13話 傀儡の城から、逃げ延びた・・?
お久しぶりの投稿です!!
目の前からギーシャが消える。
いや、落ち着け。
消えてなどいない。
どこかに高速で移動したんだ。
【身体強化】によって研ぎ澄まされた五感に、意識を集中させる。
どこだ・・・。
・・!
左後ろから、冷たいものを感じる。
バッと、急いで振り返ると、そこには、大剣を振りかぶったギーシャがいた。
これはっ、避けられない・・・そう瞬時に判断する。と同時に決断。
それなら・・!!
【森羅ヲ破壊スル力】を発動する。
視界がぼやけるが、関係ない。
俺は、剣を振るうギーシャに、自ら接近した。
そして、ギーシャの持つ大剣を、視界に鮮明に写し込む。
これで条件を満たした。
手をグッと、思いっきり握りこむ。
次の瞬間。
ギーシャの持つ大剣が、粉々に砕け散った。
バキーンッ!と派手な音を鳴らした大剣は、もう使い物にはならない。
俺のいつもの戦闘スタイル。
これで、相手は得物を失う。
我ながら、完璧な立ち回りだ。
惚れ惚れする。
こうなってしまった相手の行動は、ワンパターンだ。
例に漏れず、剣を失ったギーシャも、急いで後ろに大きく回避し、体勢を整える。
と、俺は思っていた。
「はっ!?!?」
思わず、心の声が出た。
なんとギーシャは、剣を砕かれたことに、なんの動揺もしていない様子だ。
そればかりか、剣の柄を手放して、俺に向かって突っ込んできた。
想定外の動きだよ、それ!!
このイレギュラーに、俺の反応は致命的な遅れを取った。
目の前でギーシャが、低い姿勢をとる。
次の瞬間、ギーシャの右の拳が、俺の腹に抉り込こんだ。
そのまま俺の腹に深く突き刺さった拳を、ギーシャは勢いを殺さず、振り抜いた。
「オエ゛ッッッ?!?」
強制的に、体内の空気が外に押し出される。
それと同時に唾液も吐き出された。多分涙も出た。と思う。不可抗力でね、マジで。
生まれて初めて、腹に本気のパンチをくらったけど・・・。
いや、痛すぎるだろっ・・・!
俺はそのまま吹っ飛び、壁に叩きつけられた。
全身に強い衝撃が走り、頭がクラクラする。
だが、殴られた腹に激痛が走っているおかげで、幸いにも意識を手放すことは無さそうだ。
ボヤけた頭で考える。
そう言えば俺、この人に戦闘を習ったんだった。
そりゃ、俺の行動パターンくらい、簡単に読めるよな・・・。
流石にそれは、ズルいと思うけどな、・・・俺。
・・・・って、こんな事考えてる場合じゃねえよな。
鉛みたいに重い体にムチを打って、立とうとする。
ブルブル震える膝が立ち上がることを困難にさせるが、手で膝を押さえつけるようにして、無理やり立ち上がった。
ギーシャの手には、すでに新しい剣が握られている。
マリーグレーテは、俺を殺せと命令したし、ギーシャも本気だ。本気で俺を殺しに来てる。
しかも一発もらってるから、俺は不利だし・・。
武器すら持ってない。
そもそも、攻撃を人に向けて打ったことなんかないしな・・。
つまり今の戦況は、圧倒的に俺が劣勢だ。
ここまできたら、甘いことはもう、言ってられない、か。
俺の特大魔法をぶち込むしかない・・・!
剣を構えたギーシャと、フラフラの俺が、再び相対する。
互いの視線が交錯し、場に緊張が走る。
ギーシャには、少しの油断もない。
やってやる・・・!
「先手必勝だっーーーー!!」
この時、自分でもわかるくらい、俺の頭は回っていなかったと思う。
すぐ死ぬ雑魚キャラみたいなセリフを吐き捨て、俺はギーシャに極位スキルの【緋雷の獣】を発動する。
だが実際は、そうはならなかった。
打ち込もうとした瞬間、一人の走ってきた男性文官の声に遮られたのだ。
「女王様ーーー!!!ギーシャ様も!!!
早急にお伝えしなければならないことがっ!!!」
今まさに、戦っている俺たちがいるというのに、この文官は、気にも留めてない様子だ。
青ざめて、額に脂汗を浮かべたその文官から、ただならぬ事態であることが察せられる。
俺もだいぶボロボロの筈なのに、その俺が心配になるほど焦っている。
会議室の中にいたマリーグレーテが、外に出てくる。
ギーシャも、俺を警戒しながら、文官に視線を移す。
「どうした?何か問題でも発生したのか?」
「はいっ!!大問題が発生しております!!」
そう答えた文官は、マリーグレーテの方に向き直り、早口に言い放った。
「女王マリーグレーテ様、ご報告させていただきます!!
只今我が国と戦争中の、ブルネラ大公国ですが、転生者の出現により、こちらの戦況が悪化。
つきましては、アンジェリーナ総団長と、ギーシャ様のご助力を乞うと、前線から報が届いておりますっ!!」
「・・なるほどね。それは確かにまずいわね。
だけど、そんなに焦らなくても大丈夫じゃないかしら。
今から軍を編成して応援に向かえば、十分間に合うじゃ・・・」
「そ、それがっ・・・!この報告が届いたのが、1週間前のことなのですっ!!」
マリーグレーテの言葉を遮ってまで、文官は時間を無駄にしたくなさそうに注進した。
普通なら不敬罪まっしぐらな案件だが、伝達された内容が内容なだけに、誰も気に留めなかった。
マリーグレーテの顔色が変わる。ありありと、その顔から血の気が引いていく。
いや、マリーグレーテだけじゃない。
その場にいた者、全ての顔が、驚きと焦りに、変貌した。
「なんですってっ!!??
それが、い、1週間前の報告だと言うの!!?
私たちは昨日も、戦況の報告をあなたたちから受けたけど、優勢だって聞いてたわよ!?
何かの間違いという可能性はないの!!?」
マリーグレーテが、ヒステリック気味に絶叫する。
その場にいたもの全員が、まだ状況を飲み込めてない中、さらなる情報が飛び込む。
「女王様ーーーっ!!急ぎ、お耳に入れたいことがっ!!」
と別の文官が、走ってきた。この文官もまた、非常に焦っている。
「今度は何!!??」と血走った目で、マリーグレーテはグルンと首を動かす。
普段の彼女からは想像できないような変貌ぶりに、少しその文官は一瞬気圧された。が、生唾を飲み込み覚悟を決めたように口を開く。
「はいっ!!それが、先ほど、前線の兵士が一人、早馬に乗って街に帰還したのですが・・。
その兵士が言うには、・・前線が崩壊寸前とのことです!!
もう何日も前から応援の要請をしているにも関わらず、返事すら来ないと・・・!!
不審に思い、直接報告しに帰ってきたのだと、門番から連絡が来ました!!」
今の状況を裏付ける、決定的な証拠。
1週間前の報告書は、本物だったということだ。
「マリーグレーテ様。
ここ1週間、我々が受けていたのは、何者かによって偽造された、偽の報告書だったのです。
それも精密に作られた、それこそ、この国の人間が書いたとしか思えないほど・・。
この他にも、1週間分の報告書が、見つかりましたが、日に日に戦況は悪くなっていると書かれています!!
なぜ、今になって、本物が見つかったのか、定かではありませんが・・・。
どういたしますか、マリーグレーテ様!!」
「くっ・・・・!!!」
マリーグレーテの顔が引き攣っている。
苦虫を噛み潰したような、そんな顔だ。
けどまあ、そりゃそうなるだろう。
1週間前から、戦況が悪くなってそれを今まで放置してたんだから、今、最前線はどうなっているのか。
想像に難くない。
「と、とにかく!!
ギーシャ!!一刻も早く、軍を編成しなさいっ!!
準備が整い次第、すぐに出陣よっ!!
あなたたちは、国の防衛強化を最優先に進めなさい!!!
それからあなた、アンジェを呼んできなさい、早くっ!!」
「はっ!!直ちに!!」
「かしこまりました、女王様!!」
マリーグレーテの指示に、ギーシャが答え、周りもそれに続く。
各々が足早に動き出し、俺は、置いてけぼりにされる。
(ナズ!なにボーッとしてんの!?
今が、抜け出すチャンスだよっ!!)
頭にアレクの声が響く。
その一声に俺の頭は、現実に引き戻された。
確かに、この混乱に乗じれば抜け出せるか!?
こんな国の一大事に、俺に構ってる暇なんかないだろう。
(ナズ。後ろの壁を破壊して、外に出るんだっ!
そしたら城壁の外で、待ってるから、そこで落ち合おう。)
「了解っ!」
果たして、この声がアレクに聞こえてるのかわからないが、とりあえず声に出して、答てみた。
それと同時に、思いだいしたかのように、ギーシャとマリーグレーテが俺の方を見る。
殺される前に、早く逃げよう。
「じゃ、じゃあ、俺、もう行くんで。
今まで、お世話になりました!」
俺は後ろの壁に手をついて、【森羅ヲ破壊スル力】を発動する。
そして壁を視界に収める。
「ま、待ちなさい!ナズ!!
あなたも、決して逃さ・・・」
ボゴーーーーンッッッッ!!!
と俺は壁に風穴を開ける。
思ったより派手に壊してしまったが・・・。
まあ次から気をつけよう!!次は来て欲しくないけど。
マリーグレーテが何か言っていたが、言い終わるまで待つ気はなかった。
「それじゃあっ!!」
そう言って俺は、壁に開けた穴から、下を見た。
ここは2階なので、結構な高さがあった。
が、【身体強化】や【防護結界】も発動しているから余裕だ。
一応高さだけ確認して「よし外に出るぞ」と俺が息巻いたとき、忙しない足取りで廊下からアンジェが走ってきた。
「マリー様ー!?
すごい音がしたけど、大丈夫ですか?
呼ばれてきたけど、何が起こってるんですかーー?」
走ってきたアンジェは、周りを見渡している。
剣を構えたギーシャ。
狼狽えながら、慌ただしく動いている文官たち。
引き攣った表情のマリーグレーテ。
そして、壁を破壊して、外に出ようとしている俺。
「いや、ホントに、どういう状況なんだーーー!?」
頭を抱え、アンジェが叫ぶ。
まあ、側から見れば、何が起きてんのか、わからんよな。
アンジェの頭がオーバーヒートするのも無理はない。
そんな混乱しているアンジェに、それでもマリーグレーテは何かを説明するつもりは無いらしい。
ただ一言。
アンジェに命令を下す。
「アンジェリーナ。ナズを殺しなさい!!
今すぐによっ!!」
「えっ・・・?
・・・はい、マリー様。」
一瞬、アンジェは戸惑ったように見えたが、すぐに返事をした。
アンジェが、俺の方に向き直る。
心なしか、目が虚だ。
とにかく、そんなこと気にしてられないか。
俺は、外に、飛び降りる。
そして城の壁に向かって、目一杯足を動かした。
***
広い庭を突っ切って、最短距離で、城壁へ向かう。
追手は来ているだろうか?
俺は、走るスピードは落とさずに、視線だけを後ろへやった。
そこには・・・。
ただ一人。
アンジェがいた。
だが・・・聞いてない。
あいつ・・・・。
「お前っ、空飛べんのかよーー!!!」
俺の絶望の叫び声が、庭に響く。
そう。
アンジェが、でかい氷塊に乗って、空を飛んでいる。
いや、浮かんでいると言った方が、正しいかもしれない。
アンジェは、空中に氷塊を作り、それを足場にして、追いかけてきている。
反則だろ、それはっ!
心の中で嘆きつつ、アンジェの行動を観察する。
氷塊に乗り、虚な目で俺を見下ろすアンジェは、冷たい声を俺に投げる。
「悪く思うなよ、ナズ・・。」
「いや、殺そうとしてきてんだろ!?
悪く思うに決まってるだろっ!!」
そんな俺を気遣うわけもなく、アンジェは目の前の敵を殺すために無駄なく行動する。
ふうっと、冷たい息を軽く吐き、魔法スキルを展開した。
「死に微睡む氷河の世界よ、顕現せよ・・【氷ノ権限】!!」
アンジェの唯一にして最高の、氷系極位魔法スキル。
アンジェと魔法スキルの話になった時、氷の魔法を一つしか覚えていないことに驚いた。
だが、この一つがとてつもなく強力なスキルなのだ。魔力の限り、氷を生成、またそれを自由に操作できるらしい。
彼女曰く、これ一つで十分なのだそうだ。この魔法がある限り、他の氷魔法を再現しようと思えばできると言っていた。
普通の魔法と違い発動には詠唱が必要だが、それを差し引いても効果は絶大だ。
手始めにアンジェは、一瞬で氷の生成を完了させる。
空中に作り出された、十数個ほどの氷。
一つ一つが、バランスボールほどの大きさがある。前世にあった、人が乗ってグラグラするあの青いボール。
乗った瞬間に180°綺麗にひっくり返った妹を見て、大爆笑したものだ。
ムキになって何度も挑戦していたが、その度にバランスボールにどちらの立場が上なのか、叩き込まれていた。
そんな大きさの氷の球。直撃でもしようもんなら、確実に死ぬ。
「おいっ!!アンジェ!!
冗談だろっ!?それ、当たったら俺、死んじまうよっ!!」
必死の交渉を試みる。
しかし、アンジェから返事が返ってくることはなかった。
そして、返事の代わりだと言わんばかりに、氷塊を発射しやがった。
プロ野球選手が投げた、本気ストレートくらい、とんでもない速さで、氷塊が飛んでくる。
ちょっ、まずいって・・・!!
目の前に氷塊が着弾し、地面が爆ぜる。
俺は咄嗟に急ブレーキをかけ、これを回避。穴の空いた地面を回り込むようにして、再び城壁に向かって直走る。
しかし氷塊は、俺の進行方向を先回りするかのように、撃ち込まれてくる。
走っては、避けて、走っては、避けてを繰り返した。
こうして俺は、高精度に撃ち込まれた全ての氷塊を、やっとの思いで、躱わしきる。
しかし、何個かは掠ったため、そこが切れて流血している。
「おいっ、アレク!?聞こえてるかっ?」
(うん。どうしたの?)
「あのっイカれ女!!マジで殺す気で、撃ってきたぞっ!!?」
(そりゃあ、洗脳下で命令されてるし、しょうがないよ。)
「んだとしても、これまでに築いてきた、絆とかあるだろっ。
俺の交渉に返事すらしてくれないのかよっ。」
(これぞ、『馬の耳に念仏』ってやつだね!)
「言ってる場合かっ!?」
日本のことわざを使えて、アレクはどこか嬉しそうだ。
俺は殺されそうになってるのに、呑気すぎるだろっ。
再び後ろを見ると、アンジェは下に降りていた。
今度は、何をする気だ・・?首だけを回して、訝しげな目をアンジェに向ける。
そんな視線を意に介さずに、アンジェは淡々と右足のももを上げ、地面を踏み抜いた。
するとアンジェのすぐ後ろから、巨大な氷壁が左右に反り立つ。
その氷壁は弧を描き、やがて一つの円状になった。
ちょうど、俺とアンジェを閉じ込めるようにして。
これは、・・すげー。
スケールの大きい魔法スキルに感激する。
だがしかし。
感心してる場合じゃない。
閉じ込められたのは、さすがにマズい・・・!!
頑張ればジャンプで超えられなくはない高さだけど、それだと空中にいる間が隙だらけすぎる。
ここは壁をぶっ壊して突破するしかない、か。
「早く、壁を壊さなければ・・!!」と俺が判断を下すのにかかった時間は、決して遅くなかったはずだ。
しかし、アンジェは俺が壁を壊すのを、黙って見てはくれなかった。
アンジェから、今日一番の寒気を感じる。
それは、氷壁の中にいるからだろうか。
目の前で発動されたスキルが、殺意に満ちているからだろうか。
答えはわからないが、震えが止まらなくなる。
アンジェの前に現れた、禍々しく黒い、『ゲート』のようなもの。
大人一人が余裕でくぐれるくらいの大きさがある。
あれが・・・。
前に話でだけ聞いた、アンジェの神位スキル【冥府ヘ続ク扉】か。
あの、黒いゲートに飲み込まれた生き物は、問答無用で、消し炭になる。
文字通り、骨も残らない。
そして、この囲まれた空間。あれは、もはや不可避の攻撃と成り上がっている。
・・!
服が引っ張られている・・!
気づいた瞬間。
ゴオッッと、黒いゲートが、辺りのもの全てを飲み込み始める。
ダイ◯ン顔負けの吸引力に、俺自身が引ずり込まれるのも待ったなしな状況だ。
「ヤバいヤバいヤバいヤバい!!」
圧倒的な死を前にして、そりゃあ語彙力もなくなるよ。
いや俺のボキャブラリーも吸い込まれてるのかな?そんな訳ないよな。ははっ、そんな訳なさすぎて、わけわかんねえよ。なんで、笑えてくんの。いや笑ってる場合じゃないでしょ。どう考えても。
思考がいらん方向に疾走というか、失踪してしまってるが、体は必死に踏ん張っている。
でも油断したら、すぐにでも持っていかれそうだ。
どうする!?
どうすれば、抜け出せる!?
(ナズ!?大丈夫?生きてる!?)
っ、そうだ!
この手があった。
「アレクーー!!助けてくれーー!!これ、一人じゃ無理なやつだーーー!!」
アレクに助けを叫ぶ。
しかし、アレクから返事がこない。
おい。
おいおい!
大丈夫って聞いといて、無視かよ!?
俺が切れそうになっていると、アレクの声が頭に響いた。
(ナズっ。氷壁のせいなのかな、声が聞こえないから、どうなってるのかわからないよっ。
とにかく、スキルを行使して、生き延びて!頑張って!!)
ここ、完全防音室になってんのかよっ!
頑張れって言われても、いけるか!?これ。
そんな激焦りしている俺をよそに、アンジェがこちらに向かって歩いてくる。
こんなの・・。
アンジェに投げ飛ばされたら、一発アウトだぞ。
攻撃しても、ゲートに吸われるか、アンジェに防がれて終わりだ。
頭をフルスロットルで回す。
そろそろ足の踏ん張りも、効かなくなってきた。
死ぬのか、俺?
「・・・・・・!!!」
いや、そうだっ!!
あのスキルなら、やれるかもしれんっ!!
ゲートにも吸われず、初見なら、アンジェも対応できないはず!!!
もう、長々と考えてる時間はない。
意を決して、俺は体から力を抜き、ゲートの吸引に、身を委ねる。