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欠陥転生者たち、そして覇道へ  作者: 朽木 庵
傀儡の城脱出編
10/34

09話 洗脳

奇跡の1日2本目の投稿です。

金輪際、こんなことはないと思うので、巡り会えたみなさんは、とてもラッキー?ですよ!

 出会ってしまった、最初の魔物。

 突然のことに俺は、身構える。


「出てきたようですね。

 あれは<ウォーウルフ>です。

 この辺の魔物では、素早い方ですが、それでもナズさんなら余裕です!

 頑張って!!」


 俺を残して、全員が後ろに下がる。

 目の前の、異様に眼光(がんこう)の鋭い狼も、俺に敵意を剥き出しにする。

 いやーー。

 怖いね。

 あっちの殺意がもう、ビシバシ伝わってくる。

 俺は大げさに脱力して、また構えをとる。

 手が震えているが、目線は()らすわけにはいかない。

 向こうは今にも、飛びかかって来そうだからだ。


<ウォーウルフ>と(にら)み合う。

 ふっ、、、ふっ、、、ふう、、ふっ。

 呼吸が乱れるのがわかる。

 心臓の動きも激しくなり、俺の全ての内臓を、揺らしているようだ。

 それでも、狼の爪、口、目の動きにまで、注意を張り(めぐ)らす。

 いつまでこの状態が続くのか。



 (しび)れを切らしたのは、狼だった。

 狼は、横にステップを入れながら、俺に高速で近づく。

 しかし、狼の速さに、俺が戸惑うことはない。

【身体強化】により、動きはしっかり(とら)えられている。

 今まで訓練で受けてきた、剣撃に比べれば、遅いくらいだ。


 狼が口を大きく開き、俺に噛みつきにかかる。

 ここで俺は【森羅ヲ崩壊スル力(ア・レース)】を発動する。

 できるだけ、見えなくなる時間を無くすため、ギリギリまで引きつけたのだ。

 そうして、目にはっきりと狼が映った瞬間、俺は後ろに退避(たいひ)しながら、手を振り払う!

 思いっ切り。


 キャウンッ。

 という弱々しい鳴き声を、その場に残して、狼は、目の前から消える。

 狼は、飛びかかってきた、その3倍くらいのスピードで、横に吹っ飛んでいったのだ。

 べギィィィィィィン!!

 魔物<ウォーウルフ>は3本ほどの木を貫通したあと、岩にぶつかり、ずり落ちた。


 呆気なく、俺の初陣(ういじん)は幕を閉じた。

 頭では散々、怖いだの、殺しは無理だの言ってきたが。

 このスキルは、いとも簡単に、目の前の生き物の命を、奪ってみせた。


「どうだ、ナズ。楽勝だったろう?まだ怖いのか?」

「・・・・・いや怖くはないけど。でも『殺し』に慣れたわけじゃない。」


 本当は、怖い。

 何が怖いって、魔物ではなく、自分の力がだ。

 だが、これを口に出したら、なんかすごく痛いやつな気がして、踏みとどまった。

 横たわる<ウォーウルフ>を薄目(うすめ)で見る。

 岩に付着した血と、口から流れる血が、生々しい。

 ぴくりとも動かない目の前の、さっきまで生き物だったもの。

 自分でこんな状態にしておいて、俺は寒気を感じている。


「同じ転生者でも、ナズさんと総団長で、こんなにも、この世界への適応(てきおう)に差があるんですね。

 総団長の時は、殺しを怖がることなんて、あまりなかったものですから。」

「そうだな。私だって、それまで『殺し』なんてしたことなかったが、少しの勇気と覚悟があれば、なんてことなかったぞ!」


 それは、アンジェがおかしいんだよ!

『殺し』を怖がることの何が悪いんだ。

 こちらの都合で、そいつの『この先』を奪う、圧倒的に理不尽な行為。

 だがここでは、俺は少数派なので、あまり意見は、できそうにない。


「よし!この調子で、どんどん、魔物を狩っていきましょう!」


 サバロスさんの掛け声が響く。

 それを聞いて、みんなで、気合いを入れる。

 いやでも、魔物討伐すんの、全部、俺なんだよなーーー!



 ***



 魔物討伐の任務が終わり、俺たちは城へと帰還した。

 結局、あの後も魔物を倒し続けた。

 魔法スキルを使ってみたり、神位(しんい)スキルを使ってみたり。

 一番キツかったのは、【身体強化】のみを使って、あとは剣一本で、魔物を殺した時だ。

 生きた肉に、剣を突き刺した感触が、今でも手に、こびりついている。

 とにかく、今日は、とても疲れた・・・。


「あ、お兄ちゃん!!おかえりなさい!」


 そう言って、疲れた俺などお構いなしに、エフィは、お腹めがけて突っ込んできた。

 だが、そんな、いつもと変わらないテンションのエフィに、俺もいつも通りを取り戻す。


「おう、エフィ。ただいま。」


 俺はエフィの頭に、ポンッと手を乗せる。


「今日は、訓練じゃなかったの?」

「そうなんだ。今日は外にいる魔物を、倒しに行ってたんだよ。」

「そっかー!お兄ちゃん、魔物を倒してくれてたんだ!

 遊べないのは嫌だったけど、しょうがないね。魔物、倒してくれて、ありがとね!!」


 俺はその、エフィの言葉にハッとさせられた。


 今まで俺は、生き物を殺すのはダメだとか、仕事だから、しょうがないんだとか考えてた。

 でも、魔物の討伐ってのは、エフィたち、国民を守るためのものなんだ。

 力がない人たちの代わりに、力を持った俺たちがやるんだ。

 エフィに感謝されたことで、そのことに気づくことができた。


「・・・エフィ、ありがとな。」

「??私の方が、ありがとうだよ?」


 それからしばらく、エフィと話していたが、用事があったので、少しして切り上げた。

 今日の成果をマリー様に報告するべく、俺とアンジェ、サバロスさんは、謁見(えっけん)の間に(おもむ)く。

 相変わらず、自動で開く扉に関心しながら、中に入る。

 そういえば、この他にも、魔巧(まこう)帝国の魔道具は城の中にあると、ギーシャさんが言っていた。

 探してみるのも、面白いかもしれない。


 そんな俺たちは今、マリー様への成果報告の真っ最中だ。

 成果としては、<ウォーウルフ>5体、<デビルサーペント>3体、<フレイムボア>1体というものだった。

 どれも、手に汗握る、、大熱戦だったろう。

 例えるなら、『エル・クラシコ』だろうか。

 ・・・・・分かりづらい?この例え。

 戦闘時間は、どれも5分を切るものだったが。

 成果報告を聞いて、マリー様も、その後ろにいるギーシャさんも、満足そうだ。


「上出来じゃない、ナズ!魔物を倒すことには、もう慣れたかしら?」

「いや、流石にまだそこまでは・・・。

 でも、仕事として、これから国を守れるように、頑張っていこうと思いました!」

「まあ、とても頼もしいわ!

 正直、ここまで出来るなんて、思ってなかったもの。ねえギーシャ。」


「そうですね。守るものを自覚できたのは、いい傾向と言えるな、ナズ。」

「ありがとうございます、ギーシャさん。この前聞いた、マリー様の家族のお話。

 あれを聞いてから、自分も頑張ろうと思って。

 ここまで来れました!」


 あの話は、悲しいものだったが、それでも、前に進むマリー様、それについていくギーシャさんを見て、俺も覚悟を決めたものだ。


「クリスティーナ様は、私たちが立ち止まっていても、お喜びにならんからな。

 よくおっしゃってた言葉があるんだ。そうですよね、マリー様。」

「え、ええ。ただ、もう思い出せないの。

 むしろ、思い出すと辛くなるから、あまり考えないようにしていて・・・。

 なんだったかしら?」

「っ、気遣(きづ)いが足りず、申し訳ありません。お辛いようでしたら、(ひか)えますが・・?」

「いいのよ、ギーシャ。私も、思い出したいし、ナズにも聞かせてあげて。」

「・・はい、わかりました。

 ナズ、クリスティーナ様はよく、『前を向いて歩きましょう。その方が、未来は明るくなるわ!』とおっしゃっていた。いつでも、我々を引っ張ってくださる、そのお姿に、今でも私は、励まされているのだよ。」


 ・・・この国の王女様がたは、素晴らしい人しかいないのか!?

 一人くらい、意地の悪いやつがいるのが、相場ではないのだろうか。


「そうだったわ。お姉様はよくそう言ってたわね。

 それにしても、ナズ。これだけ魔物を、倒せてるのだもの。

 この調子なら、騎士団に加わる日も、そう遠くはないかしら?」


 それって・・・・、つまり、最前線で、戦争に加わるってことだよな。

 いや、魔物はともかく、人間相手は無理だろ・・。


 ・・・・・・本当か?


「あの、それはまだ、無理・・・というか。

 やっぱり、人間相手は、怖いんですよね・・・・。」


 そう言うと、マリー様は驚いた顔をしている。

 だがすぐに、笑顔を作って、口を開く。


「そうなの。大丈夫よ!ナズは私のために、働いてくれるものねぇ?」


 その言葉をトリガーに、痛いくらいの動悸(どうき)がする。

 あの夢のことを思い出す。

 なんで、よりによって今なんだ。

 いや、()()()()かもしれない。

 目の前のマリー様を見る。

 そう。

 マリー様に忠誠を誓わないと・・。

 マリー様のために働かないと・・・。

 俺は、マリー様に恩があるんだ。

 辛い状況でも、マリー様は頑張ってここまできてるんだ。

 感謝も敬意もある。

 マリー様マリー様マリー様マリー様マリー様マリー様マリー様マリー様マリー様マリー様マリー様マリー様マリー様マリー様マリー様マリー様マリー様マリー様マリー様マリー様。

 忠誠を誓うことの、何がそんなに嫌なんだ。


 自分でもわからない。

 とりあえず、この場をやり過ごさねば。


「・・・・はい、もちろんですよ!」


 俺は、泥人形(どろにんぎょう)のような下手な笑顔で、声を絞り出した。



 ***



 その日の夜。

 疲れたという理由で、俺は自室で、夕食を取った。

 最初目覚めた時、ギーシャさんと一緒に部屋に入ってきた、メイドのイザベルさん。

 そのイザベルさんが、部屋まで食事を、運んできてくれた。

 イザベルさんは、どうやらここのメイド長らしい。

 訓練してみてわかったが、この人の立ち振る舞いは、少しの隙もない。

 やはり一流のメイドともなると、毅然(きぜん)とした(たたず)まいが、身についているらしい。


 食事を終えて、イザベルさんが食器を下げてくれる。

 今日は少し早いが、もう寝ることにしよう。

 どうせ、またあの夢を見るんだろうが・・・。




 夢の中で。

 一人の騎士が、マリー様に(ひざまず)いている。

 最初は、遠くから見ていたが、今では、だいぶ近づけた。

 今日はもう、すぐそこに騎士がいる。

 騎士は顔を下げていて、ここからでは、顔を確認でいない。

 今日こそは、騎士の正体を暴いてやる。

 俺を毎回、不安な気持ちにさせやがって。

 この騎士のことを、俺はもう、すっかり嫌いになっていた。

 俺は(かが)んで、騎士の顔を、(のぞ)き込んだ。

 マリー様に、忠誠を誓っている様子の騎士。

 そいつの顔は、()()()()だった。


 ・・・忠誠を誓え・・・・。


「ぶはっっっ。」

 目をカッ開く。

 呼吸も上手くできてなかったみたいで、俺は、急いで酸素を、体に取り込む。

 ・・・・目が覚めたみたいだ。

 今までで、一番、ひどい夢だ。

 寝汗もひどい。

 汗で張り付く服が、非常に気持ち悪い。

 そして目の前には、金毛の猫・・・・。


 んん!?猫!?


 そこには、あの日、<装甲竜>を倒して、魔力切れで倒れる前に見た、金毛の猫がいた。


次回、伏線回収パレード(希望)

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