第七十七幕
僕は久しぶりに会った善八郎と志津殿と一緒にとりあえず秋山家に向かって歩きながら話していた。
「善八郎は直弼様からのお誘いはなかったのか?」
最初こそかたい感じで話していたが今では普通に話せるようになっていた。
「いちおう、直弼様からお手紙を頂いたのですが志津の事もあったのでお断りのお手紙を書かせて頂きました。直弼様も気持ちをくんでもらえたのか『彦根で貞治を支えて欲しい』とお言葉を頂きました。
直弼様が彦根に帰られたときには一緒にお茶でも飲もうと言ってもらえました。
少し志津の事もあって疎遠になるのではないかと心配していたのですがそんな事もなさそうでよかったです。」
「そうだな、正直に言うと知らない人ばかりで不安だった部分はあったので善八郎とかがいてくれるのは嬉しいと思うな。他には誰か江戸に行った人はいたのか?」
「貞治殿が知っている人でいうと貞徹が直弼様の護衛役として江戸に行きましたね。
やっぱり、剣術の面でいうと貞徹が一番優れていたようですね。」
「直弼様の稽古に付き合える数少ない人だからな。それに貞徹になら直弼様の護衛を任せても不安がないからいいよな。他には?」
「弘道館で儒学教授をされていた中川禄朗先生が行かれました。国学だけじゃなく外国の事情にも貞治殿ほどではないですが詳しいので色々と直弼様の相談にも乗ってもらえると思います。
あとは長野殿ですかね。」
「ああ中川殿と主膳殿はお呼びした方が良いかもしれないという話はしていたな。お二人の知識があれば色々と相談できると思ってたから。」
「直弼様も新しいお役目を任されたりと大変になられるのではないですか?」
「相模の方の警備に就く事になったと聞いたな。今は直亮様が就封、つまり彦根藩に戻られる旅路の途中らしいからまるっきり任されているなんて話もあるな。」
「直亮様と一緒には戻られなかったんですか?」
善八郎の言いたい事もわかる。僕は直弼様だけでなく直亮様からも仕事を任される人間として周りには思われている。それなら一緒に行動して彦根にも一緒に来るのではないかと思った者もいただろう。
「どこか寄りたい所があるっていうので別行動だったな。」
「色々と不思議な方ですね。」
善八郎は控えめな言い方をしたつもりなんだろうと思った。直亮様が未来人だと知っているのはおそらく僕と木俣守康様くらいなんだろうと思った。常識外れの行動もあるだろうし、直弼様を鍛える目的で色々としているので理解されていない感は否めない。
そんな話をしているうちに秋山家に着いたのでゆっくりお茶を飲ませてもらってゆっくりしていると改めて彦根に帰ってきたことを感じた。