第五幕
「うむ、なかなか様になっていているではないか。」
鉄三郎がそう言い、脇殿に向かって「そう思うだろう?」と聞いたが、脇殿は明らかにそう思っていない顔で「まことに・・・・・」とだけ言った。
現代では珍しくない170cm越えの身長もどうやらこの時代では珍しいようで、僕が着せてもらった袴はくるぶしの10cm上までしかなかった。
上の着物も袖は肘を少し超えたところまでしかない。これをどう見て『様になっている』と感じたのかと鉄三郎を見ると、呆れたように脇殿が
「鉄三郎様のお着物ではどうやら丈が足りぬようですな。
私の家に使いを送り違うものを用意いたしましょう。」
「そうか?これくらいの方が動きやすくてよさげに見えるがな」
鉄三郎は納得していないように見えるが脇殿が
「なにより、臣下の者が主君の着物を着るなどあり得ぬことです。」
「そう言われればそうなるが、別に金城殿は私の従者ではないわけだしな」
「なりません。金城殿を守るためにも新しく加えた従者であるとした方がよいのです。
なんといっても、未来から来たという言葉を信じるのは鉄三郎様くらいです。
それなら、単純に同年代の従者を欲しがられたので蘭学の知識がある者を置いた事にした方が皆が納得いたします。」
「それもそうだな。
すまないが、金城殿はこれから私の従者ということにする。
色々と面倒事もあると思うが辛抱してくれ。」
鉄三郎が申し訳なさそうに言った。僕は
「いえ、ここに置いて貰えるだけでも感謝していますので。」
「そうですぞ、それに従者に殿をつけるのもどうかと思います。」
脇さんがいい、鉄三郎が
「そうだな、それではこれから貞治と呼ぶことにしよう。
それでよいか?」
「はい。」僕が答えると、鉄三郎は笑顔で
「それではこれからよろしく頼むぞ、貞治。」
この『貞治』と呼び掛けられるのは初めてなはずなのにどこか懐かしさを感じる。
現代にいた時も呼ばれていたからかとも思うが、鉄三郎の呼び方には何か引っかかるものを感じた。