第七十九幕
「お久しぶりです、貞治様。」
岡本半介と谷鉄臣の二人が僕を訪ねて来てくれた。
二人は僕が蘭学と称した外国の話を教えている二人である。周りからは僕の門下生と思われているらしい。
「二人は彦根にいて藩政とかで何か気になる事はあるか?」
二人は彦根に住んでいて城での仕事も持つ二人なのでどのように感じているのかを聞いてみた。
「そうですね、直亮様の決定ですべての事が決まってしまうというのは、決断が速いという利点がある反面で直亮様の意見が聞けなければ決まらないという事でもあります。
それに決定に対して反対意見を言う家臣の方もいない状況なので、直亮様が取り扱わなかった問題が山積みになってしまってます。問題であるのに藩主は何もしてくれないとの不満も出てきています。」
「家老の中でも反対派のような方達もおられますね。直亮様のご機嫌を取りたい家老とそういう態度が気に入らない家老との間の軋轢も生まれているようです。
藩内で分派が発生していて分裂してしまうのではないかと危惧している若い藩士も多いですよ。」
状況はかなりヤバいのかと思った。
「直弼様に対する評判などはどうだろうか?」
「期待している人も多いですが、藩主となってどうなるのかっていう所がわからないので何とも言えないですね。取り入ろうと贈り物をしている人達もいるようです。反直亮様派が直弼様に近寄ろうとしているのではないかと思います。」
「なるほど・・・、僕はどちらに近づいていけばいいと思う?」
僕が藩政にかかわる中でどのような人達と一緒にやるべきなのかを迷ってしまった。
正直に言うと藩の中にはそんなに友人がいないから大変だなと思ってはいた。
「はっきり言うとどの派閥にも属さないのが一番いいですね。
理想としては貞治様が派閥を作られるのが一番いいかなと思います。
若い藩士を中心に人を集めた方が良いかもしれないです。」
半介が言った。鉄臣が
「今の藩の上層部では今後が心配になります。上層部が分裂して各家にまで対立が生まれ始めてますからまだ影響を受けていない人たちを集めて上層部の意識改革からしないといけないと思います。」
「若者が世代交代を迫っていくという感じかな?」
「高齢の家老達には隠居して頂くべきではないかと思います。古い知識と立場にこだわって藩政を遅らせている害悪がいるわけですよ。一定年齢に達したら次世代に役職を開けていかないと藩が衰退する原因になりますからね。」
「経験を積んで学びながら最適な政策を進められるようにならないといけないからな。
定年退職を取り入れるのは大事かもしれないな。まあ、すぐにはできないだろうけど採り入れるべきだろうと僕も思うな。」
「直弼様のご友人を集めて派閥を作り、さらに若い藩士を取り込んでいけたら次世代になった時に強力な味方が増えるわけですからね。」
鉄臣がいい、半介が
「そういう意味では直弼様が長野殿の桃廼舎への入門を推奨されているのはかなり助けになるかもしれませんね。」
「そんな事があったのか?」
「公ではないですが直弼様が長野殿の門下に入ろうと呼びかけてますね。その真意はわからないですが。」
「状況を好転させてくれる事を願うばかりだな。」
僕は少し引っかかる事もあったが状況を見守ることしかできないのが心苦しかった。




