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機獣世界グランマキナ  作者: 音髄
第一章 機獣世界へ
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第4節 これからのこと

「これから、どうしようか」


 まずツグミが口を開いた。

 オレたちは遅めの朝食を摂っていた。メニューはトーストとベーコンエッグ、野菜ジュースだ。


「それは、今日のこと? それともこの先どうやって生きてくのってことか?」

「どっちも」


 どちらにしてもオレたちにできることは少ないように思える。まさかどんな危険があるかもわからない外に出て、周囲を探索するわけにもいかないだろう。


「……とりあえず今日はここに籠もってるしかないよな」

「……そうね。クーもそれでいい?」


 クマリも頷いて同意する。

 とは言え今のこの状況では当然遊ぶ気分にもならない。だけど何かしらしてないと不安が襲ってきそうだ。


「私はとりあえず、食料がどれくらいあるか確認してみるね」

「ああ、オレも何か使えるものはないか探してみる」


 オレは備え付けの収納や荷物を確認してみたけど、今まで少しずつ持ち込んでいた物は大半が遊び道具や勉強道具で、サバイバルに使えそうなものはない。

 よくあるサバイバルツールとしてまずナイフやロープが思いつくけど、刃物はカッターぐらいだ。あ、台所に包丁があったか。ロープになりそうなのはビニールの荷造り紐が少しあるくらいか。

 じいちゃんの廃車工場も一緒に転送されてれば色々道具はあった可能性があるけど、今目の前には無いので後回しだ。

 他に武器になりそうな物も見当たらない。野球のバットすら置いてなかった。野球なんてしたことないから当たり前だけど。

 あと、収納棚の奥にチャッ○マンがあった。確か去年、花火するのに使ったんだっけ? 小さいバケツもあった。


「ん~」


 唸り声が聞こえて見るとクマリが自分のバッグの中を見ながら考え込んでいる。


「どうした」

「着替え、少ない」


 聞くと今着ている服とパジャマを入れて四着しか持って来てないと言う。オレは今着ているのを入れて二着だけだ。

 このキャンピングカーに洗濯機はない。当然まだキレイなので数日はいいとしても、そのうち洗う必要が出てくるだろう。

 それ以外にも、飲水、料理、シャワー、トイレと、何かと水は必要だ。どこかで確保しなければならない。

 壁にある、このキャンピングカーの使用電力量や供給電力、タンクの水容量などが表示されてるパネルを見る。水はまだ六十リットル以上ある。とりあえず今日は大丈夫だろうけど、明日以降は分からない。


「水も節約しないとなぁ」

「えっ、ま、まさか、シャワーも我慢しろって言うんじゃないよね」


 台所収納の中身を確認していたツグミが振り向く。


「ヴィンセルが起きないとどうなるかわかんないし、今日は我慢だな」

「そんなぁ!」

「一日くらい浴びなくても何ともないって」

「ダメダメ! 色々気になるし!」

「だったらシャワーで使う分の水、どこで手に入れるんだよ」

「……川とか」

「まぁ飲めるかはわからないけど、シャワーで使う分にはいいか。どこに川があるか知らないけど」

「ぐぬぬぬぬ。……わかった、我慢する」


 ツグミはガックリとうなだれた。



「で、調べた結果だけど」


 数分後、テーブルを囲んで結果発表を始めた。


「オレからだけど、サバイバルに少しでも使えそうなのはカッターとビニール紐少々、それからバケツとチャッ○マンがあった。武器になりそうなものはなかった。以上」

「あってもあんなでっかいのとかと戦えないけどね」


 ツグミの言葉にクマリもコクコクと顔を縦に振って強く同意している。


「……結局何をするにもヴィンセル頼みになっちゃいそうなんだよな」

「それは、…しょうがなくない?」


 ツグミも何もできない無力さは感じているらしい。

 ヴィンセルは地球へ戻れるよう全力でサポートすると言ってくれたし、基本的に善良そうに見えたけど、どこまで地球の常識が通じるかもわからない。彼の方針がオレたちの受け入れられないようなものだったとしても、逆らうすべはない。

 とは言え、その辺りは彼が起きてからのことだ。


「次、食料なんだけど、パスタが一キロぐらい、パックご飯が五つ、カップ麺が四個、缶詰もいくつか。あとは朝食に使ったパンとか卵とかの残りが少々」


 節約したとしても数日ももたなそうだ。


「調味料はそれなりにあるし、小麦粉とかがあれば良かったんだけど……」


 ツグミも料理が得意と言ってもさすがに材料がなければどうしようもなかった。


「ん」


 クマリが手を挙げる。着替え以外にも何か調べてたらしい。


「シャンプー類は三人で毎日使ってたら多分一ヶ月もたない。石鹸は予備もあったから結構もつと思うけど、洗濯に使ってたらすぐなくなりそう」

「つまりシャワーも洗濯もなるべく水洗いですませようってことか」

「そう」

「ありがとう、クー。それは重要な情報ね!」


 特にオレは別にシャンプーなんて使わなくても平気だ。いずれ街とかへ行ったとしても手に入るかはかなり怪しい。ヴィンセルも文明レベルは高くないって言ってたし。


「それからトイレットペーパー、ティッシュ、ウェットティッシュは、それぞれ予備はあるけど、特にトイレットペーパーは普通に使ってたらたぶん一ヶ月もたない」

「……それはまずいわね」


 トイレットペーパーなんてまだ10ロールくらい残ってたような気がするけど、女子ってそんなに使うのか? まぁ地雷案件な気がするので触れないでおこう。


「そのへんは節約したり、ティッシュは洗えば済むタオルやハンカチをなるべく使うって感じかな」

「それくらいしか対策ないよね……」


 結局の所、ヴィンセルが起きてから色々確認が必要なことも多く、今できるのはこの程度しかない。オレ達は手持ち無沙汰になった。


「ここの時間はわかんないけど、多分まだ昼過ぎくらいだよね…?」

「夜までどうすっかなぁ」

「……とりあえず宿題でもする?」


 こうなった以上、特にやる必要もないと思うのだが、遊ぶ気分でもないのは確かだ。

 オレたち三人は日が暮れるまで黙々と宿題に勤しんだ。



 ◇ ◇ ◇



 翌朝、昨日より少なめの朝食を終え、ヴィンセルはいつ起きるのか等と話していると、突然テレビモニタの電源が入った。


『おはよう、タケル、ツグミ、クマリ。おかげさまで私の改修は完了したので、外に出て来てくれないか』


 モニタには声の波形を表す線だけが表示されているが、この声はヴィンセルだ。

 内部空間を切り替えると、表に出ていない空間は圧縮保存されるらしい。機械生命体であるヴィンセルはその状態でも特に問題無いそうだけど、オレたち人間などの生物には悪影響が出る事があるんだとかで、切り替える際は外に出ていた方が良いんだそうだ。

 オレたち三人が外に出てキャンピングカーの後ろに回ると、昨日と同じく後部ドアが開き、中から車が降りて来た。


「あれ? 見た目変わった?」


 白いスポーツカーだったはずだけど、タイヤがゴツくなってたり、何だかよくわからないパーツが増えてる。色も白一色ではなく、グレーや青の部分があったり赤いラインが入ってたりする。


『ああ、あの機獣の特徴を取り込んだのと、この地に合わせてカスタマイズした。ちょっと下がってくれ』


 オレたちが何歩か下がると、ヴィンセルの車体がグワッと浮き上がり、ガシガシと変形を開始した。昨日より断然変形速度が早い。


「ワンちゃんになった!」


 クマリが珍しく大きな声を上げて反応する。そういや犬好きだったか…。

 そう、ヴィンセルが変形したのは人型ではなく、犬型?だった。

 一本の角が生えてるので、普通の犬ではないけれど。

挿絵(By みてみん)


『新たに機獣形態、ビーストフォームを追加した。この星の現地人の前に現れる際にこの姿は必要だろうと判断した』


 ちなみに車形態はビークルフォーム、人型形態はバイペダルフォームと言うらしい。


「なるほど。やっぱり、街に行くんだな」

『ああ、いずれその予定だが、すぐにではない。これから今後のことを話そう。君たちは中に戻ってくれ』



 オレたちがテーブルの周りに戻ると、モニターに外のヴィンセル(犬)の様子が映った。


『さて、これから当面の行動計画を説明したいと思うが、質問や要望は随時受け付けるので言って欲しい』


 オレたち三人は頷く。


『まず前提となる話からだが、この星は人類も住んでいるとは言え、地球とは全く異なる世界である事を念頭に置いて欲しい』

「……どうすればいいの?」

『例えば植物・動物・食べ物など、地球と似た物が色々存在するだろうが地球と同じ物ではないという事だ』

「えーと、地球では普通に食べられるような植物とかに毒があったりして食べられないかも、ってこと?」

『そうだな。さらに言えば、現地人が普通に食べているものであっても君たちには毒になるものがあるかもしれないという点も重要だ。この点については対応策があるので後で説明しよう。』


 同じ人類と言っても、これまで生活してきた環境は全く異なる。空気すら、普通に呼吸できていると言っても、組成も違うし、そこに含まれる菌やウイルスは地球とは異なる。体内の常在菌も地球人とは違うだろう。その辺りも含めた対応策があるという話だった。


『それから文化の違いだ。人里では挨拶の仕方から違う可能性もあるし、握手・手を振る・指をさす・親指を立てるなどの何気ない動作が全く別の意味を指す可能性もある』

「う~ん、気をつけてないと普通にやっちゃいそうだな……」

「……そう言えばさっき異なる世界って言ってたけど、これってよく考えたら異世界転移よね」

「……はっ、確かに!?」

『私もそういう創作物があることは把握しているが、こちらの世界に今の所魔法の存在は確認できていないな。魔物の代わりに機獣は存在しているが』

「レベルはもちろん、いわゆるスキルとかも無さそうだけど、タケルはソウルリンクの影響でそのうち色々できるようになるんだよねぇ」

「今の所、ヴィンセルに乗ってる時に念話ができる以外は特に自覚はないな」

「あ、もうできるんだ、念話。どんな感じなの?」

「どうって言われてもな……。なんか頭の中に声が響く感じ? ああ、イヤホンとかで音を聞いてるような」

「ふーん?」


 ツグミもクマリもわかったようなわからないようなという顔だ。


『さて、本題だが街へ行くまでにはいくつかの段階がある。主にこのトレーラーの改修、水・食料などの確保、現地語の習得、現地通貨獲得手段の確保、街へ入るためのカバーストーリーの構築などだ』

「あなたの仲間探しとかはいいの?」

『その辺りは君たちの生活がひとまず安定してからだな。とにかくまずは生存できない事にはどうにもできない』


 まずトレーラーの改修では、川などから給水した水や使用済みの水も飲めるような浄水装置を設置したり、水タンクを拡張したりするらしい。他にも必要な設備があれば可能な限り追加してくれるそうだ。それからビーストフォームのヴィンセルがひけるように牽引装置を改修。また、街へ行くまでに情報を集め、外装も怪しまれないよう変えるようだ。


『だが、とりあえず浄水装置と牽引装置の分は問題ないが、他の改修には資材が不足している。資材にできるよう他の機獣の残骸が必要だ』


 今の所、付近に他の機獣の残骸は見つかっていないらしい。もしかすると戦って倒す必要があるかもしれないという話だった。


『次に水・食料の確保だが、水についてはこの後、トレーラーの小改修を終えたらすぐに向かいたいと思う』


 モニターにキャンピングカーの現在の様子が映った。俯瞰の図なのでどうやらステルスドローンから撮ってる映像らしい。

 窓から外を眺めてみるが、それっぽい物は見当たらない。


「すげぇ、本当に見えない」

「ん、ドローンってやつ?」


 二人も窓に寄って空を見上げるが、何も見つけられない様子だ。

 と、窓の外に何か光の膜が降りた。モニターを見るとキャンピングカーの周囲を四角く半透明の光の膜が囲んでいる。


「わわ、これ何?」

『外装改修用の工作フィールドだ。中にいる分には影響は無い。ドアはロックしてあるが終わるまでくれぐれも外には出ないでくれ』


 モニターには牽引車との接続部分が映っているが、どんどんと光に分解されていき、代わりに昔の馬車のような軸がキャンピングカーの前部の両脇にできていく。

 ものの一分もたたずに牽引装置の改修は終わり、光の膜が消えた。どうやら四隅に浮かんでいる何かの装置が、光の膜を展開していたらしい。


「あの飛んでるのがさっきの光の膜を出してたのか?」

『ああ、あれは工作ボットだ。あれが光の膜も改造作業も制御している』


 何でも光の膜の中では特定の素材の分解・再構成が可能なんだとか。詳しいことは説明を聞いてもよくわからなかった。

 今まで座っていたビーストフォームのヴィンセルが立ち上がってキャンピングカーの前へ向かい、お尻を向けると自動的に牽引装置が接続された。


『では早速、水場へ向かおう。続きは道中に話そう』


イラスト担当のイヌゾーコメント「イラストに登場するキャラ、メカのデザインは全て仮なので途中で大きく見た目が変わる可能性があります」


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