16話 人助けすれば、自分にも良いことが起こるらしい。
ご拝読くださり、ありがとうございやす!!
森の中を、俺とアレクは走る。
正直俺はどこに向かえばいいか、わかってない。
よって、アレクに付き従う形で、走っている。
(見えた!魔力反応!!
・・・・・人の魔力が5個、全部、結構弱ってる。
・・・魔物のは複数あるけど、1個でかい魔力ある!
かなり強い魔物がいるっぽい!)
「了解!魔物の相手は、俺がやる!」
(それじゃあ僕は、負傷してる人たちを守るから。頼んだよ!)
・・!!
人の声が聞こえてきた。
かなり近い。
俺たちは、木々を抜けて、戦地へ飛び込んだ。
「大丈夫ですかっ!!助けに来ました!!」
全員の視線が俺たちに向く。
見たところ、男女の冒険者パーティーのようだ。
鎧を着た、大きな男が一人横たわっている。
この人がさっきの叫び声を出した本人か。
その大男を守るように、女性が二人。
一人は魔法使いっぽくて、もう一人は弓を持っている。
それから、ダガーを構えた盗賊風の男と、ロングソードを構えた男が、魔物と相対して・・・・
って、ドラゴンいるんですけど!!?
俺が戦った<装甲竜>とはまた違う、身軽そうで、少し小さめの赤竜。
その周りには、ゴブリンがわらわらと、群がっている。
「俺が魔物を倒します!!
そいつが負傷者とか守るんで、回復が必要なら、やっちゃってください!」
俺はアレクを指差しながらロングソードの男に言う。
見たところ、こいつがリーダーっぽいからな。
アレクは負傷している大男と女性陣二人のところにすでにいて、頷いてみせる。
「すまない!助かる!!」
「いえ、気にしないでください!とりあえず、あのドラゴンを倒しましょう!」
「!!・・わかった。援護する!ガーベラ!あと何発魔法打てる!?」
ロングソードの男が、ガーベラと呼ばれた魔法使いの女に聞いた。
「もうほとんど魔力を使ってしまってるから!打ててあと、3発くらいよ!!」
「くっ・・。そうか。あんた名前は!?」
「え・・・俺?・・・えっと、ナズです。」
「ナズ君か。俺はアンスだ。
すまないが、俺たちはもう魔力も体力もそこまで残ってない。
正直<赤炎竜>相手に、まともに戦力になるかわからない・・・!」
あのドラゴン、<赤炎竜>っていうのか。
アンスは深刻な顔をしている。
とりあえず、【森羅ヲ破壊スル力】で一掃するか。
(ナズ!!神位スキルはなるべく使っちゃダメだ!)
「えっ。なんでだ!?」
俺は反射的に、アレクの方に顔を向け尋ねる。
神位スキルを使えば、簡単に終わるのに・・。
だが、俺の問いに答えたのはアンスだった。
「うっ・・。すまない。俺たちも戦闘の連続だったんだ。
それにこの遭遇は、完全に異常事態だ。想定していなかった・・・・!」
「ああっ!違うんです!
アンスさんに言ったんじゃなくて、あそこの金髪に言ったんです!」
申し訳なさそうにするアンスに、逆に俺が申し訳なくなる。
そういえば、アレクの【念話】は俺しか聞こえてないから、会話が噛み合わないんだよな。
(神位スキルは切り札だ。それに馬鹿正直に説明して、転生者だってバレたら、余計なトラブルを生むかも知れないからさ。)
そういうことか。
まあ一理あるし、従っておこう。
「それでどうするんだ?どうやって<赤炎竜>を倒す?」
それまで黙っていた、盗賊風の男が少し苛立ったように口を開く。
この状況で、助けに来た俺がモタモタしてたら、そうもなるか。
こうなったら、ごちゃごちゃ考えても仕方ないので、単純明快な方法でいこう。
「とりあえず、魔法で吹き飛ばします!」
「「「は?」」」
俺の意見を聞いた冒険者パーティーの人たちの声が揃う。
すごい息ぴったりだな。
やはり、パーティーを組んでるだけあって、仲いいのかな?
「いきます!【緋雷の獣】!!!」
俺は目の前に居座るドラゴンに、特大の魔法を打ち込む。
幾重もの赤雷が束になり、獣の顎を形どる。
ドラゴンがどのくらい強いのか知らないので、いつもより多めに魔力を込めてみた。
俺の極位魔法は、ドラゴンとその周りのゴブリンを何体か巻き込んで、飲み込んだ。
バンッッッバリバリバリィィィィイイ!!!
派手な音と共に、魔物たちは魔法に直撃した。
「「「「はあ!?!??」」」」
再び冒険者パーティーの声が揃う。
大男を治療していた弓士の女の手も、思わず止まる。
ガーベラ(魔法使いの女)は思考が停止してるし、間近で見ていた男二人は、そのあまりの威力に言葉を失っていた。
アレクだけは、やれやれといった風に、頭を振っている。
口をあんぐり開け、表情まで完璧に揃っているが、残念なことに俺は気づいてなかった。
目の前の敵がどうなったのかの確認に忙しかったからね。
周りにいたゴブリン数匹は跡形もなく消し飛んでいる。
ドラゴンも、ところどころ黒く焦げており、全身から煙を放っている。生きてんのかな?
かと思えば、ドンっと鈍重な音と共に、ドラゴンはその場に倒れた。
うん、倒したっぽい!
「よし!あとは、ゴブリンだけですね!とっとと片付けましょう!」
「あ、ああ。」
アンスから呆けた返事が来る。
何か言いたげだが、身の安全の確保が先だ。
俺たちは、残ったゴブリンに苦戦することもなく全て倒し切る。
もう他に魔物も残っていないようだし、これで落ち着けるかな・・!!
俺たちは自然と、気絶して治療されている大男の周りに集まり、腰を落とした。
「まずは、助けてくれて感謝する、ナズ君!
君が来てくれなきゃ、間違いなく俺たちは死んでいた。本当にありがとう!!」
「いや、気にしないでくださいっ。」
深々と頭を下げ感謝してくるアンスに、俺は照れ臭くなる。
「それにしてもよっ!なんなの、あなたの魔法の威力は!?」
魔法使いのガーベラが俺に凄む。
ありえないとでも、言いたげな顔だ。
「おい、ガーベラ。助けてくれた人にその態度はないんじゃないか?」
「そうだけどっ。あんただって気になるでしょ?あの魔法の威力は!
<赤炎竜>は、魔法耐性の高いドラゴンよ!?物理攻撃で攻めるのが定石なのに・・・。
それを、魔法スキルで一撃だなんて、信じられないわ!!」
アンスが諌めるが、ガーベラは詰め寄る。
アンスもそこに関しては、言い返せないらしい。
「確かに、ありゃ見たことねえ魔法だったな。威力もハンパねえしよ。」
「私も驚きました。正直、ナズさんが何者なのか気になります。」
「おいおい。ジニーとリタリアまで・・・。
すまんね、ナズ君。こいつら聞き分けなくって・・。」
アンスは苦笑いしながら謝ってくる。
だが俺としては、気にすることもない。
「別にいいですよっ。俺のあの魔法、極位の固有魔法スキルなんです。
だから、みなさんが見たことないのも無理ないですよ。」
「えっ。教えてしまってよかったのか!?」
「そうよっ!聞いたアタシが言うのもなんだけど、スキルは秘密にするものでしょ!?」
「え・・・、そうなんですか?」
そんな常識、俺は知らないよ!
アレクは知ってんのかな。
俺はアレクの方を見る。
(秘匿するのが常識ってのは知らなかった。でも神位スキルのことは言っちゃダメだからね!)
アレクがじと目で、こちらを見つめ返してくる。
絶対、口を滑らすなよといった顔だ。
俺は無言で、目だけで理解を示す。
「ほんとっ。何者なのよ、あんたたち・・。そんなやばい力持っといて、常識は欠けてるとか・・。」
ガーベラが呆れたように腕を組む。
転生者ってことは伏せなきゃならないし、さてどう説明したもんか・・。
まさか、この国の女王に追われてますなんて、言えないしな。
俺が言い淀んでいると、アンスが口を開く。
「先に、俺たちのことを話そう。
俺たちは『銀灰の剣』というパーティー名で、ゾダニアを拠点に活動している冒険者だ!
これでも、ゾダニアじゃあ名の知れた冒険者パーティーなんだぜ。
元は4人で活動してたんだが、半年ほど前にリタリアが加入して、名前を変えたんだ。」
「そうなんです。『銀灰の剣』ってパーティー名も私が考えました。」
「へえー。かっこいいな。銀灰ってのが特にさ。」
「・・ありがとうございます!」
リタリアは一瞬複雑そうな顔をしたが、すぐにニコッと笑顔になった。
気のせいかな。
「そんで、気絶して治療されてんのが、デンドロだ。
俺たちのタンクで、この戦闘で一番無理させちまった。
こいつが助かったのも、ナズ君たちが来てくれたからだ。」
「い、いやぁ・・。」
褒められ慣れてないということもあり、俺は気恥ずかしさで首筋を触る。
(ナズ。僕たちのことある程度考えたから、僕の言う通り、彼らに話してみてくれ。)
アレクからの声が響く。
とりあえず、アレクの言ったように、俺たちのことを話す。
「俺たちはここより東にある山の集落で暮らしてたんだ。
だけど、この国とブルネラ大公国の戦火に巻き込まれて帰る場所がなくなってしまって・・。
だから、冒険者になるためにゾダニアを目指してここまで来た、ということです!」
どうだっ!通じたか、この嘘。
俺は慎重な目で、アンスたちを見回す。
アンスたちは、同情するかのように俺の話に頷いていた。
いけてる、みたいだな・・。
「あの戦争女王。やっぱめちゃくちゃしやがるな。」
「その名前、街の中では言うなよ、ジニー。国の奴らに聞かれたら不敬罪で捕まるからな。」
「わーってるよ。」
マリーグレーテは、戦争女王なんて呼ばれてるのか。
確かに、的を得てるな。
「あなたも大変だったのね、ナズ。最近じゃあ、『玉座』と『氷剣』も動いたって話だし。
戦争も佳境ってことよね。」
「みんな、戦争に迷惑してるからなあ。早く終わらせてほしいところだ。」
ガーベラの意見に、アンスも同意する。
しかし、また二つ名みたいなのが出てきたな。
おおかた誰かは、予想ついてるが・・・。
「あの、『玉座』と『氷剣』っていうのは・・?」
「ああ。『玉座』ってのは、女王のそばにずっと控えているギーシャ・ヴォントってやつのことさ。
女王のいる場所には常にいるらしく、戦争に行く時でさえ、女王はギーシャの近くにいるらしい。
だから『女王の玉座』なんて呼ばれたりしてんだと。まったく、ピッタリな二つ名だよな。」
アンスがケラケラ笑っている。
確かに、城にいる時も大体近くにいたな。
『玉座』は言い得て妙だな。
「『氷剣』はこの国の総軍団長、アンジェリーナの二つ名よ。
実際戦ってるとこは見たことないけど、他国からは『女王の氷剣』、『氷の悪魔』なんて呼ばれてるわね。
こんな二つ名が付くやつ、戦いたくもないけどね。」
俺も、2度と戦いたくない。
次やったら、普通に殺されそうだ。
悪魔なんて揶揄されるのも納得できるし。
俺が遠い目をしているとアンスが、ある提案をしてくる。
「なあ、ナズ君。ここからゾダニアまで、一緒に行動しないか?
俺たちは疲弊し切ってるから、正直一緒に行きたい。
それに街に入るとき、ナズ君たちの身元を俺たちが保証する。
そっちにもメリットはあると思うぜ?」
(ナズ。これは願ってもない話だよ。
正直、身元も明かせない状況で、街に入れるかはわからなかったから。
強い冒険者パーティーは街での信頼もあるだろうから、スムーズに街に入れると思うよ!)
アレクの意見も聞き、俺の意見も固まる。
もとより断るつもりはなかったしね。
思わぬラッキーも降ってきたし。
人助け、しといてよかった!
「はい!俺たちも身元を保証してもらうのはありがたいですから!
一緒に行きましょう!」
「そうか!助かるよ。悪いが、デンドロが目ぇ覚ますまで休憩でいいか?」
「はい!大丈夫ですよ!」
***
それから、デンドロが起きるまで、俺たちは交流を深めていた。
具体的には冒険者ギルドのことや、ゾダニアの話を聞いた。
デンドロが起きてからは、ゾダニアに向かって歩を進めた。
野宿では、昼にたくさん寝ていたデンドロが率先して見張りをしてくれるらしい。
「迷惑かけちゃったからね。ナズ君も戦って疲れてるだろうから、寝てていいよぉ。」
デンドロののんびりとした声に甘えさせてもらおう。
なんていい人なんだ。
「アレクもナズと一緒に寝てていいぞー。」
と、アンスもアレクに声をかける。
実は昼間、デンドロが起きてゾダニアに向かってる最中。
〜〜〜〜
「その獣人は、ナズの奴隷かなんかか?
見たところ、首輪はついてないようだが・・?」
アンスがアレクを指差して、平然と尋ねる。
しかし俺はmこのアンスの言葉にカッとなってしまった。
「アレクは俺の友達だっ!!奴隷じゃねえ!」
この国の人間は多かれ少なかれ、獣人差別が浸透している。
俺はそのことをすっかり忘れていたのだ。
(ナズ。あんまり言うと、彼らと溝を深めるかもしれないから。
穏便にしてよっ)
なんてアレクは言っているが、知ったことではない。
そんなんで機嫌が悪くなる連中なら、こっちから願い下げだ。
俺の怒号を聞いたアンスはというと・・・。
「っ・・!すまんっ!恩人に無礼なことを言った!
この国じゃあ、獣人を奴隷扱いしてるやつが多くて。
俺に獣人を差別する気はないと思ってたんだが・・。
心のどこかで、そういう意識が根付いちまってたみたいだ。本当にすまなかった!!」
すぐに俺への謝罪がきた。
ふぅ・・。話のわかるやつではある見たいだ。
俺はアレクを指差しながら、アンスに声をかける。
「謝る相手が違うだろ」
「そうだった。アレクも、不快な思いをさせちまって、すまない」
謝罪を受けたアレクは、手を前に出して、フルフルと顔を横に振った。
顔を上げてくれ、とジェスチャーしている。
「俺も、無闇に怒って悪かった。
獣人差別のこともあるから、俺が先に言っとくべきだった。顔を上げてくれ、アンス」
「ありがとう。アレクもナズと対等に扱うと、誓うよ」
〜〜〜〜
俺たちは、二人で簡易テントに入る。
「あなたたち、マジックバックだけじゃなく、簡易テントも持ってるなんて。
どちらも、かなり高価なものなのよ?」
「私たちも、最近になって、大金叩いて買ったんですよ!」
ガーベラとリタリタが羨ましそうに言う。
「いやぁ、たまたま村の中にあったんだよ・・!」
苦し紛れの言い訳をして、俺は会話を強引に切った。
この日は、久しぶりに一晩中眠ることができた。
アレクは律儀にも、見張りをしたようだけど・・・。
俺も起こされたらやったよ!!!
・・・・多分だけど。
そして、翌朝。
俺たちはついに、オネマリッタ王国最大の街『ゾダニア』に到着した。