第九十九幕
彦根城に入り、直弼様のいる部屋へと向かった。
直弼様は部屋で一人で書類に目を通していた。僕が部屋に入ると
「ああ、貞治。どこかに行っていたのか?」
「少し小高い丘の上から直弼様が入城される様子を見てました。領民の様子とかも見れて感動しましたね。」
「皆が歓迎してくれている感じが肌で感じられたがそれを少し距離を置いてみるとまた違う感想が得られるという事だな。」
「そうですね。そういえばたか殿のような女性が見えたのですがお会いになられましたか?」
「ああ。多賀大社の代理として挨拶に来てくれたそうだ。今は色々な神社とかを周って知見を広められているらしい。久々の再会だったがこちらが忙しすぎてあまり時間が取れなかった。
聞きたい事もあったのだが仕方ないよな。」
「何か気になる事でもありましたか?」
「まあ色々とな。」
「そうですか。それより他に誰もいないようですが何をされていたんですか?」
「藩政の状況確認をしていた。まずは財政改革が最優先だな。相州警備のための軍備を整えるためにも金は必要だし、私を迎えてくれた領民達を幸せにするためには領内の視察もしないといけない。
やらなければいけない事はたくさんある。」
「そのようですね。どのような改革をされますか?」
「うーん難しいな。この書類だけをうのみにするわけにもいかないしもう少し財政方との話し合いも必要だな。少し思ったのは代官が少ないために決裁できてない案件が多いのも問題だ。」
「直弼様は今から藩主として生きていかれるんですから、慌てないで大丈夫だと思います。
慌てて何かをすると見逃したり見落としたりして失敗に繋がります。
今から始めるのですから、あれをしたいとかこれをしようとか考えられるのは大事な事です。
まずは策作りとそれに繋げる道づくりをされたら良いのではないですか?」
「確かにそうだな、後は優秀な人材を育てるためにも弘道館の見直しも必要かな。
中川先生にも相談してみよう。」
「そうですね、人の意見を聞いてしっかりと準備してから進めましょう。」
「まだまだ未熟な私だがこれからもよろしく頼む。」
「かしこまりました。」
僕と直弼様は笑顔で笑いあった。出会って18年という時を過ごしてきた中で色々と考えさせられた事も楽しかった事も嬉しかったこともあったが今が一番最高な時間のように僕は感じていた。