09話 洗脳
奇跡の1日2本目の投稿です。
金輪際、こんなことはないと思うので、巡り会えたみなさんは、とてもラッキー?ですよ!
出会ってしまった、最初の魔物。
突然のことに俺は、身構える。
「出てきたようですね。
あれは<ウォーウルフ>です。
この辺の魔物では、素早い方ですが、それでもナズさんなら余裕です!
頑張って!!」
俺を残して、全員が後ろに下がる。
目の前の、異様に眼光の鋭い狼も、俺に敵意を剥き出しにする。
いやーー。
怖いね。
あっちの殺意がもう、ビシバシ伝わってくる。
俺は大げさに脱力して、また構えをとる。
手が震えているが、目線は逸らすわけにはいかない。
向こうは今にも、飛びかかって来そうだからだ。
<ウォーウルフ>と睨み合う。
ふっ、、、ふっ、、、ふう、、ふっ。
呼吸が乱れるのがわかる。
心臓の動きも激しくなり、俺の全ての内臓を、揺らしているようだ。
それでも、狼の爪、口、目の動きにまで、注意を張り巡らす。
いつまでこの状態が続くのか。
痺れを切らしたのは、狼だった。
狼は、横にステップを入れながら、俺に高速で近づく。
しかし、狼の速さに、俺が戸惑うことはない。
【身体強化】により、動きはしっかり捉えられている。
今まで訓練で受けてきた、剣撃に比べれば、遅いくらいだ。
狼が口を大きく開き、俺に噛みつきにかかる。
ここで俺は【森羅ヲ崩壊スル力】を発動する。
できるだけ、見えなくなる時間を無くすため、ギリギリまで引きつけたのだ。
そうして、目にはっきりと狼が映った瞬間、俺は後ろに退避しながら、手を振り払う!
思いっ切り。
キャウンッ。
という弱々しい鳴き声を、その場に残して、狼は、目の前から消える。
狼は、飛びかかってきた、その3倍くらいのスピードで、横に吹っ飛んでいったのだ。
べギィィィィィィン!!
魔物<ウォーウルフ>は3本ほどの木を貫通したあと、岩にぶつかり、ずり落ちた。
呆気なく、俺の初陣は幕を閉じた。
頭では散々、怖いだの、殺しは無理だの言ってきたが。
このスキルは、いとも簡単に、目の前の生き物の命を、奪ってみせた。
「どうだ、ナズ。楽勝だったろう?まだ怖いのか?」
「・・・・・いや怖くはないけど。でも『殺し』に慣れたわけじゃない。」
本当は、怖い。
何が怖いって、魔物ではなく、自分の力がだ。
だが、これを口に出したら、なんかすごく痛いやつな気がして、踏みとどまった。
横たわる<ウォーウルフ>を薄目で見る。
岩に付着した血と、口から流れる血が、生々しい。
ぴくりとも動かない目の前の、さっきまで生き物だったもの。
自分でこんな状態にしておいて、俺は寒気を感じている。
「同じ転生者でも、ナズさんと総団長で、こんなにも、この世界への適応に差があるんですね。
総団長の時は、殺しを怖がることなんて、あまりなかったものですから。」
「そうだな。私だって、それまで『殺し』なんてしたことなかったが、少しの勇気と覚悟があれば、なんてことなかったぞ!」
それは、アンジェがおかしいんだよ!
『殺し』を怖がることの何が悪いんだ。
こちらの都合で、そいつの『この先』を奪う、圧倒的に理不尽な行為。
だがここでは、俺は少数派なので、あまり意見は、できそうにない。
「よし!この調子で、どんどん、魔物を狩っていきましょう!」
サバロスさんの掛け声が響く。
それを聞いて、みんなで、気合いを入れる。
いやでも、魔物討伐すんの、全部、俺なんだよなーーー!
***
魔物討伐の任務が終わり、俺たちは城へと帰還した。
結局、あの後も魔物を倒し続けた。
魔法スキルを使ってみたり、神位スキルを使ってみたり。
一番キツかったのは、【身体強化】のみを使って、あとは剣一本で、魔物を殺した時だ。
生きた肉に、剣を突き刺した感触が、今でも手に、こびりついている。
とにかく、今日は、とても疲れた・・・。
「あ、お兄ちゃん!!おかえりなさい!」
そう言って、疲れた俺などお構いなしに、エフィは、お腹めがけて突っ込んできた。
だが、そんな、いつもと変わらないテンションのエフィに、俺もいつも通りを取り戻す。
「おう、エフィ。ただいま。」
俺はエフィの頭に、ポンッと手を乗せる。
「今日は、訓練じゃなかったの?」
「そうなんだ。今日は外にいる魔物を、倒しに行ってたんだよ。」
「そっかー!お兄ちゃん、魔物を倒してくれてたんだ!
遊べないのは嫌だったけど、しょうがないね。魔物、倒してくれて、ありがとね!!」
俺はその、エフィの言葉にハッとさせられた。
今まで俺は、生き物を殺すのはダメだとか、仕事だから、しょうがないんだとか考えてた。
でも、魔物の討伐ってのは、エフィたち、国民を守るためのものなんだ。
力がない人たちの代わりに、力を持った俺たちがやるんだ。
エフィに感謝されたことで、そのことに気づくことができた。
「・・・エフィ、ありがとな。」
「??私の方が、ありがとうだよ?」
それからしばらく、エフィと話していたが、用事があったので、少しして切り上げた。
今日の成果をマリー様に報告するべく、俺とアンジェ、サバロスさんは、謁見の間に赴く。
相変わらず、自動で開く扉に関心しながら、中に入る。
そういえば、この他にも、魔巧帝国の魔道具は城の中にあると、ギーシャさんが言っていた。
探してみるのも、面白いかもしれない。
そんな俺たちは今、マリー様への成果報告の真っ最中だ。
成果としては、<ウォーウルフ>5体、<デビルサーペント>3体、<フレイムボア>1体というものだった。
どれも、手に汗握る、、大熱戦だったろう。
例えるなら、『エル・クラシコ』だろうか。
・・・・・分かりづらい?この例え。
戦闘時間は、どれも5分を切るものだったが。
成果報告を聞いて、マリー様も、その後ろにいるギーシャさんも、満足そうだ。
「上出来じゃない、ナズ!魔物を倒すことには、もう慣れたかしら?」
「いや、流石にまだそこまでは・・・。
でも、仕事として、これから国を守れるように、頑張っていこうと思いました!」
「まあ、とても頼もしいわ!
正直、ここまで出来るなんて、思ってなかったもの。ねえギーシャ。」
「そうですね。守るものを自覚できたのは、いい傾向と言えるな、ナズ。」
「ありがとうございます、ギーシャさん。この前聞いた、マリー様の家族のお話。
あれを聞いてから、自分も頑張ろうと思って。
ここまで来れました!」
あの話は、悲しいものだったが、それでも、前に進むマリー様、それについていくギーシャさんを見て、俺も覚悟を決めたものだ。
「クリスティーナ様は、私たちが立ち止まっていても、お喜びにならんからな。
よくおっしゃってた言葉があるんだ。そうですよね、マリー様。」
「え、ええ。ただ、もう思い出せないの。
むしろ、思い出すと辛くなるから、あまり考えないようにしていて・・・。
なんだったかしら?」
「っ、気遣いが足りず、申し訳ありません。お辛いようでしたら、控えますが・・?」
「いいのよ、ギーシャ。私も、思い出したいし、ナズにも聞かせてあげて。」
「・・はい、わかりました。
ナズ、クリスティーナ様はよく、『前を向いて歩きましょう。その方が、未来は明るくなるわ!』とおっしゃっていた。いつでも、我々を引っ張ってくださる、そのお姿に、今でも私は、励まされているのだよ。」
・・・この国の王女様がたは、素晴らしい人しかいないのか!?
一人くらい、意地の悪いやつがいるのが、相場ではないのだろうか。
「そうだったわ。お姉様はよくそう言ってたわね。
それにしても、ナズ。これだけ魔物を、倒せてるのだもの。
この調子なら、騎士団に加わる日も、そう遠くはないかしら?」
それって・・・・、つまり、最前線で、戦争に加わるってことだよな。
いや、魔物はともかく、人間相手は無理だろ・・。
・・・・・・本当か?
「あの、それはまだ、無理・・・というか。
やっぱり、人間相手は、怖いんですよね・・・・。」
そう言うと、マリー様は驚いた顔をしている。
だがすぐに、笑顔を作って、口を開く。
「そうなの。大丈夫よ!ナズは私のために、働いてくれるものねぇ?」
その言葉をトリガーに、痛いくらいの動悸がする。
あの夢のことを思い出す。
なんで、よりによって今なんだ。
いや、今だからかもしれない。
目の前のマリー様を見る。
そう。
マリー様に忠誠を誓わないと・・。
マリー様のために働かないと・・・。
俺は、マリー様に恩があるんだ。
辛い状況でも、マリー様は頑張ってここまできてるんだ。
感謝も敬意もある。
マリー様マリー様マリー様マリー様マリー様マリー様マリー様マリー様マリー様マリー様マリー様マリー様マリー様マリー様マリー様マリー様マリー様マリー様マリー様マリー様。
忠誠を誓うことの、何がそんなに嫌なんだ。
自分でもわからない。
とりあえず、この場をやり過ごさねば。
「・・・・はい、もちろんですよ!」
俺は、泥人形のような下手な笑顔で、声を絞り出した。
***
その日の夜。
疲れたという理由で、俺は自室で、夕食を取った。
最初目覚めた時、ギーシャさんと一緒に部屋に入ってきた、メイドのイザベルさん。
そのイザベルさんが、部屋まで食事を、運んできてくれた。
イザベルさんは、どうやらここのメイド長らしい。
訓練してみてわかったが、この人の立ち振る舞いは、少しの隙もない。
やはり一流のメイドともなると、毅然とした佇まいが、身についているらしい。
食事を終えて、イザベルさんが食器を下げてくれる。
今日は少し早いが、もう寝ることにしよう。
どうせ、またあの夢を見るんだろうが・・・。
夢の中で。
一人の騎士が、マリー様に跪いている。
最初は、遠くから見ていたが、今では、だいぶ近づけた。
今日はもう、すぐそこに騎士がいる。
騎士は顔を下げていて、ここからでは、顔を確認でいない。
今日こそは、騎士の正体を暴いてやる。
俺を毎回、不安な気持ちにさせやがって。
この騎士のことを、俺はもう、すっかり嫌いになっていた。
俺は屈んで、騎士の顔を、覗き込んだ。
マリー様に、忠誠を誓っている様子の騎士。
そいつの顔は、オレ自身だった。
・・・忠誠を誓え・・・・。
「ぶはっっっ。」
目をカッ開く。
呼吸も上手くできてなかったみたいで、俺は、急いで酸素を、体に取り込む。
・・・・目が覚めたみたいだ。
今までで、一番、ひどい夢だ。
寝汗もひどい。
汗で張り付く服が、非常に気持ち悪い。
そして目の前には、金毛の猫・・・・。
んん!?猫!?
そこには、あの日、<装甲竜>を倒して、魔力切れで倒れる前に見た、金毛の猫がいた。
次回、伏線回収パレード(希望)