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機獣世界グランマキナ  作者: 音髄
第一章 機獣世界へ
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第2節 知らない大地

 目が覚めると、そこは気を失う前と同じくキャンピングカーの中だった。身体を起こすとそばにはツグミもクマリもオレと同じく倒れていた。

 スマホを手に取り見てみたけど、圏外表示になっている。時間はまだ朝六時すぎだ。


「おい、ツグミ」

「……ん、う~ん」


 ツグミの肩を揺すると寝ぼけ声を漏らした。どうやら大丈夫そうだ。


「クー、クー、起きろ」

「……」


 クマリの方は声を出さなかったけど、ゆっくりと目を開け、寝ぼけ眼のまま身体を起こした。


「ん…、ごはん?」


 小さいなりして食いしん坊なんだよな、こいつ。だが今はそれどころじゃない。


「違う。何があったか覚えてないのか?」

「……? …あ~、なんだっけ。何か戦ってて、最後にすごい光った」

「ああ、どうなったのかちょっと外見てみよう」


 オレとクマリは一応静かな様子だけれど外を警戒して、そーっと動いて窓に近寄り外を覗いてみた。


「……どこ、ここ」


 見えるのは森の中なのか、木ばかりだ。明らかにあの廃車置場じゃない。


「ふあぁ~、おはよう二人とも」


 ツグミが起き上がってのんきに伸びをしながら声をかけてきた。


「ツグミ、外見てみろ」

「えぇ? 何?」


 まだ状況が飲み込めてないツグミがもたもたと立ち上がって窓を覗き込む。


「何よこれ……」

「わかんない、けど少なくとも廃車置場じゃない…よな」


 と、クマリがいきなり横開きのドアを開けた。


「あ、だめよクー! 待って! 危ないわよ!」

「窓からじゃよくわかんないだもん」

「……オレが先に出てみるから」


 確かに危険はあるかもしれないけど、外に出てみないと現状がわからないのも確かだ。



 急いで服を着て、警戒しながら外に出てみると、そこは森の中の軽く開けた場所のようだった。周囲には鳥や虫の声が鳴り響いている。けど夏だったはずなのにあまり暑くない。蝉の声も聞こえない。見た感じではどちらかというと春とか初夏ぐらいの様子に見えるし、どう見ても朝という感じでもない。

 辺りを見回してみたけれども木と草ばかりで道のような物は見当たらない。そんな中にいきなり古いキャンピングカーがあるのは物凄い違和感がある。

 いや、あるのはキャンピングカー一台だけじゃない。そばにはもう一台、スポーツカーっぽいボロボロの車があった。


「この車は確か……」


 昨夜いきなりロボットに変形して戦ってた内の一台のはずだ。


「昨日のロボットだよね…?」


 特に動く様子がなかったのでスポーツカーに近寄って観察していると、どうやら差し迫った危険はなさそうだと、ツグミとクマリもキャンピングカーから降りて近寄って来ていた。二人とも動きやすいようにか下はズボンだ。

 スポーツカーは戦闘の傷跡か、明らかに以前よりボロボロで、タイヤも一部無くなったりしててもう走れそうにない。

 あの時、この白いロボットは勘違いでなければオレたちを守るように立ち回ってたように見えた。それもあり、オレたちはスポーツカーに対しての警戒感が薄れていた。


「ロボット、死んじゃったの……?」


 クマリが運転席を覗き込んでいるが当然誰もいない。


『……死んではいない』

「「!?」」


 いきなり知らない声がスポーツカーから聞こえてきて、三人とも飛び退いた。


「喋った!」

「え、ロボットの声なの、これ」

『ああ、私の名は……そうだな、ヴィンセルと呼んでくれ』

「呼んでくれって言うのは、本当の名前じゃないってこと?」

『そうだな。我々機械生命体の名は君たち有機生命体には聞き取れない事が多いのでね』


 試しに聞かせてもらったが、ガピーとかビビーとかノイズにしか聞こえなかった。


「ていうか、日本語わかるんだ……」

『ああ、君たちの街に潜伏していた間に学習した。時間はあったからね』


 そう言えばこのスポーツカーもキャンピングカーもオレたちが物心ついた頃には既にあの廃車置場に置かれてた。少なくとも数年はずっとあそこにいたと言うことだろうか。


「ずっと前から廃車置場に置きっぱなしになってたはずだけど、何年もあそこにじっとしてたって事?」

『今もそうだが、ずっとステルスドローンで情報収集をしていたからね。退屈はしなかった』

「私は無理ー。退屈で死んじゃうよ」

「ドローン?」

「あの空飛ぶやつでしょ」


 地球の兵器でステルスというとレーダーに映らない物を指すけど、ヴィンセルのドローンは実際に目にしてもほとんど見えないし、そばに近寄らないと音も聞こえないらしい。


「今もって事は周りを調べてるの? ここはどこなの?」

『残念ながらまだここがどこかは特定できていない。が、どうやら少なくとも地球ではなさそうだ』

「えっ!?」

「地球じゃないって……つまり別の星って事?」

『そうだ。植生などが見た目は似ているが地球の物とは全く違う。大気組成もだ。私が持つデータベース上に当てはまる星が無いのでどこかの辺境惑星だとは思われるが……』


 説明を聞くと、植物は地球の物とはデータが全く一致しないものばかりだし、空気は人体に有害ではない程度に酸素の割合が少し多いらしい。


『今は昼間で星があまり見えないので、この星系の位置は不明だ。夜になったら観測し特定する予定でいる』


 一応、昼間でもヴィンセルには明るい星は見えるらしい。けれどそれだけじゃ足りないので夜になってから星の分布と、パルサーとか言う種類の星の位置を調べると今いる星の位置もおおよそ分かるんだとか。


「それより、なんでこんな事に……」

「もう帰れないの…?」


 クマリの声が震えてるのに振り返ると、涙こそ流してなかったけれど目がうるんでいる。ツグミがそっとクマリを抱きしめた。


『我々の事情に巻き込んでしまって君たちには非常に申し訳なく思っている。今すぐというわけにはいかないが、いずれどうにかして君たちを地球へと帰したいと思う。なぜこうなったかは不明だが、あの時、奴らが起動させた転送装置に【遺産】が反応したように見えた。おそらく【遺産】の力により転送装置が暴走し、それに我々は巻き込まれたのだろう』


 転送装置というのは宇宙船と地上などを瞬間移動するテレポーテーション装置だそうだが、移動できるのはせいぜい十万キロ程度までで、途中に障害物があってはいけないんだとか。


「我々って事は、あの時いた他のロボット達もこっちに来てるって事?」

『分からない。君たちが目を覚ます前から仲間や母船に連絡を試みているが反応はない。今の所ドローンの捜索範囲内には奴らの姿も見えない』

「奴らって? 戦ってたって事は敵、なんだよね?」

「というかそもそもあなたは何なの?」

『そうだな、先にその説明が必要か。私は銀河連盟警察機構の特別捜査官だ。地球へは奴ら【グナ・ソーン大宙賊団】を追ってやって来た』



 何でもグナ・ソーンは銀河系の各地に散らばる【遺産】と呼ばれる超古代文明の遺物を盗掘・略奪してるらしい。【遺産】には色んな種類があって、今でもそのほとんどが稼働して超常的な現象を引き起こす物もあるけど、未だに大部分の動作原理は不明のままなんだとか。

 例えば【ゲート】と呼ばれる宇宙空間にある巨大な遺産は銀河系内の数千~数万光年離れた位置に一瞬で移動できる施設だ。逆に小さいのだと手の平サイズで、個人用の反重力装置やバリアーシステムなんかがあり、そういう小さい物でも競売にかけると大型宇宙船一隻ぐらいの値段がつく。つまり宙賊からすると金になるお宝って事だ。

 余談だけど、お金は銀河連盟内どこでも使えるモルダとか言う共通通貨があって、紙でもコインでもコンピュータデータでもないとの事(量子通貨とか何とか)。説明されてもよくわからなかったけど、やり取りは各種の端末を使って行うらしいのでやっぱり電子通貨とか仮想通貨って奴に近いものっぽい?

 そして銀河連盟警察機構、つまりギャラクシーポリス(機械生命体語以外の地球外の言葉もなるべくオレたちに分かりやすい言葉に翻訳するんだって)はグナ・ソーンの幹部の一人が辺境惑星である地球へ向かうという情報を掴み、ヴィンセル達特別捜査官が送り込まれたっていうのが事の発端なんだそうな。

 銀河連盟の版図は銀河系全体の六分の一ぐらいに広がってて、地球はその外れの方にあって、そんな辺境に派遣するには寿命が短い有機生命体より機械生命体の方が向いてるのでヴィンセル達が選出された。それから地球はまだ超光速航法を獲得したFTL文明に達してないという事で、銀河条約で地球人との直接接触は禁じられてるので、潜入捜査と相成ったという。


「え、もう思いっきり接触しちゃってるけど、いいの?」

『問題無い。現状は複数の例外規定に当てはまるし、君たちと協力し合わなければ状況の打開は不可能だ』

「どういうこと?」


 まだ子供であるオレたちにできることなんてたかが知れてると思うんだけど。こんな森の中でサバイバルするのからして無理だ。


『まず基本的なところからだが、今ドローンが収集しているデータからすると、この星には珍しいことに私以外にも多くの機械生命体が生息しているようだ。とは言え我々の中では機獣と呼ばれる知能の低いタイプばかりのようだが』

「きじゅう?」

「……機械のケモノってこと?」

『そのような物だ』


 何でも、銀河連盟の学会ではこの銀河系には約120ほどの星間国家や知的生命体の住む惑星(星間国家の植民星は除く)が存在していると推測されていて、中でも元々機械生命体が住んでる星はまだ三つしか確認されてないと言う。この星は確認された四つ目の星になるかもしれないという話だった。


『それから、人類の存在も確認している。文明レベルはあまり高く無いので現文明が機獣を作ったわけではないようだが……』

「人類!?」

「人がいるんだー」

「えーと、つまり宇宙人って事?」

「いや、どっちかと言うとオレらが宇宙人じゃね?」

『君たちは知らなかったのだろうが、銀河の各地には多くの人類種が居住している。多少の見た目の違いはあるがDNAも君たちとほとんど変わらない。一説には古代文明人が銀河系各地に入植したが後に何らかの理由で立ち去り、残されたその子孫がそれぞれ独自の文明を築いたのではないかと言われている』


 銀河連盟にも多くの人類文明が参加しており、盟主国も人類国家だそうだ。人類以外にも色々な種族の銀河文明が参加してるらしい。マンガに出てくるようなタコっぽいのとかもいるのかな?


「で、この星にもそういうのがいると」

「言葉は、通じないよねぇ……」

『言葉の問題については私が解決しよう。しかし先程も言ったが、その前に君たちに頼みがある』


 協力ってやつか。何をやらされるのかとオレたちは身構えた。


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