第六十六幕
二月十八日に江戸に到着した。17日間かけての旅路となった。
江戸の藩屋敷に着くとすぐに直亮様の部屋に直弼様と僕は呼ばれた。
「江戸までの道中ご苦労であった。先延ばしにしても時間の無駄であるから早速言わせてもらおう。
直弼、お前を私の世子とする。十日後に江戸城に行き将軍様にその報告と顔見せを行う予定をしている。
まあ、それまではゆっくりとせよ。」
「承知いたしました。」
直弼様は短く答えて頭を下げた。
「では、直弼は以上である。貞治は少し翻訳関係で話したい事があるので残ってくれ。」
「私はこの場にいない方が良いという事でしょうか?」
直弼様が聞いた。直亮様は少し考えて
「別にどちらでもいいが、直弼には屋敷の者に先に挨拶の方をしといて貰いたいな。
この屋敷に来るのもえ~と何年だ?10何年ぶりだろう。これから世話になるわけだからしっかりと挨拶しておけよ。」
「ああ、そうですね。では、失礼いたします。」
直弼様はそういうと部屋を出て行った。直亮様は僕に向き直り
「英語の本を何冊か新しく買ったのでそれを翻訳してもらいたい。
やはり新しい知識を得るというのは楽しい事だし、古い考えに縛られていては新しい時代に生きられないからな。」
直亮様はまともな話をしている。僕的には直元暗殺の件についてなどを考えていたがそうでもないようだ。
そんな事を考えていると木俣守康殿が部屋に入ってきた。それを確認して直亮様が
「直弼は?」
「今は台所で挨拶をされてます。あそこは以前来れられた時も働いていた者が多いので話が弾んでいましたね。」
「そうか、それでは本題に入るとするか。以前の依頼について達成してくれたことに関して礼を言う。
必要な事であったとはいえ辛い役目を担ってもらってすまなかった。
十日後に関しては連れていくことができないが今後も直弼を支えてやってくれ。
これからが本番だから、私はどんどん直弼に様々な試練を与えていくことになるだろう。それでも私を擁護したりせずに直弼側に立って行動してほしい。成長を促すための悪役に私はなろうと思っているからな。よろしく頼むぞ。」
直亮様も色々な思いがあるだろうがそこも含めて様々な覚悟を決めておられるのだろうと思ったから
「承知いたしました。」
僕はそう言って頭を下げた。




