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機獣世界グランマキナ  作者: 音髄
第一章 機獣世界へ
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第5節 サバイバル生活の始まり

 ヴィンセルが歩きだすと、ゆっくりとキャンピングカーが動き出した。悪路にも関わらず意外に揺れは少ない。


「意外と揺れない、ね?」

『ああ、足回りもオフロード対応に改修した。こちらには舗装路などあまり存在しないようだしね。必要だろう』


 そうは言っても進んでいるのは獣道のような悪路なわけで、全く揺れないわけでもない。低木をかき分けているのかバキバキという音もしきりに聞こえる。


『今向かっている水場は池のような物で、魚の存在を確認している。食べられるかどうかは捕まえてみないとわからないが』

「でも、釣具なんてないよ」

『必要な道具については一応私の方で用意しよう。作ったことも使ったこともないので性能は保証できないが……』


 地球の各地で集めた情報から人間用の色々なツールの形状データは揃っているそうだ。しかしドローンで集めた映像情報だけで、素材構成などまではわからないため、その辺りは予測で作るしかないらしい。

 あと革製品、布製品は今の所素材が足りなくて作れないようだ。

 けど、魚が食べられれば一応当面の食糧問題は解決されるだろうか。


『それから、街へ行くまでの間に君たちには山や森を歩く訓練、狩猟、動物の解体、野草などの可食物の収集も行って貰う予定だ』

「えっ、……それって生き物を殺すって事……?」

「……」

「あ~…、まぁ必要、なんだよね、やっぱり……」


 クマリもツグミも顔を青くしている。生きていくのに必要な事なんだと頭では理解できるけど、動物を自分で殺すというのは怖さが先立つ。


『……どうしても無理そうなら、私が狩って来るが、できれば君たちには生きる術を身に着けておいて欲しいと思う』


 その場合でも、解体のような細かい作業はヴィンセルには難しく、結局オレたちでやらなければならないらしい。


「……大丈夫。オレがやるよ」

「タケル……」


 二人を守ると決めたからには必要なことは何でもやる覚悟が必要だった。不安はあるけど、気合で乗り切るしかない。


『君たちの不安を払拭できるよう、サポートする。なるべく簡単そうな事から始めていくようにしよう。』

「うん、お願い」


『採った植物、魚、肉などが食べられるかどうかは可食判定器を用意したので各自調べてくれ。地球型人類に準拠する設定に変更済みだ』


 テレビの下の何も入ってなかったはずの引き出しが開いて、中からスマホより大きい装置が三つ出てきた。ファミレスとかの店員が持ってる機械に似ている。

 手帳型のそれを開くと中に太いペン状の物が挟まれており、どうやらこれの先端を押し当てると食べられるものかどうか判定されるらしい。

 ドローンだけでは調べようがなさそうだけど、どうやってそんなデータを集めたんだろう。


『次にこれが今後向かう予定の街だ』


 モニターに分厚い城壁と堀に囲まれた街が映る。壁の外にも畑が広がっている。街へつながる道を大きなバッファローのような黒い機獣が巨大な貨車を引いて歩いているのが見える。バッファローの上には誰か乗っている。あれが御者なんだろうか。

 いずれキャンピングカーもこういう貨車に偽装するんだろう。


『今晩、天体観測を行う予定なので、ドローンは今は一基だけを街の観測につけている』


 元々ヴィンセルは十二基のステルスドローンを持っていたんだけれど、転移の影響で今は四基だけしか残っていないらしい。天体観測時にはできるだけ観測データの精度を上げるため、複数のドローンとヴィンセル本体の目を併用する必要があるんだとか。


『明日からは複数のドローンを街に配置して、会話音声を雑多に収集し、語彙・文法の解析を行う。ある程度まとまったら君たちに習得してもらう予定だ』

「習得って言っても、そんないきなり喋れるようになったりできないよね」

「そんなの勉強してたら何ヶ月かかるやら……」

『そのために、君たちにはこのナノマシン錠剤を服用して欲しい』


 再び引き出しが開き、中には錠剤ケースが入っている。


「薬?」

『いや、薬ではない。この錠剤にはナノマシンという極小サイズの機械と、その活動に必要な金属素材が含まれている。もちろん人体に悪影響はない。銀河連盟の軍や警察などの人員は全てナノマシンを使用しており、プライバシー情報は漏らさないよう厳しく管理されている。服用の後、寝ている間に、脳などの神経ネットワーク上にナノマシンが入り込み、各種情報の取得や、バックアップが受けられるようになる』


 脳に入るとか、何だか話を聞くだけではすごく身体に悪そうに聞こえる。

 ツグミもクマリもオレと同じく、明らかに気が進まない様子だ。


「……そうすると、言葉がわかるようになるの?」

『ああ、私のような機械生命体や、人工知能が収集した情報を寝ている間に脳にインストールし、理解できるようになる。喋ることも可能だが、その時点で判明している語彙や文法に限られるので、不自然な口調になったり、片言だったりする可能性もある。その辺りは学習が進むにつれ、次第に解消されていく。言語以外の情報もインストール可能だが、今用意できるのは基本的な格闘術の基礎くらいだな』

「バックアップっていうのは?」

『主に君たちの体調管理や、先程言った毒性のある食べ物への対応、菌・ウイルスの対処、脳内分泌物の調整などによる一時的な身体能力向上、位置情報の取得によりもしはぐれた場合の救出、怪我をした際の応急処置・治療などが考えられる』

「治療?」

『ああ、生理現象を局所的に加速させて、素早く血を止めたり、組織の再生を促進させたりが可能だ』


 怪我が治りやすくなるってのはいいけど、体調だの位置情報だのは常にヴィンセルに見張られている状態になるってことだ。まぁ、すでにソウルリンクしているオレはあんまり変わらないか。


『もちろん地球へ戻った場合など、これらの機能が必要なくなった場合はナノマシンの機能を停止し、排出するようにできる』

「まぁ、とりあえずオレは飲むよ。もうソウルリンクしてるわけだからあんまり変わらないと思うし。だから二人は別に無理して飲まなくてもいいぞ」

「……いや、私も飲む。どのみち地球に帰るまでヴィンセルとずっと一緒にいるしかないんだし信用する。プライバシーも守ってくれるって言うし」

「わたしも」

『……そうか。では夕食の後にでも服用してくれ。一人三錠ずつだ』



 ふと、車が止まった。開けた場所に出たのか、窓から入る光も強くなった気がする。


『水場についたぞ』


 三人で外に出ると、それほど大きくない池があった。


『まず、給水口に添えつけられたホースを伸ばして、水面に先端のポンプを設置してくれ』

「わかった」


 オレは車体脇の給水口の扉を開け、横にあるホースを給水口にセットした。もう一方の先端を手に取ると今まではなかったポンプらしき物体が取り付けられていた。

 そのままホースを持って池の間際に近寄っていく。水は透き通っており、意外とキレイそうだ。


「どこでもいいのかー?」

『ああ、適当に放り込んでくれて構わない。後は自動的に給水・濾過・浄水作業を行う』


 池の岸間際だと不純物が多そうなので、なるべく遠くにホースの先端をドボンと投げ込んだ。

 少しすると、ポンプからブーンと音がしてホースの中を水が流れ始めた。


『さて、工作室でまず釣り竿とバケツを用意するが、他に必要なものはあるかね?』

「えーと、今すぐじゃなくていいんだけど……」


 オレたちは洗濯機や、着替え、各種消耗品、それからナイフや武器など、必要そうなものを挙げていった。


『ふむ、洗濯機は構造自体は単純なので用意できるだろう。ナイフもだ。だが、どちらも現状では素材の都合上全て金属製ということになるな』


 機獣と言っても全身全てが金属製というわけではなく、合成樹脂、いわゆるプラスチックやゴムに類する素材も各所に使われているそうだが、もうほとんど使ってしまって在庫がないらしい。今作っている釣り糸も金属製になるようだ。


『消耗品の類は素材さえあれば似たようなものは作れるかもしれないが……。材料集めは君たち自身に行って貰うしかないぞ』


 ここで問題になるのは一体どうやって素材を集めるかだ。例えばシャンプーとか、容器に原材料名は書かれているが、それが何から抽出したものなのか、必須の素材はどれなのか、配合割合はどれくらいかなどは書かれていない。配合割合自体はヴィンセルが分析してくれるが、材料が何からどう抽出したものなのかは知識がないためあまり分からないそうだ。

 つまり素材になりそうなものを色々手当たり次第に採集して集め、ヴィンセルに分析して貰って少しずつ材料を集め、色々な配合を試して研究するという、かなり気が長い作業が必要になるのだ。


『それから、製造や素材の抽出に大規模な施設が必要な場合もスペースの都合上、限界がある』


 このキャンピングカー、ベイクル・セルトーの内部スロットは六つあるけど、今使用していない空きスロットは一つだけで、それも使用予定があるため製造関連設備は全て工作室一スロットに収まるようにしなければならないとのことだ。



 そんなこんなで話し合いの結果、今日の予定が決まった。

 クマリが池で魚釣り。オレとツグミで色んな草や木材などの採集だ。採集用の道具としてはナイフ、ナタ、園芸用スコップ、背負い籠、あと念の為の槍をそれぞれ二人分用意してもらった。

 野草や植物の実など、何が食べられるか調べつつ、食べられないものも何かの素材になるかもしれないという事で、色々集める予定だ。

 それから、手分けするなら通信手段がないと不便だと言うことで、ヴィンセルがスマホを使えるようにしてくれた。通信プロトコルとか言うのを地球にいた頃に解析済みだったので、再現は割と簡単だったそうだ。ただし、キャンピングカーかドローンが近くにいないと使えず、今できるのは通話のみという話だった。チャットアプリは余裕ができたら対応するらしい。そのうちゲームとかも対応してくれないかな~……。無理かなぁ。

 ヴィンセルはクマリとキャンピングカーの近くに残り、オレとツグミはドローンが上空について、残り二基のドローンは周辺警戒に当たるんだそうだ。

 とりあえず一時間くらいで戻るのを目処にオレたちは別れた。


 結果的に、途中で野生動物に襲われたりというイベントが発生することはなく、採集を終えてキャンピングカーへと戻った。

 可食判定器で食べられると判定されたものとしては、ゴボウみたいな根菜、葉物野菜っぽい野草、ハーブっぽい葉っぱなどがそれなりの量、それと木の実が少々、ツグミの籠に入っている。

 それ以外の様々な食べられないものは全部オレの籠に山と積まれていた。

 一方クマリの釣果はと言うと、結構大きな魚が十匹以上採れていた。クマリが言うには餌をつけなくてもホイホイ釣れたとのこと。

 見た目は普通に魚だ。ヒレがちょっとトゲトゲでいかついかな?というくらいで、他は地球の魚と大差ない様子だ。可食判定器でも食べられるという判定なので、今日のメインは魚料理になりそうだ。

 魚の量はもう十分なので、ツグミとクマリで料理の下ごしらえに取り掛かるそうだ。ツグミいわく「このウロコ取るのは大変そう」とのこと。


『まだ日が落ちるまで時間の余裕がある。次は私とタケルで木材収集に行こう』

「わかった」


 人型に変形したヴィンセルが適当な木を切り倒し、オレがナタで小枝を切り落とす。そうしていわゆる丸太の状態にしてキャンピングカーへと持ち帰るのを3回繰り返した。後で色んな木の、硬さやしなり具合、繊維などを調べて用途別に分けるんだそうだ。



 そして夕方。


『さて、何もなければここで数日停泊するつもりだ。水の給水は終わっているので、ここにいる間は水の使用量を気にする必要はない』


 キャンピングカー内のメインタンクに150リットル、倉庫内の予備タンクに500リットルくらい入ってるらしい。移動中、一日百リットル使っても六日は持つ計算だ。


『今夜、私は天体観測を行い、この星の位置を割り出す。他にも周辺の様子などいくつかの観測を行う予定だ』


 それらについてはオレたちにできることはない。


『明日は、引き続き食材・素材の収集も行ってもらうが、何より野生動物の狩りを行ってもらいたいと考えている』


 こちらはオレたちが頑張らなければならない事柄だ。


『最初は万全のサポートを行うが、回を経るごとにサポート度合いを下げていき、いずれは君たちの力だけで狩れるようになってもらいたいと考えている』


 明日からもう狩りを始めるのか。どうやらヴィンセルは思ったよりスパルタなのかもしれない。もしかしたら、いずれヴィンセルがオレたちの手助けをできなくなるような事態も想定しているんだろうか。


「が、がんばる」

「もし機獣が現れた時はヴィンセルに任せるよ……」

『ああ、そちらは君たちには無理だな。任されよう』



 ◇ ◇ ◇



「どう?」


 シンプルな焼き魚や、汁物など、いくつかの魚料理を前にツグミが味の感想を求めてくる。


「うん、普通に美味しい」

「……意外」


 クマリは不思議そうというか納得いかないという顔だ。泥臭いとか、味に癖があるとかそういうこともなく、普通に白身の魚の味だ。何がおかしいんだろうか。


「変な顔して、何?」

「えーとね、その魚、身はキレイなんだけど、実は内臓が真っ黒だったのよ」


 代わりにツグミが答える。


「あ~…」


 そんなのを見てればちょっと食欲を失いそうな気がするのは分かるな。


「このイモっぽいのってあのゴボウみたいなやつ?」

「うん。茹でたら身がほくほくになって驚いたわ」


 ツグミの腕が良かったのか、素材が良かったのか、どの料理も美味しく、オレたちは和気藹々と夕食を終えた。

 そして夜、それぞれナノマシン錠剤を飲んでからベッドに入る。


「なぁ、キャンピングカーの改修する時に、ベッドも分けてもらわない?」

「えぇ~、別にこのままで良くない?」

「これでいい」


 オレの提案は即座に却下された。


 その夜、オレは夢を見た。


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