴と繋がったらしい。

 着地のことを考えてなかったが、<リザードマン>の死骸が、いい感じのクッションになってくれて助かった。

 尻餅を付いた状態から立ち上がり、土を払いながら口を開く。


「さて、どうやって上に戻るよ?」

(ナズ・・・、切り替えの速さが尋常じゃないね。僕はまだ引きずってるよ、さっきのこと。なんか変なテンションになってたし、完全に油断してた・・・。)


 確かに、解体中にふざけ倒してたのは、正直アレクらしくなかったな。

 ヘコんでるようなので、ここはいっちょフォローしてやるか・・。


「まあ気にすんなって。

 アレクの悪ふざけなんて珍しいもの見れて、俺はむしろ楽しかったし!!得した気分だ!」


 ビシッと親指を立てて、笑顔でフォローする。

 しかし、アレクは。


(ううっ。もう二度とふざけない・・。)


 やっちまった。外したようだ。

 アレクは地面にめり込みそうなほど、さらに落ち込んでしまった。

 それならばと、俺は焦ってフォローの方向性を変えてみる。


「お、おおかたスキーロスのやつが、なんかしたんだろっ。

 だってあいつニヤニヤ笑ってたし、狙ってやった感じだったもん絶対。うん、絶対そうだっ」

(そうかなぁ・・?でもまあそうだとしても・・。

 その時点で、スキーロスの狙いに気付けてないから、やっぱり僕はダメなやつだあ。)


 こいつ、ちょっと面倒くさいな。

 ・・・なんてことはこれっぽちも思ってないけど、そろそろ切り替えて欲しくなってきた。


「はいはい。もうその辺にしとけよ。・・・・んで話を戻すけど、どうやって戻るよ?」


 落下してきた穴を、そのまま登るのが簡単そうだけど。

 でもどうやって?って話だよな。

 アレクはともかく、俺の手が鉤爪みたいになってたら楽なんだけど。

 あいにくそのような凶暴な性能は持ち合わせていない。

 俺の問いにアレクは数秒上を向いて考え、それから前髪に隠された目で俺を見る。


(・・・・とりあえず、思いつくまで<リザードマン>の解体を進めちゃおうか。

 やりながら、考えよう)

「そうするか」


 うだうだ考えて時間を消費するよりも、俺たちは手を動かすことにした。

 二人は散らばった<リザードマン>を一箇所に集め、また解体を始める。

 とにかく、夕刻までに解体を終わらせて、ギルドに戻らなければ。アレクとナズの思考は一致していた。


 ・・・・よしっ!

 俺は軽く気合いを入れ、膨大な量の解体作業に取り掛かる。その直前。


(ナズ!ちょっと待って!)


 キンッと頭の中でアレクの声が響く。

 飛び跳ねた肩を宥めるようにして、俺はアレクに振り向いた。


「んびっくりした!・・何、どうしたんだ?」

(魔物が近づいてきてる。しかも大量に・・・。)

「魔物?・・が大量に?・・つっても、具体的にどんくらいよ?」

(・・・多分、今わかるだけで、300くらい。)

「はあ!!??さんびゃくぅ!!??

 なんの冗談だ。何したらそんな恨み買うんだよ。魔物になんかしたのかアレク!?」

(いや、何もしてないよ!?)

「そりゃ失敬した。・・でもこのままだと正面衝突だし。戦ってる時間なんてないよな!?」

(うん・・・・・。そうだよね・・・。

 よし、・・・決めた。ナズ、今から僕の言う通りにして。)

「わ、わかった・・!!」


 状況が把握できない時は、アレクの指示に従う。

 これに限る。

 アレクは一箇所に集めておいた<リザードマン>の死骸を全てマジックバックに詰め込んだ。


(よし、付いてきて、ナズ。)


 アレクの先導で、洞窟を爆進する。

 するとすぐに、洞窟の行き止まりに当たった。


「あれ、行き止まりだぞ?道間違えたのか?」

(うんん。ここでいいんだ。)


 壁際まで進みながら、アレクは俺の疑問を否定する。

 そして先程収納した<リザードマン>を、また地面に広げ始めた。


(じゃあナズはここで、解体作業してて。魔物の相手は僕がするから。)

「はあ!?300体か、それ以上いるんだろ?それを一人で相手するって・・。

 それこそ、冗談だろ?」

(いや、本気だよ。僕には魔物がいつどこに、どのくらい来るのかとか・・。

 そういうの全部わかるから。僕がやるのが一番いい。)

「それにしてもだろ・・。」

(大丈夫!!一体一体は、そんなに強くないから。

 それに、本気出すから。)


 地面にゴリゴリと、足で線を引くアレク。


(ここより先に、魔物が入ることはないから。)


 長い前髪から、真剣なアレクの目が覗く。

 そこには、本当に任せられそうなアレクの自信が(うかが)える。

 ・・・けど、本当に大丈夫なのか?

 俺も加勢した方がいいのでは?そっちの役回りは、俺の方が向いてるのでは?

 湧いてくる不安の言葉は、しかしアレクの瞳の前に、ねじ伏せられる。

『安心して。』と語りかけられてるようにすら、感じる。


「・・・・・マジで、危なくなったら、言ってくれよ。

 飛んで加勢しにいくから。」

(ふふっ。ナズ、飛べるんなら帰りの心配はしなくてよさそうだね。)

「いや、そう言う意味の『飛ぶ』じゃないけど・・。まあ任せたぞ。」


 俺は拳を前に突き出す。

 気合いを入れるためにやってみたけど。

 いざやってみると、少年ジャンプの熱いキャラみたいで、ちょっと気恥ずかしくなった。

 そんな俺を前に。アレクは。

 両手を俺の首に巻きつけ、ガバっと抱きついてきた。


「!?・・・・・アレクさん?一体何をなさってる・・・!?」

(うん、スーハー。ちょっとね、スーハー。気持ちを、スーハー。高めるために。)


 意味はわからなかった。

 アレクは俺の左肩から顔を出し、鼻から大きく息を吸い込んでいる。

 何度も何度も。


(多分、『これ』が原因で、僕も、魔物も、おかしく、なって・・・。)


 よくわからないことを言いながら、アレクは息を吸い込み続ける。

 そして最終的に、俺の肩に顔を擦りつけ始めた。


「おいおい!・・そのまま野生に帰るつもりか?

 マジもんの猫になるのか?」


 俺の心配の言葉を、アレクは無視する。


(・・ふう。よし。・・・・うんうんっ!!・・テンション上がってきたぁ!!

 それじゃあナズっ、解体任せたよんっ!!)


 俺の肩から、何か危険なものでも摂取したのか、あいつ。

 この世界では合法なのか知らんけど、日本で今の光景を見せたら、一発でお縄だろうな。

 それくらい、アレクのやつ極まってた。

 てか、俺の肩はヤバい薬の培養施設か何かなのかな。

 トテトテと、小走りで遠ざかってくアレクの背中を見送りながら、考えいたが・・。

 ・・・俺も、早く解体始めるか。



 ***



 その後すぐに姿を現す魔物たち。

 アレクに『解体よろしく』と言われた手前、ナズは作業を進めるが。

 一応、横目で、アレクのこともチラチラと確認していた。

 どうしても、不安だったのだろう。

 しかしすぐに、その不安は杞憂に終わることになる。


 ナズは今日初めて、アレクが本気で戦うところを見たのだ。

 それまで見てきた、温厚でどこかほんわかした印象のアレクではない。

 獰猛な肉食獣。

 そんな表現すら生ぬるいような、凶暴性を宿したアレクが魔物を蹴散らす姿を。


 ナズの肩に付けられた『魔酔粉』。

 神位スキル【万象ヲ賛美スル瞳(ヘル・メス)】により、何かはわかっていたアレクだが、効果までは知らない。

 しかし、これまでの状況を見て、これが原因であることをアレクは察していた。

 そしてアレクは、肺いっぱいにそれを吸収したのだ。

 獣人にとっては、猫にとってのマタタビのような効果もある。

 そんなものを大量に摂取したのだから、アレクのテンションが壊れるのは当然だった。

 恍惚(こうこつ)とした表情に、自然と持ち上がる口角。荒く不規則な息遣(いきづか)い。

 アレクは、すぐそこにまで迫っている魔物を認識しながら、スキルを発動する。


 まず【猛獣化】で、自身の身体能力を限界以上に高める。

【猛獣化】は、獣人版の【身体強化】だ。

 人族よりも高い身体能力を誇る獣人が、このスキルを発動すると、まさに『鬼に金棒』となる。

 全身の毛が逆立ち、牙が伸び、爪は鋭さを増す。

 更にここからアレクは、極位スキル【深淵ノ衣(フォルーン・アビス)】を発動。

 暗黒のモヤがロングコートを形どったようなものに、全身を包む。

深淵ノ衣(フォルーン・アビス)】の主な効果は二つ。

 筋力の爆発的強化と、触れた生命の細胞部分へ『死』を与える。

 アレクは持てる限りの、最高の攻撃体勢で、敵を蹂躙し始める。



 ***



 あれが、アレクだと?

 あんな姿、初めて見たぞ。

 見たといっても、戦い始める前の、一瞬だけど。

 そこから先は、動きが速すぎて、まともに目で捉えられない。

【身体強化】を発動して、目をよく凝らす。

 それでようやく、何をしてるのかわかるレベルだ。


 押し寄せてくる、魔物の大群。

 それを見て、気づいた。

 多分アレクは、魔物が迫ってくる方向を、一箇所に限定したくて、この行き止まりに来たのか。

 確かに、前からも後ろからも魔物が来てたら、守り辛いもんな。


 アレクは地面を蹴って、その大群に突っ込む。

 暗黒の弾丸と化したアレクが、大群と正面からぶち当たった。

 そして弾け飛ぶ、魔物。

 一気に、十数体ほど蹴散らしたことにより、群れの真ん中に僅かなスペースが空く。

 それでも魔物は大群。その圧倒的な物量で、群れの勢いは衰えない。

 攻撃の影響を受けなかった両端から、雪崩(なだれ)こむように魔物が近づいてくる。

 しかしアレクは、これを許さない。

 アレクの立っていた地面が爆ぜたかと思えば、群れの左端に移動しており、そこで暗黒の爪を豪快に振るう。

 一振りで、数十体を持っていく強烈な攻撃が、一瞬のうちに何回も何回も群れを襲う。

 かと思えば、今度は反対の右端に移動しており、そこでも同じように攻撃を繰り出す。


 正直な感想を言おう。あいつやってることヤバすぎです。

 アレクの動きが速すぎて、あいつ自身が20人くらいに分裂してるように見える。

 アレクは本当に一人で、群れの進行を止めていた。

 だけども、あんな無茶な動きが長時間続くのか?

 アレクの限界が来る前に、解体を終わらせなければ。

 俺は<リザードマン>の魔石を剥ぎ取る手を加速させる。


 〜〜〜


 ようやく、解体の終わりが見えてくる。

 アレクの動きは衰えるどころか、むしろ動くたびにキレが増していた。

 驚くことに、アレクはただ、群れの進行を止めているだけではないのだ。

 なんと、迫る魔物の大群を押し返している。

 アレクの魔物を蹴散らすスピードが、相手の物量を完全に上回っている。

 これなら、いけるかもしれない。

 倒されて横たわっているいろんな魔物の死骸で、ここら一体はとんでもない地獄絵図になっているが、そんな中でも希望の光が見える。

 俺の解体する手も浮かれ始める。

 そんな時に。

 ゴゴゴゴゴっと。

 どこか懐かしい揺れを感じる。

 この感覚は・・・・


 バゴォォオオオンンン!!!


 俺が思い至るよりも早く、惨劇は起きる。

 行き止まりだったはずの壁が、爆発した。

 そう。この揺れは<パルスワーム>が地面を掘り進める時の揺れだった。

 馬鹿でかいミミズ型の魔物が、壁だった場所に大穴を開け、顔を出す。

 そんな、迫り来る<パルスワーム>を前に、俺は咄嗟(とっさ)の判断が鈍る。


 戦いはアレクに任せる?

 いやでも、アレクは今、反対側で群れを相手にしている。

 そもそもアレクとこいつとじゃ、距離がかなり空いてる。

 俺の方が近い。俺が倒すべき?

 何で倒す?【緋雷ノ獣(ブロッディ・バーグ)】?いや発動が間に合わない。

森羅ヲ破壊スル力(ア・レース)】を使えば、なんとかなる?

 一撃で倒せるか?

 やはり、アレクに任せた方がいい?


 思考が頭を駆け巡る。様々な選択肢が俺の体をその場に縛りつけた。

 それでも、硬直したのは、ほんの寸秒だった。

 すぐに自分で倒すと腹を決め、スキルの発動に取り掛かろうとした。

 しかし、その寸秒が、彼には長く感じたのだろう。

 俺がスキルを発動するよりも速く、<パルスワーム>の顔面に、アレクの爪がめり込んでいた。


「はっ!?」


 確かに、その速さにも驚いた。

 しかし俺が一番びっくりしたのは、アレクの顔。その表情にだ。

 戦闘が始まる前にしていた、あの恍惚とした顔。

 非合法な薬で、気持ちよく飛んでしまった人がするような表情(実際見たこはないけど)。

 この戦ってる間、ずっとそんな顔してたのか・・!?

 戦いをオカズにオ◯ニーする戦闘狂。

 そんな表現がピッタリとくる。

 魔物視点では、恐怖そのものだろう。魔物に感情があるかは、知らんが。


 顔面に暗黒の爪を叩き込んだアレクとバチっと目が合う。

 驚いている俺の表情に対し、アレクは相変わらずの顔で、そのまま人差し指を立てて口元に当てる。

 そして口パクで呟いた。「ダーメっ」と。

 実際に聞こえたわけじゃないが、確信は持てる。

 おそらく、俺が攻撃しようとしていたのがわかったのだろう。

 アレクは全ての魔物を一人でやると言った。ゆえに、俺が戦闘に参加するのを許さなかったのだ。


 そのアレクが空中から姿を消す。

 一瞬見失ったが、俺はすぐに視界に捉える。

 アレクは<パルスワーム>の顔の下部分に潜り込んでいたのだ。

 そこから一呼吸おいて、体を大きく回し遠心力を極限まで生み出し、豪快に魔物の顔を蹴り上げた。

 蹴り上げた先からブオンと波打つ何重もの衝撃が、肉眼で見えるほどに<パルスワーム>の体を這いずった。

 その衝撃が余すことなく伝わると同時に、<パルスワーム>は天井に叩きつけられていた。

 まるで、重力が上を向いてるみたいに、当たり前に上にめり込んでいる。

 目の前で起きてる事なのに、CGを見てる気分だ。

 呆気に取られる。

 しかしアレクは、興味を無くした子供かの様に、なんの未練もなくその場を後にした。


「・・・バーサーカーすぎるだろ・・・・。」


 ぽろっと口から出た言葉は、アレクが蹴散らす魔物の音にかき消された。


 〜〜〜


 しばらくすると、戦闘の音がなくなり、洞窟に静けさが戻る。

 散らばる魔物の死体から、フラフラとこちらに近づく影が見える。

 アレクだ。

 そこには先程の恍惚とした表情はなく、酷くげっそりした顔が張り付いている。

 確実に6徹(徹夜を6日連続)くらいしてそうな人の顔だ。


「お、お疲れ・・!!」

(いや、ほんとに。ちょー疲れたよ。

 僕がやるって言い出したことだし、文句はないんだけどさ・・。)


 なんてアレクは言ってるが、文句しかなさそうな顔してる。


「とにかく、解体もちょうど、終わったから。あとは戻るだけだな。」


 どうやって戻る?

 と聞きそうになったが、口を塞ぐ。

 この状態のアレクに、さらに頭を使わせるほど、俺は鬼畜ではない。


「考えとくから、ちょっと休んでろよ。」

(ありがとう、でももう考えてるから。)


 俺の優しさ&気遣いわい。

 相方が優秀なのも、考えものだな。


「そ、そうなの。・・・ありがとうな!」

(うん。僕ら今、だいたい1時間くらい戦ってたかな?)

「そんなに経ってたか?」

(僕も感覚でしかないけど。

 んで、その感覚が正しければ、夕刻まであと2時間くらいはあると思うんだ。)

「まあ、そうかもな。」

(でさ、一個提案があるんだけど・・・。)

「提案?なんだよ。」


 アレクがニヤっと口角をあげ、手を広げる。


(これだけ、魔物の死骸が転がってるんだ。

 ここにいる魔物の魔石も、スキーロスに見せたら・・・)

「!!・・・めっちゃビビらせられる・・?」

(そう。今まで、下手に出てたから、スキーロスに舐められてたのかも。

 ここらで、完全に実力差を見せつけてやろうよ。)


 なるほど。

 仕返しとしては、いいかもな。

 普通に戦っても余裕で勝てるけど、目に見える形で実力差を見せた方が、わかりやすいだろう。


「よし、やってやるか・・・!!」


 俺とアレクは笑みを突き合わせる。

 しかし俺たちはことの大変さを甘く見ていた。

 300体を超える魔物の解体なんぞ、常人のやることではない。

 ましてや超人でさえ、やろうとは考えないだろう。

 つまる所、変人なのである。

 俺もアレクも。



 ***



 新人たちが大穴に落ちて、随分経った。

 そろそろ上がってこなければ、夕刻に間に合わないが・・・。


「・・・まあ、新人には難しい案件さねぇ。

 スキーロスも『魔酔粉』なんか使って、エグいことするさね。」


 沼地から少し離れた所で、息を潜め、穴の様子を伺う小さな人影。


「けど、あいつらが本当に()()なら、上がってくるさね。

 アタシの勘違いじゃなければ・・・。」


 彼女がこの戦いを監視していたのは、何も姑息な手を使う者を(とが)めるためではなかった。

 そもそも禁じた覚えもないし、引っかかる方も悪いだろう。

 ではなぜ彼女はここにいるのか。答えは『確かめる』だ。

 ある可能性を。


 しかし、そろそろ撤収の時間だ。

 やはり、考えすぎだったか・・?

 彼女が諦めかけた時。

 ゾォっと背筋に寒気が走り、大穴にバッと目を向ける。

 するとほぼ同時に、沼地が縦にバックリと()()()

 目の前に広がるのは、地面からものすごい勢いの爆発が起きたような光景。

 200mほどの長さの地面が、まるで火山が噴火でもしたかのように空に舞い上がる。

 沼地の全域が揺れ、近くに生えていた木々も倒壊する。

 長いこと最前線に立って冒険をしてきた彼女は、その光景に昔の血が騒いだ。

 およそ一般人が()せて良い次元ではない。

 一種の災害と呼んでいいレベルだ。

 しかし、だからこそ、確信できる。

 割れた地面から、ヒョイっと飛び上がってくる新人2名を見て思う。

 この子らは、異世界人だ・・・!!



 ***



 大穴から抜け出し、沈む夕日が目に入る。

 時間は大丈夫だろうか。

 と時間の心配をする前に、崩壊する沼地の心配が上回る。

 自分でやったこととはいえ、ここまで酷いことになるのか。

 ちょっと引いてしまう。


(行こう、ナズ。多分そんなに時間の余裕ないよ!)

「お、おう!走るかっ!!」


 そう言って俺とアレクは、ギルドに全速力で向かう。

 爆走中、先程の穴を出る前のことを考える。


 〜〜〜


「や、・・やっと終わった・・・。」

(思った3倍くらい、時間かかったね。)


 考えてみれば、そりゃそうだ。

 300体以上の魔物を解体するとか、正気じゃない。

 二人で、他の素材を無視して、魔石だけ取り出したとしても、時間はかかるに決まってる。

 500を超えたあたりから数えるのは諦めた。

 ともかく、これでようやく、穴から出る時が来た。


「で、どうやるんだ?穴を出る方法ってのは。」

(うん、そうだね。まずここから地上までの距離は、そんなに離れてない。

 僕らがスキルで強化して、全力でジャンプすれば届く距離だ。)

「おおぉ。じゃあ、あの落ちてきた大穴から、そのまま戻れるってことか?」

(いや、あの穴は使えない。あれ、真っ直ぐ上に伸びてないじゃん。

 グネグネ曲がってるから。)

「じゃあ、作戦どうするんだよ?」

(まあ、作戦なんて大層なもんじゃなくて。やることはシンプルだよ。)


 頷きながら、アレクの話を促す。

 その方法とは。


(ナズの【森羅ヲ破壊スル力(ア・レース)】で、地面を割る。)

「はあ!?そんなこと出来んのか?」

(出来る出来ないじゃなくて、やって。)


 ニコッと、圧の強い笑顔でアレクから命令が下る。

 自分でも出来るのかわからんのに、アレクはやれと言う。

 確かに、今まで全力で、この【森羅ヲ破壊スル力(ア・レース)】を使用したことはない。

 方法がそれだけというのなら・・・・。


「・・わかった、やってみるか。」

(うん、よろしく頼んだよ。

 ていうか、ナズの魔力を温存するために、僕がずっと戦ってたんだから、やってもらわなきゃ。

 何のための、孤軍奮闘だったのって話だから。

 帰りの【身体強化】の魔力分だけ残して、もう全ブッパするつもりでやっちゃって。)

「了解・・!!」


 そして俺は【森羅ヲ破壊スル力(ア・レース)】を発動する。

 視界がぼやけ、遠くがモザイクのようになるのは、いつものことだ。

 そんな目で天井に、ジャンプして近づき、視界に鮮明に写し込む。

 条件はこれだけ。

 ストンと地面に着地して、軽く屈伸をする。


「よし、いくぞ・・・!!」

(うん・・!!)


 体内に巡る魔力を、ほとんど使い切るイメージで。

 全身から沸騰するような熱さを感じる。

 その熱を右腕に、右手に、指先に、そして外に押し出すように。

 上にボールを投げつけるみたいに振りかぶる。


「全開・・・・・!!!!!」


 小さく言葉を漏らし、思いっ切り腕を振るった。


 〜〜〜


 そして今に至る。

 あの後はもう、わかる通り。

 地面が縦に割れ、そこから脱出した感じです。


(それにしても、見事な威力だったね。

 やれるとは思ってたけど、あそこまで大事になるとは。)

「俺も。全力で【森羅ヲ破壊スル力(ア・レース)】を使ったことなかったから。

 今回でよくわかった。あれもう、しばらく封印だ。」


 崩壊した沼地を後に、俺とアレクは急いで、ギルドへ向かった。


〜魔物の解体について〜


魔物の解体には、素材を剥ぐ工程と、魔石を剥ぐ工程がある。

魔石は魔物の核である。

それが魔物から無くなる、壊れる、剥ぎ取られるなどすると、魔物は消滅する。

よって、素材の剥ぎ取りは、魔石を剥ぐよりも先に、行わなければならない。

魔石のサイズや色、形は、魔物の種類だけ違いがある。

言い換えると、同じ魔物では、魔石はほとんど変わらないのである。

よって、魔石をみただけで、なんの魔物なのか大体わかるようになっている。

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