第七幕
初めて鉄砲を撃ってから一週間が経っていた。鉄三郎様と一緒に弘道館に来た日には必ず鉄砲の練習というか鉄三郎様からのスパルタ教育があった。
木刀の素振りや最近は馬の乗り方まで厳しく指導されている。
僕が鉄砲を撃ち終わり、鉄三郎様の方を見ると紙に向かって鉄三郎様はうなっていた。
「どうかされましたか?」
「うむ。今日は25の日だ。
私は毎月25の日に先一か月の目標を決め、一か月の振り返りとともにできた点と至らなかった点を考慮して次の目標を決めておる。」
「すごく意識が高いですね。
ただ毎日を生きてるだけの僕には到底できない事です。」
「貞治、ただ生きている事も難しいのだ。
我らは民からの年貢により生活できているが、農民は自らが作った作物の出来次第では生きる事も難しい。
最近は農作物の出来が良くないとの話も聞く。
父上が松平定信公の幕政改革をされたときに倣い質素倹約を呼び掛けても、父上の目が届かぬからといって贅を尽くしておった者もいた。
もちろん父上は見逃さずに減給や役職の解任などの措置をとる事によって厳しく取り締まられた。
武士とは、農民や商人によって生かされているのだ。だからこそ、武士は常に武芸を磨き、教養を得て、大事の際に先頭で指揮をとれるように学び、鍛えねばならない。
貞治は武士ではないが、私の従者である以上は武士として見られるという事を忘れないでほしい。」
「わかりました。」
僕がそう答えると、鉄三郎様は笑顔で僕に紙を渡し、
「貞治も考えてみてはどうだ?
自らがやるべき事、やらねばならぬ事を理解すれば、行動が変わり、ただ生きている生活から意味のある生活に変わるかもしれないぞ。」
「そうですね、考えてみます。」
僕が紙を受け取ると、一人の若い男が小走りで近寄ってきて鉄三郎様に何か耳打ちをした。
鉄三郎は少し驚いた顔になり、僕に向かって
「貞治、少し席を外す。お主はここで目標を考えて待っていてくれ。」
「えっ?わかりました。」
鉄三郎と若い男がものすごい勢いで走って行ったので何かは気になったが主君が待てというなら待つしかないのが現状だったので、僕は先ほど鉄三郎様がしていたように紙に向かってうなりだした。