神の武器
俺の名前はディアヘザム・ケルデラーマ。現在24歳の恋人いない歴=年齢の男だ。
だが、別に寂しくなんかない。魔王討伐の道中に彼女を作るなんて寄り道は必要ない。もう一度言おう。必要ないのだ!
……すまない。興奮して話が逸れてしまった。
まぁ、他の冒険者共が彼女とイチャイチャしている間に、俺は俺を磨き続け、ついに『勇者』とまで言われるようになっていた。……まぁ、それでも女性に声をかけられたことはないんだがな……。
そんな俺のもとに一つの情報がまい込んできた。
なんでも、『神の武器』がトゥーカイ迷宮に眠るという話を聞いたのだ。
当然、彼女がいない俺は、何の迷いもなくトゥーカイ迷宮に飛び込んだ。
だが、トゥーカイ迷宮は聞いていた以上に厄介な迷宮だった。
まぁ、最初の10階層は温すぎると感じるくらいチョロかった。実際、自分以外の冒険者達も潜っていた。
若い女性を数人連れているイケメンのパーティーを見る度に中指を立てつつ、ガンガン進んでいくと、11階層からは油断していれば、俺でも死にかねないようなものとなっていた。
あちこちに設置してある危険なトラップの数々。
難問を提示し、正解の道を選ばなければ、おそらく死が待っている部屋。
そして、10階層ごとに出現するそれまでの敵よりもかなり強力なボスモンスター。
ようやく辿り着いた100階層には、黒きドラゴンが待ち構えていた。
死闘に次ぐ死闘に、俺の心は折れそうになるが、その度に『負け組』という言葉が頭にちらつき、こんなところで諦められないという思いが募っていく。
そしてついに! ついにドラゴンを倒すことに成功したのである。
自分の感覚で5年の歳月をこのトゥーカイ迷宮で過ごし、ようやく目の前に豪華な宝箱が見えたことで、つい、今までの思い出に浸ってしまった。
だが、その苦労もついに報われる。
「ようやくだ。この宝箱に入っている神の武器を使って魔王を倒せばきっと女性にモテるはず……いや、夢のハーレム生活だって夢じゃないかもしれない!! いざ! ご開帳〜!!」
宝箱の蓋を開いた瞬間、神々しい光が中から放たれ、俺は視界に入った武器を手に取った。
「こ……これが!! 神の……武器????」
それはナックルダスターの形をしたペラッペラな紙だった。
どう見ても、武器には見えない。いや、ナックルダスターの形はしているが、とても実用性のあるようには見えない。
なにがなんだかわからないまま唖然としている俺の視界に、一つの手紙が見えた。
その手紙は蓋の裏に貼られており、表面に『神より』と書かれているものだった。
俺は急いでその手紙を蓋から外して手に取って読んだ。
『じゃっじゃ〜ん! 神様だよ〜! ここまでよく辿り着いたね。お疲れ〜。皆が夜のお楽しみに励んでいる間も、命がけで迷宮探素ができるなんてすごいね〜。というわけで君には神の武器、別名、紙のナックルダスターを授けよう。神の武器ならぬ紙の武器、なんつって(笑)
まぁ、何の効果もないただの紙なんだけどね〜(爆)
なんで僕みたいな高貴な存在が君みたいな童貞に力を貸さないといけないの? バカなの?
だいたいさ〜人間と魔王の戦いなら人間だけでなんとかしなよ。
という訳で、魔王攻略なんて面倒な仕事は自分一人で頑張りたまえ。
P.S.この迷宮はこのネタがやりたいためだけに作ったから、君がここから出た瞬間に消えるよ。まぁ、何が言いたいのかって言うと、脱出のために100階層分の迷宮攻略、もう一回頑張ってね〜』
その手紙を読んだ俺は、笑顔でその手紙とついでに紙の武器も燃やして、再び迷宮に戻った。
こうして俺は、神に対する信仰心を完全になくし、今はこのクソ野郎をぶっ殺すのを目標に掲げ、新たな魔王となってついでに人間共を滅ぼす作業に勤しむことを決めたのでした。
めでたし、めでたし。
ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。
この小説は、元々大学3年次の文化祭で絵か短編小説を書いて展示するという目的の下、作ったものです。
当時は、『条件が揃わないと最強になれない男は、保育士になりたかった!』と『弟子は魔王』との並行作業だった為、かなり苦戦させられたのを今でも覚えています。
※会話再現
「短く簡潔に、誰にでもわかりやすい感じで没頭出来る小説書いて」
「なにその無茶振り?」
「大丈夫大丈夫。毎日小説書いてるお前なら出来るって。それともこんなことすら出来ないの?」
「…………」
「ショウセツカケヤ」
「やってやろうじゃねぇかよこの野郎!」
って感じのやり取りを経て、書き上げた小説になります。
大学卒業を期に、この際なので投稿することにしました。
タイトルは最初のが気に入らなかったので変えてあります。