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欠陥転生者たち、そして覇道へ  作者: 朽木 庵
傀儡の城脱出編
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01話 目が覚めた?

 草木が運ぶ青い風が、鼻を揺らす。

 心地よくも少しムズムズとしたその感覚が、俺の意識を覚醒させた。


 暗いな。

 それもそのはず。目が開いてないのだもの。

 (まぶた)が、あり得ないくらい重い。

 全然、これっぽっちも動かない。

 目は開きそうにないので、とりあえず、分かる範囲で状況の確認をしよう。

 感覚的に俺は仰向(あおむ)けで寝ているようだ。

 手足に意識を向ける。手のひらと靴越しに感じるジャリっとした感触。

 もしかして、地面の上で寝てる・・・・のか?、俺、今。


 外で一人、静かに眠っている・・・・。

 

 なんだその状況。

 童話みたいな展開じゃん。しかも俺、その設定でいくとお姫様ポジだし。

 男なんだから王子様も助けに来ないよね、これ。

 王子様も白い目で一瞥くれるだけで、あとは無視して行っちゃうよね?

 ・・それは王子によるか。

 でも俺もしかして、この状況ってピンチなんじゃね?

 ほんの少し、焦ってきた。どうしよう・・・・


 そんな俺の気持ちとは裏腹に、非常に気持ちの良い風が吹いている。なんか和むな。


 よし!

 気を強く持とう・・・!


 聴覚も正常に機能していると思う。

 葉が()れる音。定かではないが、多分、鳥の鳴き声もする。

 (かす)かに聞こえる、水の流れる音。

 ・・・・うん。完全に外だね、これ。しかも割と、自然豊かな外よ。

 都会の喧騒から、かけ離れちゃってるよね。

 ・・・・なぜこんなことに???理解し(がた)い。


 意外にも、体はすんなり動くので、状態を起こし、その場に胡座(あぐら)で座る。

 目が開かないことには動けない。

 というか、怖くて動けない。大至急、目を開ける努力をする。


 目の周りの筋肉が、ガタガチに固まっているような感じだ。

 1分くらい格闘しているうちに、だいぶ動くようになってきた。


 そして、とうとう、目を薄く開けることに成功した。

 ぼんやりと、周りの景色(主に茶色と緑色)が、視界に飛び込む。


 俺の推理は当たっていたようだ。完全に外。

 無情にも、真実は一つしかなかった。


 ようやく、完全に目が開く。

 そこでやっと異常に気づいた。

 外で寝ているのも十分異常なのだが、それは置いといて。

 ()()の景色が異常に、ぼやけている。

 自分の手とか、服とかははっきり見えている。

 しかし、少し離れたとこにある木なんかは、もうダメだ。

 解像度が荒すぎて、もはやモザイクみたいになってる。

 エッチな動画でも類を見ない、モザイクのかかり具合だ。



 ともかく、曲がりなりにも視界は確保できた。

 じっとしていても仕方ない。

 歩こう・・・!


 (あた)り一面、木で囲まれている。ここは森なのだろう。

 未だにはっきりしない脳みそで、考えごとをしながら、フラフラと森を彷徨(さまよ)う。


 なんで俺はこんな場所にいる?

 何してたんだっけ?

 ここ2、3日の記憶が思い出せない。「まだ17だよ、俺」と声に出してみたが、誰からも応答はない。

 ボケるにはちょっと時期が早いぞ。

 確か、沖縄旅行を楽しみにしてたのは、覚えている。


 ・・・・どこかに拉致(らち)られたか?

 いや、日本の治安の良さに掛けて、それはないか。


 じゃあ、なんでなんだよ!!!

 この理不尽さにだんだん腹が立ってきた。


 一つ、可能性はある。

 さっきから、頭の中にこびりついて、離れない言葉が・・・。

 だがその可能性は、到底信じられない。

 だから、考えないことにした。



 

 ざくざくざくざく。

 何分くらい歩いたのか。

 体感1時間。

 けど大体こういう場合って、10分くらいなんだよね。


 相も変わらず、俺の視界はモザイククオリティを、維持している。

 ちょうど、手の届く範囲のものは、しっかり見えるのだ。

 しかし、その範囲を超えた瞬間、()()ぼやけるって感じだ。


 そんな俺の視界が、茶と緑以外の色を(とら)えた。

 黒い・・・物体?

 こんなへっぽこな性能の目でも、役に立った。やったね!

 褒めて伸ばしていこう。もしかしたら、目が良くなるかも。


 そんなことを考えながら、俺はその黒い物体に、いそいそと近づく。

 なんだあの黒いの。

 不審に思う気持ちはあるものの、少しの好奇心と、この状況を何とかできるかもという、(わら)にもすがるような思いが、俺の足をむしろ早めた。


 さあさあ、結構近づいてきましたよ。

 結構でかいな、この黒いの。

 2mくらいは余裕である。と思う。

 俺の身長が174なので、多分そのくらいだろう。

 願わくば、あと1cm伸びてくれ。キリが良いから。

 それに、俺の友調べによると175cmが一番モテるらしい。

 あと1cm伸びるだけで、俺にモテ期が到来するのだ。こんなにうまい話はない。


 そうこうしてる内に、(くだん)の黒い物体に手で触れることの出来る距離まで来た。

 そしてここで、俺はある重大なことに気づいてしまった。


 先ほども説明したように、俺の視界は文字通り、()()切り替わるんだ。

 だから、見える範囲に入った途端、急にはっきりする。


 黒い物体が、その範囲に入った。それは黒い()()だった。

 細かい傷や汚れはあるが、されどその黒い甲殻は、優々と(そび)え立っている。

 そしてこの黒い甲殻、ゆっくりと動いている。呼吸をしている、のだろう。

 黒い物体は、巨大な生き物だった。


 マジかよ・・・。

 本当にこの、クソみたいな性能の目は、どこかに捨ててこようかしら。

 マジであり得ないよな、この目。

 褒めて伸ばす期間は、即終了した。


 とにかく、この場から離れなければ。

 俺は慎重に、じりじりと後退していく。


 バレないように、バレないように。

 そうやって必死になるほど、得てして秘密はバレるものである。


 例に()()()()()()


 黒い生き物にも、何か不自然な感じが、伝わってしまったのだろう。


 目の前の黒い生き物が、ゴウっと、起き上がる。


 ・・・いや誰だよ、2mくらいとか言ったやつ!!

 ・・・俺だよっ!



 起き上がった途端、倍ぐらいになったぞ!!


 しかもあの頭の形って・・・・・??


 頭がこちらを向く。

 見たことないくらい鋭いキバに、本能で震え上がる。

 そしてそのキバに、勝るとも劣らない鋭さを誇る眼光。


 目が合う。

 間違いない。似たようなのを、何度も見たこはある。画面の向こう側で、何度も倒してきた。

 ドラゴンだ。

 ただ、画面から出てきちゃってる。リアルサイズで。



 脱兎のごとく、即座に逃げる。足が動いたことを褒めて欲しい。

 褒めちぎってくれ。

 だからドラゴン。

 その爪で俺の体を、物理的にちぎるのは止めてくれ。


 半べそでそんなことを考える俺だったが、その間も足は猛烈に動いていた。

 自慢ではあるが、サッカー部では黄色い閃光(自称)と呼ばれた俺のスピードだ。

 その甲斐もあってか、振り返るとそこにあったであろう、黒色のものは無くなっていた。

 いなくなった・・・?


 淡い希望

 

 を抱いた。が、すぐに打ち砕かれる。

 上空にて、


 ギィィギィィ


 と、音を立てながら、黒い物体が近づいてきている。

 嗚呼ーーー、飛んじゃってるねーー、これは。

 そりゃ、ドラゴンだもの!!飛ぶに決まってるよね、そりゃ!!?


 ぼやけているが、黒い部分が、横に広がっているのがわかる。

 翼で羽ばたいてますね。


 ただスピードは、そんなに出てない。


 嬉しい誤算が起きた。確信する。


 逃げ切れる!!!!!


 今度は、濃いめの希望とハグをする。

 そのままディープなキスまでもっていきそうなほど、俺のテンションはぶち上がっていた。


・・・・・・・



 全身の血が、毛穴という毛穴から、垂れ流されている。ような感覚だ。

 さっきまで一緒にいた、濃い希望は、方向性の違いで解散してしまった。

 そう、文字通り、逃げる方向を間違ったのだ。


 俺の目の前には、天然の壁が行手を(はば)んでいた。

 後ろにはもう、すぐそこに、黒い物体が迫っている。


 え、待って、死ぬの?俺。

 ドラゴンて話し合いできるっけ???

 なんとか腕の1本とかで、勘弁してくんない??


 ・・・・いや、やっぱ5体満足で、見逃して欲しい、、、、


 黒い物体が、地面に降りる。

 頭を俺の方に近づける。俺がドラゴンと()()できる距離まで。

 値踏みをするように。物珍しいものを見るように。


 ブフォーっと生温かい鼻息を浴びせられる。

 風圧で、吹き飛びそうだ。

 怖すぎて、色々出そう。主に下から。


 でも・・・・嗚呼、やっぱり・・・。

 カッコ良すぎる。


 黒い装甲で覆われた全身は、如何(いか)なる攻撃も無力化しそうだ。

 そしてその黒い甲殻から、削り出したような翼と爪。

 うっすらと銀色に輝いているようにも見える。

 その眼光は、黄色に妖しくこちらを睨む。


 そしてとうとう・・・

 静寂が切り裂かれる。

 ドラゴンの口が大きく開かれたかと思えば、そのまま頭が突っ込んでくる。俺めがけて。

 大鎌のようなキバに、俺は為す術なく包まれる・・・・・


 咄嗟(とっさ)にできたこと言えば、右手で顔を防御することくらいだ。

 うずくまるように。なんの意味もない行為だろうけど、こっちも怖くて必死だったのだ。

 その時の右手の速度は、メイウェザーにも匹敵するぐらいだと思う。

 メイウェザー。ボクシングチャンピオンの。いや、それは言い過ぎかも・・


 ドゴォォォォォォォンンン!!!!!!


 ・・・・・轟音。


 そして再び訪れる、静寂。

 

 その場に残ったのは、


 無傷の俺と、


 甲殻を砕かれ、地面にめり込むドラゴンだった。


 悲惨なドラゴンの姿を前にした時。それが当然であるかのように、あの声が俺の耳に蘇る。


 《それでは、良い二度目の人生を...》


 目の異常は、消えていた。

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