14話 この先の道のりを、どう進んでいくのだろうか。
アンジェの神位スキル【冥府へ続ク扉】によって出現した、黒いゲートに俺は吸い込まれる。
そのあまりの吸引力に、体が宙に浮く。
本来なら、大興奮している頃だが、生憎と今の俺は、集中している。
だって、生と死の境目に立っているからね。
この作戦が失敗すれば、全て終わり。俺の人生、ターンエンドとなるわけで。
そうはならないためにも、体が宙に浮いたことくらい、気にしてられないのだ。
現在の立ち位置はこうだ。
黒いゲートと俺。
その間には、10数メートルほどの距離がある。
そしてその間に、アンジェがいる。
アンジェは、踏ん張っていてなかなかゲートに吸われない俺を動かすために、俺の方に向かって歩いてきていた。
しかし、俺が急に自らゲートに吸われにいったので、面食らったような顔をしている。
勝負は一瞬。
ゲートの吸引によって、俺とアンジェの距離が急速に縮む。
俺は完全に接近しきる前に、特大魔法の名前を大声で叫ぶ。
アンジェにしっかり聞こえるように。
「【緋雷ノ獣】!!!」
瞬間。
アンジェは身構える。
おおかた、自分の魔法スキルで、相殺しようとしたのだろう。
俺が放つであろう魔法に、意識を集中させる。
相手をよく観察し、油断せず、目を決して離さない。
戦闘の基本だ。
そして、アンジェは、俺と一緒に訓練した仲。
俺のこの極位スキルが、どれほどの威力か、熟知している。
だからこそ、対応できると確信もしているのだろう。
それが全て、裏目に出ることになる。
俺が実際に展開したのは、極位スキルの【緋雷ノ獣】ではない。
下位スキルの【雷鳴】だった。ただの目眩しにしかならない、子供のおもちゃみたいな魔法。
しかし、それがこの状況を打開する唯一の策となる。
目をぎゅっと瞑り、スキルを発動する。
バンッッッバリバリィィィ!!!!
強烈な緋色の光が、辺りを包み込む。
それに伴い、凄まじく鳴り響く雷音。
俺を凝視していたアンジェの目は、まともにこの閃光を喰らうことになっただろう。
「!!!!!!!」
目を開く。
アンジェを見ると片膝をついて、地面にうずくまっている。
そのままピクリとも動かない。
俺を飲み込もうとしていた、黒いゲートも無くなっている。
・・・・ひとまず、作戦成功だな・・・。
「ふぅ・・・・。」
俺は深く深いため息を吐いて、気持ちを落ち着ける。
アンジェは・・・・気絶しているのだろうか。
無理もないか。
そう。本来、下位スキルの【雷鳴】にここまでの光や音は出せない。
せいぜい、子供のイタズラ程度にしか、使い道のないスキルなのだ。
しかし、俺のバカみたいに膨大な魔力を注ぎ込むことで、閃光弾も気絶するくらいの代物になる。
さらに俺の雷魔法は、どういうわけか、全て赤い。
ただの光なんかより、よほど目に悪いだろう。
結果、圧倒的な初見殺し性能を持つスキルへと、変貌したのである。
だがまあ、光らせられるのは一瞬だし、雷としての性質はないので、外傷を与えることはできない。
とにかく、今が一番の使いどきだったのは、間違いないけどね!
アンジェ・・・、すまん、許せっ!!
勢いで、指を「トンッ」と額に突いてしまいそうだったが、思いとどまる。これで起きでもしたら、俺間抜けすぎるからな。
若干、後ろ髪を引かれる気分になるが、死にはしてないので勘弁してほしい。
謝罪の念を抱きつつ、俺を閉じ込めていた氷壁をぶち壊す。
外に出れた開放感から、息を思いっきり吸い込んだ。
(ナズっ!!無事で良かった・・!
目立った怪我もしてなさそうだし。ほんとに良かった!!)
「ギリギリだったけどな。
次同じようなことになったら、今度は助からないから。次こそ助けてくれよ?」
外に出るなり、いきなりアレクに話しかけられる。
(今回はしょうがなかったんだよ。
ていうか、もう捕まらないでよっ。)
「確かに、そうか・・・。
ていうか、さっきから、どうやって俺のこと見てるのかと思ってたけど・・。
その使い魔で、見てたのか。」
俺の目の前には、アレクの使い魔である、金毛の猫がいる。
こいつとアレクは、五感の共有ができるらしい。
(そうだよ。この使い魔を通してナズの声を聞いて、【念話】で返答する。
これで、電話みたいに、遠くにいても会話できてたんだよ。)
「じゃあずっと近くにいたのか?全然気づかなかったけど・・・。」
(ああ、それはね。小さくなれるんだ、魔力の調節で。
だから、ずっと見えずらかっただけで、実は近くにいたんだよねっ。)
「へえ、そうだったのか。」
使い魔って便利なんだな・・。
「なあ、そのスキルって、俺も覚えられるのか?」
(んんーー、どうだろう。センスがあれば使えると、思うけど・・。
けど、ナズは別に、覚えなくてもいいよ!)
「?なんでだ?」
(だってナズも同じことができたら、僕のアイデンティティが失われるじゃんか!)
「それ、アイデンティティだったのか・・・。」
ともかく、アンジェからも逃げ延びた俺は、アレクの使い魔の案内で、城壁へ向かう。
城をぐるっと囲む城壁。
これを俺は、【身体強化】によって高められた肉体を活かして、飛び越える。
飛び越えた先には、金髪と猫耳を揺らす、獣人が待機していた。
(待ってたよ!無事、脱出成功したねっ。
良かった、良かった。)
アレクが頷きながら、喜んでいる。
確かに、死なずに脱出できたのは、奇跡かもな・・・。
俺はアレクと合流後、アレクに従って歩き始める。
「・・・で、これからどうするんだ?どっかに潜伏したりするのか?」
(いや、まずはこの王都を抜けて、何個か隣の大きな街に向かうよ。)
そうなのか。街に・・・。
・・・ん、待てよ。
重大なことに気づいてしまったかもしれない。
「なあ、アレク。もしかして、歩きで行くのか?」
(もしかしなくても、歩きで行くよ?)
「その街、近くにあったりとかする?」
(いや、結構離れてるから、大体1週間くらいかな。)
「・・・じゃあ、それまで野宿ってこと?」
(うん。そうなるね。)
・・・・。
(すごく嫌だって顔、してるね・・。)
「まあ、嫌だからな。
野宿なんてしたことないんだぞ、俺。それに、道具とか何も持っていし。
そうだ!俺今、一円も持ってないぞ!!」
城を脱出することになったのも、いきなりのことだったからな。
金も道具も、何も持ってない状態だ。
(ああ、その点は任せて。ほら、これ。)
そう言ってアレクは、肩から下げてたバックを、俺に見せつけた。
「・・それがなんなんだ?」
(これね、マジックバックって言って、見た目以上に、いろんな物を収納できるんだ!
僕は、前々から脱出を計画してたからね。このバックに、必要な道具は揃ってるよ!!)
「おお、それはありがたいな!
ていうか、よくそんなもの持ってたな。」
(ちょっとね。お城で使ってるやつを拝借してきたんだっ。)
アレクがドヤ顔でピースを決めている。
「いやそういうの、泥棒っていうんじゃ・・・」
だが実際助かってるし、この際四の五の言ってられないか。
(ちなみに、手のひらサイズのものも、ついでに持ってきた!)
腰に付けた、小さい袋を強調される。
2つ目もいくとは、こいつ・・・。
肝が座ってやがるな。
***
それから俺たちは、王都を出て、西に向かって歩いていた。
現在、戦争中のブルネラ大公国は、オネマリッタ王国から見て、東に位置しているらしい。
当然、戦さも東で行われているので、それとかち合わないためにも、真逆の西に向かっているとのことだ。
(もう一つ理由はあるんだけどね。)
「どんな理由だ?景色がいいとかか?」
アレクは頭を振って否定する。
(景色は別に、普通だと思うよ。
実はね。会いたい人がいるんだ。いや、『人たち』かな。)
「へえ。この外の世界に、知り合いがいたのか。」
(知り合いってほどじゃないけど。
僕たちの『世界平和計画』に協力してくれるって言ってくれたんだ。)
「『世界平和計画』って・・。そのまんまだな。
で、そいつらは、なんだ?めっちゃ強いとかなのか?」
フッと、アレクが不敵に笑う。
(たぶん強いよ。戦ってるとこは、見たことないけどね。でも確信できる!
なんたって彼らは二人とも、転生者だからね!)
「おお。そんな野生の転生者なんて、いるもんなのか?」
(いや、滅多にいないだろうね。それも二人セットでなんて、尚更ね。)
転生者というのは、見つかり次第、国がすぐに我が物にしてしまう。
高い地位を与えたり、贅沢な暮らしをさせることで、自国から出て行かないようにするらしい。
俺も半ば、そんな感じだったしな・・・。
まあ、あの国ではそれプラス、マリーグレーテの洗脳によって、忠誠心を植え付けられるわけだが。
「なんにせよ、心強い助っ人が、いるわけだな。」
(そう。実は、僕が最初に協力してくれるよう頼んだのも、彼らなんだ。
だから、ナズは二番目ってことになるね。
その時は、『今は無理だけど、やるべきことが終わったらこっちから、君に会いに行く。』って言ってくれたからさ。彼らもどこかの街に、いるんじゃないかなって、僕は思ってる。)
二番目だと言われたことに、謎の悔しさを覚える。
そうか、俺が最初じゃなかったのか・・・。
「で、なんて言うんだ?」
(・・・・ん?)
「いや、『ん?』じゃなくて。
そいつらの名前だよ。なんて名前だ?」
(・・・・それは、知らない。)
「はあ!?じゃあどうやって探すんだよ。
なんでその時に、聞いとかなかったんだ!?」
こいつ、実はアホなのか?
名前聞くとか、一番最初にやることだろ。
と思ったが、そういえばアレクは、喋れないんだったな。
【念話】で会話できてるから、忘れてたな。
(しょうがなかったんだよ!!あの時は、勝手な行動もあんまり取れなかかったっから、持ってた紙に、僕の名前と協力してくれってお願いを書いて、渡したんだ。
そしたら大声で、さっきの返事が返ってきたんだよ。)
「それ、誰かに聞かれてたら、まずいんじゃないの?」
(うん。僕も焦ったけど、あの時は運良く、僕以外誰も聞こえてなかったみたい。
まあ当然なのかもしれないけど。)
「?どういうことだ?」
(まあ、会えばわかるよ!!)
なぜ当然なのか気にはなったが、俄然、そいつらに会うのが楽しみになってきた。
(ああでも、彼らの見た目は覚えてるから、それを元に聞き込みしてみようとは、思ってるよ。)
「お前喋れないんだから、聞き込みするの俺だろっ。」
(そう。ナズがする。頼んだよ!)
アレクが調子良くウィンクする。
もっと暗い奴だと思っていたが、話すと陽気なやつなんだよな。
それから俺は、アレクから、二人の転生者について、話を聞いた。