11話 マリオネットの国
最近は忙しくて、投稿できてなかった・・・。
久しぶりの投稿です!
アレクは言い淀んでいる。
次の言葉を急いで探しているようだ。
「・・・・・マリーグレーテに、洗脳は必要なんだよ。
何から、伝えるべきかな・・・・。」
アレクが悩んでいる。
しばらくして、考えがまとまったようで、アレクは軽く息をのみ込んだ。
「ギーシャが言ったそうだね。『クリスティーナ様に誓って』だっけ?
マリーグレーテもナズに話たそうじゃない。過去、王族に起こった悲劇。
その話を聞いて、『国王の娘は、二人ともいい人』って印象じゃない?ナズは。」
「ああ。この国の王族は、いい人ばかりだと思ってた。」
洗脳の話を聞いて、マリー様のことを信じれなくなってはいる。
でもそれも、何か理由あってのことなのかとも、思っている。
ともかく俺は、マリー様も、クリスティーナ様も、二人ともに好意的ではある。
「僕は、この国に来た時、密かに王族の系図を見たんだ。
本来見られることがないよう、厳重に保管されてるんだけどね。
まあ、僕にかかれば余裕だったよ。」
「それって、法とかに触れてんじゃないのか?」
「バレなきゃいいんだよ。
それに、あんまりに厳重だったから、何かあるのかと思ってさ。」
「・・・それで結局、何かわかったのか?」
「うん。そりゃもう、大事なことが隠されてたよ。
それはね。
この国の王女。つまり前国王の娘はね、一人しかいないんだよ。」
・・・・は?
どういうことだ?
マリー様は、本当は一人っ子だったのか?
「マリー様に姉は・・・・・・いないのか?」
「いや、それは知らんけど。
そもそも、王族の系図に『マリーグレーテ』なんて人物はいなかったんだよ。
いるのは、『クリスティーナ』だけだった。」
?????
理解が追いつかない。
こいつは今、なんの話をしているんだ。
「いや、待て待て。
でも実際に、マリー様は現女王として国を治めていて・・・・。
だけど、王族の系図には、マリー様の名前は無くて・・・。
じゃあ、今、国を支配してるあの人は、誰なんだ・・・・?
この国の、本当の王様はどこにいるんだよ!?」
口に出して、頭を整理しようとする。
だけど、疑問は次々に増えていくばかりだ。
「混乱してるね。無理もないけど。
一つ、わかってて欲しいことがある。
これは大前提だ。」
そう言ってアレクは、一呼吸おいて続けた。
「・・この国はね。もうとっくに滅んでいるんだよ。
オネマリッタ国の王族の血は、すでに、根絶やしにされてる。」
「・・・・・てことは。
もう、この国に、王族なんてのはいないのか・・・?
じゃあ今、その王族のふりをしてるマリー様は、なんなんだよ!!?」
わからないことだらけで、語気が強くなる。
だが、冷静になんて、いられるか。
この国は、得体の知れない誰かから、洗脳を受けてるんだ。
「前まで支配してた王族の血は、もうないね。
言うなれば、今、国を支配しているマリーグレーテの血が、新しい王族の血だろうね。
流石の僕も、マリーグレーテが何者だったかは、わからないけど。
まあでも、前の王族とは、赤の他人だろうね。」
「・・・・・・・」
「どうしたの、ナズ。
流石に、色んな事を話しすぎて、混乱した?」
黙りこくってしまった俺に、アレクが心配そうに声をかける。
だが俺は考えていたのだ。
「アレクの話を聞いて、すげー驚かされた。
けど、お前のその話が、どこまで本当なのか。
信じられるものなのか。俺にはわからない。
洗脳は、されていたのかもしれないけど、マリー様が王族じゃないなんて、
それこそ、嘘みたいな話だ。
第一、証明なんてできないだろ?」
そうだ。
アレクが本当の事を言ってる証明なんて、できないんだ。
「まあ、そうだね。
マリーグレーテ本人に、王族のことを聞けば、ボロが出ると思うけど。
だけどそれすら、洗脳の力で、周りは不思議には思わない。
マリーグレーテが『白』と言えば、カラスだって白くなるんだよ、この国では。」
マリー様の洗脳。
確かに、この国に来て、マリー様に反抗している人なんて、一人もいない。
全員が従順だ。
俺は、この先、どうすればいいのだろうか。
・・・・・・わからない。
「今日はもう、帰る。
帰って、寝る。」
「・・・・そう、わかった。
でも、これだけは、約束してくれ。
マリーグレーテの洗脳には、かかっているふりをしてくれ。
もちろん、洗脳の存在にも、気づいてないふりを頼むよ。
じゃないと、面倒なことになるから。」
「・・・・わかった。
そこは、約束する。」
「よかった。
話の続きは、また明日ね。
それじゃあ、おやすみ。
今日は久しぶりに人と会話できて、楽しかったよ。」
そういえば、アレクは声が出ないから、会話できなかったのか。
それならそうと、【念話】のスキルで、色んな人と話せばよかったのに。
そうもいかないのかな。
「欲を言うと、もうちょっとお話してたかったけどね。」
「・・また、明日な。」
少し、かわいそうな気もしたが、これからも話せるのだし、我慢してもらおう。
俺は、自室へ、音を立てないように、静かに帰った。
***
翌朝。
今日は、いつになく快眠できた。
これも、アレクが洗脳を解いてくれたおかげなのだろうか。
俺は朝食を済ませて、第一騎士団の訓練場に向かう。
昨日は初めて魔物を殺した。
いや、正確には初めてではないのだが。
それでも、明確な意志を持って殺したのは、昨日が初めてだ。
今日も、軽く訓練してから、魔物の討伐に行く予定らしい。
だがそれも、午前中には終わるらしいので、今日の午後は暇なのだ。
訓練場に向かう道中。
前から、金髪の獣人が歩いてきた。
アレクだ。
昨日の夜。
あんな話を聞かされた。
この国に巣食う、暗い闇。
それが本当かは、わからない。
アレクとは、もう少し話合う必要があるな。
(今日は午後から暇なんだよね?)
「うわっ!」
びっくりしたー!
アレクが【念話】で、急に話かけてきたみたいだ。
(あー。驚かせてごめんね。
人の目があるとこでは、口パクできなくて。
それで、今日の午後は暇なんでしょ?
また、話し合いたいんだけど?)
どうやらアレクも、俺と同じ考えのようだ。
俺も同じ意見だった!と、俺も心の中で言ってみた。
なんかいいな、こういう秘密の会話みたいなの。
得意げな顔をしている俺に反して、目の前のアレクは、不思議そうな顔をしている。
そして何かに気づいたかのような顔をした。
(あ!ちなみに【念話】って一方通行だから、ナズは普通に声に出してくれないと。
僕には通じてないよ、ナズの思ってること。)
・・・・恥ずかしい。
なんか、一人で嬉しくなっちゃってる俺が、バカみたいじゃないか。
そういうのは、先に言っとくべきだろ。
「ああ、午後からは暇だよ。」
と、俺はアレクとすれ違う瞬間に、小声で言った。
(よかった!
僕も午前までに仕事終わらせるから、ナズが帰ってきたら、また呼ぶよ。
大丈夫!【念話】の効果範囲って結構広いから、場所わかんなくても呼べるし!)
それはつまり、急に声が脳内で響き渡るってことだよな。
それ、心臓に悪いからやめて欲しいんだよな。
まあでも、こっちの意思をアレクに伝えるのは無理なんだよなぁ。
こうして俺は、軽い訓練の後、魔物の討伐に精を出した。
***
疲れたー。
今回の討伐では、アンジェや、サバロスさんは同行していなかった。
何人かの騎士団の人たちと行ったのだ。
魔物の討伐は、まだ慣れないが、それでも出来ないことはないらしい。
俺が城に帰ってくると、向こうから、小さい人影が、小走りで近寄ってきた。
エフィだ。
「お兄ちゃーん!今日も魔物の討伐に行ってたのー?」
「おう。でも今日はもう終わったから、これからは暇なんだけどな。」
「そうなんだー!じゃあ私、お兄ちゃんに渡したいものがあるの!
ついてきて!」
そう言うとエフィは、俺の手を引っ張って歩き出した。
連れてこられた場所は、城の中庭だった。
「あのね、私。もうすぐこのお城から出ていくんだ。
だから、お兄ちゃんにプレゼント作ったの!
はい、これ!」
エフィは俺に、花冠を頭に被せてくれた。
「これ、エフィが作ってくれたのか?」
「そうなの。お兄ちゃん、いっぱい遊んでくれたから!
お礼がしたくて。お兄ちゃん、喜んでくれた?」
エフィが不安そうな顔で聞いてくる。
そんなの、聞くまでもないのにな!
「ああ!ありがとう、エフィ!
すっごい嬉しいよ。宝物にするな!」
「ホント!?よかったー!」
エフィも俺も、お互いに笑いあう。
幸せな空間に、あたりが包まれる。
エフィが家に帰っても、できるだけ会いに行こう。
そう俺が心に誓ったタイミングで、頭に声が鳴り響く。
(ナズ?こっちも仕事終わったから、今から、また会おう。
場所は、僕の家で。じゃあ、待ってるから!)
この【念話】ってスキル、一方的なのがよくないよな。
俺の意思はフルシカトで、相手の要件だけ伝えてくるんだもんな。
まあ、おとなしく従うか。
「ごめんな、エフィ。
急に用事、思い出しちゃって。
また明日遊ぼうな。」
「えーー。でも私、明日、お城出て行っちゃうんだよ?」
「!明日だったのか。
でも大丈夫。家に帰っても。また会いにいくよ。」
「え!ホントに!?
ナズお兄ちゃん、また会いにきてくれるの!?」
「ああ、絶対行くよ。約束な!」
「うん、約束ー!」
「じゃあ、もう行くから。またな、エフィ。」
「またねーー!」
エフィと別れを済ました後に、俺はアレクに家に向かう。
大丈夫、今生の別れってわけじゃないんだ。
この国にいる限り、エフィの家もあるんだし、またすぐに会いに行ける。
昨日ぶりのアレクの部屋に着いた。
相変わらず、周りは何もない。
ポツンと小屋が立っているだけだ。
俺は、コンコンとノックをした。
すると声がした。
頭の中で。
(・・2回ノックはトイレの時にするものだよ。
正しくは、3回か4回。面接の時に役立つから、覚えときな。)
と、返事が来た。
「細かいやつだな。
こんなボロ小屋、トイレと変わらんだろ。」
と俺もドアを開けながら答える。
「あーー。酷いこと言った。
仮にも、僕の家なのに。トイレと同じとか、傷つくなぁ。」
「・・・悪かったよ。流石にトイレは言いすぎた。」
アレクは周りに人がいないからか、口パクで、話してくれる。
これがあるだけで、驚かずに済むから、ありがたい。
あと、城のトイレは、ここより圧倒的に豪華だが、それは言わないでおこう。
「まあ、とりあえず、座ってよ。
あれから、時間置いたけど、頭の中は整理できた?」
「んー。そうだなぁ。俺なりに考えはまとまったな。」
あれから色々考えた結果、一つの結論に至った。
「マリー様が、偽物の王族とか。
洗脳でみんなを従えてるとか。
驚いたけどさ。でもそれが本当かもわからないし。
それに、本当だとしても、この国がそれで、上手く成り立ってるなら、まあ、いいのかなって思ったんだよな。
幸せそうに暮らして行けるなら、オッケーじゃないか?」
これが俺の回答だ。
いい暮らしができてるんだし、いいじゃないか。
俺の意見を聞いたアレクは・・・険しい顔をしている。
「幸せな暮らし?上手く国が成り立っている?
そんなはずないだろ!
弱者が虐げられる世界の、どこが幸せなんだっ!
それに、この国がどんなことになってるかなんて、ナズは調べてすらないだろ・・・・!」
すごい剣幕で、アレクは言った。
その言葉からは、激しい怒りが感じとれる。
「・・・・ごめん。ナズはまだ、この国に来たばかりだし、ほぼ城に軟禁されてるみたいな状態だったから、知らなくて、当然だよね。」
「いや、いいけど・・・。あと別に、城から出て行っちゃダメとかは、言われてないぞ。
魔物討伐のために、何度か街にも出たし。」
城に軟禁状態は、言い過ぎだろう。
「うん、けどね。それも城下の街でしょ?
あそこは、綺麗なとこだし、汚いものは見せないようなルートだったと思うよ。
現にここは、オネマリッタ王国の王都だしね。
でも、この外にも、オネマリッタ王国の街があったり、村があったりするんだよ。」
それは・・・、そうだろう。
この街だけで、オネマリッタ王国だとは、思ってないさ。
「その外の街や村はもちろん、王都ですら、奴隷居住区画は酷いものだよ。
この国の貴族連中は、奴隷のことを道具としてしか見てない。
人として見てないんだよ。平民ですら人として見てるか、怪しいところだね。」
「・・いや、でもそれはおかしいよ。
この前、ギーシャさんに聞いたけど、奴隷をぞんざいに扱うのは許されてないって言ってたぞ!」
「それは、そういう仕事じゃない奴隷を、殴るのはよくないって意味だと思うよ。
奴隷には、殴られるのが仕事のやつもいたりする。
それだけじゃなく、女性の奴隷だと、男の性欲の捌け口が仕事の人とかもね。
もちろんお金は払われるけど、それだっておよそ、生きていけるものではない。
この国、というか世界では、奴隷に『仕事』という皮を被せて、非人道的なことをさせているんだよ。」
仕事・・・。
確かに、ギーシャさんも言っていた。
与えられた仕事を、みんなしていると。
でも、そんなこと、仕事なんて言えるわけないだろっ!
「・・・アレク。それ、本当か?
本当のことなのか?」
「・・・ああ、本当さ。僕はしばらく、外の街に住んでたからね。
そこでは、奴隷への暴行なんて、日常茶飯事だったよ。
もちろん、奴隷はそれが仕事だから、誰も何も言わないけどね。」
そんなことが、許されてたまるか・・。
だったらエフィも、そんな辛い目に合うってのか?
・・・あれ?じゃあエフィたちは、なんなんだ?
「なあ、アレク。今、城に来てる奴隷たち。
あの人たちはなんなんだ?エフィ曰く、健康診断みたいなことやってるって言ってたけど。」
「さあ、それはわからない。
僕も、この城に潜伏して、1年足らずなんだ。
それまで、城に奴隷が来ることなんてなかったから・・。
それに僕は、この件に関わらせてもらえなかったんだよね。
他にやることもあったし、よかったんだけどさ。」
そうか。
アレクも知らないのか。
「まあでも、この国が腐ってるのは事実だ。
それに、この国は、ところ構わず、他国に戦争をふっかけてるからね。
平民への重税は当たり前だし、末端の騎士たちには、まともに報酬なんて支払ってないから、
他国の街や村での略奪も、熾烈を極めてるよ。
それを進んでやってるのが、今の女王だ。」
そういえばマリー様は、俺の軍加入に、えらく積極的だ。
確か、国を守るためなんて言ってたが、こちらから争いを仕掛けてるんなら、話が違ってくる。
「この国は地位の高いものが、いい思いをして、地位の低いものは苦しんでいる。
この国だけじゃない。今、この世界では、同じように苦しんでいる人たちが山のようにいるんだよ!!
こんな世界の仕組みは、間違ってるんだ!」
こうして俺は、アレクの本当の目的を知ることになる。
アレクは、軽く息を吸い込んで、俺の目を見て言った。
「ナズ。・・・・僕と一緒に、世界を変えよう。」
アレクの目は、それまで見てきたどんな人たちより、真剣だった。