12話 革命への、第一歩か・・・?
ようやく、話を大きく展開できそうです・・。
ここまで長くしすぎたかなと、反省してます。
読んでくださり、ありがとざいます!
「ナズ。こんな間違った世界、僕たちで変えるんだ!」
突拍子もないアレクの言葉に、俺は面食らった。
いや、世界を変えようって・・・・。
「アレク・・。俺にはそんなことできねえよ。
だってこの前まで、普通の高校生だったんだぜ。
世界が理不尽なのはわかったけど、それを変えるなんて、俺には無理だ・・。」
「そんなことないよっ!
確かに、この間まで普通の高校生だったろうけど、今は、違う。
僕たちは今、特別な力を持ってるんだ!
その力を合わせれば、それこそ、世界を変え得るほど強力なものになる!」
俺の弱気な発言を聞いてなお、アレクは食い下がって来る。
特別な力・・・。
この世界で、転生者しか持ち得ない神位スキルを、確かに俺は保持している。
でも、それで本当に、この世界を変えられるのだろうか。
普通に、犯罪者として、捕まるのがオチじゃないか。
「それにね、ナズ。
何も、僕たち二人だけでやろうってんじゃないよ。
今後も、仲間を増やしていくつもりだ。
大丈夫、心当たりはあるんだ!
アンジェリーナだって、今は洗脳下にあるけど、それを解いたら協力してもらうつもりだしね。」
仲間が増えたら、計画も実行しやすいだろう。
けど、そういうことではない。
俺が本当に思ってることは・・・。
「ごめん、アレク・・・。
やっぱ、何言われても、協力する気になれない。
今も世界中に困ってる人がいるって言われても、・・・正直、俺には無関係だと思ってしまう。
俺自身や、俺の周りの人間が、普通に暮らしていけるなら、それでいいって・・・。」
アレクは黙って、俺の話を聞いている。
俺の意志を確かめるように。
俺は今、どんなに情けない顔をしているのだろうか。
アレクに協力しようとしない自分が、恥ずかしくて涙が溢れそうだ。
でも、そんな大それた事、俺はやれないから、口を開く。
言い訳をするように。
「前の世界でだってさ。
外国では、貧しい生活をしてたり、戦争が起こってたりしたけど・・・。
それでも、俺は何もしなかったよ・・。
無関係な事だと決めつけて、募金なんかがあっっても、それを見て見ぬふりだってしてた。
でも、大体の人はそうだったと思う。
平和な国にいる自分は無関係だって、普通の人は思ってるはずだ。
俺もそうだった。
だから・・・・、今、俺とその周りが平和なものなら・・・・。
他所でどんなに酷いことがあっても、・・・知った事じゃない。」
本音をぶちまけた。
俺は薄情な人間だろうか。
弱い人間である自覚はある。
どんなに強大な力を持っていても、立ち向かう心がないと、話にならない。
アレクのような心は、生憎と俺は持ち合わせてはいないんだ。
情けなさすぎて、アレクの顔を見ることができない。
俺は、掃除の行き届いた床を、必死に睨みつけていた。
意地でも、涙は落とさなかった。
「・・・・うん。
ナズの考えは、すごく理解できるよ。
僕だって、平和な国に住んでいたから。
そういう、戦争や飢餓で苦しむ人々を、どこか他人事のように思ってた。」
!!
まさか、アレクに共感されるとは、思わなかった。
軽蔑されるだろうとさえ、覚悟していた。
されても、文句は言えない。
だけど、アレクは、俺の考えを否定せずに、受け止めた。
「でも、ある時をきっかけにね、考えを変えたんだ。
この世界に来てからも、平民や奴隷の人たちを見て、世界を変えなきゃと、強く思った。
今の僕や、同じような仲間を集めれば、今度こそ、世界を変えられると、確信した。」
アレクの意志は固いようだ。
だけど俺は、アレクの仲間になることはできない。
「無理に一緒にやろうなんて言わないよ。
ナズの考えが変わるまで、待つつもりだから。
ナズが一言、『うん』と言ってくれれば、いつでも実行できるようにしとくからさ。」
そんな日は来ないと思う。
この国の人たちのために、魔物を倒して、お金を稼いで、マリー様やギーシャさん、アンジェなんかともくだらない話をして、エフィたちとたまに遊んで・・・。
そうやって、俺はこの先、生きていくんだと思う。
「・・ずいぶん話込んじゃったね。
今日はもう解散しよう。
また、明日ね。
考えが変わったら、いつでも言って。」
「・・・ああ、わかったよ・・・・。」
こうして今日は、解散の流れとなった。
夜、俺は一人で、飯を食べていた。
いつもなら、エフィやアンジェと食べるのだが、エフィは何やら忙しいらしい。
どうやらもう一度、身体検査を受けているようだ。
明日帰るって言ってたから、出来たら、見送りしてあげたいな。
このあと、どうなるのかも知らずに、俺は呑気に、そんな事を考えていた。
***
翌朝。
俺はいつものように、朝食をとっていた。
食事を終えて、訓練場に向かう。
その前に、エフィがいつ、帰ってしまうのか、聞いておかないとな。
俺は近くを通った文官の一人に、声をかけた。
「あのー、すいませーん。
エフィ・・・・・、えっと、奴隷の人たちって、今日帰る日でしたよね?
いつ頃帰るか、知ってたら、教えて欲しいんですけど・・。」
「あーー、奴隷たちね。
あいつらなら、もう城にはいないよ。
朝早くに、帝国に行っちまった。」
・・・・ん?
帝国?
「・・・あ、あの、奴隷の人たちって、オネマリッタの国民じゃないんですか?
なんで、帝国に行くんですかね・・・?」
そう聞くと、文官は驚いたような顔で、口を開いた。
「なんだい、ナズさん。知らんかったのかい?
あの奴隷どもは、魔巧帝国に売られるために城にいたんだよ。
城で、検品してから、帝国に売っぱらうためにさ。」
・・・・は?
売った?
人を?
他国へ?
じゃ、じゃあ、エフィや他の人たちはどうなるんだ?
家族や恋人は?
帰るんじゃなかったのか?
売られるためにいただと?
「え、いや、な・・なんですかっ、それっ!!
知らないですよ、そんな事!
売ったって・・・。
誰がそんな事させたんだよっ!!?」
俺の語気が急に強くなり、文官は焦ったようだ。
確かに、俺は簡単に人を殺せるスキルを持っている。
そんなやつが怒り出したら、怯えるのも当然だろう。
「いや、俺じゃないよ。
ご決定なされたのは、女王様だよっ。
女王様のご指示で、奴隷どもを売ることになったんだ。」
女王?
マリー様が?
マリー様が指示したのか。
どういうことか、聞いてみないと。
「マリー様って、普段どこにいるんですかっ?」
「そりゃあ、今だと戦争中だから、会議室で上の方々と、話あってるんじゃないのか?
それか、政務についてとか・・・。」
「そうですか、わかりました、ありがとうございます。」
俺は急いでそう言うと、マリー様がいるであろうその会議室に、早足で向かった。
場所はなんとなくわかる。
アンジェに城内を案内してもらったとき、謁見の間の隣の部屋が、広い会議室になっていた。
奥には玉座もあったから、きっとあそこにいるんだろう。
俺はその場所まで着くと、急いでドアを開けた。
ノックもせずに。
バンッと開けた扉に、中にいる人たちは何人か驚いた様子だった。
中には、マリー様やギーシャさんもいた。
内務大臣と言っていた、・・・確か、バランさんって人も一緒だ。
だが、誰がいるか何てどうでもいい。
俺は部屋の中に入り、マリー様に問いただす。
「どうしたの、ナズ?そんなに焦った様子で。
どこか怪我でもしたのかしら?」
「いや怪我はしてないですっ。
そうじゃなくて、エフィたち。奴隷を売ったって本当ですか?」
「ああ、城に来てた奴隷たちのことね。
そうよ。あれらは、魔巧帝国に売るための商品よ?
城の中で、不備がないか確認して、売りに出したのよ。」
まるで道具みたいな、マリー様の言い方に苛立ちを覚える。
「なんで、売ったりなんかしたんですか?
エフィや、他の人たちだって、家族や、恋人がいたんですよっ!?」
「んー、そう言われても。
お金だけでは、新しい魔道具も買えなかったし・・。
それに、奴隷を売れば、お金を払わずに済むから、ちょうどよかったのよ。
そういえば、ナズは奴隷の一人と、仲がよかったわね。
ごめんなさいね、ちゃんとお別れさせてあげれなくて。」
いや、違う。
そんな事で、ここに来たわけじゃない。
そんな事に、怒っているわけじゃない。
俺が言ってるのは・・・・。
「人ですよ!?
彼ら彼女らにも、生活があった!
待ってる家族がいた!
それなのに、国同士が、人の売り買いなんて、どうかしてる!
奴隷であるとか、その前に彼らも同じ『人』だぞ!!?」
はぁっ、はぁっ。
息が切れる。
言葉使いが荒れるが、気にしてられない。
この人たちは、一体何を考えているのか。
俺は間違ったことを言ってるのだろうか。
しかし。
マリー様は、聞き分けのない子供を見るかのような顔で、俺に言う。
「それは違うわ、ナズ。
奴隷は私たちと同じではないし、家族なんてのも、奴隷には関係ないのよ。
彼らはね。
『人』である前に、『奴隷』なのよ?」
ひゅっ、と喉がなった。
息が詰まったような感覚だ。
目の前にいる生き物が、不気味で、得体の知れないもののようで、恐怖さえ感じる。
アレクの言葉を思い出す。
『あいつらは、奴隷や平民を、人として見てない』
・・ああ、こういうことだったのか・・・・。
「おい、お前。
さっきから黙って聞いてれば。
転生者のくせに、マリーグレーテ様になんて口の聞き方だっ!」
すぐ近くの、ボールのように太った男が、やかましく言った。
肉付いた顔を赤くさせながら、俺に指をさす。
「いいのよ、ボーグ。
ナズも、この世界の常識に、混乱してるだけだから。
奴隷は、そういう扱いをされるものなのよ。
いい子だから、受け入れてね、ナズ。」
ボーグと呼ばれた男は、マリー様に言われて、口を噤んだ。
俺にも、受け入れろと、諭してくる。
だが、そんな人を人とも思わない行為、受け入れられるわけないだろ。
売られた奴隷たち。
エフィは、・・・・魔巧帝国で、どのような扱いを受けるのか。
・・・・・。
想像しただけで、吐き気さえ催してくる。
俺は、マリー様の言葉に、反射的に、首を横にふる。
すると、先ほどまで笑顔だったマリー様の顔から、明るさがなくなった。
そして、暗い笑顔のような顔で、マリー様は俺に聞いた。
「ナズ・・・。あなた、もしかして、効いてないのかしら?」
ドキッと、心臓が飛び跳ねる。
全身から湧く冷や汗を感じながら、俺は思う。
すぐさま否定しなければ。
「いやっ、、、、ちゃんと、、かかってますよ!」
無理やり口角を上げて、答える。
そして、完全に言い終わった後に、俺は気づく。
この回答はまずい!
だが、もう遅い。
マリーグレーテの顔から、笑顔が消えた。
目を細め、俺に向かって言う。
「あら、ナズ。何か、私のスキルについて、知ってるような口ぶりじゃない。」
やはり、勘付かれてしまっている。
そして、俺が洗脳にかかってないことも、気づいているのだろう。
唾を飲み込む。
どうするべきか・・?
「・・・・・しょうがいないわね・・。」
ボソッとマリーグレーテが言った。
次の瞬間。
(ナズっ、避けろっ!!)
「ギーシャ、殺しなさい。」
ほんの一瞬先に、アレクの声が俺の頭に響いたため、俺は反射的に後退した。
訓練の成果があってか、【身体強化】と【防護結界】を纏った状態で。
そして、さっきまで俺のいた場所は、ギーシャの大剣によって、豪快に切り裂かれていた。
避けられると思っていなかったのだろう。
ギーシャが、驚いた顔をしている。
俺も、アレクの【念話】がなければ、避けれてない。
あそこで、死んでいただろう。
とにかく、避けれてよかっ・・・
(ナズ!油断するなっ!次が来るよ!)
ギーシャが、驚いた顔をすぐに引き締め、足を踏み込む。
そして、さっきとは比にならない速さで俺に近づき、縦に高速で剣を入れてきた。
これを俺は、横っ飛びで回避する。
っあぶねーー。
アレクの声がなければ、2回死んでた。
俺はギーシャの方を向く。
(ナズ、戦闘の構えだ。
スキルを使うような姿勢を見せれば、ギーシャも迂闊には近づけない!)
俺は言われて気づいたように、構えをとる。
するとギーシャも、俺に相対するように、大剣を向ける。
なんでだ・・・??
いつの間にか、殺し合いが始まってる。
さっきまで、話合いをしてたよな?
だが、下手すると、ここで死ぬ。
それだけは、避けなければ。
(ナズ。君の気持ちが聞きたい。
わかっただろ?ナズの周りでも、理不尽な横暴が起こってることが。
間違ってるだろ、こんな世界!
僕と一緒に、世界を変えようっ!)
・・・ああ、よくわかったさ。
決して、相容れないことが。
俺と、この世界の住人とでは、考えが根本から違うということが。
そして俺は、約束してしまったんだ。
エフィにもう一度、会いに行くと。
それにこんな状況だ。
もうこの国に、いられるはずがない。
まさかアレクは、こうなることを読んでいたのか?
どっちでもいいか。
・・もう目は覚めた。
「アレクっ!!
俺も協力する!世界に、・・革命を起こそうっ!!!」
(うん!!!
その言葉を、待ってたよっ。
大丈夫、もう手は打ってあるから。ちょっとの間、頑張って生き延びてね!)
そう言うとアレクからの声は、聞こえなくなってしまった。
周りには当然、アレクの声は聞こえていない。
状況的には、俺が急に叫んだことになる。
しかも、結構トンチンカンなことを。
だが、俺としては、清々しい気分だ。
・・・さて。
俺は、現実に目を向ける。
目の前の、鬼気迫る男を、どうしようか。
・・・・あれ、生き残れるのかな、俺?
ギーシャが目の前から、ふっと消えた。