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機獣世界グランマキナ  作者: 音髄
第一章 機獣世界へ
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第3節 地球への道

『ここから地球へ戻るには大きく分けて二つの道筋がある。一つはどうにか私の仲間と連絡を取り、宇宙船で地球に戻る方法だ。この星の位置が判明しないとはっきりした事は分からないが、こちらは上手く行っても地球に戻るまで最短で数ヶ月はかかるだろう』


 そもそも今は宇宙船がないから連絡をして迎えに来てもらう必要があるという事のようだ。


『もう一つの方法は、グナ・ソーンの連中を探して【遺産】を取り戻し、その力で地球へ転送で戻るという方法だ。こちらの方法は、奴らがこの星に来ているかもはっきりしない今、どれだけかかるか検討もつかない』


 もし運良く発見できたとしても、【遺産】を取り戻すには戦って奪うしかない。でも戦えるのは今はヴィンセル一人しかいない。あの時奴らは三体いたけれど、ヴィンセル一人で勝てるのだろうか。


「……もし帰れるとしてもすぐには帰れないって事だね」


 ツグミが意外と冷静に言った。


「みんな心配するだろうな」

「…………」


 クマリは何も言わないし、いつもの無表情にも見えるが、不安なのは見て取れた。

 四週間以内ぐらいで帰れれば学校が始まる前には戻れたけど、無理そうだ。いや、こうなるともう卒業までに帰れるかも怪しい。もし何年もかかったら中学へも行けないかもしれない。けど、まぁ今はそんな心配しても仕方ないか。帰れたらの話だ。


「そういや、キャンピングカーごとこっちに来ちゃってるって事は、廃車置場には一夜にしてぽっかり何もない場所ができてるって事だよな」

「大騒ぎになってそうだね」

「多分、宇宙人のせいとか言われる」

「実際にそうだとはみんな思わないよなぁ」


 そういやクマリはUFOとか宇宙人とか結構好きだったな。オカルトとか言うんだっけ? お化けとかは好きじゃないみたいだけど。

 オレたち三人はテレビとかで特集されたりしてなどと乾いた笑いを浮かべ合った。少しでも気分を上げていかないと暗い気持ちに押しつぶされそうだった。


『……すまないが、喫緊の問題があるので話を続けさせてもらう。以上のように少なくとも数ヶ月、下手すると数年をこの星で暮らさねばならないわけだが、君たちだけで生き抜くのは非常に難しいだろう』


 オレたちは素直に頷いた。


『もちろん私が全力でサポートしたいが、実は私のボディは昨夜の戦闘で深刻なダメージを負っており、ずっと自己修復を行ってはいるが、今は満足に動くことすらできない有様だ』


 特にそんな様子はなかったし特にそれらしい音も聞こえないけど、内部ではずっと修理をしているらしい。


「直るの?」

『多少動けるところまで修復できるが、現状のままではリソース不足により完全回復は無理だ』

「えっ、じゃあ、どうするの?」

『先程ドローンで発見したが、付近に機獣の残骸がある。それを回収できればある程度修復できると見ている』

「……どうやって回収するの?」


 直接見てないので大きさは分からないけど、ここには機械の塊なんて運べるような重機なんてない。ヴィンセルが自分で回収する以外に方法はなさそうに思える。


『そこで君たちの協力が必要なのだ。』

「……?」

「私たちに協力できそうな事なんてありそうにないけど…」

『我々機械生命体にはいくつか分類があってね。私はその中でも共生型と呼ばれる分類に属する』

「共生?」

『そう、君たち人類と共にあることでより力を発揮できる種なのだ』

「……?」

「共にある…? よくわからないんだけど……」


 オレたちは困惑して顔を見合わせた。


『人の魂、心と言ってもいい。それとリンクし、搭乗させる事で我々は元の数倍の力を発揮できるようになるのだ。これは【ソウルリンク】と呼ばれている』

「……具体的には何をすればいいんだ?」

『君たちの内一人が私に乗り込んで、私のパートナー【ソウルライダー】となって欲しい』


 色々説明を聞くと、彼らの種族は昔から人と近しい関係にあり、誰か一人をパートナーとすることで代々人を守る仕事をしてきたらしい。そしてパートナーとなれるのは生涯で唯一人のみで、一度誰かをパートナーに決めたら、その子供・子孫しか次のパートナーにはなれないんだそうだ。

 ヴィンセルは今までまだパートナーを作っていなかった。彼らの寿命は数百年はあるようだが、生涯誰もパートナーにしない事もあるみたいだ。


「パートナーになると人間側はどうなるんだ?」

『最初は特に何も起こらない。時間が経ち、結びつきが強くなるにつれ、多少離れていても考えが伝わるようになったり、身体能力が若干向上したりしていくようだ。悪影響についてはあまり記録が残っていないが、思考を共有できるため、あまり自分で物事を考えなくなった者がいたという例があるが、かなり稀なケースだ。その者はパートナーになる前からかなりの怠け者だったらしい』

「考えてることがみんな伝わっちゃうのはやだなぁ…」

『基本的には伝えようと思ったことしか伝わらないので大丈夫だ。伝えようと思っていなくても、強く感情が揺れた時などは伝わってしまうこともあるらしいが。』


 ヴィンセルが嘘をついているという可能性もあるが、聞く限り人間側にはあまりデメリットがなさそうに聞こえる。いや、乗り込むんだから戦いに参加しなければならないというのが最大の危険性か。


「戦いになったら、ケガしたり、死んじゃう可能性もあるんだよね」

『もちろんその可能性はある。だが、君たちはまだ子供だ。共に闘ってくれれば力も発揮できるし嬉しいが、それを無理強いするつもりはない。戦いになりそうな時は安全なところに退避してくれて構わない』


 でも、もし宙賊のロボットと戦うことになったら、ヴィンセル一人では勝てるとは思えない。その時はパートナーが乗っていなければ勝ち目はないんじゃないだろうか。

 オレはそれを見ているだけでいられるだろうか。


「あの、少し相談させてほ――」

「わかった。オレが乗るよ」

「タケル!?」


 オレはツグミの言葉を遮って立候補した。

 オレは、ツグミとクマリをなんとしてでも守らねばならない。どうにかして地球へ連れ帰らなければならない。

 そのための力が必要なんだ。



 ツグミは渋々という様子だったが、オレがヴィンセルのパートナーになるのを認めてくれた。どのみち誰かはパートナーにならねばならないのだ。クマリは最初は驚いていたがすぐに応援してくれた。

 ヴィンセルが自分でドアを開けてくれたので、オレは意を決して運転席に乗り込んだ。見た目は普通の車の運転席だ。


『では始めよう。君はハンドルを握ってじっとしていてくれ』

「わかった」


 ブゥンと低い音がしだして、メーターとかが表示されてるパネルに明かりが灯って表示が変わった。それからシートやハンドルがオレの身体に合わせて位置や高さが自動的に調整され、次に窓ガラスが真っ暗になって外が見えなくなった。

 フロントガラスに何か光が流れ始めたかと思うと、光の線が次々とオレの身体を通り抜けていく。

 やがて前方から光の塊が迫ってくるのが見えた。オレはその光から目を離せず、ついにはその光に視界が飲み込まれた。


(タケル……私の声が聞こえるか…)


頭の中にヴィンセルの声が聞こえてくる。


(ああ、これがソウルリンクなのか?)

(そうだ。我々のソウルコアの間に、今、死以外の何物も分かつことのない魂の契約が結ばれた)


 声に出さなくても言葉が通じ合う。初めての感覚だが、確かにオレたちの間には何かの繋がりができた感覚がある。


(私、ヴィンセル・オショーミム・パライソ5251はここに誓う。東彪流あずまたけるを生涯の盟友とし、守り、助け、正しき勝利を与えよう。勝つること日の昇るが如し)


 外ではツグミとクマリがその様子を見守っていた。窓ガラスが黒くなり、中が見えなくなってしまったため不安になったが、二人には見ているだけしかできなかった。

 少し経つと白いスポーツカーからフィーンという音が鳴り響き始め、ボディに光のラインが走ったかと思うと、車体が変形し始めた。

 昨夜見たような一瞬の変形ではなく、ゆっくりと時間をかけて人型へと変形していく。ダメージがあるため、変形にも苦労している様子だった。

 何とか人型へと変形した時はまだ四つん這いの状態だったが、そこからヴィンセルはノロノロと立ち上がった。


『ソウルリンクが無事完了した。』

「タケルは大丈夫なの?」

『ああ、何ともない!』


 スピーカーからタケルの声が聞こえてきてツグミがホッとしていた。

 オレが包まれた光が晴れた時、すでにヴィンセルは変形を終え、運転席は操縦席へと変化していて、モニターで外が見えるようになっていた。視界はショベルカーの運転席くらいの範囲と言えばいいだろうか。後ろは壁で見えないけど。

 座席の左右にメインのレバーがあり、ハンドルを握っていたはずのオレはいつの間にかそれを掴んでいた。他にもペダルやらボタンやらキーボードっぽいのやら色々とあり、まさにロボットの操縦席といった感があるが、基本的には何も操作する必要はなく、戦闘時などにヴィンセルにこう動きたいというのを伝えるためのものらしい。


(今はまだ、心中での会話【念話】ができるのは搭乗時のみだろう)

(そうか、これからよろしく、ヴィンセル)

(ああ、よろしく頼む。タケル)


『少しの間であれば何とか動けそうだ。このまま残骸の回収に向かう。二人はここにいてくれ』


 ヴィンセルが後ろに振り返り、機獣の残骸があると(おぼ)しき方向へとゆっくり歩き始めた。草や低木をかき分け進んで行くと、残骸までは二~三分ですぐについた。

 そこに倒れていたのは、角の生えた狼のような銀色の機獣で、全長は四~五メートルといったところだろうか。身体の所々に赤いラインが入っていた。

 特に大きな損傷も見えないので外観から死因はわからないが、この機獣が昨日今日死んだわけではないのは、草や蔦などが表面の一部を覆うようになっている事から明らかだ。だがサビらしき物は見えず、単純に鉄のような金属でできているわけでもないようだ。土に分解されないのだとするとこの死骸は何者かに回収されるか、植物や土などの堆積物に埋まってしまうまでずっとこの場所に残り続けるのかもしれない。それとももしかしたら機獣の中には他の機獣を食べるものもいたりするのだろうか。

 ヴィンセルは一度かがんで、その死骸と言うか残骸の首の辺りを右手で掴み立ち上がると、それを引きずりながら時間をかけてキャンピングカーへと戻った。

 そのまま残骸をキャンピングカーの後ろへと運んで行く。

 ここまでオレはずっと特に何もすることはなく、見ているだけだった。


「それで、どうするんだ?」

『まだ説明していなかったが、君たちが使っていたそのトレーラーは実は私のサポートビークルで、名は【ベイクル・セルトー】と言う。キャンピングトレーラーは地球上で活動するための偽装だ。宇宙船から地上に降りる時も私はこれに乗って来た』

「ええっ!?」


 これには三人とも驚いた。だって内部は普通にキャンピングカーだったし、とてもヴィンセルが入れるようなスペースはなかったのだから。

 見ていると、キャンピングカーの後部ドアが自動的に上下に開いた。


「家具がなくなってる!」


 ドアの開いた中身は、メカニックな壁の車のガレージのような室内に変わっていた。家具どころかキャンピングカーにあった何もかもがなくなっており、代わりにメカニカルな何かのレールやらアームやらが並んでいる。


『これは空間拡張技術の一種でね。空間多重化などと呼ばれている。私の身体にも使われている技術だ』


 なんでも筐体の内部空間を多重化して、その時々で必要な部屋・構造に切り替えられる技術らしい。とは言え多重化できる数には限度があり、その上、筐体より大きい内部空間にはできないなどの制限があるようだ。このキャンピングカーだと六つ内部スロットがあるんだとか。それでこの内部構造を切り替えることを【バンク切り替え】等と呼ぶんだそうだ。


 見ていると内部からアームが伸びてきて機獣の残骸を掴み上げ、中へと運び込んでいく。

 残骸全体を完全に内部に収めると、一度ドアが閉じ、少ししてまた開くと残骸が消えていた。

 その間にヴィンセルはスポーツカーへと戻っていた。


『次は私が入るので、タケルは降りてくれ』


 スポーツカーのドアがまた自動的に開いたので、素直に降りると、ツグミとクマリが駆け寄って来た。

 二人してオレの全身を見回す。


「何ともなさそうね?」

「変わってない」

「そりゃ、オレは座ってただけだし」


 そんなやり取りをしてる間にヴィンセルは乗り込む用のレールを伝ってキャンピングカーの中へと入って行く。

 ヴィンセルが入る必要があるんだからそりゃ大型のキャンピングカーなわけだよなぁ。などと一人妙な納得をしていると中からヴィンセルの声が聞こえてくる。


『すまないが、これから私は修理と改修のため、丸一日程度は眠りにつく。このトレーラーには防衛機構や他の機獣に見つからないような隠蔽機能があるため、中にいる限りは安全なはずだ』


 防衛機構は防御スクリーンを張ったり、自動砲台で攻撃したりする物で、隠蔽機能というのは機械の目から光学的・電子的・熱源的・音源的に見えにくくできる物らしい。


『水は今タンクにある分で二日程度はもつはずだ。食料については私が目覚めるまで今あるもので何とかもたせて欲しい。電気についてはベイクル・セルトー本体のリアクターから供給しよう』


 食料は朝食分以外にも非常食やおやつとしていくらか置いてあったので食べ過ぎなければ大丈夫だろう。とは言え、ヴィンセルが目覚めた後すぐに何か手に入るわけでもないだろうし、節約は必要だ。いや、野草や肉・魚などが手に入ったとしても食べられるかどうかの問題もある。


『今後の行動予定についても目覚めてから話そう』


 ヴィンセルがそう言うとキャンピングカーの後部ドアが自動的に閉じた。

 側面にある、いつも出入りしているドアを開くと中身はいつものキャンピングカーに戻っていた。


何となく分かるかとは思いますが、『』のセリフはロボ声や通信で、()のセリフは念話となります。

しばらくは毎週水・土の週2本投稿の予定です。


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