エピソード0
・・・なんだろう。
状況がうまく掴めない。
今、自分がどういう状態なのか全くわからないのだ。
周り・・・は暗くて何も見えないし。どちらが上で、どちらが下かすらも、把握できない。
水中にいるような感覚だ。
でも息は苦しくない。てか俺、息してなくない・・・?
よくわからん!
と、口に出そうとして、自分が喋れないことに気づいた。
喋れないってどういこと?と思うだろうが、口が開かないのだ。というか感覚がない。
そりゃ喋れるわけがないだろう。
こんな割とヤバめな状況に置かれている俺だったが、不思議と冷静ではある。自分でもびっくりするくらいに。
海中をふよふよと揺蕩うワカメになった気分だな・・・。
呑気にそんなことを考えていたが、もっと生産性のあることを考えた方がいいかと思い直す。
まあ、こんな状態で生産もクソもないだろうけど・・。
えっと・・・最後の記憶は、何だったけか?
最後の記憶・・・・・そうだ。今日、家族で旅行に行ってんだった。
それも沖縄に。あの旅行の王様こと、沖縄。夏の代名詞こと、沖縄に。
オーシャンブルーから迸る太陽光を、海パン一丁で受け止める予定だったんだ。
綺麗で澄んだ、青い海面を叩いて泳ぐ予定なのだ。
飛行機に乗った記憶はある。人生初の飛行機だ。離陸する時にかかる想像以上の G に大興奮して隣の妹に白い目で見られたことも、覚えている。、、、いやこれは忘れていいな。
降りた記憶は・・ない。つまりここは夢の中で、俺は今、飛行機の中で寝ている・・と。
完璧な推理だ。
夢を夢だと認識するの、なんて言うんだっけ。・・・あっ、そう、明晰夢だ。なら有名人やらも召喚できるかもしれん。
(メッ◯とか、ク◯ロナとか来い!)
と念じてみる。が、現れる様子はない。だが俺はすぐに諦めるようなやわなお子様ではないので、何度でも挑戦するのである。。。。
〜〜〜
んっ、なんだあれ?
どれぐらいの時間が経ったか。
意味のないこの挑戦を、ちょうど放棄しかけた頃に、小さな光が見えた。
最初はぼんやりと薄く。
しかしその光は急速に大きくなる。いや、近づいているのか?
周りが暗く、景色なんかもないから、もしかしたら俺が近づいてるのかもしれない。
真相がどうであれ、光は止まる気配もなく、大きくなり続けた。
えっ、てか、ぶつかる?・・ちょい。。ちょいちょいちょいっ!!ホントにぶつかるって!!
ぶつかりますよ!?おーい、ちょ、誰か、止めてっ!!係の人ーっ!?
俺の必死の訴えが意味を持ったのかは知らない。
そもそも喋れないので、この訴えも心の中でも叫びなのだが。
気分は絶叫マシンだったが、それとは決定的に違う点があった。
それは目を閉じれないという点だ。
あれは、怖ければ目を瞑れる。そうすれば恐怖心も少し和らぐし。
一方、こちらの『光突っ込み型アトラクション』は、目を瞑れない。
口と同様に、目の感覚も無くなっちまってるもんだから、どうしようもないのだ。
そのまま俺は、目をカッ開いた状態で光の中に突っ込んだ。
いや『光に包まれた』が正しい表現かもな。
でも包み込むんなら、もっと優しく包んで欲しかった。
あんな勢いで包んでたら、それはもう、突っ込むになっちゃうからね。
日本とアメリカのスーパーの店員さんくらい差があったから。
俺日本人だから、日本のスーパーの卵くらい丁寧に扱ってもらわないと。
そこんとこ、この光には理解してもらえただろうか?
丁寧で優しいんだよ、日本のレジって。おもてなしの精神抜群なんだよ?
・・・・いや、なんの話してんの俺。
周りを見渡したが明るくなったって事以外、特に変化はない。
3分ほど何事もない時間が過ぎた頃、どでかい睡魔が急に襲いかっかてきた。
プールがあった日の5限目の国語のような・・。抗えるはずがない。
そもそも、睡魔は全て受け入れる派の人間なので抵抗する気もなく、順調に意識は消えていく。
完全に意識が消える直前に、綺麗で透き通るような女性の声が聞こえた。
眠いはずのに、結構はっきりと。
《それでは、良い二度目の人生を...》
意識は堕ちた。
***
<女神の独白>
また一人、輪廻から漏れたみたいね。
例によって、戻してあげることもできますが、今度の子、他の子より少々酷いようですね。
向こうの世界のバランスも、悪くなっていたところだし、ちょうどいいかしら。
その魂のもとへ近づいていく。
・・・・あら?
この子・・・目が見えてないみたいね。
ちょっと不都合はあるけれど、まあ、大丈夫よね。
それにしても・・・・。
この子もまた、酷い死に方をしたものねえ。
覚えていて、辛い想いをするなら、いっその事、忘れた方が幸せよね。
思い出さないように、記憶に蓋をする。
よし。後は、スキルね。
いつも与えてる、3つのスキル。
今回の神位スキルはどんなものかしら?
【身体強化】【言語理解】【森羅ヲ崩壊スル力】
・・・・面白そうなスキルね。
けど、これだけで、大丈夫かしら。
不安だし、もう一つ。
魔法・・・・、と、耐性スキルも、与えてもいいわよね。
またすぐに死んでしまっては、可哀想だもの。
【緋雷の獣】【状態異常耐性】
こんなものかしら。
じゃあ、ちょっと眠ってもらいましょうか。
その間に、転生を終わらせておくわ。
目の前の魂を静かに眠らせる。
あちらの世界では、存分に力を発揮してもらいたいわね。
一言、声を掛けておきましょうか。
***
魂の転生が、無事に終わる。
そうすると女神は、次の魂のもとへ、早々に去っていった。
「続けざまに転生を行うのは体力が要るわね」と、軽い愚痴をこぼしながら。