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不籍の神との出会い 2


◆◆◆


その村はまるで取り残されたかのようにひっそりとたたずんでいるような、村。

巨大な森と険しい山の奥にあるのだが、それを超えると、広大でなだらかな丘陵地があり、その丘陵地には山奥にあることが考えられないほど多くの人が、広々とのびのびと暮らしている。

村の基本産業は農業、畜産と林業が主で、それはもう豊かな実りに恵まれた場所になる。

村の人々は豊富な実り故に生まれた、上質な家畜の乳や毛を利用した装飾品や山の木を使った道具を作り出す。

そんな豊かな村だからこそ、村人たちは村の外、遠くに出られないからといっても、豊かな暮らしのおかげで悩むことはあんまり、ない。

そんな村の人々にとって共通の楽しみは、たまさかにくる行商人がもたらす色々な地域の道具。

行商人たちはすさまじく険しい道を、知恵と勇気で戦い、やっとの思いでこの村に辿り着くと、村人たちが作った良質な商品と、都市で作られた文化的なものを取引する。

平原が多く、実りが豊かであるため、人々の生活は素朴ながらも、豊か、そんな場所は、行商人にとっても来るのが非常に楽しみでは、ある。


それでもやっぱり、長い山道や峠を多くの商品を持って越えるのはとても苦難を伴うものだ。

到着した行商人は口を揃えて言う。

「なぜ、こんなにもここは遠いのだ。」と。

しばらく滞在した行商人は口を揃えていう。

「ここはどこからも遠いからいいのだ。」と。

近くの山から湧き出る温かい温泉と、素朴ながらも優雅な暮らしと雄大な景色。

豊かさから生まれる理知、穏当を持つ人々。

それは、人が多く来るようになれば、忙しさの中にすぐにでも失われてしまう景色だから…。


だからこそ、険しい山道を自分の身と商品を守りながら金を稼ぐ、旅に強い行商人たちはこの村に辿り着けることは自慢になるし、だからこそ辿り着いて、商売することを目標とする。

そんな行商人にとってあこがれの場所であり、目標とされているのがこの「自由の龍邦」と呼ばれる村なのだ。


◆◆◆


フェルトは、行商人にとってそういう憧れの的であることは知っていても、目新しいものなどないくせに大仰な名前を持つ自分の村がそんなに好きではなかった。

行商人には入ってはいけない場所が指定される程度だが、そこに生きる村人にはいくつもの掟が決められていた。

遥か昔、この場所を勝ち取った人たちが自分たちの場所を守るために定めた掟だったという。

「よく学ぶこと」「誰かを思いやること」「家畜を大切にすること」そんな大切であろう考えの掟から始まって、「週に1日は必ず休むこと」、「子供たちが行う勉学は、3か月に1度大人たちの試験を受けること」「試験の成績が悪ければ、村の仕事を手伝うこと」と。細かいものを数えれば100近くなるが、もはや掟ばかりで息が詰まる。

大人たちは、大人になれば掟があってよかったと思うから、と口を揃えていう。確かにそうだろう。学ぶべきとを学び、やるべきことをやっていれば暮らしは豊かになるから、と。

フェルトも頭では分かっていたからこそ、その中で懸命に学び、体を鍛えて生きてきた。


だが、フェルトがこの村を好きになれない理由がもう一つあった。

この大陸では『依代』と呼ばれる道具が生活の必需品とされている。この『依代』というのは大きく分けてその仕組みの種類が4つあり、この村では人によって扱える『依代』が変わってくる。10歳になると分別がついたとみなされてどの『依代』が使えるのか試験を受けるのだが、自分はこの村ではまだ誰も見たことが無い、どの『依代』も使えない存在だったのだ。

親をはじめとした村の大人たちは腫物を扱うように対応してくれるし、同年代の子も自分を揶揄すれば罰せられるのでそんなことはしないが、当然、居心地は良いものではない。

結局、自分を指す『能無し』という隠語を分からないふりし、陰口を聞こえないようにして生きていくしかなかった。

ただ、火をおこす『依代』が使えないからと言っても、火打石は村に常備されているし、水の浄化だったら『依代』を使わなくても常備されている浄水器で何とかなる。つまり、依代が無いからと言って村で不便は感じることはあっても、できないことはないのだ。

だが、だからといって皆と違うことを受け入れられるかと言えばそれはまた違う。

少し前までは『依代』が使えないことで神や親を恨んだりしたこともあった。今ならば、使えないからと言ってすぐに死にはしないし、変わらず親や友人は目をかけてくれることを知ることができた。

でも、だからこそいつか、掟に縛られず、自分が特別扱いされない場所に行きたい、フェルトはそう思いながら村での生活を続けていたのであった。


そして、そんなフェルトがコガと会ったのは禁域の山にある神殿で行われる、成人の儀の時であった。


16歳になると、村の若者たちは成人の儀として禁域の山に登って、村とこの大陸のことを更に学ぶらしい。だが、それは大陸では学ぶことができないため理解と分別ができるようになる16歳まで教わることはできない、と聞いている。

フェルトはそんな儀式のために山道を奥へ奥へと移動していたところ、ひょんなことから意識をそらして足を踏み外してしまい、過去に封じられた石切り場に落ちてしまったのだ。


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