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欠陥転生者たち、そして覇道へ  作者: 朽木 庵
傀儡の城脱出編
12/34

10話 転生者、獣人アレク(夜の密会)

か、書くのが・・楽しい・・・。

読んでくれる方も増えてきて、嬉しいです!

 目の前に、金毛の猫がいる。

 触っていいのかな?


 俺は猫に、手を伸ばしてみる・・・。

 あれ、避けられた。

 猫は器用に、部屋の扉を開けて、中に入ってきたみたいだ。


 猫は、ベッドから降りて、部屋の扉の前まで行くと、こちらを振り返る。

『ついてこい』ってことか?

 まだ、ガンガンと響く頭や、動悸の止まってない胸を、一旦無視して、俺は立ち上がった。

 猫について行くことにしよう。

 何かあるかもしれない。


 暗い廊下(ろうか)を歩く。

 俺の少し前を、猫が歩いている。

 今、何時なのだろうか。

 相当の深夜だとは思うが。


 猫は、城の中を、クネクネと通っていく。

 俺もそれについていく。

 すると、どういうわけか、城の外に出れた。

 抜け道があったのか・・・。


 そこからしばらく歩いたところ。

 城の近くに、一つの小屋があった。

 中は、電気が(とも)っている。

 誰かいるのだろうか。

 猫はその中に、少しも躊躇(ためら)わず、入っていく。


 俺も遅れて、小屋の前に着いた。

 ドアをノックしてみる。

 ・・・・開いた。


 中にいたのは、獣人のアレクだった。





 アレクに(すす)められるまま、俺は中に入り、椅子に座る。

 ・・・こんな小屋だと、夜になるとかなり冷えるんだな。

 てっきりアレクも、城に住んでるのかと思っていた。

 城の中にも、何人かの独身の文官たちが、住んでいるからだ。


 っ。

 ここでまた、動悸(どうき)が激しさを増してきた。

 マリー様のことを、いやでも考えてしまう。

 頭も痛い。


 苦しそうにする俺を心配したのか。

 アレクが立ち上がる。

 そして俺の方に近づいてきて・・・。


 パンッ。


 ビンタされた。

 乾いた音が小屋に響く。


「痛っ!・・おい、何すんだいきなり!」


 そう言う俺に、アレクは笑顔で握手を求めてきた。

 なんだ?仲直りか?

 サイコパスなのか、こいつ。

 まだ、謝られてないんだけどな。

 俺は、差し出された手を握る。


 アレクは軽く息を吸う。


「どう?まだ痛い?」

「いや、痛いに決まってるだろ。ジンジンしてるよ、ほっぺたが。」

「そっちじゃなくて。頭とか、胸の方だよ。」

「ええ?ああ。・・・・あれ?痛くない。さっきまであんな苦しかったのに。

 今、全然痛くねえ!」

「でしょ?よかった、完全に解けたみたいで。」

「アレクが直してくれたのか!?ありが・・・・・・・・。」


 あれ?

 なんかこいつ、めっちゃ喋ってね?


「え、お前!?(しゃべ)れてんじゃねえか!?」

「いや、声は出てないよ。【念話】で、ナズの頭に直接話してるの。

 口は、動かしてるだけ。わかりやすいようにね。」


 そんな、宇宙人との交信みたいなこと、できるのかこいつ。


(ほら、こんな風に。口開いてないけど、聞こえるでしょ?)

「うわ、ほんとだ。でもなんか気持ち悪いな。できれば、口も動かしてくれ。」

「はいはい、わかったよ。」


 アレクはニコッと笑った。

 そうすると、俺の目をしっかりと見て、続ける。


「それじゃあ、改めて。こんにちは、()()()()()()くん。確かに、これ、なんか神様の名前みたいだよね。()スグル様〜って。」

「ナズミ・スグルな。いや、そうなんだよ。ここの人たち、あんまりわかってないみたいだったけどな。そのツッコミ。」

「いやでも、僕は面白かったよ?」

「え、ありがとう。・・・・ていうか、伝わったのか?」

「うん。だって僕、前に日本にいたことあるし。」


 なんだ、そうだったのか。

 アレクも日本にいたのかーーー・・・・。

 !?!?!?!?


「えっ!お前、日本・・ていうか、前の世界のこと、知ってんのか!?」

「そりゃもちろん。なんたって、僕も、君と同じ、転生者だからね。」


 なんてこった。

 この国に転生者はアンジェしかいないと教えられたが。

 アレクも転生者だったらしい。


「僕、ドイツ人だよ。何年か、親の都合で、日本にいたことがあったから。

 日本のことも、大好きだよ!」

「そう言ってもらえると、こちらも日本人として、嬉しいな。

 でもなんでまた、転生者だってこと、秘密にしてたんだ?」

「んーー。そうだね。全部知ってもらおうと、思ってるけど。

 さて、どこから話したもんか・・・。」


 アレクは何か、考えてるようだ。

 そして、俺の顔を再び見つめる。

 すると、何かを紙に書き出し始めた。


「よし。とりあえず、ナズの()()なステータスを見てもらおうか!」


 そう言うと、さっき書いていた紙を俺に渡してきた。

 ここで、前から少し、疑問に思っていたことを、聞いてみる。


「なあ。結局『紙』って貴重なものなのか?聞いてきた意見がバラバラで・・。」

「ああ、紙はまあ、少し値が張るけど、そんなに貴重ではないよ。」

「え、でも、お前。最初に紙を使ったら、怒られたんだろ?」

「なんだ、知ってたんだ。それはね、『獣人なんかには紙は勿体無い』って意味だよ。」


 なんだそれ。

 それってまるっきり・・・。


「そう。ここの人たち、僕に、異様に冷たいでしょ?

 ここの国に限らず、この世界の人間の国ではね、()()()()が色濃く残ってるんだよ。

 特に、地位が高い人ほどね。

 まともに相手してくれる人間なんて、奴隷か、変わり者くらいだよ。」

「・・・そうだったのか。

 だからみんな、アレクの名前を覚えてなかったり、上から目線で冷たかったのか。」


 なんだって、獣人を差別するんだ。

 アレクなんか見てみても、ほぼ『コスプレした人』じゃないか!


「なんか、失礼なこと思ってない?言っとくけど、これ取れないからね。」

「いやわかってるよ。ただ、ちょっと触ってみたいって言うか・・・。」

「だめ。なんか嫌だから。

 それより早く、ステータス見なよ!」


 ・・・また今度、お願いしてみるか・・。

 俺はアレクに言われて、紙に目を落とす。



 ステータス

 名前:ナズミ・スグル

 種族:人族

 魔力量:SS

 スキル:神位スキル【森羅ヲ崩壊スル力(ア・レース)】(固有)


 極位スキル【緋雷の獣(ブロッディバーク)】(固有魔法)


 上位スキル【身体強化】【言語理解】

 【状態異常耐性】【防護結界】(強化)


 下位スキル【雷球(サンダーボール)】【雷鳴(サンダーショック)

 【雷槍(ライトニング)】(魔法)


 魔法適性:雷・血



「これが、俺の本当のステータス?」

「そう、これが嘘偽(うそいつわ)りのない、ナズのステータスだよ。」

「これ、今鑑定したのか?触れてもないのに?」

「僕のスキルを、そんじょそこらの鑑定スキルと、一緒にしないでよ。

 僕のは、特別なんだ!」


 アレクが自慢げに、顔を上げる。


「でも、なんで偽る必要なんか、あったんだ?」

「それは、また後で言うから。自分でステータス見ても、間違いないでしょ?」


 俺は、自分でステータスの確認をする。

 ・・・・確かに、間違ってない。

 あれ?でもおかしいな。あれがなくなってる。


「なあ。【精神攻撃耐性】ってのが無くなってるけど、あれはどこ行ったんだ?」

「ああ、あれね。あのスキル、(付与)って書いてあったでしょ?

【精神攻撃耐性】は、僕がナズに与えた、バフみたいなものだよ。」


 アレクが俺に与えたスキル?

 じゃあ、あれは俺のスキルじゃなかったのか。


「でも、そのスキルも、2日くらい前に切れちゃったけどね。

 だから、女王の()()が、もう結構進行してたんだよ。

 なんとか【状態異常耐性】で(しの)げてたけど、それも今日が限界だっただろうね。

 だからさっき、完全に、洗脳を解いたんだよ。ほら、ビンタした時。」


 んん!?

 一気に情報を与えられて、整理できない。


「待って。・・・待て待て、待ってくれ。洗脳ってなんのことだ!?

 俺が洗脳されてたのか?女王・・・マリー様に!?

 そして、それをアレクが防いでくれてて・・・・。

 限界を迎えそうな俺を、助けてくれたのも、アレクなのか?」

「洗脳され()()()()、ね。完全にはされてないよ。

 まあそれも、時間の問題だったけど。

 ナズも感じてたでしょ?『マリーグレーテに忠誠を誓う』ってことに対しての、異様なまでの嫌悪感。

 あれも、【精神攻撃耐性】や【状態異常耐性】によるものだね。

 受け入れた瞬間、完全に洗脳されてたよ。」


 そうか。

 俺が毎晩、頑張って拒否し続けてたのには、意味があったんだな。

 にしても、洗脳って・・・。

 浮かない顔をしている俺に、さらにアレクは衝撃の事実を突きつける。


「洗脳は、マリーグレーテの極位スキルによるものだね。恐ろしいスキルだよ。

 この城にいる人たちはもちろん、貴族連中、さらには奴隷以外の国民まで。

 大体が、マリーグレーテに洗脳されている。」

「城にいる人たちも、国民もか!?アンジェもギーシャさんもってことだよな?」

「そう。あいつの極位スキル【課ス心酔】は、人を選ばない。

 洗脳の内容はただ一つ。

 マリーグレーテに、少しでも従おうと思った人間、(した)った人間に、無際限の忠誠心を植え付ける。

 徐々に洗脳は進行していき、日に日に、忠誠心が大きくなる。

 これを本人が疑問に思わなくなった時点で、洗脳は完了だ。」


 つまり・・・。

 発動条件は、少しでも、マリー様に、従おうと思うこと。

 少しだけでいいのか。

 それで、その心を、無理やり大きな忠誠心へと変化させる。

 だから、人を選ばないのか。


「ナズも、理由はどうあれ、少しでも従おうと思ってたでしょ?」

「・・・ああ。修練場で、スキルのことを教えてもらってた時。一緒に、マリー様の過去も少し聞いたんだ。

 それから、『私のために、頑張ってね。』って言葉に、頷いた・・・。

 そういえば、あの日の夜から、変な夢にうなされるようになったな。」


「うん、それがマリーグレーテの狙いだったんだろうね。

 僕も迂闊(うかつ)だったよ。女王自ら、ナズに教えるなんて。

 初めて、謁見した時、マリーグレーテが内務大臣のバランに、スキルを教えるように、頼んでたでしょ?

 そして、ナズの視線がバランに移った時。

 マリーグレーテはバランに、断るように指示を出してたんだ。

 怖い顔して、首を振りながらね。」


 アレクが、首をブンブンと振ってみせる。


「しまったと思ったよ。

 だって僕、スキルや魔力量なんかを、虚偽(きょぎ)の報告したんだし。

 それに、みんなの前で鑑定していた時。

 あそこでナズに、【精神攻撃耐性】を付与したんだ。

 どうせ、文官の誰かに、説明を頼むと思ってね。

 そうなったら、ナズが余計な事を、喋りそうになっても、どうにでもやりようはあるから。

 でも、マリーグレーテだと、そうもいかない。

 なんたって、近くには、あのギーシャがいるんだ。

 近づけないよ。」


 そうか、確かにそうだ。

 俺、バランさんが出てきた時、そっちを見てたもんな。

 バランさんが断って、仕方なく、マリー様が教えるって流れだったけど・・・。

 あれは全部、仕組まれたことだったのか。

 黙って聞いてた俺は、口を開く。


「でも結局、俺はスキルについて、マリー様たちに言わなかったろ?」

「そう!そうなんだ!

 僕はもう、言うもんだと思ってたから、逃げる準備を(ひそ)かに進めてたよ!

 でも幸か不幸か、ナズは秘密にしてくれてたんだ。

 理由はわからなかったけど。

 僕に気を使って言わないでくれたのか、それとも、おバカすぎて、気づかなかっただけなのか。

 どうあれ、僕は作戦を続行できたんだ!

 そこはもう、本当にありがとう!ナズ。」


 なんかすごい失礼なこと言ったな、こいつ。

 まあでも、なんか異様なまでに嬉しそうなアレクを見て、どうでもよくなる。

 それほど、この作戦が大事だったのだろう。


「ああ・・・・よかったな・・・。」


 俺はアレクの熱量に、若干(じゃっかん)引き気味になりつつ、答えた。


「うん!まじで感謝〜だよ!」


 と、なぜか懐かしくなるフレーズで、感謝される。

 ・・・こいつが日本にいたことは、とりあえず確信できた。


「そこからは、ナズに洗脳と戦ってもらいながら、戦闘訓練も進めてもらったんだよね。

 ここの人たちも、ナズを使()()()満々だったみたいだから、そりゃもう、充実した訓練だったね。」


 確かに、戦闘訓練は厳しいものだった。

 でもそれは、仕事のためだし、厳しくなるのは仕方がないよな?


「こちらとしても、都合が良かったしね。ナズに戦うことを覚えてもらうのは。

 そして今日。

 戦闘訓練も大体終わり、洗脳も末期になったので。

 僕のところに、来てもらったんだよ。洗脳を解くためにね。」


 なるほど。

 ことの経緯は理解した。

 ビンタした時に、洗脳を解いたと言っていたが・・・。


「なあ、あれ。洗脳解くのに、ビンタする必要ってあったの?」

「解く時にスキルも使ったけど、軽い衝撃も同時に必要だったんだ。」

「顔に?」

「いや、・・・・どこにでもいい・・・・。

 けど!目を覚まさすっていったら・・・・・ビンタかな?と思いまして・・・・。」


 その変なこだわりは、なんなんだ。

 洗脳を解いてくれたのはありがたいが、叩くなら手でも良かっただろう。


「と、とにかく。洗脳のことも話たし。

 これで、スキルを一部隠した理由、わかった?」

「・・・・・。俺に耐性スキルがあると、洗脳がかかり辛くなって、それを知られたら、面倒だから?」

「うん。惜しいね。確かに、マリーグレーテは、耐性の存在を知れば、煩わしく思うよね。

 でも、それならそれで、いくらでもやりようがある。

 毎日、自分のところに通わせて、スキルをかけまくるとか。

 同情する話を聴かせるとか、優しいところを見せて、強い好感を持たせるとか。

 徹底すれば、耐性持ちのナズだって、一瞬で洗脳完了だ。

 そうされないためにね。

 普通の人間と、同じペースで洗脳できると思わせるために、耐性スキルを隠したんだよ」


 そうか。

 それで俺は、洗脳の進行を遅らせられていたのか。

 ・・・魔物討伐の成果を報告したとき。

 マリー様は、軍加入の話を俺に断られたとき、驚いた顔をしていた。

 あれは、通常ならとっくに洗脳が終わっていて、自分の願いが、断られるはずないと、思っていたからか。

 そしてあそこで、再び俺に、スキルを掛け直したのだろう。

 でもここで、ある疑問が浮かび上がる。


「なあ、アレク。

 そもそも、マリー様はスキルで洗脳なんてしなくても、忠誠心の熱い家臣たちだらけなんじゃないか?

 だってマリー様、優しくて綺麗な上に、悲しい過去まで背負ってるんだぜ?

 ギーシャさんなんかも、『姉のクリスティーナ様に誓って!』とか言ってたし。

 そりゃ、全員が、忠実な家来になるわけじゃないだろうけど。

 それでも、多くの人が、マリー様についていくと思うんだけど?」


「いやまあ。そうだよね。けどね。違うんだよ。・・・・」


 ここから俺は、アレクの発言に、今日一番の、衝撃の事実を、喰らわされる。


オネマリッタ王国。

マリオネットの国。

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