第七十幕
「ふう、疲れたな・・・」
直弼様が珍しく疲れた様子をしている。今までも色々な経験をする中で体力的な疲労を感じているように見える。精神的な疲労を感じているのだろうと思い、
「お疲れですね。気晴らしに話して頂けないですか?」
「そうだな、色々な人に話すと解決策なども出てくるかもしれないし、貞治には隠し事もしたくないからな。まあ、休みがない感じがあるのはいなめない。
毎日、江戸城に行ってるし江戸城に行く以外の時でも老中の方々に挨拶廻りをしたり、親類に挨拶をしたりと慣れない事が多すぎて精神的にもつかれているんだよな。」
「慣れない事が多いと疲れますよね。今後、藩主になられたら新しい出会いとかも多いと思うので、挨拶廻りをしておくのも練習になると思われたらどうでしょうか?」
「そうだな、それもいいかもしれない。
ただ、もう一つ問題を抱えていてそちらの方がずっしりと来ている感じなんだ。」
「何かあったんですか?」
直弼様がかなり悩んだような感じで、
「実は正室の問題でかなり悩んでいるんだ。」
「正室ですか・・・。志津殿は大名の正室になるには家格の問題がありますからね。
どこかの大名家から迎える形になるんですか?」
「そうだな。志津を正室にできたら楽だったのだがそうもいかないからな。
将軍様から養女の精姫という方を直亮様が薦められたそうなんだが、直亮様はあまり気が進まないらしい。
別の候補を探してるなんて噂まで出ていて、肩身が狭すぎてな。」
「難しいですね。将軍の養女を候補に出してくるなんてすごいですね。
でも、それを断るってことは何か裏があるんですかね。」
「直亮様は紀州松平家との繋がりが強いからその辺も含めてのお考えかもしれない。
とにかく、難しい事に変わりはないな。」
「うーん、僕だけでは役に立たないお話とかも出てくるんで他にも相談できる人を彦根藩の方からお連れできないですかね?」
「そうだな、犬塚殿に聞いてみようかな。誰かが来てくれるなら一緒に志津や弥千代も来れないか聞いてみたいな。」
「いいですね。お手紙を出す準備をしておきます。」
「よろしく頼む。」
直弼様の心労が軽くなるように色々と話せる人達がいた方が良いなとは思った。