17話 到着!王国最大の街『ゾダニア』
感想もどしどし、お待ちしてます!!
俺とアレク、『銀灰の剣』の面々は、無事ゾダニアに到着した。
門の前には街を訪れた商人や来訪者たちが、長蛇の列を作っている。
今からあれに並ぶのかぁ・・・・。
と、俺が憂鬱な気分になっていると、アンスは列を無視して門番の方に向かって行った。
しばらく門番と話たアンスは、俺たちの方に手招きをする。
周りの視線に当てられながら、俺たちはアンスと門番のもとまで、いそいそと移動した。
アンスとにこやかに話していた門番だったが、俺たちには至って真面目な面持ちで口を開く。
「君たちが、アンスさんの言ったナズ君とアレク君?」
「はい、そうです!!」
「アンスさんの連れだから、大丈夫だとは思うが。
・・・くれぐれも、街中で騒ぎを起こすなよ?」
「もちろんです!おとなしくしてますよ!!」
まあ、もうすでに騒ぎを起こして追われる身ではあるんだけど。
口が裂けても、そんなことは言えないな。
門番の警告に元気よく返事して、俺たちは列を並ぶことなく、街の門をくぐる。
列の最前列に割り込みしたような気分になり、少し気が引けていたが、なるほど。流石に『銀灰の剣』はこの街の有名冒険者パーティーらしい。
門番や列に並んでいるものたちは、それが当然であると言わんばかりに受け入れていた。
街の中に入るとそこは活気溢れる露店や人通りで、ごった返しといった具合だった。
「うおぉ。すごい賑わってるんだな、ゾダニアって」
思わず感嘆の声が漏れる。
俺の純粋な感想に、アンスはどこか嬉そうに笑う。
「そうだろそうだろ。ゾダニアは王国最大級の街だからな!
祭りの日は、こんなもんじゃないぞ!」
「おおお!いつか参加してみたいっ!」
アンスと俺は二人で盛り上がる。
そんな俺たちを尻目に、他のメンバーは疲れた顔をしている。
「アンス。アタシたちもう疲れたから、今日はこのまま解散でいい?
早く帰って、シャワー浴びて、ベッドで寝たいのよ。」
「おう、早いとこそうしようや、アンス。
俺も早く、体にビールを流し込まねえと、干からびて死んじまいそうだっ」
ガーベラとジニーが苦しそうに訴える。
確かにこの人らも、仕事を終えて、早いとこ休みたいよな。
「そうだな。依頼の報告や、魔物の換金なんかはまた明日にしよう。
今日はもう解散だ!明日もいつもの時間にな。みんな、お疲れー!」
「お疲れ様です!」
「また明日ー」
「アンスっ!昼からは勘弁してやるから、夜はちゃんと来いよー!!」
各々が別れていく。
ジニーがアンスに何か叫んでいるが、なんのことかはよくわからない。
アンスはやれやれといった感じで、肩をすくめる。
さて、俺たちもどうするか。
とりあえず、アレクと相談しよう・・・。
そう考えていた俺に、一人残っていたアンスが声をかけてきた。
「なあ、ナズとアレクよ。お前らどうせ金なんか持ってないんだろ?
ほら、これ。やるよ。」
アンスは俺の手に、一枚の金の硬貨を渡してきた。
「え、これって・・。」
「金貨だよ。これで大抵の宿には泊まれるし、余った金で飯も食える。
今日はその金を使ってくれ。明日は10時頃に、冒険者ギルドに集まる予定だから、顔出してくれりゃ、ギルドに話くらは通すぜ。」
こいつ・・・・!
なんて良いやつなんだ!
明日のことまで考えてくれている。
「ありがとうな、アンス!!
お前の言う通り、金なんて持ってなかったから、すげー助かった。
明日もギルドに行くから、その時はよろしく!!」
「何、助けてくれた恩に比べれば、これくらい。お前らもゆっくり休めよー。」
アレクもペコペコと、頭を下げている。
俺たちはヒラヒラと手を振って去るアンスを、礼を言いながら見送った。
その後、俺はアレクと共に人通りを外れて、今後の相談をする。
「この後、・・どうする?」
(んー。まずは宿の確保だね。そのあと、余ったお金で、ご飯にしよう!)
「異議なし!」
(じゃあ、宿選びは任せたよ!)
「任された!」
俺は街ゆく人に、おすすめの宿を聞いてみた。
条件は、多少高くても良いから、ベッドと飯が充実しているとこだ。
聞き込みを続けること、数十分。
聞いた中から、一番名前が多く上がった『一月の宿』に決定した。
道を聞いて、お目当ての宿に辿り着く。
二階建ての綺麗な建物。
他の建物と比べても、かなり大きい。
「よし、入るか・・!」
(うんっ。)
少し緊張しながら、俺とアレクは、宿の扉を開けた。
ギイィっと音を立てたドアは、それが呼び鈴であるかのように、中の者に俺たちが入るのを知らせた。
中はレストラン風になっており、まだ昼前にも関わらず、ちらほら食事をしている人が見られる。
俺も早く、飯が食べたい。
じゅるりと、垂れそうになる涎を飲み込みつつ、目を輝かせる。
すると、奥のカウンターに座っていた女性が立ち上がり、駆け寄ってくる。
こちらに来た女性は、ニコッと愛想良く喋り出した。
「いらっしゃいませ!ようこそ『一月の宿』へ!
お食事ですか?宿泊ですか?それとも両方?」
「両方でっ!!お願いします!!」
「あ、ありがとうございます!」
食い気味に答えた俺に、少し引きつつも、女性は営業スマイルを貫く。
この人、プロだ!
と、引かせてしまったことに申し訳無くなりながらも、感心する。
「何日宿泊して行かれますか?」
「えーと、とりあえずしばらく滞在するつもりなので・・・。
これで二人、どのくらい泊まれますかね。あ、食事付きで。」
俺は手のひらに乗せた1枚の金貨を、女性に見せる。
「1ゴールドですと、7日の滞在までですね。
もちろん、世界一美味しい食事付きで、ですよ!」
「!、じゃあそれで、お願いします!」
「はい、ありがとうございます!食事はすぐになさいますか?」
「是非に!!」
アレクもブンブンと、頭を振っている。
俺もアレクも、早くプロが作った料理を食べたくてしょうがないのだ。
俺は金貨を女性に渡す。
「先にお部屋の方にご案内しますねっ!食事ができたら、呼びに行きます!
あ、私、イアンって言います!お客さんは?」
「俺がナズ。で、こっちが友達のアレク。よろしく。」
「・!・・獣人の友達なんて、珍しいですね。わかりました、お客さん2人ですね。
おとーさーんっ、食事2人前、今すぐね!!」
「はいよっー!」
奥にあるであろう厨房から、野太い声が響く。
俺たちはイアンに連れられて、部屋に行く。
一階はレストランで、2階が宿になっているらしい。
イアンに角の部屋に案内してもらい、中に入る。
「では、この部屋でご自由にお過ごしください!
でも、中にあるものを壊した場合は、弁償してもらいますからねっ!」
イアンがぱちっと目配せをする。
俺たちとしても、そんなつもりはないので、しっかり頷く。
「では、食事ができたら呼びに来ますね!ごゆっくりー!」
イアンは頭を下げて、部屋から出ていく。
俺は扉を閉め、部屋の中を見回す。
「綺麗な部屋だな。結構広いし!」
(うん!2人でも十分快適に過ごせるね。)
ベッドも二つあることから、この宿の人間、少なくともイアンは、俺とアレクを対等に扱ってくれてるらしい。
『友達』ってとこを強調して紹介した甲斐があったかな。
部屋の端にはベッドが一つずつ配置してあり、真ん中に椅子と机が並んでいる。
小窓が取り付けられており、日当たりもいい。
とりあえず、俺とアレクは椅子に腰掛ける。
「ふう。ようやく、一息つけたな。」
(そうだね。これからしばらくは、ここを拠点に活動していこう。
2人の転生者も、探しつつね。)
「わかってるよ。まあ転生者だし、少しは目立ってるだろうからな。
探しようもあるだろ。」
そんなこんなで、アレクと今後のことを話していると・・。
コンコンコンっ。
「ナズさーん、アレクさーん。お食事、出来ましたよー。」
イアンの声が、扉の向こうから聞こえてきた。
俺たちは足早に部屋を出て、用意された念願の食事にありつく。
「今日のメニューは、鶏肉と新鮮なお野菜をふんだんに使ったデミグラスシチューです!!
ご一緒に、焼きたてふわふわのパンもどうぞ!」
「おおおお!!」
(おおお!!)
俺もアレクも、目の前のご馳走に興奮する。
絶品の料理を無我夢中に食らいつき、気づけば皿は使う前のようにピカピカになっていた。
「ふうー、ご馳走様。すげー美味かったよ!」
「ふふっ。それは何よりです!作った父も、喜びます!」
その後俺たちは部屋に戻り、泥のように眠った。
1週間の野宿生活は、思ったより体を削っていたようだ。
余裕そうに振る舞っていたアレクでさえ、スースーと寝息を立てている。
俺も翌朝まで、一度も目を覚ますことなく熟睡を満喫していた。
***
同日の夜。
隣には、気持ち良さそうに眠るナズの姿。
少しばかり音を立てたところで、起きることはないだろうが、一応静かにベッドから降りる。
部屋の小窓を開け、夜風を部屋に取り込みながら、椅子に腰を下ろす。
金髪の獣人、アレクは、小窓に広がる街の夜景を眺めていた。
しばらくして満足したのか、鼻を鳴らし顔を引き締める。
そして自身のスキル【従魔召喚】を発動し、使い魔を召喚する。
使い魔というのは、主人によってできることが違ってくるため、その性能も千差万別だ。
アレクは使い魔と五感の共有ができる他、一部のスキルの使用や、魔力の調整で体の大きさを変えられる(小さくなれるだけで、大きくはなれないが)。
召喚した使い魔はその体を縮めて、勢いよく窓から外に飛び出した。
この使い魔の見たものや聞いたものなどは、余すことなくアレクに入ってくるようになっている。
このように、無口な獣人が使い魔を通して夜街を徘徊するのは、何も探検がしたいからではない。
無論、これからのための、必要な情報を収集するためである。
アレクは人目につかないように夜道を前進しつつ、ある酒場を探す。
それは、この街に着く少し前に、『銀灰の剣』のジニーから出た名前の酒場である。
ジニーはあの時機嫌よく、こう口走っていた。
「ゾダニアに着いたら、まずは酒だよなぁ!『ドランカードの家』が俺を待ってるぜ!!」
『ドランカードの家』。それはどうやら、この街にある人気な酒場らしい。
ここまで聞いてきた会話の内容的に、ジニーとアンスは夜、この酒場で落ち合うようだ。
もしかしたら、何か自分たちのことを話すかもしれない。
そうじゃないにしろ、酒場は情報の巣窟だと、相場が決まっている。
聞き耳を立てるには絶好の場所だろう。
暗い道を、人の活気が溢れる方へ進んでいくと、見知った魔力を視認した。
アンスだ。
アレクは使い魔を動かし、アンスの後を慎重に追う。
突然。
少し歩いたところでアンスの足がピタッと止まる。
そしてグリンっと首を動かし、こちらに顔を向けてきた。
あまりに突然のことに、使い魔を動かしていたアレクの、全身の毛が逆立つ。
アレクは別に、油断していたわけではない。
ただ、尾行相手が想定以上に優秀な冒険者だったのだ。
使い魔は自身の気配を消すことに、集中していた。
アンスも、変な違和感を感じただけで、この使い魔には気づいていない様子だ。
再びアンスが歩きだす。
ふうっと息を吐き出すアレク。
そして細心の注意を払い、尾行を再開した。
少しすると、案の定アンスはお目当ての酒場『ドランカードの家』へ入っていった。
アレクの使い魔も、肉眼ではほぼ見えないくらい小さくなり、酒場の中へ入る。
ワイワイと賑わう酒場。
その中のとある一席。
そこには、今しがた到着したアンスのほかに、顔を少し赤くしたジニーと、すでに出来上がっていそうなガーベラが座っていた。
アレクは近くまで移動して、聴覚に意識を集中させる。
「よう、ジニー。約束通り、ちゃんと来ただろ?ガーベラも来てたんだな。」
「おお!お前は約束守る男だと思ってたぜ、アンス!
とりあえず、なんか頼めよ!おーーい!」
そう言うとジニーは、酒場の給仕を呼びつけた。
アンスも何か注文し、給仕は去っていく。
「さっきまで、なんの話してたんだ?」
「んなの、決まってるでしょぉ?あの2人のことよぉ。」
若干、呂律が怪しいガーベラの答えにアレクの使い魔は、耳をピクッと反応させる。
「あー。ナズとアレクのことか。まあ、変わったやつらだよな。」
「『変わった』なんてもんじゃねえよ!助けにきた時ゃ、どこぞのS級冒険者が来たのかと思ったぞ!」
「そうよぉ!何がやばいって、あの子、ナズくん。
あんな特大魔法スキル使っといて、魔力切れを一切気にしてないってことよぉ。
あの後も、ぽんぽんスキル使ってたしぃ。
尋常じゃない、魔力量してるんだわぁ。」
「それによ。あいつら魔法だけじゃねえ。
強化系のスキルも持ってるっぽいし、何より、魔法なしの接近戦でも十分戦えていた。
ありゃ、訓練されたやつの動きだ。」
「んー、確かにな。普通、魔法が使えるやつは、魔法の練度を優先させて近接戦は苦手な傾向にある。
その方が効率よく成長できるし、むしろ、二つとも伸ばそうとする方が、非効率的だ。
それをどっちも高いレベルでこなしてるってんだから、まるで軍のエリート騎士だよな。
山の集落で暮らしてたって話だけど、妙なのは間違いない。」
ここで注文が届く。
一同は話すのを一旦止めて、酒や料理に手をつける。
アンスは、酒を一気に喉へ流すとジョッキをテーブルに勢いよく降ろし、口を開く。
「ともかくだ。余計な詮索は無し。
あいつらの正体が気になるのはわかるが、それで怒らせちゃ、話にならないからな。
気のいい奴らだったし、それだけでいいんじゃないか?」
「わかってるわよぅ。本人たちに直接聞く、なんてことはしないわぁ。」
「ああ。自分たちより強い奴らを敵に回して、良いことなんてないからな。」
アンスの言葉に、ガーベラもジニーも同意する。
アレクとしても、自分たちに害がないなら、それでいいという考えだ。
ただ、自分たちの存在は周りから見れば異質だということを、再認識する。
今後はより一層注意して行動しなければ。
ともあれ、聞きたいことも聞け、アレクは他に使えそうな情報を集めるため、席を離れようとした。
そこに1人の男が、アンスたちの席に近寄ってくる。
「よお、『銀灰』じゃねえか。帰ってきてたのか。
その様子じゃあ、あの高難度の依頼も、達成したみたいだな。」
「ああ、スキーロスか。依頼の方は、なんとかな。
そんな依頼より、帰り道の方が大変だったけど。」
スキーロスと呼ばれた、チンピラのようなガラの悪い男は、不可解そうな顔をした。
「お前らが苦戦する相手?
はっ。まさかドラゴンでも、降ってきたのかよっ?」
「・・・・そのまさかよぅ。」
「・・・・・はぁ!?」
冗談めかしく笑うスキーロスに、ガーベラがぶっきらぼうに答えた。
スキーロスもこの回答に笑うのを止め、同情と感心の混ざった顔をする。
「お前ら、よく倒したな。依頼の後だってのによ。」
「強力な助っ人がいたんだよ。それと、スキーロス!
明日、ギルドに新人が二人入ってくるけど、変にちょっかい出すんじゃないぞ!!」
アンスがスキーロスに指を差し、釘を刺すように言う。
「おーおー、そうかい。気ぃ付けるよ。」
スキーロスはヘラヘラ笑って、取り合おうとしていない。
使い魔越しにアレクは、この男への警戒度を上げた。
明日、ギルドに行った際は、目を光らせておこうと。
それからも、アレクの偵察は続く。
夜の街を人知れず、金毛の猫は躍動していた。
今回は結構長くなってしまいました。