22話 大穴での戦い
突如として地中に大穴を開けた<パルスワーム>は、無責任にも他の穴に姿を消した。
ぽっかり口を開けた大穴の中を、俺とアレクは滑り落ちていく。
どうしてこうなった?
詳しいことはわからないが、どうせスキーロスが何か仕組んだに違いない。
大量の<リザードマン>の死骸と共に、大穴をクネクネと滑り落ちながら、そんなことを考える。
しばらくすると、地面と並行に掘られた別の穴と繋がったらしい。
着地のことを考えてなかったが、<リザードマン>の死骸が、いい感じのクッションになってくれて助かった。
尻餅を付いた状態から立ち上がり、土を払いながら口を開く。
「さて、どうやって上に戻るよ?」
(ナズ・・・、切り替えの速さが尋常じゃないね。僕はまだ引きずってるよ、さっきのこと。なんか変なテンションになってたし、完全に油断してた・・・。)
確かに、解体中にふざけ倒してたのは、正直アレクらしくなかったな。
ヘコんでるようなので、ここはいっちょフォローしてやるか・・。
「まあ気にすんなって。
アレクの悪ふざけなんて珍しいもの見れて、俺はむしろ楽しかったし!!得した気分だ!」
ビシッと親指を立てて、笑顔でフォローする。
しかし、アレクは。
(ううっ。もう二度とふざけない・・。)
やっちまった。外したようだ。
アレクは地面にめり込みそうなほど、さらに落ち込んでしまった。
それならばと、俺は焦ってフォローの方向性を変えてみる。
「お、おおかたスキーロスのやつが、なんかしたんだろっ。
だってあいつニヤニヤ笑ってたし、狙ってやった感じだったもん絶対。うん、絶対そうだっ」
(そうかなぁ・・?でもまあそうだとしても・・。
その時点で、スキーロスの狙いに気付けてないから、やっぱり僕はダメなやつだあ。)
こいつ、ちょっと面倒くさいな。
・・・なんてことはこれっぽちも思ってないけど、そろそろ切り替えて欲しくなってきた。
「はいはい。もうその辺にしとけよ。・・・・んで話を戻すけど、どうやって戻るよ?」
落下してきた穴を、そのまま登るのが簡単そうだけど。
でもどうやって?って話だよな。
アレクはともかく、俺の手が鉤爪みたいになってたら楽なんだけど。
あいにくそのような凶暴な性能は持ち合わせていない。
俺の問いにアレクは数秒上を向いて考え、それから前髪に隠された目で俺を見る。
(・・・・とりあえず、思いつくまで<リザードマン>の解体を進めちゃおうか。
やりながら、考えよう)
「そうするか」
うだうだ考えて時間を消費するよりも、俺たちは手を動かすことにした。
二人は散らばった<リザードマン>を一箇所に集め、また解体を始める。
とにかく、夕刻までに解体を終わらせて、ギルドに戻らなければ。アレクとナズの思考は一致していた。
・・・・よしっ!
俺は軽く気合いを入れ、膨大な量の解体作業に取り掛かる。その直前。
(ナズ!ちょっと待って!)
キンッと頭の中でアレクの声が響く。
飛び跳ねた肩を宥めるようにして、俺はアレクに振り向いた。
「んびっくりした!・・何、どうしたんだ?」
(魔物が近づいてきてる。しかも大量に・・・。)
「魔物?・・が大量に?・・つっても、具体的にどんくらいよ?」
(・・・多分、今わかるだけで、300くらい。)
「はあ!!??さんびゃくぅ!!??
なんの冗談だ。何したらそんな恨み買うんだよ。魔物になんかしたのかアレク!?」
(いや、何もしてないよ!?)
「そりゃ失敬した。・・でもこのままだと正面衝突だし。戦ってる時間なんてないよな!?」
(うん・・・・・。そうだよね・・・。
よし、・・・決めた。ナズ、今から僕の言う通りにして。)
「わ、わかった・・!!」
状況が把握できない時は、アレクの指示に従う。
これに限る。
アレクは一箇所に集めておいた<リザードマン>の死骸を全てマジックバックに詰め込んだ。
(よし、付いてきて、ナズ。)
アレクの先導で、洞窟を爆進する。
するとすぐに、洞窟の行き止まりに当たった。
「あれ、行き止まりだぞ?道間違えたのか?」
(うんん。ここでいいんだ。)
壁際まで進みながら、アレクは俺の疑問を否定する。
そして先程収納した<リザードマン>を、また地面に広げ始めた。
(じゃあナズはここで、解体作業してて。魔物の相手は僕がするから。)
「はあ!?300体か、それ以上いるんだろ?それを一人で相手するって・・。
それこそ、冗談だろ?」
(いや、本気だよ。僕には魔物がいつどこに、どのくらい来るのかとか・・。
そういうの全部わかるから。僕がやるのが一番いい。)
「それにしてもだろ・・。」
(大丈夫!!一体一体は、そんなに強くないから。
それに、本気出すから。)
地面にゴリゴリと、足で線を引くアレク。
(ここより先に、魔物が入ることはないから。)
長い前髪から、真剣なアレクの目が覗く。
そこには、本当に任せられそうなアレクの自信が伺える。
・・・けど、本当に大丈夫なのか?
俺も加勢した方がいいのでは?そっちの役回りは、俺の方が向いてるのでは?
湧いてくる不安の言葉は、しかしアレクの瞳の前に、ねじ伏せられる。
『安心して。』と語りかけられてるようにすら、感じる。
「・・・・・マジで、危なくなったら、言ってくれよ。
飛んで加勢しにいくから。」
(ふふっ。ナズ、飛べるんなら帰りの心配はしなくてよさそうだね。)
「いや、そう言う意味の『飛ぶ』じゃないけど・・。まあ任せたぞ。」
俺は拳を前に突き出す。
気合いを入れるためにやってみたけど。
いざやってみると、少年ジャンプの熱いキャラみたいで、ちょっと気恥ずかしくなった。
そんな俺を前に。アレクは。
両手を俺の首に巻きつけ、ガバっと抱きついてきた。
「!?・・・・・アレクさん?一体何をなさってる・・・!?」
(うん、スーハー。ちょっとね、スーハー。気持ちを、スーハー。高めるために。)
意味はわからなかった。
アレクは俺の左肩から顔を出し、鼻から大きく息を吸い込んでいる。
何度も何度も。
(多分、『これ』が原因で、僕も、魔物も、おかしく、なって・・・。)
よくわからないことを言いながら、アレクは息を吸い込み続ける。
そして最終的に、俺の肩に顔を擦りつけ始めた。
「おいおい!・・そのまま野生に帰るつもりか?
マジもんの猫になるのか?」
俺の心配の言葉を、アレクは無視する。
(・・ふう。よし。・・・・うんうんっ!!・・テンション上がってきたぁ!!
それじゃあナズっ、解体任せたよんっ!!)
俺の肩から、何か危険なものでも摂取したのか、あいつ。
この世界では合法なのか知らんけど、日本で今の光景を見せたら、一発でお縄だろうな。
それくらい、アレクのやつ極まってた。
てか、俺の肩はヤバい薬の培養施設か何かなのかな。
トテトテと、小走りで遠ざかってくアレクの背中を見送りながら、考えいたが・・。
・・・俺も、早く解体始めるか。
***
その後すぐに姿を現す魔物たち。
アレクに『解体よろしく』と言われた手前、ナズは作業を進めるが。
一応、横目で、アレクのこともチラチラと確認していた。
どうしても、不安だったのだろう。
しかしすぐに、その不安は杞憂に終わることになる。
ナズは今日初めて、アレクが本気で戦うところを見たのだ。
それまで見てきた、温厚でどこかほんわかした印象のアレクではない。
獰猛な肉食獣。
そんな表現すら生ぬるいような、凶暴性を宿したアレクが魔物を蹴散らす姿を。
ナズの肩に付けられた『魔酔粉』。
神位スキル【万象ヲ賛美スル瞳】により、何かはわかっていたアレクだが、効果までは知らない。
しかし、これまでの状況を見て、これが原因であることをアレクは察していた。
そしてアレクは、肺いっぱいにそれを吸収したのだ。
獣人にとっては、猫にとってのマタタビのような効果もある。
そんなものを大量に摂取したのだから、アレクのテンションが壊れるのは当然だった。
恍惚とした表情に、自然と持ち上がる口角。荒く不規則な息遣い。
アレクは、すぐそこにまで迫っている魔物を認識しながら、スキルを発動する。
まず【猛獣化】で、自身の身体能力を限界以上に高める。
【猛獣化】は、獣人版の【身体強化】だ。
人族よりも高い身体能力を誇る獣人が、このスキルを発動すると、まさに『鬼に金棒』となる。
全身の毛が逆立ち、牙が伸び、爪は鋭さを増す。
更にここからアレクは、極位スキル【深淵ノ衣】を発動。
暗黒のモヤがロングコートを形どったようなものに、全身を包む。
【深淵ノ衣】の主な効果は二つ。
筋力の爆発的強化と、触れた生命の細胞部分へ『死』を与える。
アレクは持てる限りの、最高の攻撃体勢で、敵を蹂躙し始める。
***
あれが、アレクだと?
あんな姿、初めて見たぞ。
見たといっても、戦い始める前の、一瞬だけど。
そこから先は、動きが速すぎて、まともに目で捉えられない。
【身体強化】を発動して、目をよく凝らす。
それでようやく、何をしてるのかわかるレベルだ。
押し寄せてくる、魔物の大群。
それを見て、気づいた。
多分アレクは、魔物が迫ってくる方向を、一箇所に限定したくて、この行き止まりに来たのか。
確かに、前からも後ろからも魔物が来てたら、守り辛いもんな。
アレクは地面を蹴って、その大群に突っ込む。
暗黒の弾丸と化したアレクが、大群と正面からぶち当たった。
そして弾け飛ぶ、魔物。
一気に、十数体ほど蹴散らしたことにより、群れの真ん中に僅かなスペースが空く。
それでも魔物は大群。その圧倒的な物量で、群れの勢いは衰えない。
攻撃の影響を受けなかった両端から、雪崩こむように魔物が近づいてくる。
しかしアレクは、これを許さない。
アレクの立っていた地面が爆ぜたかと思えば、群れの左端に移動しており、そこで暗黒の爪を豪快に振るう。
一振りで、数十体を持っていく強烈な攻撃が、一瞬のうちに何回も何回も群れを襲う。
かと思えば、今度は反対の右端に移動しており、そこでも同じように攻撃を繰り出す。
正直な感想を言おう。あいつやってることヤバすぎです。
アレクの動きが速すぎて、あいつ自身が20人くらいに分裂してるように見える。
アレクは本当に一人で、群れの進行を止めていた。
だけども、あんな無茶な動きが長時間続くのか?
アレクの限界が来る前に、解体を終わらせなければ。
俺は<リザードマン>の魔石を剥ぎ取る手を加速させる。
〜〜〜
ようやく、解体の終わりが見えてくる。
アレクの動きは衰えるどころか、むしろ動くたびにキレが増していた。
驚くことに、アレクはただ、群れの進行を止めているだけではないのだ。
なんと、迫る魔物の大群を押し返している。
アレクの魔物を蹴散らすスピードが、相手の物量を完全に上回っている。
これなら、いけるかもしれない。
倒されて横たわっているいろんな魔物の死骸で、ここら一体はとんでもない地獄絵図になっているが、そんな中でも希望の光が見える。
俺の解体する手も浮かれ始める。
そんな時に。
ゴゴゴゴゴっと。
どこか懐かしい揺れを感じる。
この感覚は・・・・
バゴォォオオオンンン!!!
俺が思い至るよりも早く、惨劇は起きる。
行き止まりだったはずの壁が、爆発した。
そう。この揺れは<パルスワーム>が地面を掘り進める時の揺れだった。
馬鹿でかいミミズ型の魔物が、壁だった場所に大穴を開け、顔を出す。
そんな、迫り来る<パルスワーム>を前に、俺は咄嗟の判断が鈍る。
戦いはアレクに任せる?
いやでも、アレクは今、反対側で群れを相手にしている。
そもそもアレクとこいつとじゃ、距離がかなり空いてる。
俺の方が近い。俺が倒すべき?
何で倒す?【緋雷ノ獣】?いや発動が間に合わない。
【森羅ヲ破壊スル力】を使えば、なんとかなる?
一撃で倒せるか?
やはり、アレクに任せた方がいい?
思考が頭を駆け巡る。様々な選択肢が俺の体をその場に縛りつけた。
それでも、硬直したのは、ほんの寸秒だった。
すぐに自分で倒すと腹を決め、スキルの発動に取り掛かろうとした。
しかし、その寸秒が、彼には長く感じたのだろう。
俺がスキルを発動するよりも速く、<パルスワーム>の顔面に、アレクの爪がめり込んでいた。
「はっ!?」
確かに、その速さにも驚いた。
しかし俺が一番びっくりしたのは、アレクの顔。その表情にだ。
戦闘が始まる前にしていた、あの恍惚とした顔。
非合法な薬で、気持ちよく飛んでしまった人がするような表情(実際見たこはないけど)。
この戦ってる間、ずっとそんな顔してたのか・・!?
戦いをオカズにオ◯ニーする戦闘狂。
そんな表現がピッタリとくる。
魔物視点では、恐怖そのものだろう。魔物に感情があるかは、知らんが。
顔面に暗黒の爪を叩き込んだアレクとバチっと目が合う。
驚いている俺の表情に対し、アレクは相変わらずの顔で、そのまま人差し指を立てて口元に当てる。
そして口パクで呟いた。「ダーメっ」と。
実際に聞こえたわけじゃないが、確信は持てる。
おそらく、俺が攻撃しようとしていたのがわかったのだろう。
アレクは全ての魔物を一人でやると言った。ゆえに、俺が戦闘に参加するのを許さなかったのだ。
そのアレクが空中から姿を消す。
一瞬見失ったが、俺はすぐに視界に捉える。
アレクは<パルスワーム>の顔の下部分に潜り込んでいたのだ。
そこから一呼吸おいて、体を大きく回し遠心力を極限まで生み出し、豪快に魔物の顔を蹴り上げた。
蹴り上げた先からブオンと波打つ何重もの衝撃が、肉眼で見えるほどに<パルスワーム>の体を這いずった。
その衝撃が余すことなく伝わると同時に、<パルスワーム>は天井に叩きつけられていた。
まるで、重力が上を向いてるみたいに、当たり前に上にめり込んでいる。
目の前で起きてる事なのに、CGを見てる気分だ。
呆気に取られる。
しかしアレクは、興味を無くした子供かの様に、なんの未練もなくその場を後にした。
「・・・バーサーカーすぎるだろ・・・・。」
ぽろっと口から出た言葉は、アレクが蹴散らす魔物の音にかき消された。
〜〜〜
しばらくすると、戦闘の音がなくなり、洞窟に静けさが戻る。
散らばる魔物の死体から、フラフラとこちらに近づく影が見える。
アレクだ。
そこには先程の恍惚とした表情はなく、酷くげっそりした顔が張り付いている。
確実に6徹(徹夜を6日連続)くらいしてそうな人の顔だ。
「お、お疲れ・・!!」
(いや、ほんとに。ちょー疲れたよ。
僕がやるって言い出したことだし、文句はないんだけどさ・・。)
なんてアレクは言ってるが、文句しかなさそうな顔してる。
「とにかく、解体もちょうど、終わったから。あとは戻るだけだな。」
どうやって戻る?
と聞きそうになったが、口を塞ぐ。
この状態のアレクに、さらに頭を使わせるほど、俺は鬼畜ではない。
「考えとくから、ちょっと休んでろよ。」
(ありがとう、でももう考えてるから。)
俺の優しさ&気遣いわい。
相方が優秀なのも、考えものだな。
「そ、そうなの。・・・ありがとうな!」
(うん。僕ら今、だいたい1時間くらい戦ってたかな?)
「そんなに経ってたか?」
(僕も感覚でしかないけど。
んで、その感覚が正しければ、夕刻まであと2時間くらいはあると思うんだ。)
「まあ、そうかもな。」
(でさ、一個提案があるんだけど・・・。)
「提案?なんだよ。」
アレクがニヤっと口角をあげ、手を広げる。
(これだけ、魔物の死骸が転がってるんだ。
ここにいる魔物の魔石も、スキーロスに見せたら・・・)
「!!・・・めっちゃビビらせられる・・?」
(そう。今まで、下手に出てたから、スキーロスに舐められてたのかも。
ここらで、完全に実力差を見せつけてやろうよ。)
なるほど。
仕返しとしては、いいかもな。
普通に戦っても余裕で勝てるけど、目に見える形で実力差を見せた方が、わかりやすいだろう。
「よし、やってやるか・・・!!」
俺とアレクは笑みを突き合わせる。
しかし俺たちはことの大変さを甘く見ていた。
300体を超える魔物の解体なんぞ、常人のやることではない。
ましてや超人でさえ、やろうとは考えないだろう。
つまる所、変人なのである。
俺もアレクも。
***
新人たちが大穴に落ちて、随分経った。
そろそろ上がってこなければ、夕刻に間に合わないが・・・。
「・・・まあ、新人には難しい案件さねぇ。
スキーロスも『魔酔粉』なんか使って、エグいことするさね。」
沼地から少し離れた所で、息を潜め、穴の様子を伺う小さな人影。
「けど、あいつらが本当にそうなら、上がってくるさね。
アタシの勘違いじゃなければ・・・。」
彼女がこの戦いを監視していたのは、何も姑息な手を使う者を咎めるためではなかった。
そもそも禁じた覚えもないし、引っかかる方も悪いだろう。
ではなぜ彼女はここにいるのか。答えは『確かめる』だ。
ある可能性を。
しかし、そろそろ撤収の時間だ。
やはり、考えすぎだったか・・?
彼女が諦めかけた時。
ゾォっと背筋に寒気が走り、大穴にバッと目を向ける。
するとほぼ同時に、沼地が縦にバックリと割れた。
目の前に広がるのは、地面からものすごい勢いの爆発が起きたような光景。
200mほどの長さの地面が、まるで火山が噴火でもしたかのように空に舞い上がる。
沼地の全域が揺れ、近くに生えていた木々も倒壊する。
長いこと最前線に立って冒険をしてきた彼女は、その光景に昔の血が騒いだ。
およそ一般人が為せて良い次元ではない。
一種の災害と呼んでいいレベルだ。
しかし、だからこそ、確信できる。
割れた地面から、ヒョイっと飛び上がってくる新人2名を見て思う。
この子らは、異世界人だ・・・!!
***
大穴から抜け出し、沈む夕日が目に入る。
時間は大丈夫だろうか。
と時間の心配をする前に、崩壊する沼地の心配が上回る。
自分でやったこととはいえ、ここまで酷いことになるのか。
ちょっと引いてしまう。
(行こう、ナズ。多分そんなに時間の余裕ないよ!)
「お、おう!走るかっ!!」
そう言って俺とアレクは、ギルドに全速力で向かう。
爆走中、先程の穴を出る前のことを考える。
〜〜〜
「や、・・やっと終わった・・・。」
(思った3倍くらい、時間かかったね。)
考えてみれば、そりゃそうだ。
300体以上の魔物を解体するとか、正気じゃない。
二人で、他の素材を無視して、魔石だけ取り出したとしても、時間はかかるに決まってる。
500を超えたあたりから数えるのは諦めた。
ともかく、これでようやく、穴から出る時が来た。
「で、どうやるんだ?穴を出る方法ってのは。」
(うん、そうだね。まずここから地上までの距離は、そんなに離れてない。
僕らがスキルで強化して、全力でジャンプすれば届く距離だ。)
「おおぉ。じゃあ、あの落ちてきた大穴から、そのまま戻れるってことか?」
(いや、あの穴は使えない。あれ、真っ直ぐ上に伸びてないじゃん。
グネグネ曲がってるから。)
「じゃあ、作戦どうするんだよ?」
(まあ、作戦なんて大層なもんじゃなくて。やることはシンプルだよ。)
頷きながら、アレクの話を促す。
その方法とは。
(ナズの【森羅ヲ破壊スル力】で、地面を割る。)
「はあ!?そんなこと出来んのか?」
(出来る出来ないじゃなくて、やって。)
ニコッと、圧の強い笑顔でアレクから命令が下る。
自分でも出来るのかわからんのに、アレクはやれと言う。
確かに、今まで全力で、この【森羅ヲ破壊スル力】を使用したことはない。
方法がそれだけというのなら・・・・。
「・・わかった、やってみるか。」
(うん、よろしく頼んだよ。
ていうか、ナズの魔力を温存するために、僕がずっと戦ってたんだから、やってもらわなきゃ。
何のための、孤軍奮闘だったのって話だから。
帰りの【身体強化】の魔力分だけ残して、もう全ブッパするつもりでやっちゃって。)
「了解・・!!」
そして俺は【森羅ヲ破壊スル力】を発動する。
視界がぼやけ、遠くがモザイクのようになるのは、いつものことだ。
そんな目で天井に、ジャンプして近づき、視界に鮮明に写し込む。
条件はこれだけ。
ストンと地面に着地して、軽く屈伸をする。
「よし、いくぞ・・・!!」
(うん・・!!)
体内に巡る魔力を、ほとんど使い切るイメージで。
全身から沸騰するような熱さを感じる。
その熱を右腕に、右手に、指先に、そして外に押し出すように。
上にボールを投げつけるみたいに振りかぶる。
「全開・・・・・!!!!!」
小さく言葉を漏らし、思いっ切り腕を振るった。
〜〜〜
そして今に至る。
あの後はもう、わかる通り。
地面が縦に割れ、そこから脱出した感じです。
(それにしても、見事な威力だったね。
やれるとは思ってたけど、あそこまで大事になるとは。)
「俺も。全力で【森羅ヲ破壊スル力】を使ったことなかったから。
今回でよくわかった。あれもう、しばらく封印だ。」
崩壊した沼地を後に、俺とアレクは急いで、ギルドへ向かった。
〜魔物の解体について〜
魔物の解体には、素材を剥ぐ工程と、魔石を剥ぐ工程がある。
魔石は魔物の核である。
それが魔物から無くなる、壊れる、剥ぎ取られるなどすると、魔物は消滅する。
よって、素材の剥ぎ取りは、魔石を剥ぐよりも先に、行わなければならない。
魔石のサイズや色、形は、魔物の種類だけ違いがある。
言い換えると、同じ魔物では、魔石はほとんど変わらないのである。
よって、魔石をみただけで、なんの魔物なのか大体わかるようになっている。