21話 Fate of the game
連続投稿ーー!!
背中に翼が生えています。おかげで捗ってます。
さて、<リザードマン>の討伐数勝負をしているわけだが。
滑り出しはどちらも好調。両者どちらかが出遅れるなんてこともなく、ヌルッと勝負に突入していた。
スキーロスのことだから何らかの妨害があるかもと予想していたが、その心配も杞憂に終わった。
警戒して奴の動きに目を光らせていたのだが、俺たちにちょかい出すような素振りもなく、相変わらずの頭が悪そうな顔して大剣をブンブン振り回し始めたのだ。
これには若干肩透かしをくらった気分だが、そもそも何もないのが一番だ。いくらスキーロスと言えど、男と男の勝負に無粋なことをするほど、落ちぶれちゃいないということだろう。
その後もお互い順調に数を積み上げていた。俺たちは<リザードマン>の生息地である湿地で戦っているのだが、さっきまで山のようにいた<リザードマン>は見る見るうちに殲滅されていく。
俺は前世では対戦ゲームばかりやってたからあまり詳しくはないが、多分無双系のゲームってこんな感じだと思う。
ワンショット・ワンキルみたいな。ほら、隣で戦ってるアレクも。ワン引っ掻き・ワンキル状態だ。
勝負中で油断は大敵だけど、なるほど。これは中々に爽快だ。無双ゲーが売れるのも納得できる。
戦いに集中はしているので思考の隅っこで、ぼんやりとそんなことを考えていた間にも、<リザードマン>の数が減っていく。
ここまで戦っての、この勝負の行方。結論から言ってしまおう。俺たちが勝つ。十中八九でそんな感じだ。
うん。負けるわけがない。漫画やアニメでは結論を引き延ばしたりするけど、俺あれ好きじゃないんだよね。
別に早く結果だけを知りたいってことじゃないけど。でもダラダラ引っ張ってマンネリしちゃうのは嫌だから、もうパッと。
最初に結論を言うように心がけて生きているのだ、俺は。
何のアニメとは言わないが、30分ある放送枠のうち前半15分が前回の振り返りで埋められてた時は、もう虚無の顔だったからね。
死んだ顔とかじゃなくて、元から無機物でした、みたいな。木彫りで作った真顔のような感じ。ぴくりとも表情は変わらなかったと思う。
まあでも好きだから観てたよ。続き気になるし。
漫画でも、同じような展開を何度も繰り返して尺稼ぎをすると「もうええてーっ!」と声に出していた。
エセの関西弁も出ちまうよな。
だけど稀に、最終回でそういうマンネリしていた展開にも意味を持たせるような、作品もあった。
一見するとダラダラしていた過程が、実は必要なことだったと、最後に発覚する。ああいう作品を名作と呼ぶのだろう。
だが俺は名作を製造したいわけじゃないので、日常生活では答えから言うと決めてる。
この勝負、俺たちが勝ちます。
そもそも負ける理由があまりないのである。
俺とアレクはどちらも転生者であり、スキルにも恵まれている。
対してスキーロスはというと、経験値にものを言わせ俺たちを追ってはいるが、それでもこちらは二人いる。
人数有利もそうだし、何より、俺とアレクのどちらもスキーロスより確実に強い。
数も質もこちらが上という状況で、どうやって負ける方法があるだろうか。
「もう<リザードマン>の数も残り少ないな。この勝負、もらったようなもんだな。な?」
(・・・・なんかナズって、変に死亡フラグを建てるとこあるよね。
思ってもそう言うことは口にしない方が良いと思うな、僕は。)
「ふっ。まだまだだな、アレク。それだといちいち発言に気遣いながら喋らなきゃならないだろ?
それだと、生放送中のテレビのタレントみたいだろ。フラグ上等。建ったところで、折るまでよ。」
(脳筋だなあ。)
口を横に伸ばし、呆れた顔でアレクは俺を見た。
その視線が少し痛かったので、俺は戦いに手一杯みたいなふりをして目を逸らす。
トルミィが指定した制限時間は夕刻まで。つまり、大体18時頃までに戻ればいい。
帰りの時間を考えると、1時間は欲しい。今が多分14時くらいなので、時間は余裕だな。
沼地にいた最後の<リザードマン>を倒す。これで全部だ。
あらかじめ倒しながら分けておいた、俺たちとスキーロスの<リザードマン>の死骸の山を見比べる。
ちょっと見ただけでもわかるくらい、俺たちの山の方が高い。つまり多く倒している。
さぞ悔しがっているだろう、スキーロスのやつは。
俺は顔に軽い笑みを貼り付け、スキーロスの方を見る。
効果音が付くとしたら『ドヤァ』だろう。確実に。
スキーロスは、互いが積み上げた山をそれぞれ比較して、自身の負けを認識したあと。
俺たちの方を向き、言い放った。
「やるじゃねえかぁ!こりゃあどう見ても、俺の負けだなぁ!!」
気持ち悪いほど、潔く負けを認めた。
思いがけない言葉に、俺とアレクは目を丸くする。
そんな俺たちを見たスキーロスは笑いながら近づいてくる。
それはいつもの嫌な笑みではなく、どこか清々しさが感じとれる笑みだった。
「おいおい、何かおかしいこと言ったかぁ俺?」
「い、いや。そんなすぐ認めると思ってなくて・・・。」
と、つい思ってることが口に出てしまうが、スキーロスはこれを笑い飛ばした。
すれ違いざまにスキーロスが俺の肩を左手で軽く叩いて答える。
「ハハハッ。まあこの差を見たらなあ。」
俺とアレクの積み上げた<リザードマン>の山を見上げるスキーロス。
そしておもむろに座り込み、下の方の<リザードマン>をパンパンと叩きながら続ける。
「・・だが、まだ勝負は終わってないぜぇ。
こいつらの素材と魔石を剥いで、ギルドに持っていくまでが勝負だ。
ちゃっちゃと終わらせちまおうぜぇ。」
「あ、ああ。うん。そうだな・・。」
俺のシャキッとしない返事に、スキーロスは振り返り、フッと笑う。
そして立ち上がると、自分の倒した<リザードマン>の方に帰って行った。
左手をポッケに突っ込んで、右手でヒラヒラと手を振るスキーロスは、なんとも余裕そうな態度だった。
負けたこと、悔しくないのか?奴の性格からしたら、勝負の内容に納得できずに襲いかかってくるってとこまで読んでいたのだが。
頭がおかしくなった?いやそれとも、これが奴の本当の人柄なのか?実は気持ちのいい奴だったパターン?
いや、それはないか。俺はまだ顔面を思いっきり蹴り飛ばされたこと忘れてないから。
どうにも不自然さが拭いきれないが、それでもスキーロスの言う通り、魔物を解体しなければならない。
そこから、<リザードマン>のバラバラタイムが始まった。
俺とアレクは習いたての拙い手つきで解体を進めていく。
「あいつ、もしかして良いやつなのかな?」
(ナズ!頭、蹴られたこともう忘れたの?良い人ってのは、軽口叩かれたくらいで人の頭なんか蹴らないんだよっ。)
「いや、忘れたわけじゃないけどさ。まだちょっと痛いし、頭。ただ、普通に負けを認めたのが意外だったからさ。」
(負けたショックで頭がバグったんじゃない?どうせまた、難癖つけて絡んでくるよ。)
「でも、トルミィさんとの約束があるだろ。もうちょっかい出さないって。」
(それも『忘れたぁ!』とか言って、ちょっかい出してくるんだよっ。)
「ふっ。なんだよ、お前のスキーロスの真似。ちょっと面白いな。」
(・・・・『うるせぇ!』『何だとぉ!?』『俺、スキーロスぅ』)
「んふっ。お前、俺にしか聞こえないからって。やめろっ。真似すんなって。」
多分勝ったことで緩んでたんだろう。
アレクのテンションが高いのも珍しくて、悪ノリが加速する。
スキーロスも負けを認めてたから、自分たちの勝ちは確実なんだって。驕っていたのだ。
ふざけるのに夢中で、気づくのが遅れた。
(『冒険者ランクはAぇ。』『ギャハハァ!』)
「おい、もう、やめろってっ。顔まで寄せにいくなっ。解体に集中できないだろっ。お前の顔ばっかみちゃうわ。」
(何その良い彼氏みたいなセリフ。でも、ナズが笑ってくれるからついさ。)
「俺のせいに・・・・・・ん?なんか地面、ちょっと揺れてね?」
(えーなにそれ。ナズが笑って、る、か・・ら・・・・・・!!ナズ上に避けろっ!!)
俺が微かな揺れに気づいた時、アレクは気にも止めていない様子だった。
俺すらも勘違いかなと思わせるほどに小さな揺れ。
まるで無理やり抑え込まれているような。しかし、間も無く爆発した。
その揺れは一瞬で膨張したのだ。
そしてアレクの声が頭に響いた。
ドゴォォォオオオンンン!!!
地面に大穴が開く。
穴から現れたのは、バカでかいミミズ?
いや違う。魔物だ。依頼の詳細が書かれた紙に載っていた、沼地に生息する魔物の一種。
あれは<パルスワーム>だ、多分。
俺とアレクは間一髪、真上に跳躍して飲み込まれるのを回避した。
<パルスワーム>は普段地中に生息し、滅多に地上に上がってこないって書いてた気がするけど。珍しいこともあるんだな。
<パルスワーム>は、俺たちが倒した<リザードマン>を数体飲み込んで地中に戻っていく。
何はともあれ、ミミズの養分にならなくてよかった。
と安心したのも束の間。とんでもない事実に気づく。
下には<パルスワーム>が開けた大穴が広がっている。
そして俺たちは真上に飛んで避けたため、今現在、空中で身動きが取れない状態だ。
そのまま俺とアレクは沼地に開いた大穴に、為す術なく飲み込まれていく。
穴に落ちる直前。
直感的にスキーロスの方に目をやった。これは単なる事故?俺たちが不運だった?
そんな考え、楽観視もいいとこだ。仕組まれた。犯人なら、ほら、すぐそこに。
穴に落ちてく俺たちを、顔を動かさず目だけ動かして確認する姿が。
名探偵風に言うなら、動機は十分だ。これが謎解きだったら、出来が悪すぎて笑えると思う。
見てる人全員が「犯人こいつだろ」ってなるだろう。
目が合った。
いつもの見慣れた、そして勝利を確信するような、嫌な笑みを浮かべたスキーロスがいた。
***
勝負が始まる前。
ナズとアレクの少し後にギルドを出たスキーロス。
この男の足は真っ直ぐ沼地向かう。・・・なんてことはなかった。
スキーロスがまず最初に向かった場所。
それは、冒険者がよく通う道具屋の一つだった。
そこでスキーロスは左手用の手袋と、ある粉末を購入した。
粉末の名は『魔酔粉』。効能は至ってシンプル。
この粉が付着した物、人に魔物を引き寄せるというものだ。
用途としては、パーティーのタンクが魔物を引きつけるために付けたり、また木や岩などに粉をふりかけ、魔物との接触を回避したりするなどが挙げられる。
ただ、使い方を間違えれば危険な状況にもなる代物。
これを購入できるのはB+ランク以上の上級冒険者に限られている。
また獣人にとっては、軽いマタタビのような効果もあるのだとか。
匂いを嗅ぐと、テンションが上がるらしい。
スキーロスは考える。
先程の喧嘩。ギルマスに止められなければ、自分がどうなっていたか。
背中に冷たい汗が流れるのがわかる。
腐っても、自分はAランク冒険者。
いくら奴らが優秀なスキルを持っていたとしても、自分が遅れを取るとは考えていなかった。
だがそれは間違っていた。
奴らは自分よりも強い。数段階は上だ。これは明白な事実。今からどう頑張っても覆らない。
勝負の行方など、火を見るより明らかだろう。
・・・それがどうした。
経験値は俺の方が上だ。
やりようはある。
要は、奴らが時間までにギルドに戻ってこなければいい話だ。
スキーロスは今しがた購入した左手の手袋を身に着ける。
計画を頭に浮かべ、不敵な笑みを溢した。
所詮奴らは新人。スキルが優秀ってだけだ。経験もくそもない。
それでも、ランクはぐんぐんと上がっていく。
俺が積んできた努力も、潜ってきた修羅場も、失ってきたものも。
あいつらには関係ない。
簡単に、同じ場所にまで来てしまう。
そんなことは絶対に許されない。
下のランクで踠いている同胞も、散っていった仲間も、何より俺が認めねえ。
この勝負を、奴らに勝たせるわけにはいかない。
何をしようが。
***
時刻は18時を回った。
夕刻と呼ぶには十分な時間だ。
スキーロスは口角を上げ、目の前にいるトルミィに言葉を投げる。
「もういいだろぉ、ギルマスよぉ!!
奴らは帰って来てねえ。タイムアップだぁ!!」
ギルドに姿を現しているのはスキーロスのみ。
ナズとアレクの姿はなかった。
勝負を見届けに来た(もとい、賭けの結果を知りたくてウズウズしていた)冒険者たちの言葉も飛び交う。
「なんだよ、あの新人ども。負けるのが怖くて逃げちまったのか!?」
「それか、スキーロスさんにボコられて、伸びちまってんじゃねえか?」
「違いねえ。<リザードマン>に手も足も出なかったってこともあるかもなあ!」
「二人がかりでか!?だとしたら奴らにCランクは早すぎだったな!」
「血迷って、<リザードマン>の巣がある沼地に突っ込んだってこともあるぜぇ!?」
「スキーロスさんじゃあるめえし、新人がそんなことしたら、リンチの始まりだろぉ!」
「そこまで間抜けじゃねえだろうよ!!ははっ!!!」
あることないこと、冒険者たちは口にする。
ただ彼らはスキーロスに賭けた者たちだ。
顔面蒼白になっているのは、ナズ側に賭けた者たちの方。
「おいおい、嘘だろぉ!?俺の5ヶ月分の稼ぎがぁ!!」
「これに勝って、しばらく遊んで暮らすつもりだったのによぉ。明日からどうすれば・・。」
「とりあえず、あいつら見つけたら、シメる・・!!!」
少し遠くの方で。
ちゃっかり賭けに参加していた、女性冒険者(?)の二人も。
「あんな端金はどうでもいいのだけど・・。あなた、勝つのは新人の方だと、言ってなかったかしら?」
「はっ・・・・・。万が一にも負けることはないと思っていたのですが・・・。」
「その万が一が起きてるじゃないの。・・・あれかしら、お金でも握らされたのかしら?」
「!!なるほどっ。そうかも知れません、ひ・・・お嬢様。
おおかた、あのスキーロスという男が自分の面子を保つために、新人の方に賄賂でも渡したのでしょう!
そうに違いありません。まったく、普通にやれば勝てたものを。
お金欲しさに勝利を譲るなど、平民とはやはり、卑しいですね、お嬢様。」
「・・・・。まあ、もういいわ。帰りましょうか。」
「はい、お嬢様!」
ギルド内にも、スキーロスの勝利という空気が流れ始める。
制限時間は明確に決められていないが、もういい時間だろう。
スキーロスが再び、口を開く。
「ギルマスよぉ!奴らがお気に入りなのはわかるが、これは勝負だ!!
公平に、正々堂々と頼むぜえ!!??」
「ふむ。そうさねぇ・・・。」
トルミィは軽く時間を確認した後、スキーロスに視線を移す。
見透かされるような女傑の視線に、スキーロスは思わずたじろぐ。
「ん・・・・、なんだよ、ギルマスゥ!?これ以上まだ待とうってのかぁ!?」
「いんやっ。もういいさね。」
トルミィは大きく息を吸い込むと、ギルド中に聞こえるように終わりを宣言する。
「では、勝負はここま・・・」:
「ちよっと待ったああああああ!!!!」
トルミィが宣言し終えるよりも早く。
それを阻む声が、ギルドの中を駆け巡る。
ギルド中の視線が入り口に集まる。
そこには泥だらけの格好で、肩で息をする新人冒険者二人の姿があった。
「へぇ"っ、へえ゛ー、まだ、間に、合います、よね?」
「・・・まあ、制限時間は明確に決めてなかったし、まだいいさね。
じゃあこれで、本当に、締め切るさね。」
おお〜っと、ギルドの中で歓声が上がる。
冒険者たちは一瞬、驚きはしたものの、その表情は、この場に来た新人たちを称賛する声や、安堵する声に変わっていく。
唯一。
驚きから表情を変えない者がいた。
・・来るはずがない。・・・いや、来れるわけがない!!
奴らは確実に<パルスワーム>の大穴に落ちた。
あの魔物の巣穴は、広大な迷路のように入り組んでいる。
一生出てこれないやつもいるほどだ。
さらにあそこには、他の魔物も住み着いている。
奴らには『魔酔粉』を付着させていた。大量の魔物が襲ってきたはずだ!!
それをこの短時間で!?倒したというのか!?
スキーロスは、己の驚愕を取り除くために考える。
あいつらが事の真実を話すかも知れないが、それがどうした。
<リザードマン>の解体が終わっているはずもない。
もう時間は締め切られているし、あとはなんとでも、言いようはある。
この勝負、俺の勝ちは揺るがない!!
さらに、己を落ち着けるために、考えを巡らせようとする。
だがスキーロスが、思考の海に沈むことはなかった。
目が合ったからだ。
ナズとスキーロスの目が合った。
スキーロスの目には、勝利を確信した、不敵に微笑むナズが映った。
〜受付嬢・セレン〜
ゾダニア冒険者ギルド、その受付嬢。
主張の激しいセクシーな体型に、それを遺憾無く見せつける改造された制服。
当然、男性冒険者からの人気は高い。
それでいて、豪胆な性格や、面倒見の良さ、男に靡かない姿勢から、女性からの人気もある。
なぜ彼女が、このような格好をしているのか。
それは、ある人への『憧れ』からであるようだが・・・?
それはまだ、彼女が新人だった時の話・・・。